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第一章
第16話 廃寺院
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「これ……ちょっとすごいですね」
寺院に到着した俺は、その建物を見上げて乾いた笑いを浮かべる。
なんというか、イメージとしてはアンコール・ワット?
枯れかかった緑の蔦に覆われたその建物は、元の荘厳な建築様式とあいまってちょっと近寄りがたい空気を纏っていた。
正直に言うと、入ったら呪われそうである。
その威容から、どうもホームレスたちからも敬遠されているらしい。
周囲の建物と違って人工的なゴミなどはまったく落ちていなかった。
「確かにすごいところだね。
けど、こんなところでボサっとしていてもしかたがない。
とりあえず入ろうか」
たしかに雷鳴の言うとおりだろう。
俺はおっかなびっくりその敷地に足を踏み入れる。
だが、目の前には草と潅木の壁ができており、とても進めるような状況ではなかった。
しかたなく雷鳴が草刈鎌よろしくハルバードを振るって足元の草を刈り取ると、茶色の枯れ草の下から建物に続く長い石畳らしきものが見えた。
だが、植物の根によってその配置がゆがみ、すでに歩く邪魔にしかならない。
俺と雷鳴はほぼ開拓するような感覚でゆっくりと道を作りながら進み、やがて建物にたどり着く。
だが、その建物のほうもかなり悲惨だった。
まず、門に扉がついていない。
蝶番が残っているところをみると、誰かが持って行ったか壊れて腐ってしまったかのどちらかだろう。
そして床を見れば、屋内であるにもかかわらず一面に苔が生えていた。
たぶん、屋根からは雨水がたれ放題なんだろうな。
もはや蝙蝠が住み着いていてもおかしくは無い……というか、いまなんかそれっぽいのが上を飛んでいたな。
悪いけど、彼らには出て行ってもらうしかない。
蝙蝠がいると、その大量に垂れ流す糞で家屋が汚れ、病原菌の温床になってしまうのだ。
しかし……本当にここで生活するのか?
もはや野外でサバイバルするのとかわらない気がするのだが。
しかも、ここは森よりも資源に乏しいハードモードである。
せめて井戸ぐらいは使用できるといいのだが。
俺が呆然としつつそんなことを考えていると、雷鳴もまた似たようなことを考えていたのだろう。
隣から、あきれたようにため息をつく音が聞こえた。
「初めてきてみたが、予想以上の状態だな。
神は本当にここを再生しろと?
おそらく、建物を一度取り壊して立て直す必要があるぞ。
柱なんかも見るからにヒビが入っているから、いつ壊れるかわかったものじゃない」
雷鳴のそんなつぶやきに、俺もまったく同感である。
寝ている間に柱が崩れて屋根につぶされたりするのはまっぴらだ。
「ですが、神意には逆らえませんよね。
幸い、バレーボールができそうなほど天井が高いので、中でテントを張って生活しようかと思います」
本当ならば庭にテントを張りたいのだが、ここは遺跡のように見えてスラム街のド真ん中である。
ならば、おそらく出るだろう。
ネズミあたりならばまだしも、物取りの類が。
「……こんな子供にそのような苦労をさせなければならないなど、大人として忸怩たる思いだよ。
ところで、バレーボールとは何だね?」
しまった。
うっかり口に出してしまったが、この世界にバレーボールがあるとは思えない。
「私の故郷の遊びです。
網を壁のように張って、それをはさんで鞠を打ち合う感じですね」
「なるほど、優雅な遊びだな」
微笑む雷鳴の台詞に、そういえば昔の日本や中国の貴族も蹴鞠なんかをたしなんでいたことを思い出す。
この世界でに紹介したら流行るだろうか?
「いえいえ、これがなかなか激しい動きを伴う代物でしてね。
まぁ、その話はいずれ暇なときにでも」
あいにくと、今の俺には無駄話をする余裕が無い。
はやいところ宿泊可能な環境を作らなければ。
「そうだな。
まずはここで生活できるようにする必要があるだろう」
……となると、まずはテントのようなものを買う必要があるだろう。
あと、暖かな毛布もほしい。
冬に向かっているのか春に向かっているのかはしらないが、とにかく気温が低いのだ。
「せっかくここまできたけど、一度買い物をするために戻ったほうがいいみたいですね。
あと、今日のところはどこか別の宿をとったほうがよさそうです」
俺の判断に、雷鳴もうなずく。
今日からここで寝泊りするなど、無謀でしかない。
「それがよいだろうね。
まぁ、初日からここで寝泊りができるとは初めから思ってなかったが……・
もしよかったら、敷地内に居住区だけでも作ったほうがいい。
よい業者を紹介するよ」
業者か……俺が預かった金で修繕費用に届くとはちょっと思えないな。
さて、どうしたものか。
せっかく神からもらった能力があるので、それを活用してなんとかできないか考えてみたいな。
そうなると、雷鳴には退出してもらいたいところである。
「ありがとうございます。
その前に、自分でいろいろとこの場所を調べたいと思うので、しばらく一人にしていただけますか?」
「わかった。
できるだけヒビの入った柱のそばには近づかないように。
あと、地面が陥没しかかっている場所があるかもしれないから、足元にも注意してくれたまえ」
そんな注意事項を残すと、雷鳴は建物の入り口のほうへと歩いていった。 さて、これで好きなことができるな。
俺は精霊辞典を取り出すと、はじめてその表紙をめくる。
すると、冒頭にはこのような一文が記載されていた。
――この書を開く者。
一切の悪しき欲望を捨て智の神に誠意を示せ。
汝、神に恥ずべき行いせし時は、この書より手に入れた全ての知識を放棄することを誓うべし。
なんとも仰々しい一文である。
つまり、この書物を開きたければ神の呪縛を受け入れよということか。
だが、そんな処置も仕方があるまい。
これは精霊たちの真の名を記した書物であるのだから。
――まったく、なんてものを預けるかねぇ。
「わたし、白井俊樹は智の神に誓う。
この書の知識を悪用したならば、この書物より手に入れた全ての記憶を放棄することを」
すると、精霊辞典は自らめくりあがり次のページを示した。
そして、そこには無数の精霊の名が記されていたのである。
寺院に到着した俺は、その建物を見上げて乾いた笑いを浮かべる。
なんというか、イメージとしてはアンコール・ワット?
枯れかかった緑の蔦に覆われたその建物は、元の荘厳な建築様式とあいまってちょっと近寄りがたい空気を纏っていた。
正直に言うと、入ったら呪われそうである。
その威容から、どうもホームレスたちからも敬遠されているらしい。
周囲の建物と違って人工的なゴミなどはまったく落ちていなかった。
「確かにすごいところだね。
けど、こんなところでボサっとしていてもしかたがない。
とりあえず入ろうか」
たしかに雷鳴の言うとおりだろう。
俺はおっかなびっくりその敷地に足を踏み入れる。
だが、目の前には草と潅木の壁ができており、とても進めるような状況ではなかった。
しかたなく雷鳴が草刈鎌よろしくハルバードを振るって足元の草を刈り取ると、茶色の枯れ草の下から建物に続く長い石畳らしきものが見えた。
だが、植物の根によってその配置がゆがみ、すでに歩く邪魔にしかならない。
俺と雷鳴はほぼ開拓するような感覚でゆっくりと道を作りながら進み、やがて建物にたどり着く。
だが、その建物のほうもかなり悲惨だった。
まず、門に扉がついていない。
蝶番が残っているところをみると、誰かが持って行ったか壊れて腐ってしまったかのどちらかだろう。
そして床を見れば、屋内であるにもかかわらず一面に苔が生えていた。
たぶん、屋根からは雨水がたれ放題なんだろうな。
もはや蝙蝠が住み着いていてもおかしくは無い……というか、いまなんかそれっぽいのが上を飛んでいたな。
悪いけど、彼らには出て行ってもらうしかない。
蝙蝠がいると、その大量に垂れ流す糞で家屋が汚れ、病原菌の温床になってしまうのだ。
しかし……本当にここで生活するのか?
もはや野外でサバイバルするのとかわらない気がするのだが。
しかも、ここは森よりも資源に乏しいハードモードである。
せめて井戸ぐらいは使用できるといいのだが。
俺が呆然としつつそんなことを考えていると、雷鳴もまた似たようなことを考えていたのだろう。
隣から、あきれたようにため息をつく音が聞こえた。
「初めてきてみたが、予想以上の状態だな。
神は本当にここを再生しろと?
おそらく、建物を一度取り壊して立て直す必要があるぞ。
柱なんかも見るからにヒビが入っているから、いつ壊れるかわかったものじゃない」
雷鳴のそんなつぶやきに、俺もまったく同感である。
寝ている間に柱が崩れて屋根につぶされたりするのはまっぴらだ。
「ですが、神意には逆らえませんよね。
幸い、バレーボールができそうなほど天井が高いので、中でテントを張って生活しようかと思います」
本当ならば庭にテントを張りたいのだが、ここは遺跡のように見えてスラム街のド真ん中である。
ならば、おそらく出るだろう。
ネズミあたりならばまだしも、物取りの類が。
「……こんな子供にそのような苦労をさせなければならないなど、大人として忸怩たる思いだよ。
ところで、バレーボールとは何だね?」
しまった。
うっかり口に出してしまったが、この世界にバレーボールがあるとは思えない。
「私の故郷の遊びです。
網を壁のように張って、それをはさんで鞠を打ち合う感じですね」
「なるほど、優雅な遊びだな」
微笑む雷鳴の台詞に、そういえば昔の日本や中国の貴族も蹴鞠なんかをたしなんでいたことを思い出す。
この世界でに紹介したら流行るだろうか?
「いえいえ、これがなかなか激しい動きを伴う代物でしてね。
まぁ、その話はいずれ暇なときにでも」
あいにくと、今の俺には無駄話をする余裕が無い。
はやいところ宿泊可能な環境を作らなければ。
「そうだな。
まずはここで生活できるようにする必要があるだろう」
……となると、まずはテントのようなものを買う必要があるだろう。
あと、暖かな毛布もほしい。
冬に向かっているのか春に向かっているのかはしらないが、とにかく気温が低いのだ。
「せっかくここまできたけど、一度買い物をするために戻ったほうがいいみたいですね。
あと、今日のところはどこか別の宿をとったほうがよさそうです」
俺の判断に、雷鳴もうなずく。
今日からここで寝泊りするなど、無謀でしかない。
「それがよいだろうね。
まぁ、初日からここで寝泊りができるとは初めから思ってなかったが……・
もしよかったら、敷地内に居住区だけでも作ったほうがいい。
よい業者を紹介するよ」
業者か……俺が預かった金で修繕費用に届くとはちょっと思えないな。
さて、どうしたものか。
せっかく神からもらった能力があるので、それを活用してなんとかできないか考えてみたいな。
そうなると、雷鳴には退出してもらいたいところである。
「ありがとうございます。
その前に、自分でいろいろとこの場所を調べたいと思うので、しばらく一人にしていただけますか?」
「わかった。
できるだけヒビの入った柱のそばには近づかないように。
あと、地面が陥没しかかっている場所があるかもしれないから、足元にも注意してくれたまえ」
そんな注意事項を残すと、雷鳴は建物の入り口のほうへと歩いていった。 さて、これで好きなことができるな。
俺は精霊辞典を取り出すと、はじめてその表紙をめくる。
すると、冒頭にはこのような一文が記載されていた。
――この書を開く者。
一切の悪しき欲望を捨て智の神に誠意を示せ。
汝、神に恥ずべき行いせし時は、この書より手に入れた全ての知識を放棄することを誓うべし。
なんとも仰々しい一文である。
つまり、この書物を開きたければ神の呪縛を受け入れよということか。
だが、そんな処置も仕方があるまい。
これは精霊たちの真の名を記した書物であるのだから。
――まったく、なんてものを預けるかねぇ。
「わたし、白井俊樹は智の神に誓う。
この書の知識を悪用したならば、この書物より手に入れた全ての記憶を放棄することを」
すると、精霊辞典は自らめくりあがり次のページを示した。
そして、そこには無数の精霊の名が記されていたのである。
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