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第15話 レイボルトの使い
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先日と全く同じように現れて、全く同じ言葉を語った男。
きっと、その口上は、何度も何度も練習したものなのじゃろう。前のときと一字一句同じじゃ。
一方で、バーチスの対応は、この間とは違ったものじゃった。
——レイボルト家の方、と仰いましたかな?
今度はきちんとした対応。
すると、男の、いかにも! という声が壁に響いた。コップを使わずとも十分聞き取れそうな、勇ましい声じゃった。
先日の失態など、なかったことにしておるのじゃろうな。
ともあれ、男は意気揚々と名乗り始めたのじゃ。
◇
「拙者、レイボルト家にて兵士長を務めまする、オージンと申す!」
先程まで対策を話し合っていた部屋で、突然の闖入者が声を張り上げる。
それを聞いたバーチスは、誰だこいつを通したのは、という意図を視線に込めて部下を見渡した。まだ若い執事がサッと顔を伏せる。後で教育が必要だな、と判断した。
それでもバーチスはやんわりとした表情を崩さず、男に尋ねた。
「では、オージン様。『誘拐』とは、一体、何のお話でしょうか」
先程までの対策会議などなかったかのように、何も気づいていない風を装って。マーサたちもその芝居に合わせて、沈黙を守っている。
現時点で他家の人間が「誘拐」と決めてかかるのは明らかにおかしい。ゼルペリオ家に届いたのは「失踪」の報せだけ。失踪と誘拐は違う。
家の中の人間には失踪の報せが不自然に続いたことで誘拐の予測がついているが、家の外の人間にその予測がつくはずもないのである。まして、報せが届く前の時点では。
この点、オージンは明らかに失態を晒していた。
けれどオージンは得意になっていた。この部屋に入る直前、泣いているサティアがポーラに慰められながら部屋を出ていくところを見ていたから。
使用人が落ち込んでいる、つまりゼルペリオ家は誘拐のショックに打ちひしがれている。オージンはそう判断して、声高に語った。
「はっはっは! 強がりを申されますな! 分かっておりまする、皆様が誘拐され、御家の方々が深い絶望に打ちひしがれておられることは! 我がレイボルトの兵士ともども、御家をお助けするべく、訓練に訓練を重ねて馳せ参じました! さあ、遠慮なく我らをお頼りくだされ!」
身振り手振りを交えた、堂々とした演説だった。
こいつはきっと馬鹿なのだろう。バーチスはそう判断して、やんわりと返した。
「そうですか。兵士の方々の訓練を。それはさぞ日数がかかったことでしょう」
「はっはっは! ほんのふた月ほどです! このくらい、お安い御用ですぞ!」
「そうですか。それはお早いことですな。2か月前には当家には何の危機もありませんでしたが」
「はっはっは! そう褒められますな!」
「して、頼らせて頂けるとのことでしたが、具体的には、どのようなことをなさるおつもりですか」
「はっはっは! 我らが精鋭を、西の森に駐留いたしますぞ! 森の魔物など、我らが駆逐してくれましょう!」
「そうですか。それは頼もしいですな。ところで、当家の者が誘拐されたという話は、どのようにしてお知りになったのですかな」
「はっはっは! それは我が当主が前々から計画して……っは!?」
オージンが我に返ると、その場にいる全員から、呆れたような目を向けられていた。
部屋の隅の方にいる、どうやら若くてあまり発言権のなさそうな使用人たちからでさえ、人間こうなったら終わりだな、という目を向けられていた。
いたたまれなくなったオージンは、再びバーチスに向き直る。
「おのれ! 謀ったな!」
「ここまで話してくださる方も珍しいですがな」
「だ、だが調子に乗るなよ! こちらは、街道でこういう拾い物をしておるのだ!」
そう言って、懐から2つの指輪を取り出して見せつける。普通は、街道などに落ちているはずのないもの。
この指輪の持ち主は人質として手中にある、ということを仄めかす品だった。
「あ、これはどうも」
バーチスはそれを、やんわりと受け取る。
そして続けた。
「確かに、当家の当主と次期当主のものですな。しかし、もう『拾い物』などと仰る必要もないでしょうに」
「う、うるさい! とにかく、我々のすることを邪魔するな! 拾い物は他にもあるのだからな!」
こうして、オージンは屋敷を去って行ったのだった。
しばらくして。
「『拾い物』って言葉、どうしても使いたかったのかしら?」
「きっと、一生懸命考えた言い回しだったんだろうねえ」
部屋の中に、リサとマーサの声が、静かに響く。
「とにかく、これで奴らの狙いが見えてきましたな」
そしてバーチスの言葉に、2人とも頷くのだった。
◇
「大丈夫ですか? 魔王様」
「う、うむ……」
儂はその後もしばらくマーサらの会話を聞いた後、ネイシャと共に寝室に戻った。途中の廊下で他の者と鉢合わせせぬよう、気を付けながら。
そして今日聞いた話を理解しようとして、頭が重くなった。何なのじゃこの状況は?
……ま、まあ泣き言を言うても始まらぬ。ひとつずつ整理してゆくとするか。
きっと、その口上は、何度も何度も練習したものなのじゃろう。前のときと一字一句同じじゃ。
一方で、バーチスの対応は、この間とは違ったものじゃった。
——レイボルト家の方、と仰いましたかな?
今度はきちんとした対応。
すると、男の、いかにも! という声が壁に響いた。コップを使わずとも十分聞き取れそうな、勇ましい声じゃった。
先日の失態など、なかったことにしておるのじゃろうな。
ともあれ、男は意気揚々と名乗り始めたのじゃ。
◇
「拙者、レイボルト家にて兵士長を務めまする、オージンと申す!」
先程まで対策を話し合っていた部屋で、突然の闖入者が声を張り上げる。
それを聞いたバーチスは、誰だこいつを通したのは、という意図を視線に込めて部下を見渡した。まだ若い執事がサッと顔を伏せる。後で教育が必要だな、と判断した。
それでもバーチスはやんわりとした表情を崩さず、男に尋ねた。
「では、オージン様。『誘拐』とは、一体、何のお話でしょうか」
先程までの対策会議などなかったかのように、何も気づいていない風を装って。マーサたちもその芝居に合わせて、沈黙を守っている。
現時点で他家の人間が「誘拐」と決めてかかるのは明らかにおかしい。ゼルペリオ家に届いたのは「失踪」の報せだけ。失踪と誘拐は違う。
家の中の人間には失踪の報せが不自然に続いたことで誘拐の予測がついているが、家の外の人間にその予測がつくはずもないのである。まして、報せが届く前の時点では。
この点、オージンは明らかに失態を晒していた。
けれどオージンは得意になっていた。この部屋に入る直前、泣いているサティアがポーラに慰められながら部屋を出ていくところを見ていたから。
使用人が落ち込んでいる、つまりゼルペリオ家は誘拐のショックに打ちひしがれている。オージンはそう判断して、声高に語った。
「はっはっは! 強がりを申されますな! 分かっておりまする、皆様が誘拐され、御家の方々が深い絶望に打ちひしがれておられることは! 我がレイボルトの兵士ともども、御家をお助けするべく、訓練に訓練を重ねて馳せ参じました! さあ、遠慮なく我らをお頼りくだされ!」
身振り手振りを交えた、堂々とした演説だった。
こいつはきっと馬鹿なのだろう。バーチスはそう判断して、やんわりと返した。
「そうですか。兵士の方々の訓練を。それはさぞ日数がかかったことでしょう」
「はっはっは! ほんのふた月ほどです! このくらい、お安い御用ですぞ!」
「そうですか。それはお早いことですな。2か月前には当家には何の危機もありませんでしたが」
「はっはっは! そう褒められますな!」
「して、頼らせて頂けるとのことでしたが、具体的には、どのようなことをなさるおつもりですか」
「はっはっは! 我らが精鋭を、西の森に駐留いたしますぞ! 森の魔物など、我らが駆逐してくれましょう!」
「そうですか。それは頼もしいですな。ところで、当家の者が誘拐されたという話は、どのようにしてお知りになったのですかな」
「はっはっは! それは我が当主が前々から計画して……っは!?」
オージンが我に返ると、その場にいる全員から、呆れたような目を向けられていた。
部屋の隅の方にいる、どうやら若くてあまり発言権のなさそうな使用人たちからでさえ、人間こうなったら終わりだな、という目を向けられていた。
いたたまれなくなったオージンは、再びバーチスに向き直る。
「おのれ! 謀ったな!」
「ここまで話してくださる方も珍しいですがな」
「だ、だが調子に乗るなよ! こちらは、街道でこういう拾い物をしておるのだ!」
そう言って、懐から2つの指輪を取り出して見せつける。普通は、街道などに落ちているはずのないもの。
この指輪の持ち主は人質として手中にある、ということを仄めかす品だった。
「あ、これはどうも」
バーチスはそれを、やんわりと受け取る。
そして続けた。
「確かに、当家の当主と次期当主のものですな。しかし、もう『拾い物』などと仰る必要もないでしょうに」
「う、うるさい! とにかく、我々のすることを邪魔するな! 拾い物は他にもあるのだからな!」
こうして、オージンは屋敷を去って行ったのだった。
しばらくして。
「『拾い物』って言葉、どうしても使いたかったのかしら?」
「きっと、一生懸命考えた言い回しだったんだろうねえ」
部屋の中に、リサとマーサの声が、静かに響く。
「とにかく、これで奴らの狙いが見えてきましたな」
そしてバーチスの言葉に、2人とも頷くのだった。
◇
「大丈夫ですか? 魔王様」
「う、うむ……」
儂はその後もしばらくマーサらの会話を聞いた後、ネイシャと共に寝室に戻った。途中の廊下で他の者と鉢合わせせぬよう、気を付けながら。
そして今日聞いた話を理解しようとして、頭が重くなった。何なのじゃこの状況は?
……ま、まあ泣き言を言うても始まらぬ。ひとつずつ整理してゆくとするか。
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