異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

文字の大きさ
46 / 121
第一章

第45話 ヤバい奴がきちゃった

しおりを挟む
 コンクリートの壁をこえる簡単な方法……解決方法は意外と早く思いついた。

「ようするに、はしごを作ればいいんだよな」

 俺は壁を見ながら一人つぶやく。
 イオニスに頼んで作ってもらえば楽でいいのだが、彼はヨハンナと一緒に食事の準備をしているので、できるだけ使いたくない。

 ……となると、アドルフの力を借りた魔術、『アドルフの左官鏝』と『うごめく泥霊』の出番である。
 『アドルフの左官鏝』は水と混ぜた石灰……つまりセメントを呼び出し『うごめく泥霊』は、泥状のものを自在に形をかえ、そして一瞬で乾燥させることのできる魔術。
 この魔術を使えば、コンクリート製のはしごができるはず。

 だが、実はこういう細かい作業こそ難しいのだ。
 まっすぐな棒を作ったつもりでも、気を抜くとすぐに曲がってしまう。

「床とか天井はわりと楽なんだけどなぁ」

 何が違うのかわからないが、とにかくまっすぐで細長いものを作り出すのはむずかしいのである。
 いささかの不安を抱えながらも、俺は目を閉じ、息を整えて意識を集中する。
 そして、いざはしごを作ろうとしたそのときだった。

「うわっ、なんだこの壁!?」

「まさか、人間たちの拠点か?」

 壁の向こうから誰かの声が響き、集中が乱れた。
 まっすぐ上に伸びていたコンクリートの棒が、ゴムホースのように曲がりながら地面に落下ちてくる。

「うわぁっ!」

 あやうく頭にコンクリートの一撃を受けそうになり、思わず悲鳴を上げてしまった。
 まぁ、まだ固まってないからダメージはほとんどないと思うけど、逆に言えば泥の塊だからな。
 こんなものが上から降ってきたら、そりゃ悲鳴も上がりますって。

「……誰かいるのか!?」

 俺の悲鳴が聞こえたのか、壁の向こうから問いただす声がする。
 どうしよう、答えるべきか?
 俺が背中にいやな汗をかきつつ考えていると、後ろから誰かが走ってくる音がした。

「今の声、パパ?」

「おお、アムスティローネ!
 無事だったのか!!」

 どうやら壁の向こうにいるのはエルフの少女の肉親らしい。
 あと、彼女の名前はアムスティローネというようだ。

 しかし、馬車の中にいたはずなのにあの声が聞こえたのか。
 さすがエルフ……耳のよさは別格だな。

「す、すいません!
 あの声は、おそらく私の父と兄です!
 よかった、無事で……」

 感極まったのか、アムスティローネはその場で膝をついて顔を手で覆う。
 まぁ、こういう場面に出くわすと人助けも悪くないと思うよな。

「そっちは何人ですか?
 今、上からロープを垂らします」

 こちらの様子に気づいたのか、ヨハンナが枯れ草から作ったロープを持ってこちらに近づいている。
 まったくもって用意のいい守護者だ。

「こちらは二人だ。
 私はエルフの狩人でエルヴェナス。
 息子のカスティネックが隣にいる」

「では、ロープを投げますので、一人ずつ上ってきてください!」

 俺が目配せをすると、ヨハンナが壁の向こうに向かってロープを投げた。
 そしてロープを支えるためにイオニスがその反対側を持つ。
 一応、俺も手伝ったほうがいいだろうな。

 やがて壁を超えてやってきたのは、高校生ぐらいに見える赤毛の少年だった。
 つづいて、よく年齢がわからない青年が姿を現す。

 そして三人は抱き合って再開を喜ぶと、男二人はイオニスを見て膝をついた。

「家族を保護していただき、礼を申し上げる。
 大きな魔力の揺らぎを感じて、はぐれた同族と思って確かめにきたのだが、まさかうちの娘たちが人間族の方に保護されていたとは」

「いえ、それは私ではありません。
 礼なら我が主様へ」

 イオニスはにこりともせずに、手の指をそろえて俺を示す。
 すると、エルフたちの表情が若干の戸惑いを見せた。
 獅子の獣人の子供にしか見えない俺が、人間の使用人をもっていることが意外なのだろう。

「こ、これは失礼を」

「トシキだ。
 智の神の神官をしている。
 訳あって西に向かって旅をしている途中で貴方の家族を保護した」

 エルフたちの謝罪を軽く流し、俺は簡単に自己紹介をする。

「で、奴隷狩りに追われているって?」

「そうなのです。
 三日前に村を襲われ、なんとか連中の足止めをして妻と娘を逃がすことはできたのですが……連中を振り切る事ができないのです。
 二日ほど前に追いつかれ、交戦することになりまして」

 俺のイメージだけの話かもしれないが、森の中でエルフを追い続けるってちょっと無茶だよな。
 なにか目印でもつけられているんじゃないかな?
 だが、そのぐらいはたぶんエルフたちも考えているはず。

「とりあえず、この中にいれば連中も簡単に襲ってはこれないでしょう。
 ヨハンナ、食事の量は大丈夫か?」

「すぐに用意いたします」

 俺が声をかけると、ヨハンナはすぐに増えたエルフたちの分の食事の準備をはじめた。

「獣人の子よ、感謝する」

「別に礼はいいよ。
 しかし、亜人をさらって奴隷にするとは……ろくでもない奴らがいたものだ」

 そうつぶやきながら、俺は今の自分が亜人であり、しかも希少種族であることを思い出す。
 背中の翼がバレたら、奴らはまっさきに俺を狙うだろう。

「かくまってもらった身でこう言うのは何だが、おそらく連中はここまでやってくるだろう。
 具体的にはわからないが、なんらかの普通ではない方法で奴らは私たちの後をつけてきている」

 やはりエルフたちもそう思っているのか。
 だが、その追跡方法がわからない限り、どこに逃げても余り代らないだろう。

 ならば撃退するか?
 だが、戦力が足りない。

 イオニスは弓が使えるようだが、敵の数が多いと対応しきれないだろう。
 巨大羊に関しては、アレが暴れたら俺たちまで巻き添えになりかねない。

 さて、どうしたものか?
 そのとき、背後で何か゛バサッと音がした。
 振り返ると、自己主張するかのように一冊の本が落ていちる。

 これは……スタニスラーヴァからもらった魔導書。
 寺院においてきたはずなのに、なぜ?

「まさか、自分を守護者にしろということか?」

「どうされた、獣人の子よ」

 俺の戸惑いを感じたのか、エルフ家族の父親……エルヴェナスが心配げに声をかけてくる。
 だが、その声に応える余裕がなかった。

「これ、どうかんがえても精霊の仕業だよな」

 おそらくは、この魔導書を守護者にしろということだろう。
 なお、本から生み出した守護者は、今の俺の魔力だと一冊分しか維持しかできない。
 この本を守護者にすると、森暮らしの書の守護者化を解く必要がある。

「イオニス、ヨハンナ、これから別の本を守護者にするから一度本にもどってくれ。
 ありがとう。
 とても助かったよ」

「お褒め頂き恐悦至極」
「御用がありましたら、いつでもお呼びくださいませ」

 二人は寄り添うように並んでひざまずくと、一瞬で元の本へと姿がかわる。
 横で見ていたエルフたちが絶句しているが、説明はあとだ。

「智の神の叡智と威光において、智の眷属たる書物に命ず。
 我が呼びかけに応え、我に仕えるべし。
 汝が智は力となりて、共に栄光の道を歩まん」

 変化は一瞬だった。
 金色の光が瞬いたかと思うと、そこには白い民族衣装を身に着けた少女が立っていたのである。
 その姿と顔は間違いなく……。
 
「ヴィヴィ・ヴラツカ!?」
「もぉ、おいてゆくなんてひどいじゃない!
 でも、面白そうな場面に呼んでくれたから許してあげる」

 いや、どう見ても押しかけたの間違いだろ。
 そんな俺の印象をよそに、彼女は芝居かかった調子で笑う。

「私、見た目はかわいいけど、けっこう武闘派なのよね」

 彼女はそう告げながら、どこからともなく羊飼いの使うような捻じ曲がった杖を取り出した。
 そして陶酔するかのような、どこか暗い声で声で告げる。

「トシキをいじめる子は、私がイジメかえしてあげる」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...