7歳からの魔王道

小戸エビス

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第14話 続・ゼルぺリオ家の人々

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「魔王様」
「うむ」

 屋敷の中にある、今は無人の小部屋。儂とネイシャはそこに忍び込み、隣の部屋の会話を窺うことにした。今はマーサたちが誘拐の件で話し合っておるのじゃが、儂は席を外すよう言われてしまったのじゃ。
 まあ、7歳児に聞かせる話でもあるまい。
 じゃから儂らは、隣で盗み聞きをすることにしたのじゃ。

 儂はここしばらく、思うようにいかなかったとはいえ、魔術の訓練を欠かさず行ってきた。そこで、僅かに使えるようになった魔力を練り上げ、床に描いた魔法陣に流し、隣の部屋の様子を幻影に映し出してその上に再現する……
 ということができれば良かったのじゃが、できぬ故、儂らはネイシャが台所から失敬してきたコップの口を壁に当て、底に耳を当てて響いてくる音を聞き取ることにしたのじゃ。
 ちなみに魔力はと言うと、今もさっぱり操れぬ。

「魔王様、ちゃんと集中してないと、聞き逃しちゃいますよ?」

 そしてネイシャに真面目そうな声で諭されてしまう。
 じゃが、まあ良い。肝心なのは会話のほうじゃ。隣で話しておるのは、確か……



「誘拐、ねえ」

 リサが溜息交じりに口を開く。テーブルにいるのは他に、マーサ、バーチス、ポーラの3人。
 そして周りに使用人が、何人か。
 使用人がいるということは、使用人に聞かれて困るような話をする気はない、ということだ。本当に秘密にしなければならないことは、別の場所で話す。
 だから、実はシンディを同席させても問題なかったのだが、リサは席を外すよう言い聞かせた。もしこの場にシンディがいたら、歳不相応の発言をして、疑いの目を向けられることになりかねないから。
 リサはリサで、心配をしていたのである。

「お義父さまには慣れたことでしょうし、ロイドやラセルにはいい経験になるんじゃない? あの子たちも、そろそろ誘拐に慣れさせておくべきよ」

 義父と2人の息子、ついでに夫のことは全く心配していなかったが。
 他家からやっかみを買うことの多いゼルペリオ辺境伯家、家が潰れない程度の嫌がらせは日常茶飯事だったのである。
 リサの言う通り、領主ともなれば、誘拐は慣れたものだった。

「そうさねえ。前にグリオが捕まったの、もう5年前だっけ?」
「4年前でしたな。あのときは半年監禁されておりました。最長記録には及びませんでしたが」

 その際に領主の業務を代行するマーサとバーチスも、この通り、慣れたもの。

「あ、あの、皆様の命の保障は、あるのですよね?」

 テーブル上で誘拐された面々の心配をしているのは、ポーラだけだった。この家にそれなりに長く勤めている彼女も、さすがに、最年長のバーチスほどには肝が据わっていなかったのである。
 そして3人から、何を当たり前のことを言ってるんだ、という顔を向けられてしまう。

「ポーラ、人質は生きてて当たり前。あとはどう交渉するかの問題よ」
「交渉は焦ったほうが負けだからねえ。向こうが音を上げるまで引き延ばすくらいが、ちょうどいいのさ」

 と、リサにマーサ。ポーラは、まあ家人の方がそう仰るなら良いんですけど、と内心で思いつつ、やっぱり釈然としないものを感じていた。
 すると。

「し、失礼します、お、おお茶を、お茶を……」

 テーブルに紅茶を運んできたサティアが、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 うん、これが正常な反応だわ、と思ったポーラは、カップを置いたサティアの手にそっと自分の手を添え、目を見つめて無言で頷く。
 その一方で。

「今度の相手はどのくらい持つかしら? 半年? 一年?」
「できれば記録を更新してもらいたいねえ」
「ですがそう長くは持たないでしょうな。軍勢の滞在費が嵩むでしょうし」

 リサ、マーサ、バーチスは暢気に語っていた。
 けれど、人質の、特にラセルの命が心配だったサティアが、ついに大声で泣き出してしまい。
 結局、サティアをなだめるべく、なるべく解放を急ぐから、全員で言って聞かせることになるのだった。



「ま、魔王様」
「う、うむ」

 儂は一度コップから耳を離し、ネイシャと顔を見合わせる。
 一体、何なのじゃろう。この家の落ち着きようは。
 確かに、誘拐に遭ったという記録は書物の随所に見られたが……人間というものは、こうも異常に慣れるものなのか?
 まあ、こうした非常事態ならば、これも頼もしいと言えば頼もしいのじゃろうが。

「お父様のお名前、まだ出てきませんね」

 かと思えば、ネイシャもこんなことを言い出しおった。此奴も此奴で頼もしすぎる。
 いや、儂が変なのか? ポーラとサティアはまともそうじゃったが。
 と、そんなことを考えつつ、再びコップに耳を当てると……

——やあやあ! 領主並びにご家族の皆様が誘拐されたとあっては、さぞご不便でしょう。その間、我がレイボルトがこの地をお守りしましょう!

 先日の男の声が響いた。先日と全く同じ調子で。
 儂が耳を離しておった間に屋敷に現れ、隣の部屋に来ていたようじゃった。

 うん、此奴、本来は、この時点で現れる手はずだったのじゃろうな……
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