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第0章
大神真也
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降光災当時、4歳だった俺は今、大学一年生になった。
もはや当時の災害は教科書で触る程度しかみていない。ニュースにも流れず、流れてくるのは能力者に関する犯罪や出来事ばかりだった。
俺にも第三段階の力がある。首元にはチップも埋まっているらしい。
母は反対したがチップをつけるのが当たり前となった世の中では、母の存在がより異常に見られていただろう。
子供のことを第一に考えて支えてくれた優しい母さんだった。俺は自分からチップを埋め込むのを頼んだ形だった。
そんな姿を見てたからか、妹の美咲も抵抗がなかったのかもしれない。
記憶にある家族はいつも3人だった。
入学式や学校の行事、受験の合格発表まで全部母さんと美咲だけだった。
時の流れとともに増えた飾られている写真は全て3人の記憶だった。
父さんの姿は、数えられるほどしか見ていない。
エーティリウムに関する研究をしているらしく、母さんは父の写真を見ては自慢げに俺に話してくれた。
俺の人生に、父さんはほとんどいない。
世間ではクリスマスを迎える時期になると、いつも俺は父さんに対してネガティブな思いを募った。
隣の芝生は青いというが、友達の家はいつも青く見えた。
「俺が頑張らないと」
自分に言い聞かせるように呟きながら、着替えると、急足で自転車に乗り、自宅へ向かった。
帰る途中にケーキ屋を見かけると、脳裏に美咲がケーキ買ってきてと笑いながら言っていたのを思い出した。
「今日のバイト代以上かよ?」
愚痴のように自分に言い聞かせていた。
3人には大きいとも思えるケーキを一つ買うと、店員は俺に対して言った。
「ご家族で食べるのですか?ちょっと大きいので、頑張って食べてくださいね!」
その家族には、父も含まれているんだろうな。
それとも、自分がそれを選んだのは父がたまには帰ってきてくれるかもしれないという期待なのか...分からなかった。
店を出て慎重にケーキをカゴに乗せると、再び足早に自転車を漕ぎ始めた。
ちらつき始めた雪、頬をなぞる冷たい感触が家路に帰る足をより早めたようにも感じた。
もうすぐ家に着く...それと同時に、警鐘が鳴り響くのを聞いていた。
パトカーに、消防車、救急車もちらほらと同じ方向に向かっている。
どこか火事なのか?
鼻に付く焦げた匂い、薄明るい空、自宅の近くで火事が起きてるなら美咲が野次馬に行くかもしれない。
「しょうがない奴だ」
そんなことを考えながらペダルを漕ぐ脚に力を入れた。
曲がり角を曲がったすぐ先の家、目に入るよりも先に警官に制止された。
「危ないから下がって!!!」
慌てた警官に自転車を押さえられと俺は姿勢を崩して倒れそうになるのを堪えながら止まった。
「俺の家すぐそこなんで...」
思考が追いつかなかった。
認められない現実を突きつけられた時、血の気が引き開いた口がふさがらなくなった。
「嘘だ...」
支えていた自転車を放り投げたて走った。その衝撃でカゴに入れていたケーキは飛び散り。色とりどりに飾られた装飾のアイシングクッキーが飛び出した。
「止まって!!!!」
複数の警官に止められた特にハッとした。
「母さんは?!美咲が中にいるんじゃないか?!」
慌てふためく俺に女性の警官が両肩に力強く手を置いて言った。
「助かったのは...1人だけなの...でも、その子も助かるか...」
下唇を噛むその様子を見て俺は我に戻った。
「み...美咲?」
すぐに周辺を見ると、救急車で今まさに運ばようとしてるところだった。
「美咲!!」
掠れ出した声で叫ぶ。
息がしにくい、焼けた匂い、温度が喉に突き刺さる。
「ご家族だね?大丈夫、きっと助けるから!!!」
救急隊の人がそういうが俺は安堵できなかった。
夥しい血がストレッチャーから垂れている。
「なん...で...火事じゃないんですか...なんすかその血...」
分からない、わからない、ワカラナイ...
意識が暗転した。
崩れたケーキを最後に見つめて...
もはや当時の災害は教科書で触る程度しかみていない。ニュースにも流れず、流れてくるのは能力者に関する犯罪や出来事ばかりだった。
俺にも第三段階の力がある。首元にはチップも埋まっているらしい。
母は反対したがチップをつけるのが当たり前となった世の中では、母の存在がより異常に見られていただろう。
子供のことを第一に考えて支えてくれた優しい母さんだった。俺は自分からチップを埋め込むのを頼んだ形だった。
そんな姿を見てたからか、妹の美咲も抵抗がなかったのかもしれない。
記憶にある家族はいつも3人だった。
入学式や学校の行事、受験の合格発表まで全部母さんと美咲だけだった。
時の流れとともに増えた飾られている写真は全て3人の記憶だった。
父さんの姿は、数えられるほどしか見ていない。
エーティリウムに関する研究をしているらしく、母さんは父の写真を見ては自慢げに俺に話してくれた。
俺の人生に、父さんはほとんどいない。
世間ではクリスマスを迎える時期になると、いつも俺は父さんに対してネガティブな思いを募った。
隣の芝生は青いというが、友達の家はいつも青く見えた。
「俺が頑張らないと」
自分に言い聞かせるように呟きながら、着替えると、急足で自転車に乗り、自宅へ向かった。
帰る途中にケーキ屋を見かけると、脳裏に美咲がケーキ買ってきてと笑いながら言っていたのを思い出した。
「今日のバイト代以上かよ?」
愚痴のように自分に言い聞かせていた。
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「ご家族で食べるのですか?ちょっと大きいので、頑張って食べてくださいね!」
その家族には、父も含まれているんだろうな。
それとも、自分がそれを選んだのは父がたまには帰ってきてくれるかもしれないという期待なのか...分からなかった。
店を出て慎重にケーキをカゴに乗せると、再び足早に自転車を漕ぎ始めた。
ちらつき始めた雪、頬をなぞる冷たい感触が家路に帰る足をより早めたようにも感じた。
もうすぐ家に着く...それと同時に、警鐘が鳴り響くのを聞いていた。
パトカーに、消防車、救急車もちらほらと同じ方向に向かっている。
どこか火事なのか?
鼻に付く焦げた匂い、薄明るい空、自宅の近くで火事が起きてるなら美咲が野次馬に行くかもしれない。
「しょうがない奴だ」
そんなことを考えながらペダルを漕ぐ脚に力を入れた。
曲がり角を曲がったすぐ先の家、目に入るよりも先に警官に制止された。
「危ないから下がって!!!」
慌てた警官に自転車を押さえられと俺は姿勢を崩して倒れそうになるのを堪えながら止まった。
「俺の家すぐそこなんで...」
思考が追いつかなかった。
認められない現実を突きつけられた時、血の気が引き開いた口がふさがらなくなった。
「嘘だ...」
支えていた自転車を放り投げたて走った。その衝撃でカゴに入れていたケーキは飛び散り。色とりどりに飾られた装飾のアイシングクッキーが飛び出した。
「止まって!!!!」
複数の警官に止められた特にハッとした。
「母さんは?!美咲が中にいるんじゃないか?!」
慌てふためく俺に女性の警官が両肩に力強く手を置いて言った。
「助かったのは...1人だけなの...でも、その子も助かるか...」
下唇を噛むその様子を見て俺は我に戻った。
「み...美咲?」
すぐに周辺を見ると、救急車で今まさに運ばようとしてるところだった。
「美咲!!」
掠れ出した声で叫ぶ。
息がしにくい、焼けた匂い、温度が喉に突き刺さる。
「ご家族だね?大丈夫、きっと助けるから!!!」
救急隊の人がそういうが俺は安堵できなかった。
夥しい血がストレッチャーから垂れている。
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