対異常犯罪課

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第0章

降光災

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十五年前の夏、蛍光色の雨が降った。

それは一部の地域にとどまらず、国全体を覆い尽くす規模で広がった。
しかも厄介なことに、雨に直接打たれていない者の身体にまで、その影響は浸潤していった。

後に**「降光災」**と呼ばれることになるこの災害の正体は、政府が推進していた次世代発電施設——エーティリウム炉から漏れ出した液体が気化し、大気中に拡散したものだった。

政府は「安全性に問題はない」と繰り返し主張していた。
だが、それを嘲笑うかのように、自然災害がエーティリウム炉を襲った。

そして漏れ出したエーティリウムは、やがて空を巡り、雨となって降り注いだ。
不気味な蛍光色を帯びたその雨は、確かに「異常」だった。

「安全だ」と言われていたその雨に打たれた人々は、高熱と激しい身体の痛みに苦しんだ。
だが、三日も経つと嘘のように回復した。

政府は「一時的なウイルス性疾患であり、降光災との因果関係は認められない」と公式に発表した。

——誤った判断だと、彼ら自身も気づいていたはずだ。

最初は、ほんの小さな火だった。
ニュースの端に引っかかる程度の、奇妙な異常。

「子供の変異」

まるでびっくり人間ショーのような見出しが躍った。

火を吹く子供。
壁を跳ねるように駆け上がる子供。
杖を手放した元気な老人。
IQが180を超えた中学生。

目に見える異常は、じわじわと社会に広がっていった。

政府はついに動いた。

「有能力者には段階判定を」

能力の発現者たちは、1から5の段階で格付けされることになった。
• 第一段階:身体的能力
 筋力や反射神経など、肉体的な強化。
• 第二段階:環境的能力
 記憶力の強化、直感の異常な鋭さ、サイコメトリーや予知夢など、周囲に影響を及ぼす能力。
• 第三段階:外界的能力
 火を操る、水を浮かべる。明らかに人知を超えた「異能」がここから現れる。
• 第四段階:広域的能力
 第三段階を超える出力。街ひとつを焼く、川の流れを変える、そんな規模の力。
• 第五段階:高域的能力
 災害級。国家レベルでの監視と管理が必要とされる“超常”の存在。

降光災によって影響を受けた5~10歳未満の子供たちの多くは、第三段階に分類された。

以降、政府は第三段階以上の能力者に対して、犯罪抑止を名目にチップの埋め込みを義務化。
世論もこれを支持した。なぜなら、能力犯罪は増加の一途を辿っていたからだ。

さらに研究が進み、能力の強度は**「血中エーティリウム濃度」**によって測定できることも分かった。
エーティリウムは一度体内に取り込まれれば、完全に取り除くことは不可能だ。

時代が変われば、人も変わる。
人が変われば、常識も変わっていく。

それでも——あの雨の記憶は、色を失うことはなかった。
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