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毛はまた戻り、繰り返す (6)
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「今戻った! そっちの準備はどうだ?」
そんな台詞と共に、俺はギルドの敷地にある素材管理課の建物のドアを開けた。
すると、中から殺気立った目がいくつもこちらに向けられる。
うわっ、キツいなこれ。 子供なら泣き出しそうな雰囲気だぞ。
「大丈夫! 連中がいつきても問題ないようになってる!!」
奥のほうからリンツが応える。
「それにしても、あの騎士団が前の毛生え薬強奪の犯人なんてねぇ……」
周囲に余計な目と耳が無いことを確認してから、ディオーナが呟く。
そう、前回作成された"ブラッディー・サバス"を強奪し、その際にがけ崩れを起こして街道を閉鎖させた犯人は、先ほどの乱戦を制した隣国の騎士団だったのである。
もとよりその疑いはあったのだが、前回の襲撃で唯一生き残った男に確認させてるにも、そのきっかけがなかったのだ。
だが、新しい"ブラッディー・サバス"に釣られ、連中は再びこの国に姿を現した。
終了間際の合図は、その生き残りが彼ら騎士団を犯人であると断定したことを示していたのだ。
「騎士団なんて連中だからこそ、たかが毛生え薬のために他国の経済をぐちゃぐちゃにしたんだろ。
少しでも頭の回る盗賊たちなら、たった一回の襲撃のために街道を潰して自分の食い扶持を潰すような真似はしない」
それに、前回の"ブラッディー・サバス"が奪われた後、すぐに隣国の国王の髪がよみがえったという話があったのだが、その際にどんな経路で国王の手に渡ったかがまったくわからなかったのだ。
冒険者ギルドと商業ギルドが自分たちの面子にかけて調べ上げたにも関わらずにである。
そんな事ができるのは、貴族関係の闇ルートしかありえない。
「あぁ、言われてみれば納得だわ」
さて、今回用意された"ブラッディー・サバス"は俺達の手によって破壊されたわけだが、そうすると"ブラッディー・サバス"を失った連中が次にやることはなにか?
……俺達の予想では、ブラッディー・サバスのレシピを求めてこのギルドに押しかけてくることである。
むしろそうなるように情報もバラまいてあるしな。
そんなわけで、俺達は連中がいつ襲撃してきてもいいように迎撃体勢を整えているというわけだ。
「おい、来たぞ!!」
冒険者ギルドに所属している斥候から警告がもたらされたのは、たっぷり日が暮れてからのことであった。
「よし、やるぞ」
先輩の声に、俺達は無言で頷く。
なお、他の職員や冒険者たちには、あえて手を出さないように指示を出してある。
相手は騎士団という戦闘のプロであり、特に対人戦に特化した連中だ。
魔物相手が専門である冒険者たちでは、少々分が悪い。
それに、下手に攻撃して相手を死なせれば、色々と問題が出てしまう。
ならば、俺達素材管理課と斥候職たちによる非殺傷系トラップで迎撃するのが最適だというのが、ギルドマスターの判断であった。
たしかに、それは俺達にしか出来ないやり方だろう。
だは、俺達の力……思い知ってもらおうか!!
「うわぁぁぁぁ! なんだこりゃ!?」
最初に発動したのは、トラップの定番である『落とし穴』であった。
だが、ただの落とし穴ではない。
その中には、俺達の同僚の一人……付与屋と呼ばれる男が全力をつくした砂鉄のトラップが待っているのである。
しかも、そこには落ちてきた人間の魔力と気力を吸い取り、磁力として供給するというロクでもない魔法陣が描かれているのだ。
「くっ、砂がまるで岩のように! 助けてくれ!」
「なんだこの砂! 体にくっつくぞ!!」
ご存知だろうか? 砂鉄に足を突っ込んだ状態で強い磁力をかけると、砂鉄の粒同士がくっつきあって抜け出す事ができなくなるのである。
つまり、一度落ちたが最後……衰弱して動けなくなったところを他人に助けてもらわなければ出ることはできない。
「いかん! そいつはもう見捨てろ! お前まで砂にとらわれるぞ!!」
「い、いやだ! 見捨てないでくれ!!」
哀願する声は嗚咽が混じり、彼らの関係に修復しがたい傷を残す。
だが、俺達の仕掛けた罠がこれだけだとおもうなよ!?
続いて発動したのは、投網の罠である。
これは人形使いと呼ばれる同僚の作品で、悪意のある者が近づくと網を投げるという代物だ。
一般の奴らにはピンとこないかもしれないが、最大のセールスポイントはその対象が侵入者であるかどうかを判断できるというぶっ壊れた性能をもつ人工知能。
おかげで、よほど怪しい動きでもしない限りは乱戦時にもフレンドリーファイアをしないという頼れる仲間である。
そして、投げられる網もとうぜん普通ではないわけで……。
「ぐおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 網が! 網が勝手に動いて!!」
「なんだこの網! 生きて……いててててててててて! 助けてくれぇ!!」
そう、この網は自分で勝手に動くのだ。
そして捕縛した相手の体の形を探査して、即座に縛り上げつつ関節技を決めるという、名づけて"関節技の鬼"という商品である。
「ひるむな! 網など絡まれる前に打ち払えば……ぐあっ!」
回りを鼓舞しつつ前に進んでいた騎士が、網をさばききれずに捕縛される。
なにぶん投げることに特化した自動機械だけに、その投擲スピードがすさまじいのだ。
ただ、唯一の欠点は……。
「シエル、すまん。 そろそろ網の残弾数が無い!」
俺の隣にやってきた人形使いが顔をしかめる。
そう。 なにぶんモノが特別製だけに、弾数を作るのがちょっと大変なのだ。
「わかった。 最後は俺がやるから、奴らを一箇所にまとめてくれ」
「承知!」
人形使いは小気味良い返事を返すと、捕縛装置に指示を出してたくみに騎士たちを追い込んでゆく。
そして連中が一箇所にまとまったところで、俺は最後の仕掛けを発動させた。
「……争いの神も恋の女神も捕らえおきし神秘の鎖、その一端を我がために遣わしめたまえ!!」
そして俺が『ヘファイトスの寝台・表』を発動すると、彼らはすべてその動きを奪われた。
……だが。
「なるほど、たいした腕前だ」
突然拍手が鳴り響くと共に、一人の男がその姿を現したのである。
そんな台詞と共に、俺はギルドの敷地にある素材管理課の建物のドアを開けた。
すると、中から殺気立った目がいくつもこちらに向けられる。
うわっ、キツいなこれ。 子供なら泣き出しそうな雰囲気だぞ。
「大丈夫! 連中がいつきても問題ないようになってる!!」
奥のほうからリンツが応える。
「それにしても、あの騎士団が前の毛生え薬強奪の犯人なんてねぇ……」
周囲に余計な目と耳が無いことを確認してから、ディオーナが呟く。
そう、前回作成された"ブラッディー・サバス"を強奪し、その際にがけ崩れを起こして街道を閉鎖させた犯人は、先ほどの乱戦を制した隣国の騎士団だったのである。
もとよりその疑いはあったのだが、前回の襲撃で唯一生き残った男に確認させてるにも、そのきっかけがなかったのだ。
だが、新しい"ブラッディー・サバス"に釣られ、連中は再びこの国に姿を現した。
終了間際の合図は、その生き残りが彼ら騎士団を犯人であると断定したことを示していたのだ。
「騎士団なんて連中だからこそ、たかが毛生え薬のために他国の経済をぐちゃぐちゃにしたんだろ。
少しでも頭の回る盗賊たちなら、たった一回の襲撃のために街道を潰して自分の食い扶持を潰すような真似はしない」
それに、前回の"ブラッディー・サバス"が奪われた後、すぐに隣国の国王の髪がよみがえったという話があったのだが、その際にどんな経路で国王の手に渡ったかがまったくわからなかったのだ。
冒険者ギルドと商業ギルドが自分たちの面子にかけて調べ上げたにも関わらずにである。
そんな事ができるのは、貴族関係の闇ルートしかありえない。
「あぁ、言われてみれば納得だわ」
さて、今回用意された"ブラッディー・サバス"は俺達の手によって破壊されたわけだが、そうすると"ブラッディー・サバス"を失った連中が次にやることはなにか?
……俺達の予想では、ブラッディー・サバスのレシピを求めてこのギルドに押しかけてくることである。
むしろそうなるように情報もバラまいてあるしな。
そんなわけで、俺達は連中がいつ襲撃してきてもいいように迎撃体勢を整えているというわけだ。
「おい、来たぞ!!」
冒険者ギルドに所属している斥候から警告がもたらされたのは、たっぷり日が暮れてからのことであった。
「よし、やるぞ」
先輩の声に、俺達は無言で頷く。
なお、他の職員や冒険者たちには、あえて手を出さないように指示を出してある。
相手は騎士団という戦闘のプロであり、特に対人戦に特化した連中だ。
魔物相手が専門である冒険者たちでは、少々分が悪い。
それに、下手に攻撃して相手を死なせれば、色々と問題が出てしまう。
ならば、俺達素材管理課と斥候職たちによる非殺傷系トラップで迎撃するのが最適だというのが、ギルドマスターの判断であった。
たしかに、それは俺達にしか出来ないやり方だろう。
だは、俺達の力……思い知ってもらおうか!!
「うわぁぁぁぁ! なんだこりゃ!?」
最初に発動したのは、トラップの定番である『落とし穴』であった。
だが、ただの落とし穴ではない。
その中には、俺達の同僚の一人……付与屋と呼ばれる男が全力をつくした砂鉄のトラップが待っているのである。
しかも、そこには落ちてきた人間の魔力と気力を吸い取り、磁力として供給するというロクでもない魔法陣が描かれているのだ。
「くっ、砂がまるで岩のように! 助けてくれ!」
「なんだこの砂! 体にくっつくぞ!!」
ご存知だろうか? 砂鉄に足を突っ込んだ状態で強い磁力をかけると、砂鉄の粒同士がくっつきあって抜け出す事ができなくなるのである。
つまり、一度落ちたが最後……衰弱して動けなくなったところを他人に助けてもらわなければ出ることはできない。
「いかん! そいつはもう見捨てろ! お前まで砂にとらわれるぞ!!」
「い、いやだ! 見捨てないでくれ!!」
哀願する声は嗚咽が混じり、彼らの関係に修復しがたい傷を残す。
だが、俺達の仕掛けた罠がこれだけだとおもうなよ!?
続いて発動したのは、投網の罠である。
これは人形使いと呼ばれる同僚の作品で、悪意のある者が近づくと網を投げるという代物だ。
一般の奴らにはピンとこないかもしれないが、最大のセールスポイントはその対象が侵入者であるかどうかを判断できるというぶっ壊れた性能をもつ人工知能。
おかげで、よほど怪しい動きでもしない限りは乱戦時にもフレンドリーファイアをしないという頼れる仲間である。
そして、投げられる網もとうぜん普通ではないわけで……。
「ぐおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 網が! 網が勝手に動いて!!」
「なんだこの網! 生きて……いててててててててて! 助けてくれぇ!!」
そう、この網は自分で勝手に動くのだ。
そして捕縛した相手の体の形を探査して、即座に縛り上げつつ関節技を決めるという、名づけて"関節技の鬼"という商品である。
「ひるむな! 網など絡まれる前に打ち払えば……ぐあっ!」
回りを鼓舞しつつ前に進んでいた騎士が、網をさばききれずに捕縛される。
なにぶん投げることに特化した自動機械だけに、その投擲スピードがすさまじいのだ。
ただ、唯一の欠点は……。
「シエル、すまん。 そろそろ網の残弾数が無い!」
俺の隣にやってきた人形使いが顔をしかめる。
そう。 なにぶんモノが特別製だけに、弾数を作るのがちょっと大変なのだ。
「わかった。 最後は俺がやるから、奴らを一箇所にまとめてくれ」
「承知!」
人形使いは小気味良い返事を返すと、捕縛装置に指示を出してたくみに騎士たちを追い込んでゆく。
そして連中が一箇所にまとまったところで、俺は最後の仕掛けを発動させた。
「……争いの神も恋の女神も捕らえおきし神秘の鎖、その一端を我がために遣わしめたまえ!!」
そして俺が『ヘファイトスの寝台・表』を発動すると、彼らはすべてその動きを奪われた。
……だが。
「なるほど、たいした腕前だ」
突然拍手が鳴り響くと共に、一人の男がその姿を現したのである。
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