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毛はまた戻り、繰り返す (5)
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「そろそろ決着がつきそうだな」
「そうね。 最後まであまり面白みはなかったけど」
そんな感想を述べる俺達だが、周囲は逆にすさまじい熱狂を見せている。
予想通り……最後まで戦力を温存することのできた例の騎士団が、いよいよ攻勢に打って出たのだ。
「おおーっと、せっかく金属球を手に入れたのはいいが、すでに周囲は完全に包囲されていた!
この圧倒的な方位をどうやって潜り抜けるのか!?
そう、ここは一転に集中して突撃をしかけるしかない!
だが……その動きは完全に読まれている!
ああっ、側面から遊撃部隊が……!!
強い強い! 圧倒的だ!」
戦況を解説する大道芸人が、唾を飛ばしつつ熱のこもった声でわめきたてる。
その声に反応して観客たちが悲鳴じみた声をあげるのを聞きながら、俺たちはその場から移動を開始した。
「ああーっ、ついに金属球が奪われた!
しかも、もはや反撃する力も残されてはいない!!
これは勝負あったか?」
解説者のあおり文句に、歓喜の声を上げる者もいれば悲鳴を上げる者もいる。
前者は賭けに勝ちそうな奴らで、後者は賭けに負けそうな奴らだ。
馬鹿なことを。
勝負など、とうの昔についていたというのに何をいまさら。
わざとやっているのでなければ、この解説者はたいした節穴である。
まぁ、あまりたいしたことの無い解説者のほうが、意外性があって聞いているほうは楽しいのかもしれないけどな。
そんな感想を心の中で呟きながら、俺はディオーナをつれて観客たちの後ろに回る。
さぁ、荒れるぞ……。
「やった! ついにやりました!
今、金属球の蓋が開かれ、中から伝説の秘薬が取り出され……」
そのときである。
耳がおかしくなりそうな歓声の中、ガラスの砕けるような音がなぜかはっきりと耳に届いた。
その瞬間、歓声は悲鳴と罵声に変わる。
そう、この盛大な催しの発端となった秘薬"ブラッディ・サバス"は、何者かが放った矢によって砕かれてしまったのだ。
どうして見もせずにそんな事がわかるかって?
決まってる――俺達が仕組んだことだからだ。
暴徒と化した観客が雪崩れとなって櫓の下に降りてゆく中、俺達はさめた目でソレを眺めていた。
「さて、ディオーナ。 仕事を始めようか」
「了解。 あまり気は進まないけどね」
俺が呼びかけると、彼女はやる気がないといわんばかりに肩をすくめた。
「そう言うなよ。 正義は我にあり……だぜ」
「悪いけど、その台詞あまり好きではないのよね」
「気が合うな。 俺もだ。
この仕事が終わったらデートでもするか?」
「そうね、時間が空いていたらお願いするわ」
つまり、そのつもりはないってことか。
……やれやれ、嫌われているわけではなさそうだが、どうもツレない反応である。
「勝敗が決し、金属球から秘薬を取り出した瞬間……突如として放たれた矢によって、伝説の秘薬は打ち砕かれた!
だが、犯人の狙いは薬だったのか?
実は隣国の要人である騎士団長の暗殺が失敗しただけではなかったのか?
その真相やいかに!!」
俺達が地上に降りると、すでに情報を集めた講談師が粗末な机を杖でバンバンと叩きながら聴衆を相手に熱弁をふるっている。
だが、目新しい情報はあまりないのか空き缶の中のコインは数が少ないようだ。
もっとも、彼らの本分はここから適当に思わせぶりな話を持ち込んで聴衆を楽しませることなので、勝負はまさにここからである。
とりあえずがんばれ。
「あ、シエル。 自警団の人たちがきたみたい」
ディオーナの指し示した方向を見ると、鎧に身を固めた連中がぞろぞろと現場にやってきた。
一応は事件なので、現場検証をするのだろう。
そして彼らはしばらく周囲の観客たちに事情徴収をすると、会場の一角にある櫓へとあがっていった。
いくら会場の目が試合に釘付けだったとはいえ、目撃者を集めればどこから矢が放たれたのかを突き止めるのは難しくない。
しかも、楽しみを邪魔されたせいか、ただ単に目立ちたいのか、彼らに喜んで協力する人間は少なくなかった。
だが……。
「うわっ、なんだこりゃ!? 全部人形じゃねぇか!!」
街の守備隊が、矢を放った犯人がいるだろあろう櫓に突入した瞬間悲鳴が上がる。
その声を聞きつけ、物見高い野次馬たちが一斉にざわめいた。
そう……そこにあったのは精巧な人形たち。
人間は一人もいない。
いや、この櫓を貸切扱いにして誰もいれなかった人間がいるはずなのだが、とっくに逃げ出したあとである。
――さて、仕事の時間だ。
俺はディオーナに目配せをすると、彼女は手にした短杖に魔力をこめる。
次の瞬間、パン、パパパン! と櫓から連続した破裂音が鳴り響いた。
さらに人形たちの破片までもが塵となって空気に溶ける。
さぁ、これでここで何があったかを推測する事は誰にもできない。
俺とディオーナは、すべての仕事をやり遂げると、そのまま野次馬にまぎれて会場を後にした。
「そうね。 最後まであまり面白みはなかったけど」
そんな感想を述べる俺達だが、周囲は逆にすさまじい熱狂を見せている。
予想通り……最後まで戦力を温存することのできた例の騎士団が、いよいよ攻勢に打って出たのだ。
「おおーっと、せっかく金属球を手に入れたのはいいが、すでに周囲は完全に包囲されていた!
この圧倒的な方位をどうやって潜り抜けるのか!?
そう、ここは一転に集中して突撃をしかけるしかない!
だが……その動きは完全に読まれている!
ああっ、側面から遊撃部隊が……!!
強い強い! 圧倒的だ!」
戦況を解説する大道芸人が、唾を飛ばしつつ熱のこもった声でわめきたてる。
その声に反応して観客たちが悲鳴じみた声をあげるのを聞きながら、俺たちはその場から移動を開始した。
「ああーっ、ついに金属球が奪われた!
しかも、もはや反撃する力も残されてはいない!!
これは勝負あったか?」
解説者のあおり文句に、歓喜の声を上げる者もいれば悲鳴を上げる者もいる。
前者は賭けに勝ちそうな奴らで、後者は賭けに負けそうな奴らだ。
馬鹿なことを。
勝負など、とうの昔についていたというのに何をいまさら。
わざとやっているのでなければ、この解説者はたいした節穴である。
まぁ、あまりたいしたことの無い解説者のほうが、意外性があって聞いているほうは楽しいのかもしれないけどな。
そんな感想を心の中で呟きながら、俺はディオーナをつれて観客たちの後ろに回る。
さぁ、荒れるぞ……。
「やった! ついにやりました!
今、金属球の蓋が開かれ、中から伝説の秘薬が取り出され……」
そのときである。
耳がおかしくなりそうな歓声の中、ガラスの砕けるような音がなぜかはっきりと耳に届いた。
その瞬間、歓声は悲鳴と罵声に変わる。
そう、この盛大な催しの発端となった秘薬"ブラッディ・サバス"は、何者かが放った矢によって砕かれてしまったのだ。
どうして見もせずにそんな事がわかるかって?
決まってる――俺達が仕組んだことだからだ。
暴徒と化した観客が雪崩れとなって櫓の下に降りてゆく中、俺達はさめた目でソレを眺めていた。
「さて、ディオーナ。 仕事を始めようか」
「了解。 あまり気は進まないけどね」
俺が呼びかけると、彼女はやる気がないといわんばかりに肩をすくめた。
「そう言うなよ。 正義は我にあり……だぜ」
「悪いけど、その台詞あまり好きではないのよね」
「気が合うな。 俺もだ。
この仕事が終わったらデートでもするか?」
「そうね、時間が空いていたらお願いするわ」
つまり、そのつもりはないってことか。
……やれやれ、嫌われているわけではなさそうだが、どうもツレない反応である。
「勝敗が決し、金属球から秘薬を取り出した瞬間……突如として放たれた矢によって、伝説の秘薬は打ち砕かれた!
だが、犯人の狙いは薬だったのか?
実は隣国の要人である騎士団長の暗殺が失敗しただけではなかったのか?
その真相やいかに!!」
俺達が地上に降りると、すでに情報を集めた講談師が粗末な机を杖でバンバンと叩きながら聴衆を相手に熱弁をふるっている。
だが、目新しい情報はあまりないのか空き缶の中のコインは数が少ないようだ。
もっとも、彼らの本分はここから適当に思わせぶりな話を持ち込んで聴衆を楽しませることなので、勝負はまさにここからである。
とりあえずがんばれ。
「あ、シエル。 自警団の人たちがきたみたい」
ディオーナの指し示した方向を見ると、鎧に身を固めた連中がぞろぞろと現場にやってきた。
一応は事件なので、現場検証をするのだろう。
そして彼らはしばらく周囲の観客たちに事情徴収をすると、会場の一角にある櫓へとあがっていった。
いくら会場の目が試合に釘付けだったとはいえ、目撃者を集めればどこから矢が放たれたのかを突き止めるのは難しくない。
しかも、楽しみを邪魔されたせいか、ただ単に目立ちたいのか、彼らに喜んで協力する人間は少なくなかった。
だが……。
「うわっ、なんだこりゃ!? 全部人形じゃねぇか!!」
街の守備隊が、矢を放った犯人がいるだろあろう櫓に突入した瞬間悲鳴が上がる。
その声を聞きつけ、物見高い野次馬たちが一斉にざわめいた。
そう……そこにあったのは精巧な人形たち。
人間は一人もいない。
いや、この櫓を貸切扱いにして誰もいれなかった人間がいるはずなのだが、とっくに逃げ出したあとである。
――さて、仕事の時間だ。
俺はディオーナに目配せをすると、彼女は手にした短杖に魔力をこめる。
次の瞬間、パン、パパパン! と櫓から連続した破裂音が鳴り響いた。
さらに人形たちの破片までもが塵となって空気に溶ける。
さぁ、これでここで何があったかを推測する事は誰にもできない。
俺とディオーナは、すべての仕事をやり遂げると、そのまま野次馬にまぎれて会場を後にした。
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