異世界司書は楽じゃない

卯堂 成隆

文字の大きさ
119 / 121
第一章

第118話 ゆれるエルフたち

しおりを挟む
 会談の場所として提供されたのは、エルフの集落の中ではなかった。
 いや、提供する準備中というべきか。

「おーい、魔法陣の準備ができたぞぉぉぉ」

「魔力流し始めるから、全員退避ぃぃぃぃ!」

 そんな掛け声を上げながら、エルフたちが会場の設営の準備をしている。
 彼らがやっているのは、俺が作るコンクリート製のカマクラを植物で再現したかのような代物だ。
 俺の目の前では、長い草がひとりでに編みこまれて緑の絨毯を作り出している。
 おお、面白いな!

 こういうの、自分で作るのも楽しいけど、人が作っているのを見ているのも意外と楽しいんだよね。
 いつまでも見ていられるというか。
 ……お、予想以上に作業が早い。

 こんなことを考えている間に、すでに建物は出来上がったようである。
 俺たちの目の前では、エルフたちが椅子や机といった調度品を運び込んでいるところだ。

 ふむ……シンプルなように見えて、抑え気味に装飾が施されている。
 かなり好みのデザインだ。
 俺の部屋の調度品も、彼らにお願いできないものだろうか?

「お待たせしました。
 代表を呼んでまいりますので、中でお待ちください」

「わかりました。
 では、失礼させていただきます」

 俺はこれ見よがしに妖魔からもらった枝を手に取り、案内にしたがって中に入る。
 あ、いい香りだ。
 部屋いっぱいに漂う草の匂いは、俺に新しい畳を思い出させた。

 だが、良い印象ばかりではない。
 椅子に座ろうとしたのだが、俺の体に合う椅子が無いのだ。

「……失礼しました。
 今、準備いたします」
 椅子の前で立ち止まった俺の視線で何が問題に気付いたエルフが、すかさず魔術で苔の塊でできたクッションを作り出す。
 そして、すぐにお茶を持ってきた。
 ふむ、ハーブティーか。
 もしかしたら、茶の木は知らないのかもしれない。

 なお、茶器は石英か何かの半透明な白い石を削ってくりぬいたもののようである。
 陶器や磁器は大量の燃料を使うので、おそらくは焼き物の文化が無いのだろうな。
 この辺りは、今後エルフと取引をするときに使えるかもしれない。

 しばらくするとエルフたちが入ってきた。
 たぶん、長老衆とかいう連中だろうが、外見上はみんな若いので年齢についてはさっぱりである。
 ……なんか、連中が入ってきた瞬間、腐葉土をイメージするような妙な不快感を感じたが、これはなんだろうか?

 やがて長老たちのところにも茶が運ばれ、簡単な自己紹介が始まった。
 そしてお互いの名前を一通り聞いたあと、ようやく本題に入る。

「智の神の眷属よ、話とは何だ?」

 さて、思う存分に戸惑うがいい。

「先代の森の神についてです」

 俺がその言葉を口にした途端、ほんの僅かにエルフたちの表情が揺らいだ。
 あらかじめどう反応するであろうと予想していなければ気付かないだろう程度の変化だ。

 目を見開いて、なぜ今になってそんなことを聞くとか叫んで欲しかったのだが、そこまでのことを期待するのは贅沢か。

「ちなみにですが、彼女が生きている事はすでに確認済みです」

 さすがにそこまでのことを言われるとは思っていなかったのであろう。
 エルフの長老たちはしばらく口を閉ざした。

 ただ、反応は様々である。
 驚き、怒り、恐怖。
 顔に出なくとも、その体から漂う匂いは雄弁にその衝撃を物語っていた。

「なぜ我々にそのような話を持ってきた」

「貴方たちが、かの女神に仕える神官だったからですよ」

 すると、長老たちはその顔にかすかな苦悩を漂わせながら、口々に答えを返す。

「残念だが、あずかり知らぬ話だな」

「たしかに我らは、今もかの女神の祭祀は行っている。
 だが、それはただの感傷にすぎぬよ」

 嘘は言っていないと思う。
 まぁ、長生きしている連中だから俺をだますほどの演技力があってもおかしくは無いが。

「よろしいだろうか?」

 長老衆のなかで、ずっと沈黙していた人物が手を挙げる。

「どうぞ?」

 発言を許すと、そのエルフはどこかすがるような目をしながら俺に尋ねた。

「女神が生きているということをどうやって知ったのか、尋ねてもよろしいだろうか?

 なるほど、それは気になって仕方が無いだろうな。
 俺は横にいる風の精霊を振り返った。

「彼女はネグローニャ。
 かの女神の友人であり、女神が姿を消したあとで唯一そのメッセージらしきものを受け取った存在です」

「なんですと!?」

 長老衆は驚きを隠そうともしなかった。
 きっと、演技をすることも忘れるほどの衝撃だったのだろう。

「私は彼女がいなくなったあと、彼女の魔力でしか動かない人形が踊る光景をみました。
 そして先日、そこのトシキの協力で……その人形が涙を流すという光景を見たのです」

 そういいながら、ネグローニャは木彫りの小熊をテーブルの上に置く。
 すると、エルフたちは一斉に平伏したではないか。
 そして、小さな声で口々に祈りの言葉を唱え始める。

 これは、もしかして……。

「私の目的を言っておきましょう。
 智の神の使いである私トシキは、先代の森の女神の復活を望んでおります。
 エルフの皆さん、手助けをしていただけませんか?」

 その瞬間、エルフたちは戸惑った。
 期待と警戒のないまぜになった顔で俺の目を覗き込み、そこに嘘が無いかを探している。

 俺は彼らから目をそらさず、じっとその反応を待った。
 だが、長く生きているがゆえに臆病である彼らはなかなかその答えを出す事ができない。

 だが、しばらく悩むことぐらいは許そうではないか。

「ネグローニャさん、一つお願いがあるのですよ」

「なんだトシキ殿。
 何か突拍子もない事を考えているようだが?
 あまり無茶は言わないでくれたまえよ」

「たいしたことではありません」

 そう前置きしてから、俺はとある確信をもって彼女に告げた。

「この木彫りの小熊、しばらくエルフの皆さんに貸してあげてくださいませんか?」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...