85 / 121
第一章
第84話 有り余る好意
しおりを挟む
「お前……なんてもの作ってるんだよ」
遠くから見た時もデカい船だなとは思っていたが、これはそんな可愛い表現で済まされるものじゃなかった。
どんなに移動してもまったくたどり着く気配がなく、その姿が次第に大きくなってくるにつれて、おれはその非常識さを徐々に理解しはじめる。
おい、これはもはや船と呼べる大きさじゃないだろ!?
こんなもの、もはや空飛ぶ島だ。
竜の巣の真ん中で、青いクリスタルの力を使って飛んでるアレとほぼ変わらない。
少なくとも、大きさを測る単位がキロ単位である事は間違いないだろう。
なお、アンバジャックとドランケンフローラはほかにやりたいことがあるからと言ってついてこなかった。
こいつらも目を離すと何をしでかすかわからないので、とても心配である。
「ちなみに、どうやって乗るんだ、これ?
俺一人ならば空を飛べばいいだろうけど、ポメリィさんとか運ぶ力はないぞ」
そういえば羊たちはどうやって中に入ったのだろうか?
あの体毛を自在に使う力があれば、ロープ代わりにして上に引き上げる事は可能だろうが……いろいろと不便すぎるだろ。
「そこは問題ない。
上からゴンドラを下ろす」
アドルフがパチンと指を鳴らすと、船の一部がパカリと割れて凝った装飾のゴンドラが下りてきた。
なんというか、結婚式の新郎でもないのにこんなものに乗ることになろうとは。
だが、ここで問題に気付く。
「これ、風が強い日は使えないんじゃないか?」
というより、かなり風の穏やかな日にしか使えない。
強風の中でこんなものをつかったら危ないし、事故が起きなくても確実に寿命が縮む思いをするぞ。
「まぁ、ほかにもいくつか搭乗手段は考えてあるから心配するな」
さすがにそのあたりはちゃんと考えてあるらしい。
たぶん、効率の悪くて頻繁に使いたくはない方法なのだろう。
そして上に上がると、更なる驚きが俺を待っていた。
「うわぁ、なんだこりゃ!?」
目の前に広がる光景は、豪華客船どころかほぼテーマパークである。
統一感のある石造りの建物がどこまでも続き、また別の世界に放り込まれたのかと疑ってしまったほどだ。
正直、こんなものを作るとか、ちょっと頭がおかしい。
遊び心がありすぎて理解に苦しむ。
「ふふふふふ、驚きのあまり声も出ないか」
「呆れるあまり声も出ないんだよ!」
ふんぞりかえるアドルフを怒鳴りつけても仕方が無いので、俺はさっそく船の中の探検を始めた。
……正直言うと、ちょっとだけ楽しい。
しかし、この浮遊都市は全長何キロあるんだろう?
「ふぇぇ……こんなに広い場所だと、迷子になりそうです」
後ろで呟くポメリィさんに、全力で同意である。
無駄に大きいので、現在地を把握するのも困難なのだ。
しかも、デザイン性を重視したせいか、この船の中には標識が無い。
「アドルフ、悪いけど標識とかつけて。
広すぎて何がどこにあるのかさっぱりわからない」
「なにぃ? ……まったく不便な連中だな。
その点については考えておくから、時間をよこせ」
「それはいいけど、現在リアルタイムで迷いそうなんだが?
チョークで目印とかつけていいか?」
「……んだと? 俺の作品に落書きしようってのか!?」
「利用者のことを考えきれなかったお前が悪い。
どう考えても欠陥品だろ、これ」
その瞬間、アドルフがショックで固まった。
おそろく反論したいのだろうが、ヤツの職人根性が事実を捻じ曲げるのを許さないのだろう。
面白いのでヤツの腹に軽く拳を叩き込むと、そのまま仰向けに倒れてた。
「やーい、ヘッポコ建築士。
欠陥を指摘された今の気持ち、どんな感じ?
ねぇ、どんな感じ?」
ついでなので適当にあおってやると、奴はプルプルと痙攣したあとで、顔を手で覆いながら絶叫したのである。
「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ふっ、勝った。
「トシキさん、なんかかわいそうじゃないですか?」
ポメリィさんがそんなことを言ってくるが、あれはたぶん調子にのるとろくなことをしないタイプである。
「いいんだよ。 たまにはへこませておかないと」
俺は荷物の中から白いチョークを取り出すと、地面に『アドルフ敗北の地』と書きなぐった。
それから出口のあった方向に矢印を書いて『出口』と記す。
一応、ポメリィさんにも読めるようこの世界の文字だ。
そのまま拗ねたアドルフを置いて船内を探索していると、急に建物がなくなり、開けた場所に出た。
……コレってもまさか。
「牧場ですね」
まるで俺の心を読んだかのように、ポメリィさんがボソリと呟く。
目の前には、青々とした草が生えた草原があり、羊たちがそこでのんびりと草を食べていた。
あまりにも場違いな光景に、うっかりここが空の上であることを忘れそうになる。
「めぇぇぇぇ」
俺が来たことに気付くと、羊たちが次々にやってきて頭をぐりぐりとこすりつけてきた。
おかえしに頭をうりうりとなでてやると、羊たちは気持ちよさそうに目を細める。
……平和だ。
なんというか、ここ数日ほど火事やら襲撃でてんやわんやだったから、この平穏がやけに身にしみる。
「そういえば、お前らかられた毛がいつの間にか生え変わっているのな」
ふと気付いたのだが、今頭をなでている羊は最初にジスベアードによって辱めを受けた羊である。
だが、あの珍妙なカットの痕跡が無い。
いつものモコモコ毛皮がいつの間にか復活していた。
同時に、俺は羊たちの顔の固体識別ができるようになっていることに気付く。
慣れるってすごいな。
「ここでお昼寝したいですねー」
ポメリィさんが、すでに心ここに在らずといった顔でそんな提案を口にする。
心情としては全面的に賛成なのだが、今はこの船の中を確認することが先決で、それどころではない。
「それは明日の楽しみにしましょう。
なにせ、今日寝る場所ですらまだ確認してないのですから」
俺は苦笑いと共にそう告げると、羊の頭から手を離して次の場所を目指すのであった。
遠くから見た時もデカい船だなとは思っていたが、これはそんな可愛い表現で済まされるものじゃなかった。
どんなに移動してもまったくたどり着く気配がなく、その姿が次第に大きくなってくるにつれて、おれはその非常識さを徐々に理解しはじめる。
おい、これはもはや船と呼べる大きさじゃないだろ!?
こんなもの、もはや空飛ぶ島だ。
竜の巣の真ん中で、青いクリスタルの力を使って飛んでるアレとほぼ変わらない。
少なくとも、大きさを測る単位がキロ単位である事は間違いないだろう。
なお、アンバジャックとドランケンフローラはほかにやりたいことがあるからと言ってついてこなかった。
こいつらも目を離すと何をしでかすかわからないので、とても心配である。
「ちなみに、どうやって乗るんだ、これ?
俺一人ならば空を飛べばいいだろうけど、ポメリィさんとか運ぶ力はないぞ」
そういえば羊たちはどうやって中に入ったのだろうか?
あの体毛を自在に使う力があれば、ロープ代わりにして上に引き上げる事は可能だろうが……いろいろと不便すぎるだろ。
「そこは問題ない。
上からゴンドラを下ろす」
アドルフがパチンと指を鳴らすと、船の一部がパカリと割れて凝った装飾のゴンドラが下りてきた。
なんというか、結婚式の新郎でもないのにこんなものに乗ることになろうとは。
だが、ここで問題に気付く。
「これ、風が強い日は使えないんじゃないか?」
というより、かなり風の穏やかな日にしか使えない。
強風の中でこんなものをつかったら危ないし、事故が起きなくても確実に寿命が縮む思いをするぞ。
「まぁ、ほかにもいくつか搭乗手段は考えてあるから心配するな」
さすがにそのあたりはちゃんと考えてあるらしい。
たぶん、効率の悪くて頻繁に使いたくはない方法なのだろう。
そして上に上がると、更なる驚きが俺を待っていた。
「うわぁ、なんだこりゃ!?」
目の前に広がる光景は、豪華客船どころかほぼテーマパークである。
統一感のある石造りの建物がどこまでも続き、また別の世界に放り込まれたのかと疑ってしまったほどだ。
正直、こんなものを作るとか、ちょっと頭がおかしい。
遊び心がありすぎて理解に苦しむ。
「ふふふふふ、驚きのあまり声も出ないか」
「呆れるあまり声も出ないんだよ!」
ふんぞりかえるアドルフを怒鳴りつけても仕方が無いので、俺はさっそく船の中の探検を始めた。
……正直言うと、ちょっとだけ楽しい。
しかし、この浮遊都市は全長何キロあるんだろう?
「ふぇぇ……こんなに広い場所だと、迷子になりそうです」
後ろで呟くポメリィさんに、全力で同意である。
無駄に大きいので、現在地を把握するのも困難なのだ。
しかも、デザイン性を重視したせいか、この船の中には標識が無い。
「アドルフ、悪いけど標識とかつけて。
広すぎて何がどこにあるのかさっぱりわからない」
「なにぃ? ……まったく不便な連中だな。
その点については考えておくから、時間をよこせ」
「それはいいけど、現在リアルタイムで迷いそうなんだが?
チョークで目印とかつけていいか?」
「……んだと? 俺の作品に落書きしようってのか!?」
「利用者のことを考えきれなかったお前が悪い。
どう考えても欠陥品だろ、これ」
その瞬間、アドルフがショックで固まった。
おそろく反論したいのだろうが、ヤツの職人根性が事実を捻じ曲げるのを許さないのだろう。
面白いのでヤツの腹に軽く拳を叩き込むと、そのまま仰向けに倒れてた。
「やーい、ヘッポコ建築士。
欠陥を指摘された今の気持ち、どんな感じ?
ねぇ、どんな感じ?」
ついでなので適当にあおってやると、奴はプルプルと痙攣したあとで、顔を手で覆いながら絶叫したのである。
「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ふっ、勝った。
「トシキさん、なんかかわいそうじゃないですか?」
ポメリィさんがそんなことを言ってくるが、あれはたぶん調子にのるとろくなことをしないタイプである。
「いいんだよ。 たまにはへこませておかないと」
俺は荷物の中から白いチョークを取り出すと、地面に『アドルフ敗北の地』と書きなぐった。
それから出口のあった方向に矢印を書いて『出口』と記す。
一応、ポメリィさんにも読めるようこの世界の文字だ。
そのまま拗ねたアドルフを置いて船内を探索していると、急に建物がなくなり、開けた場所に出た。
……コレってもまさか。
「牧場ですね」
まるで俺の心を読んだかのように、ポメリィさんがボソリと呟く。
目の前には、青々とした草が生えた草原があり、羊たちがそこでのんびりと草を食べていた。
あまりにも場違いな光景に、うっかりここが空の上であることを忘れそうになる。
「めぇぇぇぇ」
俺が来たことに気付くと、羊たちが次々にやってきて頭をぐりぐりとこすりつけてきた。
おかえしに頭をうりうりとなでてやると、羊たちは気持ちよさそうに目を細める。
……平和だ。
なんというか、ここ数日ほど火事やら襲撃でてんやわんやだったから、この平穏がやけに身にしみる。
「そういえば、お前らかられた毛がいつの間にか生え変わっているのな」
ふと気付いたのだが、今頭をなでている羊は最初にジスベアードによって辱めを受けた羊である。
だが、あの珍妙なカットの痕跡が無い。
いつものモコモコ毛皮がいつの間にか復活していた。
同時に、俺は羊たちの顔の固体識別ができるようになっていることに気付く。
慣れるってすごいな。
「ここでお昼寝したいですねー」
ポメリィさんが、すでに心ここに在らずといった顔でそんな提案を口にする。
心情としては全面的に賛成なのだが、今はこの船の中を確認することが先決で、それどころではない。
「それは明日の楽しみにしましょう。
なにせ、今日寝る場所ですらまだ確認してないのですから」
俺は苦笑いと共にそう告げると、羊の頭から手を離して次の場所を目指すのであった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる