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第一章
第112話 逃げられない現実
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「……誰が主人公だよ。
勝手なこと言いやがって」
レクスシェーナがいなくなったあと、俺は余計な重圧をかけてくる全ての存在に向けてそんな言葉を吐き出した。
本音を言うならば、俺だってハッピーエンドのほうがいいよ。
生贄にされるお姫様も、救いたいのが本音だ。
だが、それをなす前に現実が見えてしまう。
中身が子供じゃないからな。
そて、その現実の壁という奴だが……。
この件を解決しようとすれば、火山の神を敵に回す可能性が高い。
それに、眠っている森の神もそろそろ出ばってくるだろう。
いくら精霊たちが味方をし、自分の背後に智の神がいるからといっても、神々を相手に敵対行動をとるというのはリスクが大きい。
ゆえに、ためらうのだ。
可能性の低いことには手を出さないという狡猾さ、他人のために自らを犠牲にすることに意味を見出さないエゴの囁き、そして失敗した時に何を失うのかを理解する知性。
知識と経験によってそれらを脂肪のように自らのうちに溜め込んだ俺は、最高の結果よりも最良の結果を求めてしまう。
お分かりだろうか?
平穏や無難という言葉は実に甘美な蜜であると同時に、いろんな可能性を殺すのだ。
俺の中の子供がそれは嫌だと悲鳴を上げ、俺の中の大人が余計なことに関わるなと叱り飛ばす。
どちらが正解かなど、神ですら決められない。
なにせ、人が望む全知全能という都合の良い神なんてものは存在しないからだ。
せいぜい、後の人間が結果を見て勝手に定義するだろう。
必要なのは、いかなる結果も受け入れる覚悟だけ。
「……とはいえ、ここでお姫様を見捨てて森の神の思惑通りにしてやったとしても、向こうはそれで満足はしてくれないだろうし」
おそらく、信徒を満足させるために俺を血祭りに上げようとするだろう。
宗教とはそういうものだ。
さんざん面子をつぶしあったから、もうあとにはひけない。
あとは、南の町の守護女神も何かしてくるだろう。
こちらも決着をつけなければ。
なんだ、考えてみたら平穏な道などもうどこにも無いじゃないか。
どこもかしこも敵だらけだよ。
まぁ、味方もけっこうできたけどな。
そんな答えに行き着き、俺は自分自身を笑う。
もう少しマシな選択肢は選べなかったのか……と。
「まぁ、何を言ってもいまさら遅いか。
……となると、敵を知り、己を知れば百戦なんとやらだ」
まず、精霊たちの趣味によって蔵書の数が膨れ上がりつつある我が図書館で調べ物をしよう。
とりあえず南の町の女神と今の森の神だな。
連中がどんなものをつかさどり、どんな力を得意としているのかを知りたい。
そんなことを考えながら図書館に行くと、フェリシアがカウンターにいた。
普段は執筆に専念しているので、彼女がここにいるのは珍しい。
「やぁ、フェリシア。
ここにいるのは珍しいな」
「こんにちは、トシキさん。
何か資料をお探しですか?」
俺が声をかけると、フェリシアは椅子を回して体ごとこちらに振り向いた。
「うん。
南の町の女神と、今いる町の森の神について調べたくてね。
……たぶん、喧嘩になるから」
最後にそう付け加えると、彼女は表情を曇らせる。
俺の周りには好戦的な連中が多いので、この反応は微妙に新鮮だ。
「喧嘩ですか。
南の町の女神に関しては、すでにいろいろと仕掛けてきてらっしゃるようですね」
色々どころか、確実にこっちを潰すつもりでやってますよね、あれ。
町を丸ごと地の底に沈めようとするアドルフをとめるの、そろそろ面倒なんですが。
「あんな自己中心的な女神に敬語なんか使わなくてもいいと思うけど?」
「そうかもしれませんが、なにぶん性分ですもので」
そう言って、フェリシアはやわらかく笑う。
だが、気が付くと彼女のカウンターには俺の知りたい情報について記された本がいつの間にか山積みになっていた。
なんとまぁ、仕事の早いことだ。
しかし、この大量の本はどうやって運ぼうか?
俺のこの小さな体では、せいぜい三冊程度しかもてないのだが。
そんなことを考えていると、フェリシアから思わぬ質問が飛んできた。
「そういえば、エルフたちはどうなさるんですか?」
「エルフたち?」
言っている意味が分からず、思わず首をかしげる。
「はい。 森から木が無くなったことで、彼らは住む場所を失ってしまいましたから。
今は残された食料でなんとか食いつないでおりますが、彼らの主食である果樹などがないのでこのままですと飢餓に陥ります」
「あー、すっかり忘れていた」
なにぶん、エルフとはほとんど接触が無かったし。
はぐれた連中と一晩関わったぐらいだったからな。
しかも、あまり思い出したくない別れ方をしている。
「……できれば、エルフたちの今後についても何かご配慮いただけると助かりますわ」
というか、他にも森の木々がなくなったことで難儀している生き物がいるかもしれない。
手の空いている精霊に、そのあたりも調べておいてもらおうかな。
そういえば、物資を奪って逃げたエルフはどうなったのだろうか?
まぁ、知ったところでいまさら何もする気はないが。
勝手なこと言いやがって」
レクスシェーナがいなくなったあと、俺は余計な重圧をかけてくる全ての存在に向けてそんな言葉を吐き出した。
本音を言うならば、俺だってハッピーエンドのほうがいいよ。
生贄にされるお姫様も、救いたいのが本音だ。
だが、それをなす前に現実が見えてしまう。
中身が子供じゃないからな。
そて、その現実の壁という奴だが……。
この件を解決しようとすれば、火山の神を敵に回す可能性が高い。
それに、眠っている森の神もそろそろ出ばってくるだろう。
いくら精霊たちが味方をし、自分の背後に智の神がいるからといっても、神々を相手に敵対行動をとるというのはリスクが大きい。
ゆえに、ためらうのだ。
可能性の低いことには手を出さないという狡猾さ、他人のために自らを犠牲にすることに意味を見出さないエゴの囁き、そして失敗した時に何を失うのかを理解する知性。
知識と経験によってそれらを脂肪のように自らのうちに溜め込んだ俺は、最高の結果よりも最良の結果を求めてしまう。
お分かりだろうか?
平穏や無難という言葉は実に甘美な蜜であると同時に、いろんな可能性を殺すのだ。
俺の中の子供がそれは嫌だと悲鳴を上げ、俺の中の大人が余計なことに関わるなと叱り飛ばす。
どちらが正解かなど、神ですら決められない。
なにせ、人が望む全知全能という都合の良い神なんてものは存在しないからだ。
せいぜい、後の人間が結果を見て勝手に定義するだろう。
必要なのは、いかなる結果も受け入れる覚悟だけ。
「……とはいえ、ここでお姫様を見捨てて森の神の思惑通りにしてやったとしても、向こうはそれで満足はしてくれないだろうし」
おそらく、信徒を満足させるために俺を血祭りに上げようとするだろう。
宗教とはそういうものだ。
さんざん面子をつぶしあったから、もうあとにはひけない。
あとは、南の町の守護女神も何かしてくるだろう。
こちらも決着をつけなければ。
なんだ、考えてみたら平穏な道などもうどこにも無いじゃないか。
どこもかしこも敵だらけだよ。
まぁ、味方もけっこうできたけどな。
そんな答えに行き着き、俺は自分自身を笑う。
もう少しマシな選択肢は選べなかったのか……と。
「まぁ、何を言ってもいまさら遅いか。
……となると、敵を知り、己を知れば百戦なんとやらだ」
まず、精霊たちの趣味によって蔵書の数が膨れ上がりつつある我が図書館で調べ物をしよう。
とりあえず南の町の女神と今の森の神だな。
連中がどんなものをつかさどり、どんな力を得意としているのかを知りたい。
そんなことを考えながら図書館に行くと、フェリシアがカウンターにいた。
普段は執筆に専念しているので、彼女がここにいるのは珍しい。
「やぁ、フェリシア。
ここにいるのは珍しいな」
「こんにちは、トシキさん。
何か資料をお探しですか?」
俺が声をかけると、フェリシアは椅子を回して体ごとこちらに振り向いた。
「うん。
南の町の女神と、今いる町の森の神について調べたくてね。
……たぶん、喧嘩になるから」
最後にそう付け加えると、彼女は表情を曇らせる。
俺の周りには好戦的な連中が多いので、この反応は微妙に新鮮だ。
「喧嘩ですか。
南の町の女神に関しては、すでにいろいろと仕掛けてきてらっしゃるようですね」
色々どころか、確実にこっちを潰すつもりでやってますよね、あれ。
町を丸ごと地の底に沈めようとするアドルフをとめるの、そろそろ面倒なんですが。
「あんな自己中心的な女神に敬語なんか使わなくてもいいと思うけど?」
「そうかもしれませんが、なにぶん性分ですもので」
そう言って、フェリシアはやわらかく笑う。
だが、気が付くと彼女のカウンターには俺の知りたい情報について記された本がいつの間にか山積みになっていた。
なんとまぁ、仕事の早いことだ。
しかし、この大量の本はどうやって運ぼうか?
俺のこの小さな体では、せいぜい三冊程度しかもてないのだが。
そんなことを考えていると、フェリシアから思わぬ質問が飛んできた。
「そういえば、エルフたちはどうなさるんですか?」
「エルフたち?」
言っている意味が分からず、思わず首をかしげる。
「はい。 森から木が無くなったことで、彼らは住む場所を失ってしまいましたから。
今は残された食料でなんとか食いつないでおりますが、彼らの主食である果樹などがないのでこのままですと飢餓に陥ります」
「あー、すっかり忘れていた」
なにぶん、エルフとはほとんど接触が無かったし。
はぐれた連中と一晩関わったぐらいだったからな。
しかも、あまり思い出したくない別れ方をしている。
「……できれば、エルフたちの今後についても何かご配慮いただけると助かりますわ」
というか、他にも森の木々がなくなったことで難儀している生き物がいるかもしれない。
手の空いている精霊に、そのあたりも調べておいてもらおうかな。
そういえば、物資を奪って逃げたエルフはどうなったのだろうか?
まぁ、知ったところでいまさら何もする気はないが。
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