異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

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第一章

第119話 大根たちの演劇

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 反応は劇的であった。
 気がつけば、エルフたち全員が立ち上がっていたのである。

 やはり……そういうことか。
 俺は自らの推論がかなり核心をついていることを理解した。

「どうでしょう、ネグローニャさん。
 私としては、強くお願いしたいのですが」

 俺が笑顔で彼女に話しをふると、ネグローニャはしばらく、こちらの真意を探るように俺の目を見つめてきた。
 ただし、あまり機嫌はよろしくないようである。
 勝手に話を進めるなということか?

「良いだろう。
 ただ、私にとっても大切な物だ。
 それなりの見返りは求めてもかまわんよな?」

 やさしい口調だが、目がまったく笑っていない。
 うわ、怖いなぁ。
 後でいったい何を要求されるのやら。

 だが、そんな流れを見て取ったのか、エルフの一人が立ち上がって告げた。

「我々に可能なことであれば、どのようなことでもお申し付けください!」
「おい、貴様……」
「仕方が無いだろ。 許してやれ」

 なにやらもめているようだが、ナイスアシストだ。
 全員ではないが、何人かのエルフにとって俺は利益をもたらすものと認められたのだろう。
 実に僥倖。

「トシキ殿。 あとで説明を求めさせていただく」

 エルフたちが内輪もめに夢中になっているのを見取って、ネグローニャがボソリと呟いた。

「ただのちょっとした思い付きですよー。
 女神様ゆかりの品が手元にあるなら、彼らも昔を思い出して懐かしい気分になれるんじゃないかと思って」

「大根役者め」

 失礼な。
 今のは演技をするつもりがなかっただけですよ?

「ところでトシキ。
 お土産のほうはどうするのよ」

 俺とネグローニャが貼り付けた笑顔の下でやりあっていると、レクスシェーナがポツリと呟いた。

「あぁ、すっかり忘れていましたよ。
 ありがとう、シェーナ」

 俺は礼を言ってからネグローニャに視線で合図する。
 すると、テーブルの上の食器が、見えない手で端のほうに押しやられていった。

「エルフの皆さん」
 俺の言葉と共に、テーブルがミシッと軋む。
 エルフの長老たちが振り向くと、そこにはテーブルいっぱいに積まれた果物が山をつくっていた。

「こ、これは!?」

「これはほんの気持ちです。
 喜んでいただければ幸いですね」

 その台詞と共に、今度は果物をつめた箱がいくつも積みあがる。
 やろうと思えばまだまだ出せるが、生モノだから一度に渡しすぎてもな。
 

「ありがたい。 しかし、よろしいのですか?」

「ええ。
 エルフの皆さんとはできるだけ仲良くしたいですから」

 俺はニッコリ笑ってそう告げたはずなのだが……なぜかおびえたように一歩引かれた。
 解せぬ。 俺、見た目は可愛いはずなのだが?

 レクスシェーナの遠慮の無い笑い声を聞きつつ、視線をそらしたネグローニャを横目で睨みながらその場の会談は終了した。
 なお、木彫りの小熊については近いうちに貸し出すという形になったとだけ伝えておこう。
 俺としては恩を売るつもりだったのだが、向こうにも色々と準備が必要らしい。

 そして、エルフとの会談で一定の成果を得た俺たちは、一度図書館に戻ることにした。
 なお、帰りはネグローニャの転移魔術で一瞬である。
 まぁ、自分の家みたいな場所だから忌避感はなかったしね。

「ふー、疲れた。
 とりあえず自分の部屋に戻る……か!?」
 突然後ろから細い腕が伸び、俺の体を抱きかかえる。

 アドルフか!?
 そう思ったのは一瞬だけ。

 後頭部に襲い掛かる弾力にとんだ胸部装甲。
 そしてこの高そうな香水の香り……間違いない!

「す、スタニスラーヴァ!?」

「久しぶりね、トシキ。
 あぁ、この感触久しぶりだわ」

 抑揚の無い声が俺の言葉に答える。
 それは間違いなく、俺に魔術を教えてくれた女魔術師だった。

「うふふふ、もふもふ……」

 俺を抱きしめているうちに感極まってきたのか、彼女の腕に力がこもり始める。
 まずい! 逃げなければ!
 だが、俺が何かするより早く彼女の腕が俺のわき腹に食い込んだ。

「うぎゅぅぅぅぅぅぅ……ちゅぶれりゅ……ぅぅ」

 彼女が満足して腕を離してくれたのは、俺が泡を噴いて意識をなくす寸前であった。
 これ、わき腹に痣ができているんじゃないだろうか?
 そんな心配をしながら、俺は地面に座り込んで息を整える。

「つ、つぶれるかと思った」

「ごめんなさいね、久しぶりだからつい」

 "つい"で重症を負わされてはしゃれにならんぞ。
 そんな言葉を飲み込み、俺はゆっくりと起き上がる。
 彼女からいろいろと話を聞かなければならないだろうからな。

「とりあえず話をしましょう。
 まずは俺の部屋へ」

 そう言って居住区に向かう途中、俺は色々とおかしなことに気付いた。
 今、メイドさんとすれ違ったんだが、このメイドさんはどこから来たんだ?

「えっと……スタニスラーヴァ。
 お付きの方々はどれぐらい連れてきましたか?」

 よくよく考えたら、お嬢様であるスタニスラーヴァが一人でここまで来るはずも無い。
 当然ながら、従者が何人か来る事は想定して置くべきだったといえよう。

 すると、彼女はこともなげにこう告げたのである。

「さぁ? たぶん四十人ぐらいかしら?」

 こ、これだからお嬢様育ちは!?
 その日、俺の仕事がいろいろと増えたのは言うまでもない。
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