異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

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第一章

第94話 集う厄介者たち

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 突如として現れた妖魔に、俺は疑わしいものを見るような視線を向けた。
 すると、この妖魔は機嫌よくここに来るまでの経緯を口にしたのである。

「ふふふ、下で森の再生の準備をしておったら、アドルフ殿に声をかけられてのぉ。
 面白そうなことをしているからと、ここにつれてきていただいたのじゃ」

「よ、よけいなことを……」

 しかも、奴はドランケンフローラだけをつれてきやがった。
 押さえ役のアンバジャックがいない状況が、とてつもなく不安である。

 おもわず顔を両手で覆ってしまった俺だが、その反応が気に入らなかったのかドランケンフローラは腰に手をあてて不満げに胸をそらした。

「なんじゃ、蛙が踏み潰されたような声を出しおって。
 何か悩み事があるならば遠慮なく語るがよい。
 儂がきたからには百人力じゃ!」

「むしろ百人がかりで足を引っ張られたような気分だ」

 深々とため息をつきながらそう告げる横で、ジスベアードのやつが腹を変えて噴き出すのをこらえてやがった。
 なお、ポメリィさんは言っていることがよくわからないという顔をしている。

「失敬な奴じゃのぉ」

 まったくもってその通りである。
 俺はお行儀悪くテーブルの上を歩いてジスベアードに近づくと、その顔面に蹴りを入れた。
 爪を立てるのは勘弁しておいてやろう。

「痛ぇ! 何しやがるトシキ!」

「うるせぇ、人の不幸を笑う奴が悪い」

「まて、トシキ! その不幸とはまさか儂のことでは あるまいな!?」

 ドランケンフローラが目を吊り上げて口を出してくるが、細かいことを気にしていると大物にはなれんぞ。

 だが、その時である。
 俺たちをさらなる不幸が襲い掛かった。

「やぁ、アタシもきちゃったよ!」

「うわぁ、ヴィヴィ!?」

 やってきたのは、これまたトラブル好きの精霊だった。
 おそらくこれもアドルフの仕業だろう。
 おのれ、アドルフ!
 俺に何の恨みがあって……!!

「ふふふ、まさかアタシをのけ者にするとか言わないよねぇ」

 そういいながら、ヴゥヴィはすばやく回りこんで後ろから俺の頭を抱きしめた。
 あの……当たってるんですが。
 あばら骨らしきものが。

「なんで、隠密行動に適さない奴ばっかり集まったんだか……これ、役に立つのか?」

「なによー。
 そもそも、あんたの知り合いに隠密行動にむいた奴がいるわけ?」

 ヴィヴィの反論に、俺は自分の知り合いの顔を一つずつ思い出す。
 そして出された結論はとても残酷なものであった。

「……いないな」

 いるにしても、前にいた町の冒険者ぐらいである。
 一応知り合いと呼べなくも無いが、こんな作戦に巻き込めるような仲ではない

「それじゃあ、南の町に行ってお姫様を救出する面子だけど……。
 ジスベアードのほうからお姫様の顔を知っている奴を一人出してくれ。
 俺たちはお姫様の顔を知らないからな。
 あとは、ポメリィさん、ヴィヴィ、ドランケンフローラの三人かな」

 すると、ヴィヴィから質問が飛んできた。

「トシキはこないの?」

 おいおい、行くわけ無いだろ。
 こっちが逆に首をかしげちまうよ。

「逆に聞くが、なんで俺が行く必要があるんだ?
 隠密行動はできないし、戦闘にも不向きだ。
 何か役に立つことはあるのか?」

 むしろ、こいつらと一緒に行ったら真っ先につかまって足を引っ張る可能性すら高い。
 なにせ、戦闘訓練なんぞいちどもした事はないし、する予定も無いからな。

 ……というのは建前で、こいつらがなにかしくじったときの準備をするためだ。
 その時のために、できるだけ多くの情報を集めておきたい。
 まぁ、できればそんな事態にはなってほしくないのだが……うっ……これ、フラグにならないよな?
 ものすごく心配だ。

「い、言われて見れば確かに……」

「そもそも、トシキは子供ではないか。
 何を思ってかは知らぬが、このような荒事につれてゆくべきではないと思うぞえ?」

 まさかのドランケンフローラからも正論が飛び出す。

「あー、そういわれるとそうなんだけどね。
 でも、トシキは無能じゃないよ?
 ピブリオマンシーや魔術による支援は十分に有効だと思うんだけどなぁ」

 なおも主張を曲げないヴィヴィにたいして、俺はさらに言葉を重ねた。

「あと、お姫様を救出したあと逃げることを考えろよ。
 俺がここに残ってゴンドラとか出して送迎したほうがいいんじゃないか?
 この浮遊図書館の移動は俺とアドルフにしかできないの忘れていただろ。
 もしも俺が出るとなると、それは必然的にアドルフに頼むことになるが、それはいいのか?」

 こんな問いかけをしたのも、どうやらアドルフは精霊の中でも特殊な立場にあるらしく、彼に瑣末なことを依頼するとほかの精霊がいい顔をしないのだ。

「あ……そだね。
 アドルフ様にそんな雑事を頼んだりするわけにはいかないし」

 ヴィヴィが納得したところで、ひとまず話はひと段落である。

「うーん、じゃあトシキさんは留守番ですね。
 お迎え、よろしくお願いしますぅ」

 ポメリィさんの言葉に、俺は無言で頷いた。
 しかし、やる事が無いのも寂しいから、アドルフがドローンを再現していないかあとで確認をしておこう。
 もしも開発が終わっていたら、それを使ってこちらでも状況を確認しつつバックアップができるかもしれないしな。

「あー、いいか?
 こちら側からは、俺が出る。
 ほかの奴だと、お姫様と面識はほとんどないだろうしな」

 たしかに、ただの自警団員にお姫様の顔を見る機会はあまり無いだろう。
 キンキラキンの連中ならば逆に誰でも知っていそうだが、連中の力を借りるのは真っ平だ。

「では、もう少し細かい計画を練ろうか。
 あと、情報も集めたいところだな」

 そして俺たちは、互いの意見を出し合いつつお姫様救出の計画を立てたのである。
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