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第一章
第64話 火事のあとで
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消火活動が終わったのは、おそらく日付が変わってからのことだったと思う。
「ふぅ、そろそろ火の残っているところはないかな」
「そうね、強い火の力はもう感じないわね」
火の気配を感じなくなったかわりに、家が焼けて途方にくれている人や、家族を失って泣き叫んでいる人だけが目に付く。
なんともむごい光景だ。
犯人は俺が町の入り口ですれ違った連中だと思うが、いったい何が理由でこんなひどいことをしたのだろうか?
まぁ、それを考えても今はしかたがない。
そんなことより、今夜の寝床についてだ。
「さて、もう魔導書に戻っていいよ、シェーナ。
お疲れ様」
火事が収まってしまえば、シェーナに用はない。
それに、こからは口うるさい彼女よりも建物の修復ができるアドルフに交代してもらったほうがいいだろう。
だが、彼女は手を広げて俺の動きを止めた。
「まちなさいよ。 せっかく人の町に顕現したんだし、しばらくこの状況を楽しみたいわ」
……え?
なにそれ、面倒くさい。
それに、この状況で何を楽しむって言うんだ?
けっこう不謹慎だぞ。
「まぁ、いいか。 さっき町の住人が話しをしていたんだが、避難者のために神殿が寝場所を提供しているらしい。
宿屋は軒並み焼けてしまっているようだから、俺たちも今日はそこで休もうと思っている」
「神殿ねぇ。
その神殿の主である神になんか押し付けられなきゃいいけど」
「あー、それはありそうだな。
じゃあ、しかたがないからいつものようにカマクラつくって野宿するか。
神殿にいっても、どうせ毛布に包まって大きな部屋に雑魚寝だろうし」
冷静に考えてみれば、焼け出されて風呂にも入っていない連中が押し込められている神殿に泊まるよりも、いつもの野宿のほうが圧倒的に居心地がいいだろう。
……となれば、さっさと町を出るに限る。
俺は火事の後始末に追われている自警団の男たちの間をすり抜け、森に向かって歩き出した。
俺の見た目のせいで途中に何度か保護されかかったが、隙を見て逃げ出すのはいとも簡単であった。
なにぶん真夜中だし、この非常事態のせいでひどくあわただしい。
そしてようやく町の外にたどりつくと、近くの茂みからがガサゴソ音が聞こえてきた。
何者かと警戒し、茂みの様子を伺うと……。
「めぇぇぇ」
茂みから現れたのは、羊だった。
体中の毛を触手のように器用に操って潅木を掻き分けているから、間違いなく魔羊である。
たぶん、巨大羊の使いだろうな。
「なんだ、俺がいなくて寂しかったのか?」
俺がそういってからかうと、羊はプィと横を向く。
その様子にやれやれと肩をすくめて見せると、すこし勢いをつけてから頭突きをされた。
「痛ってぇぇ」
「ぷっ、なにやってんのよ、羊を相手に」
羊の頭突きでひっくり返った俺を、シェーナが遠慮なく笑う。
「……微妙にかわいくないな」
「それ、羊に言ってるの?
まさか、私のことじゃないでしょうね」
「さぁ、どっちだろうね」
どっちもなんて言った日には、ひどいことになりそうだな。
都合の悪い真実は隠すに限る。
「そんなことより、さっさと羊の親玉のところにゆくぞ。
どうせ、野営にする場所を見つけてあるんだろ」
「めぇぇぇ」
俺がふてくされた感じで台詞を吐き捨てると、わかっているならさっさとしろといわんばかりに羊が声をあげて歩き出した。
その後ろを歩くこと十分ほど。
森の開けた場所に、羊のコロニーが出来上がっていた。
その外観は、遊牧民のテントに良く似ている。
魔力によって伸びて動く彼らの毛が、フェルトのように密集して壁や天井を作り出しているのだ。
「なんと器用な……これなら俺がわざわざカクマラを作るまでもないな」
必要なのは、せいぜい足場ぐらいか。
できればマットレスがほしいところだが、アレは馬車の中だよなぁ。
俺が作り出して維持できる守護者は一人だけ。
シェーナがいると、アドルフを呼ぶことができない。
つまり、馬車と一緒に地面埋めた荷物を取り出すことができないのである。
せめてイオニスかヨハンナを呼ぶことができれば、数分でマットレスぐらいは用意してもらえるのだが、それもできない。
こいつ、邪魔だな。
「……なによ」
俺の視線を敏感に察知して、シェーナが睨み返す。
「別に」
「あ、私の休む場所はちゃんと別に作りなさいよ。
当然わかっていることだとは思うけどね!」
「うわぁ、面倒くさい。
やっぱりお前、魔導書に戻れよ」
「い・や・よ。
文句ばっかり言ってないで、さっさと働きなさい、神の下僕」
「俺は神の下僕であっても、お前の下僕じゃねぇよっ!」
けっきょく、羊たちの一部が自発的にシェーナのテントを作り出し、その場はなんとか治まった。
さて、明日は待ちの復興を手伝ってやらなきゃなぁ。
さすがにこれをスルーして次の町に向かうのは、聖職者としてありえないだろ。
羊たちに髪をもしゃもしゃと噛まれながら、俺は明日の予定について考えつつ目を閉じるのであった。
「ふぅ、そろそろ火の残っているところはないかな」
「そうね、強い火の力はもう感じないわね」
火の気配を感じなくなったかわりに、家が焼けて途方にくれている人や、家族を失って泣き叫んでいる人だけが目に付く。
なんともむごい光景だ。
犯人は俺が町の入り口ですれ違った連中だと思うが、いったい何が理由でこんなひどいことをしたのだろうか?
まぁ、それを考えても今はしかたがない。
そんなことより、今夜の寝床についてだ。
「さて、もう魔導書に戻っていいよ、シェーナ。
お疲れ様」
火事が収まってしまえば、シェーナに用はない。
それに、こからは口うるさい彼女よりも建物の修復ができるアドルフに交代してもらったほうがいいだろう。
だが、彼女は手を広げて俺の動きを止めた。
「まちなさいよ。 せっかく人の町に顕現したんだし、しばらくこの状況を楽しみたいわ」
……え?
なにそれ、面倒くさい。
それに、この状況で何を楽しむって言うんだ?
けっこう不謹慎だぞ。
「まぁ、いいか。 さっき町の住人が話しをしていたんだが、避難者のために神殿が寝場所を提供しているらしい。
宿屋は軒並み焼けてしまっているようだから、俺たちも今日はそこで休もうと思っている」
「神殿ねぇ。
その神殿の主である神になんか押し付けられなきゃいいけど」
「あー、それはありそうだな。
じゃあ、しかたがないからいつものようにカマクラつくって野宿するか。
神殿にいっても、どうせ毛布に包まって大きな部屋に雑魚寝だろうし」
冷静に考えてみれば、焼け出されて風呂にも入っていない連中が押し込められている神殿に泊まるよりも、いつもの野宿のほうが圧倒的に居心地がいいだろう。
……となれば、さっさと町を出るに限る。
俺は火事の後始末に追われている自警団の男たちの間をすり抜け、森に向かって歩き出した。
俺の見た目のせいで途中に何度か保護されかかったが、隙を見て逃げ出すのはいとも簡単であった。
なにぶん真夜中だし、この非常事態のせいでひどくあわただしい。
そしてようやく町の外にたどりつくと、近くの茂みからがガサゴソ音が聞こえてきた。
何者かと警戒し、茂みの様子を伺うと……。
「めぇぇぇ」
茂みから現れたのは、羊だった。
体中の毛を触手のように器用に操って潅木を掻き分けているから、間違いなく魔羊である。
たぶん、巨大羊の使いだろうな。
「なんだ、俺がいなくて寂しかったのか?」
俺がそういってからかうと、羊はプィと横を向く。
その様子にやれやれと肩をすくめて見せると、すこし勢いをつけてから頭突きをされた。
「痛ってぇぇ」
「ぷっ、なにやってんのよ、羊を相手に」
羊の頭突きでひっくり返った俺を、シェーナが遠慮なく笑う。
「……微妙にかわいくないな」
「それ、羊に言ってるの?
まさか、私のことじゃないでしょうね」
「さぁ、どっちだろうね」
どっちもなんて言った日には、ひどいことになりそうだな。
都合の悪い真実は隠すに限る。
「そんなことより、さっさと羊の親玉のところにゆくぞ。
どうせ、野営にする場所を見つけてあるんだろ」
「めぇぇぇ」
俺がふてくされた感じで台詞を吐き捨てると、わかっているならさっさとしろといわんばかりに羊が声をあげて歩き出した。
その後ろを歩くこと十分ほど。
森の開けた場所に、羊のコロニーが出来上がっていた。
その外観は、遊牧民のテントに良く似ている。
魔力によって伸びて動く彼らの毛が、フェルトのように密集して壁や天井を作り出しているのだ。
「なんと器用な……これなら俺がわざわざカクマラを作るまでもないな」
必要なのは、せいぜい足場ぐらいか。
できればマットレスがほしいところだが、アレは馬車の中だよなぁ。
俺が作り出して維持できる守護者は一人だけ。
シェーナがいると、アドルフを呼ぶことができない。
つまり、馬車と一緒に地面埋めた荷物を取り出すことができないのである。
せめてイオニスかヨハンナを呼ぶことができれば、数分でマットレスぐらいは用意してもらえるのだが、それもできない。
こいつ、邪魔だな。
「……なによ」
俺の視線を敏感に察知して、シェーナが睨み返す。
「別に」
「あ、私の休む場所はちゃんと別に作りなさいよ。
当然わかっていることだとは思うけどね!」
「うわぁ、面倒くさい。
やっぱりお前、魔導書に戻れよ」
「い・や・よ。
文句ばっかり言ってないで、さっさと働きなさい、神の下僕」
「俺は神の下僕であっても、お前の下僕じゃねぇよっ!」
けっきょく、羊たちの一部が自発的にシェーナのテントを作り出し、その場はなんとか治まった。
さて、明日は待ちの復興を手伝ってやらなきゃなぁ。
さすがにこれをスルーして次の町に向かうのは、聖職者としてありえないだろ。
羊たちに髪をもしゃもしゃと噛まれながら、俺は明日の予定について考えつつ目を閉じるのであった。
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