きまぐれ推敲ねこ俳句

小戸エビス

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夕焼けやカーテン破いた猫の爪

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 ゆうやけや かあてんやぶいた ねこのつめ

 猫の爪から2句目。前回は身体的に痛い句でしたが、今回は経済的に痛い句です。

 猫、とくに子猫は、カーテンをよじ登ります。猫にとっては、爪を立てながら登っていける場所、に見えるのでしょうか。しかし、カーテンが猫の体重を想定した造りになっているはずもなく、割と簡単に引き裂かれます。
 そして、一度引き裂かれると、繊維の切れ端が切り口にぶら下がっているような格好になり、このぶら下がりに猫が反応して飛びつき、引きちぎられ、その繰り返しによって、傷口は徐々に広がります。

 かくして、うちのカーテンには、猫が縦に伸びたサイズよりも大きな穴が開くことになりました。
 もっとも、ある程度穴が開いたところで満足したのか、今では飛びつかなくなっていますが。
 ……多分、新しいものに替えたら、またやられるんでしょうね。被害を受けたのはレースのカーテンだけで、遮光カーテンが無事だったのは不幸中の幸い。

 まあ、家中傷だらけにされること自体は、猫を飼う前から覚悟していたことではあります。先に猫を飼っている人からも、カーテン、壁紙、柱、ソファ、障子紙辺りは割り切るしかない、と。
 むしろ、そうした家や家具の傷のことは、猫と一緒に生きた証、とポジティブに受け止めるしかありません。
 ちなみに、うちでは、飼う前から爪とぎ用の段ボールを準備していたためか、壁紙と柱は無事で済んでいます。これから飼う予定のある人は、是非ご参考に。ただ、本当に効くかどうかは、お猫様の気分次第ですが。

 ともあれ、そんなこんなでカーテンに開いた穴をきっかけにしたのが、今回の句です。
 「猫の爪」シリーズなので下の句をこれにすることは最初から決まっていた、ように見えるかもしれませんが、実はそこに落ち着いたのは、ある程度推敲が進んでからのこと。
 最初はカーテン自体に注目して、「猫に破かれしカーテン」などの言葉を考えていました。ただ、これは当時の私には使いにくかったのです。
 例えば、これをそのまま中の句と下の句に置くと、中の句8音で字余り、下の句4音で字足らずという変なバランスになってしまいます。句またがりにしても中途半端。これを「カーテンよ」などにすれば下の句の字足らずは解決できますが、そうしたとしても、カーテンに対する感慨を詠む句にしかなりません。そのころの私の目的はカーテンのことを詠むことではなかったので、いまいちピンとこなかったのです。
 ……もっとも、こんな風に分析できたのは後になってからのことで、作っていた間は、何が原因で言葉が浮かばないのかさえ分かっていませんでしたが。
 尚、いま考えてみると、カーテンが主役の句にするのもありだったのかな、と思えてきます。猫との暮らしで変化した物を思い出の証として詠む、というやり方でも、きちんとやれば句を作れるな、と。例えば、「お引越し猫が破いたカーテンよ」にすると、引越しの作業中、家具の傷跡を見て以前の暮らしを思い出した、というような情景になります。

 ともあれ、当時の状況は、カーテンを破いたほうの猫の爪を引き合いに出せばどうか、と考えたことで一変しました。
 前回の句に合わせて「猫の爪」を下の句に持ってくれば、中の句に必要なのはその爪がどういう存在なのかという状況説明です。今回はカーテンを破いたものである、ということが重要。それをほぼそのまま「カーテン破いた」で書き入れれば、中の句の7音に収まります。「破いた」なので既にカーテンに穴が開いているという状況も言い表せます。
 こうして、中の句と下の句が決定。前回同様、後ろのほうが先に決まり、次いで季語を含む5音で上の句を作る、という流れになりました。
 その季語として最初に浮かんだのが、「夕焼け」。家の中から外を眺める状況と結びつくような季語はないかな、という観点から選んだものでした。他には、「春景色」や「冬景色」が候補に。きれいな景色を表す言葉にしたのは、カーテンに穴が開いていることを前向きな方向に持って行きたかったからです。穴をあけた猫のことは許してやりたい、というか、割り切るしかない、ならば、せめて穴が開いて良かったことを探そう、という意味を込めるために。そして、結局、最初に浮かんだ「夕焼け」に決定。

 ……あれ、もしかして、「お引越しカーテン破いた猫の爪」にする方法もあったのかも。まあ、実際の状況に近いほうで、「夕焼け」のままにしておきます。
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