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ラングレーとの対峙
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今回、女性に暴力をふるったり無理矢理なシーンが出てまいります。
そういう表現をご不快に思われるかたは飛ばしてお読み下さい。
=============
「安心したまえ、今すぐどうこうしようというわけじゃない」
ラングレーはどっかりとひとりがけのソファーに腰を下ろした。背もたれにふんぞり返り、大きく足を組んで懐からシガーケースを取り出し葉巻を出して端を切り取った。
そこへさっきの男が入ってきた。ラングレーとユーフェミアに紅茶を供して慇懃に一礼して出て行った。どうやら本当に侍従だったようだ。
さすがに出されたものに口をつける気にならずじっとしていたが、「毒など入っていない」とラングレーに笑われた。
「心配なら私のものと交換しよう」
ラングレーがそう言ってカップを取り替え、優雅な手つきで口をつけた。それを見てユーフェミアもおそるおそる紅茶に手を出す。正直、喉が渇いていた。
紅茶はかなり上質でいい香りだ。おかげで少し気持ちが落ち着き、彼女はラングレーに話しかけた。
「なぜ私を攫わせたのですか」
「ユーフェミア姫。君は自分で思っている以上に重要人物なんだよ、わかっているかい? ルシーダの皇后の妹、そして次代のトルーフェル女王。ルシーダからもトルーフェルからも無視できない存在なんだよ。君の夫になればトルーフェル、ルシーダ両国の後ろ盾を得てなおかつ権力も手に入れられる。それをただ指をくわえて見ているだけなんてバカらしいということさ」
ラングレーの言葉にひどい嫌悪を覚える。つまりは自分を手に入れてトルーフェルを掌握しようということか。
「私は正式に婚約いたしました。もう手遅れです」
「まだ婚約、だろう? 結婚したわけじゃない」
「――――!」
口角を上げにやりと笑うラングレーがマンセルと重なって見える。
だがそこでラングレーは「だけど」と肩をすくめて見せた。
「気が変わった」
「え?」
「君の婚約者がアーノルド・グライスだと聞いて気が変わった」
「アーノルド様だったらどうだというんですか」
語り口調は別に乱暴ではないが、このラングレーという男はどこか恐ろしい。何をするわけでもないのに本能的に近寄りたくないと感じてしまう。けれどその理由はわからない。
「アーノルド・グライス――――彼には借りがあってね。そう、とてつもなく大きな借りだ」
そう言って浮かべたラングレーの笑顔はとても凄惨だ。煮えたぎる何かを押しとどめているような、そんな不気味さを感じた。
「君は私と結婚する。そして私はトルーフェルとカラミシアの王となる。君は後宮の奥にでも籠もって好きに暮らすといい。国は私が面倒を見よう。
一国を治めるなど君のような少女にはそもそも荷がかちすぎるだろう。蝶よ花よともてはやされて好きに暮らせて贅沢もできる。煩わしいこともなく魅力的な提案だと思うが」
「それはあなたにとって魅力的なのでしょう」
この人は危険だ。提案とやらを聞くまでもなくそう感じていた。
背筋を伸ばしラングレーをまっすぐ見据えた。
「トルーフェルはカラミシアの圧政から解放されたばかり、国土は荒れ人心は疲弊していると聞きます。私の使命はその一日も早い回復に務めること、好きに暮らすなどできるわけがありません」
「お硬いなあ、君は! 国民などいくらでも替えのきくものだ。甘い顔をしているとつけあがって足元をすくわれるぞ。生きていけるギリギリまで絞り上げて、我々高貴な存在のために尽くすのが国民の使命というものだ」
「ーーーー何ということを!」
頭の中がこんなに怒りで満ちるのを感じたのは初めてかもしれない。
ユーフェミアは幼い頃から母マチルダに王族としての在り方をそう教わってきた。国民あっての王であり貴族だと。だからラングレーのいうような考え方はとうてい受け入れられないものだ。
「たとえ私がアーノルド様と婚約していなかったとしても、貴方のような人と結婚することだけはあり得ません!」
「ーーーー何だと?」
空気が変わった。ラングレーの顔が不快そうに歪む。
「夫の言うことを聞けないとは、どういうことだ?」
どうやらラングレーの中では自分とユーフェミアが結婚することは決定事項らしい。もう夫気取りとは、と怒りを通り越して呆れてしまった。なんという自分勝手で傲慢な人だろう。そこにはユーフェミアにとって尊敬できるものはないように思える。
「私の夫は貴方じゃない。私の夫になる人はアーノルド・グライス様ただひとり。貴方を夫に迎えることは絶対にありません」
きっぱりと拒絶する。
「そして何か勘違いをされているようですが、私と結婚しても王にはなれません。私の夫はあくまで女王の配偶者。国の実権を握ることはありません」
ユーフェミアの言葉にラングレーの顔がどす黒く怒りに彩られていく。やおら立ち上がって近づいて来るのが怖い。けれどもこの男に屈する訳にはいかない。キッとまっすぐラングレーを睨みつけーーーー
バシッ!
鋭い音とともに左の頬がカッと熱くなりソファーに倒れ込む。叩かれたのだ。
「どうやら躾が必要なようだな」
ラングレーに顎を強く掴まれる。
「おまえが女王だというならそれはそれでいいだろう。ならば私の言うことを従順に聞くように調教するまでだ。ご主人様の言うことには逆らってはいけないことを教え込んでやる」
目をむき出して睨みつけてくるラングレーが恐ろしい。だが怯んでいる余裕はない。ユーフェミアもぎりっと睨み返した。
だが、それは長く続かなかった。
「――――?」
なんだかくらくらする。叩かれたショックなのか、とも考えたが何かが違う。頭がふらつくだけでなく、体の奥がなんだか熱い。なぜだか息があがる。
ユーフェミアの視界の隅でラングレーがにやりと口角をあげた。
「効いてきたか」
しまった。なにかを一服盛られたかと気がついたときにはソファーに手をついて体を支えないといられないほどにくらくらしてしまっていた。
油断していたわけじゃないのに、いつ飲まされたのだろう――――?
「――――な、にか、さっきのお茶に」
「安心しろ。毒ではない。私は嘘はつかない」
それじゃあなんで、と問い詰めたいが、体の奥からわき上がってくる得体の知れない熱に浮かされてさらにくらくらしてしまう。そこへラングレーの勝ち誇ったような声が降ってきた。
「毒は入れていないが、薬を入れていないとは言ってないからな」
つまりさっきのお茶には何かの薬が入っていたと言うことか。くやしさに表情がゆがむ。
何の薬を入れられたかわからないが、いい予感はまったくしない。この場からなんとか逃れようと身じろぎするが、それがまた妙な熱を生み出してしまいたまらずへたりこむ。その様子をラングレーはクックッと小さく笑いながらみつめていた。
「まあ、命にかかわることはない。安心したまえ」
安心なんてできるわけながい。
「なに、おまえが警戒することは予想がついていたのでな。最初から私のカップに薬がいれてあったわけだ――――媚薬がな」
「び……やく」
「どうだ? そろそろ堪らなくなってきた頃だろう? 男が欲しくてしょうがないんじゃないか?」
ラングレーの目の奥にほの暗い熱をみた気がして、ユーフェミアはぞっとした。
余裕の態度を崩してはいないが、そこにはあのときのマンセルのような獰猛さが光っている。
「や、やだ、こないで」
「心配するな、いやなのは最初だけだ。すぐに天国を見せてやる」
ろくな抵抗もできず組み敷かてしまい、必死にもがく。が、心を占める嫌悪感とは裏腹にラングレーに触られたところが熱をもったように何かを伝える。じりじりとじらされているような、強く抗いがたい衝動を。
「いやだと言っても体が欲しがっているだろう? 媚薬のせいで体が敏感になってしまっているんだ。ほら」
「あ、あああっ!」
ドレスの上から乱暴に胸を鷲掴みにされた。嫌悪感でいっぱいなのに、強く握られて痛いのに、それがたまらない波になって押し寄せる。口から勝手に飛び出した声は確かに悲鳴なのに高く甘い何かを含んでいる。
「安心しろ、あと少しすればおまえのアーノルド・グライスがおまえを助けにここへやってくるだろう。奴が俺に監視をつけていたことはわかっていたからな、ここへたどり着けるように誘導してやったのだ」
ラングレーが懐から短剣を取り出した。それをドレスの胸元へ差し込み、ぐいっと硬い布を切り裂いた。強引に開かれた胸元から小ぶりだが形のよい胸が覗き、甘い芳香と体温を放つ。
「いやあっ!」
「だがそこで奴が目にするのは俺に犯されてよがり狂ってる愛しい婚約者だ。おまえは媚薬のおかげで婚約者を裏切る罪悪感を覚えることすらなく、ただ快楽の虜になってグライスの目の前であえいでいればいい」
クククッと喉の奥で笑い、切り裂いたドレスから彼女の右胸をねじり出す。つつましやかにピンクに染まるその頂が顔をのぞかせ、ユーフェミアは恐怖と襲い来る未知の熱で悲鳴をあげた。
ユーフェミアの怯えが更にラングレーの嗜虐心に火をつける。手に持っていた短剣をその辺に投げ捨て、まだ青い果実を暴くことに夢中になっているようだ。ユーフェミアがやめてと悲鳴を上げるたびラングレーの嗤い顔がどんどん獰猛になっていくように見える。
「ルド様! アーノルド様――――あっ、んんん」
「ひ、ひひひ、いい声で啼くじゃないか。ほら、もっと声を上げろ。愛しいグライスが来てくれるかもしれないぞ」
ぐりっと指で頂を捏ねられてまた声をあげてしまう。その途端暴力的な快感が無理矢理体を走り抜け、ぐずぐずと溶けていってしまいそうな危険な予感を覚えた
(逃げなきゃ……ああ、でも体の自由がきかない)
消えてしまいそうな理性を必死で支えて抵抗するがろくな抵抗になっていない。むしろラングレーを喜ばせるだけなのだがユーフェミアにはそれはわからない。
ぴちゃり、と音を立ててラングレーが舌でユーフェミアの胸の頂を舐めあげ、そのまま口に含んで吸い上げた。
「あっ、は、ああん、やぁ……っ」
「ほらみろ、どんどん気持ちよくなってきたんだろう? 俺の口の中でどんどん硬くなってくるぞ、淫乱なお姫様だ」
「やああっ! は、ああっ」
「くくっ、口では何と言ってもごまかせないものだな。胸も、それからここも」
無遠慮にドレスの中へ侵入してきた手がドロワーズの上から脚の間をぎゅっと押しつぶすとそこから濡れた音が耳に届いた。
「ほら、こんなに濡れてるじゃないか。我慢するのは体に悪いぞ、ユーフェミア姫。この私めが楽にして差し上げましょう」
もったいぶった言い方をしているがラングレーの目はぎらぎらと欲望に輝き、背徳的な喜びに充ち満ちている。それは以前みたマンセル王と全く同じ表情で、背筋がさっと寒くなる。
だがおかげですこしだけ頭が冷静になる。
(ダメ! 何としても逃げなきゃ。この男の思惑通りにさせるわけにいかないのよ、ユーフェミア!)
動かない体を必死に動かし、無我夢中でラングレーから逃れようともがいているうちに何かがユーフェミアの手に触れた。ラングレーはそんなことには気づかない様子でユーフェミアの体に夢中になっている。
手に触れたものが何かを確かめる余裕などなく、ユーフェミアはそれを握りしめると力いっぱいラングレーの背に振り下ろした。
「ぐっ!」
覆いかぶさっていたラングレーが低く呻き、ソファーから落ちた。ふと見るとユーフェミアの手には短剣が握られている。どうやら先程ラングレーが適当に置いたものに手が届き、夢中でそれを奮ってしまったらしい。
自分が目の前の男を刺した、という事実は心底恐ろしいが、これは逃げ出すチャンスだ。ユーフェミアは言うことを聞かない体を叱咤して起き上がった。室内の装飾がグラグラと揺れて見えるほどの酩酊感と体の奥を支配しようとしている熱に必死で抗いよろよろと扉を目指す。
しかしそのドレスの裾を掴まれてしまった。
「き、さ、まぁぁぁ!」
苦痛と怒りでどす黒く変色した顔のラングレーがよろりと立ち上がる。刺したと思っていたが、薬が回っている女の細腕、それも立派な上着の上からだ。大した怪我にはなっていないのだろう。ユーフェミアはその形相に今度こそ恐ろしくて身動きが取れなくなってしまった。
「許さん、許さんぞ! 大人しくしていればかわいがってやったものを。おまえはただでは済まさん。苦痛と恥辱と恐怖にまみれて私に服従するように調教してやる」
ラングレーが手を振り上げる。
また殴られる。そう察して反射的に目をつぶった。
ーーーーだが覚悟した衝撃は訪れなかった。
恐る恐る目を開けたユーフェミアがまず見たものは、ラングレーの喉に当てられた銀色の切先。そしてそれを握るのはーーーー
「手を離せ。ミアが穢れる」
あの柳の大木のようにどっしりとした安心感を与えてくれる、恋しい人だった。
そういう表現をご不快に思われるかたは飛ばしてお読み下さい。
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「安心したまえ、今すぐどうこうしようというわけじゃない」
ラングレーはどっかりとひとりがけのソファーに腰を下ろした。背もたれにふんぞり返り、大きく足を組んで懐からシガーケースを取り出し葉巻を出して端を切り取った。
そこへさっきの男が入ってきた。ラングレーとユーフェミアに紅茶を供して慇懃に一礼して出て行った。どうやら本当に侍従だったようだ。
さすがに出されたものに口をつける気にならずじっとしていたが、「毒など入っていない」とラングレーに笑われた。
「心配なら私のものと交換しよう」
ラングレーがそう言ってカップを取り替え、優雅な手つきで口をつけた。それを見てユーフェミアもおそるおそる紅茶に手を出す。正直、喉が渇いていた。
紅茶はかなり上質でいい香りだ。おかげで少し気持ちが落ち着き、彼女はラングレーに話しかけた。
「なぜ私を攫わせたのですか」
「ユーフェミア姫。君は自分で思っている以上に重要人物なんだよ、わかっているかい? ルシーダの皇后の妹、そして次代のトルーフェル女王。ルシーダからもトルーフェルからも無視できない存在なんだよ。君の夫になればトルーフェル、ルシーダ両国の後ろ盾を得てなおかつ権力も手に入れられる。それをただ指をくわえて見ているだけなんてバカらしいということさ」
ラングレーの言葉にひどい嫌悪を覚える。つまりは自分を手に入れてトルーフェルを掌握しようということか。
「私は正式に婚約いたしました。もう手遅れです」
「まだ婚約、だろう? 結婚したわけじゃない」
「――――!」
口角を上げにやりと笑うラングレーがマンセルと重なって見える。
だがそこでラングレーは「だけど」と肩をすくめて見せた。
「気が変わった」
「え?」
「君の婚約者がアーノルド・グライスだと聞いて気が変わった」
「アーノルド様だったらどうだというんですか」
語り口調は別に乱暴ではないが、このラングレーという男はどこか恐ろしい。何をするわけでもないのに本能的に近寄りたくないと感じてしまう。けれどその理由はわからない。
「アーノルド・グライス――――彼には借りがあってね。そう、とてつもなく大きな借りだ」
そう言って浮かべたラングレーの笑顔はとても凄惨だ。煮えたぎる何かを押しとどめているような、そんな不気味さを感じた。
「君は私と結婚する。そして私はトルーフェルとカラミシアの王となる。君は後宮の奥にでも籠もって好きに暮らすといい。国は私が面倒を見よう。
一国を治めるなど君のような少女にはそもそも荷がかちすぎるだろう。蝶よ花よともてはやされて好きに暮らせて贅沢もできる。煩わしいこともなく魅力的な提案だと思うが」
「それはあなたにとって魅力的なのでしょう」
この人は危険だ。提案とやらを聞くまでもなくそう感じていた。
背筋を伸ばしラングレーをまっすぐ見据えた。
「トルーフェルはカラミシアの圧政から解放されたばかり、国土は荒れ人心は疲弊していると聞きます。私の使命はその一日も早い回復に務めること、好きに暮らすなどできるわけがありません」
「お硬いなあ、君は! 国民などいくらでも替えのきくものだ。甘い顔をしているとつけあがって足元をすくわれるぞ。生きていけるギリギリまで絞り上げて、我々高貴な存在のために尽くすのが国民の使命というものだ」
「ーーーー何ということを!」
頭の中がこんなに怒りで満ちるのを感じたのは初めてかもしれない。
ユーフェミアは幼い頃から母マチルダに王族としての在り方をそう教わってきた。国民あっての王であり貴族だと。だからラングレーのいうような考え方はとうてい受け入れられないものだ。
「たとえ私がアーノルド様と婚約していなかったとしても、貴方のような人と結婚することだけはあり得ません!」
「ーーーー何だと?」
空気が変わった。ラングレーの顔が不快そうに歪む。
「夫の言うことを聞けないとは、どういうことだ?」
どうやらラングレーの中では自分とユーフェミアが結婚することは決定事項らしい。もう夫気取りとは、と怒りを通り越して呆れてしまった。なんという自分勝手で傲慢な人だろう。そこにはユーフェミアにとって尊敬できるものはないように思える。
「私の夫は貴方じゃない。私の夫になる人はアーノルド・グライス様ただひとり。貴方を夫に迎えることは絶対にありません」
きっぱりと拒絶する。
「そして何か勘違いをされているようですが、私と結婚しても王にはなれません。私の夫はあくまで女王の配偶者。国の実権を握ることはありません」
ユーフェミアの言葉にラングレーの顔がどす黒く怒りに彩られていく。やおら立ち上がって近づいて来るのが怖い。けれどもこの男に屈する訳にはいかない。キッとまっすぐラングレーを睨みつけーーーー
バシッ!
鋭い音とともに左の頬がカッと熱くなりソファーに倒れ込む。叩かれたのだ。
「どうやら躾が必要なようだな」
ラングレーに顎を強く掴まれる。
「おまえが女王だというならそれはそれでいいだろう。ならば私の言うことを従順に聞くように調教するまでだ。ご主人様の言うことには逆らってはいけないことを教え込んでやる」
目をむき出して睨みつけてくるラングレーが恐ろしい。だが怯んでいる余裕はない。ユーフェミアもぎりっと睨み返した。
だが、それは長く続かなかった。
「――――?」
なんだかくらくらする。叩かれたショックなのか、とも考えたが何かが違う。頭がふらつくだけでなく、体の奥がなんだか熱い。なぜだか息があがる。
ユーフェミアの視界の隅でラングレーがにやりと口角をあげた。
「効いてきたか」
しまった。なにかを一服盛られたかと気がついたときにはソファーに手をついて体を支えないといられないほどにくらくらしてしまっていた。
油断していたわけじゃないのに、いつ飲まされたのだろう――――?
「――――な、にか、さっきのお茶に」
「安心しろ。毒ではない。私は嘘はつかない」
それじゃあなんで、と問い詰めたいが、体の奥からわき上がってくる得体の知れない熱に浮かされてさらにくらくらしてしまう。そこへラングレーの勝ち誇ったような声が降ってきた。
「毒は入れていないが、薬を入れていないとは言ってないからな」
つまりさっきのお茶には何かの薬が入っていたと言うことか。くやしさに表情がゆがむ。
何の薬を入れられたかわからないが、いい予感はまったくしない。この場からなんとか逃れようと身じろぎするが、それがまた妙な熱を生み出してしまいたまらずへたりこむ。その様子をラングレーはクックッと小さく笑いながらみつめていた。
「まあ、命にかかわることはない。安心したまえ」
安心なんてできるわけながい。
「なに、おまえが警戒することは予想がついていたのでな。最初から私のカップに薬がいれてあったわけだ――――媚薬がな」
「び……やく」
「どうだ? そろそろ堪らなくなってきた頃だろう? 男が欲しくてしょうがないんじゃないか?」
ラングレーの目の奥にほの暗い熱をみた気がして、ユーフェミアはぞっとした。
余裕の態度を崩してはいないが、そこにはあのときのマンセルのような獰猛さが光っている。
「や、やだ、こないで」
「心配するな、いやなのは最初だけだ。すぐに天国を見せてやる」
ろくな抵抗もできず組み敷かてしまい、必死にもがく。が、心を占める嫌悪感とは裏腹にラングレーに触られたところが熱をもったように何かを伝える。じりじりとじらされているような、強く抗いがたい衝動を。
「いやだと言っても体が欲しがっているだろう? 媚薬のせいで体が敏感になってしまっているんだ。ほら」
「あ、あああっ!」
ドレスの上から乱暴に胸を鷲掴みにされた。嫌悪感でいっぱいなのに、強く握られて痛いのに、それがたまらない波になって押し寄せる。口から勝手に飛び出した声は確かに悲鳴なのに高く甘い何かを含んでいる。
「安心しろ、あと少しすればおまえのアーノルド・グライスがおまえを助けにここへやってくるだろう。奴が俺に監視をつけていたことはわかっていたからな、ここへたどり着けるように誘導してやったのだ」
ラングレーが懐から短剣を取り出した。それをドレスの胸元へ差し込み、ぐいっと硬い布を切り裂いた。強引に開かれた胸元から小ぶりだが形のよい胸が覗き、甘い芳香と体温を放つ。
「いやあっ!」
「だがそこで奴が目にするのは俺に犯されてよがり狂ってる愛しい婚約者だ。おまえは媚薬のおかげで婚約者を裏切る罪悪感を覚えることすらなく、ただ快楽の虜になってグライスの目の前であえいでいればいい」
クククッと喉の奥で笑い、切り裂いたドレスから彼女の右胸をねじり出す。つつましやかにピンクに染まるその頂が顔をのぞかせ、ユーフェミアは恐怖と襲い来る未知の熱で悲鳴をあげた。
ユーフェミアの怯えが更にラングレーの嗜虐心に火をつける。手に持っていた短剣をその辺に投げ捨て、まだ青い果実を暴くことに夢中になっているようだ。ユーフェミアがやめてと悲鳴を上げるたびラングレーの嗤い顔がどんどん獰猛になっていくように見える。
「ルド様! アーノルド様――――あっ、んんん」
「ひ、ひひひ、いい声で啼くじゃないか。ほら、もっと声を上げろ。愛しいグライスが来てくれるかもしれないぞ」
ぐりっと指で頂を捏ねられてまた声をあげてしまう。その途端暴力的な快感が無理矢理体を走り抜け、ぐずぐずと溶けていってしまいそうな危険な予感を覚えた
(逃げなきゃ……ああ、でも体の自由がきかない)
消えてしまいそうな理性を必死で支えて抵抗するがろくな抵抗になっていない。むしろラングレーを喜ばせるだけなのだがユーフェミアにはそれはわからない。
ぴちゃり、と音を立ててラングレーが舌でユーフェミアの胸の頂を舐めあげ、そのまま口に含んで吸い上げた。
「あっ、は、ああん、やぁ……っ」
「ほらみろ、どんどん気持ちよくなってきたんだろう? 俺の口の中でどんどん硬くなってくるぞ、淫乱なお姫様だ」
「やああっ! は、ああっ」
「くくっ、口では何と言ってもごまかせないものだな。胸も、それからここも」
無遠慮にドレスの中へ侵入してきた手がドロワーズの上から脚の間をぎゅっと押しつぶすとそこから濡れた音が耳に届いた。
「ほら、こんなに濡れてるじゃないか。我慢するのは体に悪いぞ、ユーフェミア姫。この私めが楽にして差し上げましょう」
もったいぶった言い方をしているがラングレーの目はぎらぎらと欲望に輝き、背徳的な喜びに充ち満ちている。それは以前みたマンセル王と全く同じ表情で、背筋がさっと寒くなる。
だがおかげですこしだけ頭が冷静になる。
(ダメ! 何としても逃げなきゃ。この男の思惑通りにさせるわけにいかないのよ、ユーフェミア!)
動かない体を必死に動かし、無我夢中でラングレーから逃れようともがいているうちに何かがユーフェミアの手に触れた。ラングレーはそんなことには気づかない様子でユーフェミアの体に夢中になっている。
手に触れたものが何かを確かめる余裕などなく、ユーフェミアはそれを握りしめると力いっぱいラングレーの背に振り下ろした。
「ぐっ!」
覆いかぶさっていたラングレーが低く呻き、ソファーから落ちた。ふと見るとユーフェミアの手には短剣が握られている。どうやら先程ラングレーが適当に置いたものに手が届き、夢中でそれを奮ってしまったらしい。
自分が目の前の男を刺した、という事実は心底恐ろしいが、これは逃げ出すチャンスだ。ユーフェミアは言うことを聞かない体を叱咤して起き上がった。室内の装飾がグラグラと揺れて見えるほどの酩酊感と体の奥を支配しようとしている熱に必死で抗いよろよろと扉を目指す。
しかしそのドレスの裾を掴まれてしまった。
「き、さ、まぁぁぁ!」
苦痛と怒りでどす黒く変色した顔のラングレーがよろりと立ち上がる。刺したと思っていたが、薬が回っている女の細腕、それも立派な上着の上からだ。大した怪我にはなっていないのだろう。ユーフェミアはその形相に今度こそ恐ろしくて身動きが取れなくなってしまった。
「許さん、許さんぞ! 大人しくしていればかわいがってやったものを。おまえはただでは済まさん。苦痛と恥辱と恐怖にまみれて私に服従するように調教してやる」
ラングレーが手を振り上げる。
また殴られる。そう察して反射的に目をつぶった。
ーーーーだが覚悟した衝撃は訪れなかった。
恐る恐る目を開けたユーフェミアがまず見たものは、ラングレーの喉に当てられた銀色の切先。そしてそれを握るのはーーーー
「手を離せ。ミアが穢れる」
あの柳の大木のようにどっしりとした安心感を与えてくれる、恋しい人だった。
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聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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