幻想素材拾話集

卯堂 成隆

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毛はまた戻り、繰り返す (7)

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「なにものだ!?」
 緊張を含んだ先輩の声が、人工の明かりに照らされたギルドの中庭に響く。

 現れたのは、目の前に倒れている騎士達よりも明らかに格上の雰囲気をまとった男だった。
 身分がバレないようには、わざと装飾性をそぎ落としてはいるものの、その衣服に使われている素材の値段を見間違えるような奴はここにいない。

「お前らにもわかりやすく説明してやるなら……そいつらの上司といったところだな」
 その男がふてぶてしい声でそう言い放つと、それまで絶望に打ちひしがれていた騎士たちの目が一斉に輝きはじめる。

「団長!」
「団長、助けてください!!」
 騎士たちにはずいぶんと慕われているようだが、俺はこの男が好きにはなれそうに無いと感じていた。
 なぜなら……。

「おまえ……俺達の手の内を探るために、自分の部下を犠牲にしたな!?」
 嫌悪を丸出しにした声で、先輩が叫ぶ。
 そう、このタイミングで現れたということは、そういうことに他ならない。
 だが、薄暗い明かりに照らされた男の顔は、間違いなく笑っていた。

「それがどうかしたか? 冒険者ギルドにセキュリティーがかかっていないはずがないだろ。
 それに、国同士の問題にしないためにも、貴様らは我々を殺せない。
 秘薬を餌に我々を吊り上げにかかるところを見ると、こちらのの正体についても推測済みだったようだしな。
 相手の手の内を探るのに最適なやり方があるのに、使わない手はない」
 たしかに最適ではあるだろうが、同時に最低のやり方だ。

「そしてどんな罠も……」
 その言葉と同時に、男は腰に挿した剣を引き抜く。
 すると、俺の隣にいた付与屋の口からヒュッと息を飲み込む音が聞こえた。
 どうやら、そうとうな業物らしい。

「おい、付与屋。 あれは何だ?」
「……付与殺しアンチ・エンチャットだ」
 呟かれた付与屋の言葉に、俺もまた蛙を押しつぶしたような呻き声を吐きそうになる。

 付与殺しとは、その切っ先に触れた存在が帯びている魔術に強く干渉する武具の総称であり、魔道具職人や魔術師、もしくはマジックアイテムに依存する人間からすると天敵のような存在である。

「報告書が正しければ、あの魔剣こそが奴らを襲撃の犯人と断定した最大の理由らしいが、まさかここまで強烈な奴だとは自分の目で見るまで知らなかったよ」
 付与屋の口元から、ギリッと石が擦れるような音が響く。
 つまり……彼の作品はあの魔剣による魔力阻害に耐えられないということだ。

 気が付けば、すでに落とし穴に仕掛けておいた磁力の魔法陣も魔剣の力で解除されたらしく、目を血走らせた男たちが、落とし穴の淵に手をかけて這い上がってきた。

「君たちを賛美しよう。 すばらしい作品だ。
 初見であれば、この魔剣があってもどうなっていたかわからないだろう。
 だが、最初からそこにあるとわかっていれば、対処は難しくない」

 そう告げると、男は飛んできた投網を一太刀の下に切り捨てる。
 触れたものを麻痺させる自慢の逸品も、魔力を乱されてその効果を示さず、奴の高い衣装の上を衣擦れの音すら立てずに滑り落ちていった。

 続いて奴は俺の仕掛けた『ヘファイトスの寝台・表』の魔法陣に魔剣を突き立てる。
 手にしていた菊石の杖にプツリと糸が千切れるような感触が伝わってきた。
 すがるような目で見てくる先輩に対し、俺は目を閉じて首を横に振る。

「さぁ、チェックメイトだ。
 なに、君たちの奮闘に敬意を表して無駄な抵抗さえしなければ傷つけるつもりはない」
 そう告げる騎士団長を前に、俺達はもう何も出来なかった。
 俺達はあくまでも道具のスペシャリストであり、その道具を無効化された状態では戦闘のスペシャリストたちにかなうはずがない。

 無言で歯を食いしばる俺達の横を、騎士たちが勝ち誇った顔で通り過ぎる。
 そして奴らは、俺達の研究所の中に入り込み、手当たり次第に荷物をひっくり返して
家捜しを始めた。

 くそっ、その素材いくらするとおもってるんだ!
 もっと丁寧に扱いやがれ!!

「やめろ、それに触れるな!!」
 突然そう叫んだのは、『ブラッディー・サバス』の開発者であるリンツであった。
 見れば、リンツが体を丸めて何かを必死で奪われまいと守っている。

「往生際の悪い奴だ! よこせ!!」
 そんなリンツの背中に、鉄製の靴を履いた騎士の蹴りが飛んだ。
 だが、それでもリンツはソレを手放そうとしないらしく、何人もの騎士がよってたかって陰惨なリンチを始めた。
 耳を覆いたくなるような鈍い音とうめき声が何度も響いたあと、忌まわしい静寂が訪れる。

「団長、見つけました。
 こいつがブラッディー・サバスのレシピです!」
 阻止出された資料をペラペラとめくった跡、団長はそれを隣にいる学者風の男に渡す。
 そしてその学者風の男が頷いたのを見て、ニヤリと唇をゆがめた。
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