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悩み悩む
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黒板にチョークで文字を書き込む音くらいしか無かった授業中の静かな教室にそれは唐突に鳴り響いた。
「おい誰だ?」
ほぼ空っぽの机は携帯の振動でうるさく響いたのだ。未だ鳴り続ける携帯を俺は慌ててポケットに移した。近くの奴は俺が犯人だと間違いなく気づいただろう。
「授業中はちゃんと携帯をマナーモードにしておけよ」
まったく、冷汗をかかされる。
先生は犯人探しをする気はないようで授業を続けた。その様子を見て安心した俺は小さなため息をついた。そして周りに気づかれないようにそっと携帯を取り出し何が起きているのか確認した。
やはりというべきか、河守からメールが幾つも幾つも送られてきていた。内容は彼女達に関するものだった。
確かに元演劇部員について詳しく教えてほしいと言ったのは俺だが、だからって授業中に返信してくることはないだろうに。
『彼女達について知っといた方がいいのはこの四人ね。こいつらにだけは見つからないようにしなさい。逆にそれ以外はもうあまり積極的にイジメようとしてこないわ』
その後には四人の名前と写真が続いていた。
村井茜、華原真希、小澤美佳、古川綾音。彼女らが特に花柳を敵視しており周囲を先導しあいつを孤立させている犯人だ。
それぞれクラスは、村井と古川がA組。華原はB。そして小澤がD組の生徒だ。
『彼女達以外にも知っといた方がいいのが居るわ。D組の小此木舞さん。事件が起きる前まで彼女は花柳さんと友達だった人よ』
その小此木という人は彼女達のイジメが嫌で花柳の側を離れていったらしい。
「おい、榊」
さっきまで遠くで聞こえていたはずの声が何故か俺のすぐ隣で聞こえた。恐る恐るそちらへ向くとそこにはお怒り気味の先生がそこにいた。
「授業に集中せんか」
丸めた教科書で軽く一発、面を喰らった。そして当然、携帯は没収され放課後に職員室へ取りに行かなくてはならなくなってしまった。
「この天才的運動神経の持ち主であるこの僕の玉を受けてみよ!」
3時間目は体育だった。種目はテニス、あいつが最も得意だとする競技だ。まああいつはいつどんな競技だろうとそう言っているが。
あいつは珍しく午前中に登校してきた。ただこうしてテニスがしたいがために。とても幸せなやつだ。
「スーパーウルトラスペシャルパーフェクトサーブ!」
ああ、なんて憂鬱なことか。
俺はあまり体育が好きじゃない。運動が苦手だし肉体的に疲れることが嫌いだからだ。
「あっやべ!」
それに加えて今日はいろいろあって考えたいことが山積みだというのにこうしていてはそんな暇もない。
「榊!避けろ!」
「ん?」
振り向いた瞬間、何かが俺の頬に飛び込んできた。痛みよりも驚きが強かった。視界が一瞬ぐらついて俺はその場に倒れた。
ぼやける視界の先で何かが転がっていた。それは黄色くて毛むくじゃらの玉だった。何が起きたのか俺はすぐに理解し立ち上がった。
「何が天才的運動神経の持ち主だ!この下手くそが!」
「悪い悪い」
空閑の放ったノーコンサーブが近くを歩いていた俺の方に飛んできて運悪く当たったのだ。
俺は腹いせにまったく違う方向へボールを全力で投げてやった。
「ほらよっ!」
「あぁ、ちょっ」
まったく今日という日はとことんツイてないな。
本当にツイてないだけで片付けられる問題なら楽なんだが……。いや、でも楽じゃなくていいか。
何、考えてんだ。俺は。
あの後、突然どうしてかトーナメント戦が始まった。
教師の話をあまりちゃんと聞かない癖が悪い結果となって現れた決定的事態だ。
真面目に授業を受けてこなかったので俺の結果はたかが知れている。そうではなく驚いたのはあいつの方だ。
テニス部メンツ丸つぶれ。なんと優勝したのは空閑だった。伊達に天才的運動神経の持ち主を自称していたのではないらしい。
確かに運動神経は悪い訳じゃないが……まあそうだな。あとは運だろう。
そんな余計なことを考えながら俺は着替えていた。そこへ空閑がニヤニヤしながらやってきた。
どうせ自慢でもしに来たんだろう。
「よっ!一回戦敗退さん!」
「うっせ。自慢話がしたいならあっち行けよ」
「いやいやそうじゃないんだって、まあしたくない訳じゃないんだけどね?」
「は?」
「おまえ、今日なんかずっとぼーっとしてない?」
俺はかなり驚いた。空閑がそんなことを気にするやつだったかという点ではなく、周りから俺はそんな風に見えていたんだというところに。
「僕のボールだって、いつものおまえだったら避けれてたと思うんだよね。いくら運動神経が悪いとは言え」
「かもな……」
「何、なんか悩み事?」
こうなった空閑はなかなかしつこい。何度振り切っても訊いてくるだろう。
態度から誤解されがちだがこいつは別に人の悩みを茶化すような悪いやつではない。
俺は河守のことを伏せて今朝のできごとや花柳の話をした。
「なるほどねぇ。ふーん」
「なんだよ」
「おまえ、やっぱりすげー無視に反応するよね」
「そ、そうか?」
自分ではあまり意識はしていなかったが、言われてみればそうだったのかもしれないというシーンはあった気がする。
あの日、花柳に声をかけた理由もあいつが一人だったからかもと、今なら思う。
「ま、そういうことなら僕を花柳さんに紹介してくれよ!」
「はあ?」
「いやいや、冗談じゃなくってさ。花柳さんは友達を欲しがってるんだろ?なら僕がなってあげるって言ってるの。もともと僕はこんなだし、イジメられようが関係ないね。なんなら彼氏にだってなってあげちゃうよ!」
冗談めかしく聞こえるが確かに空閑の言ってることは理にかなっているとは思う。しかしそれはまた別の懸念が生まれる。
空閑は不良だ。不良ってのはクラスひいては学校の嫌われ者だ。
そんな男の友達となると同じように不良と……そうじゃなくても悪いイメージがついてしまうかも知れない。
実際、俺がそうであるように。
空閑の申し出はありがたいが今じゃない。あるいは、そうするならもう一人必要だろう。
空閑の不良イメージを払拭できるような真面目で誠実なやつがいい……。
「なあ、ダメなのか?」
「あいや、ダメって訳じゃ無いんだがな?ちょっと気になるとこがあって」
「ふーん、そう。じゃそれならさ。そのイジメてきてるやつらを体育館裏にでも呼び出してボコボコにするってのは?二度と花柳に手ぇ出すんじゃねえぞって!」
「いやいやいや」
「なんだよ、絶対に上手くいくって!イジメられたらイジメ返すってのは常識だろ?」
「その理論、ただただイジメがエスカレートしていくだけな気がするぞ」
「おまえら」
俺と空閑は同時に誰かに軽く叩かれた。
声の主の方へ振り向くとそこには呆れた顔で俺らを見ている教師がいた。
「もう授業始まってるんだぞ。いつまでも話してるな。まったく」
いつの間にかまわりは授業の準備を終えて、もちろん着替えも済んでいる。まだなのは俺たち二人だけだ。
ああ、クラスメイトの異質なものをみる視線が痛い痛い。
「さっさと着替えてこい」
俺らは廊下に放り出された。
にしても、誰かそろそろ授業が始まるって教えてくれればいいのにさ。
とんでもない大恥をかいた四時間目の終わりを知らせる鐘がやっと鳴った。
着替え終えてが教室に戻ったときクスクス笑われたのには少し堪えたな。
「榊!購買行こうぜ!」
こいつ、悩んだこととかあるんだろうか。
「いや、俺は……」
「花柳さんのとこ?」
「あ、ああ」
「行ってどうすんのさ。何のアイデアも無しに会いに行ったって、おまえのことだ。きっと何も話せなくて終わりだろ?」
腹立つ言われ方だが間違いじゃない。
今の俺が会いに行っても無駄、彼女の状況は変えられない。
「かもな」
「だろ?ほら、行こうぜ」
仕方なく俺は空閑に続いて教室を出ていった。
花柳の友達になる。あるいは誰かにそうさせる。それはとても大きなリスクを同時に背負うことになる。
彼女達、元演劇部員からのイジメだ。
これを止められない限りはどんな手段も完全な打開策とは絶対にならない。
もし彼女達を無視して花柳と友達になっても、イジメなんか気にしないという態度をとっていても、それを見た花柳はどう思うだろう。
決していい気はしないだろうな。
きっと自分のために誰かが傷つくのは見たくないとか行ってあいつの方から距離を取ってくるだろう。
空閑の言うイジメはイジメで対抗というのは確かに一つの手段だが、彼女達からの花柳へのイジメがエスカレートする危険性が高い。
彼女達の問題を穏便に解決して花柳の友達探し、これだけでもめちゃくちゃに大変だってのに。
その上、河守のスパイとして神尾を調べなきゃならないなんて……。
「……き、おい榊、聞いてるのか?」
「すまん。なんだって?」
「だから、委員長は?」
「どういう意味だ?」
「僕がどうしてダメかは大方想像つくよ。ま、不良だからね。だったら委員長を花柳さんに紹介してやったら?」
標か、確かに委員長の肩書があるあいつなら空閑が近くにいても花柳へ悪影響が出ることはなさそうだ。
でもやっぱり……。
「それでも演劇部がな……」
「だからさ。委員長なら何となくその辺、うまくやってくれそうじゃん?」
「どうしてそんな自信あるんだよ」
「勘さ!僕の勘は当たるんだ!」
なんて幸せなやつなんだ。
「にしてもおまえ、僕の意見を否定してばっかだけどさ。だったら何か案ないの?」
「いや……」
「じゃ僕の言ったことやってみようぜ?何か変わるかも知んないじゃん」
俺はどうしても空閑の言うように事を進めたときもし悪い結果を招いてしまったらを考えてしまう。
良くない癖だとは思うがなかなか変えられない。
悪い結果になるのが怖い。どうにもできなかったら俺はまた、だれかを……。
炎の先にいた。何て言っていたんだろう。
聞こえてたはずだ。思い出せるはず……だと、思う。
「とりあえず!あとで委員長に訊いてみようぜ。もしかしたら俺らよりいいアイデアあるかもよ?」
「……だな」
「それに、もし演劇部の事件ってのが大きなものなら委員長が何か知ってるかもしれないしね」
それは盲点だった。
てっきり、事件のことは本人から聞き出す以外の方法はないとばかり思っていた。
そこになにか解決の糸口を見いだせればいいが。
俺らは適当なパンと飲み物を買ってさっさと購買を出ようとした。そのときだった。
「ゔあっ……!」
先に出ていった空閑が短い悲鳴と共に俺の目の前から姿を消した。
代わりにそこに立っていたのは誰だったか、もう言うまでもあるまい。
「おまえさ、何か格闘技でもやってたのか?」
「いいえ、どうして?」
「一撃であいつを吹っ飛ばすなんて、そんな女の子らしからぬ力っ……!」
まだ言い終わる前に河守は俺の胸ぐらを掴んで続きを制止した。
「誰が馬鹿力ですって?!」
「そこまでは言ってねえよ!」
やっぱりとんでもない力持ちじゃねえか。今、おまえに持ち上げられてるぞ俺!
「だいたいあんたね!なんでメールすぐに返さないのよ!何回も送った……くっ」
急に河守は静かになってあたりを見回した。
まあこれだけ騒いでいるんだから目立って当然だ。どうもそんなことに今気づいたらしい。
すると俺を掴んだまま移動し始めた。
「ちょっ、どこへ?」
「いいから!」
俺は引きずられて人気のない階段の踊り場まで連れてこられた。そこでようやく手を離してもらうことができた。
「で?なんで返信しなかったの?」
「おまえが授業中にメール送ってくっから教師にバレて携帯没収されたんだよ」
「っは!とんだおマヌケね」
「うっせ。それで、演劇部の情報以外になんか送ったのか?」
「そうよ。神尾から情報聞き出す方法は思いついたのかって」
「ああ、まったくだな」
呆れてなにも言えないという様子だった。ため息を吐いて露骨にがっかりしている。
考えても方法が思いつかないし、なにより今はどちらかというと花柳を優先してしまってるからな。
どうしたものか。
「あんまり時間ないのに……」
「そうなのか?」
「あんたバカ?カレンダー見てないの?」
「いや、見てないな。なんかあったか……?」
「はあ……。今週末にはもう夏休み入っちゃうのよ?そうなったら動きにくくなるじゃない。ったく」
完全に忘れてた。
そうかもう夏休みが迫ってるのか。それは、いろいろとまずいな。
「おい誰だ?」
ほぼ空っぽの机は携帯の振動でうるさく響いたのだ。未だ鳴り続ける携帯を俺は慌ててポケットに移した。近くの奴は俺が犯人だと間違いなく気づいただろう。
「授業中はちゃんと携帯をマナーモードにしておけよ」
まったく、冷汗をかかされる。
先生は犯人探しをする気はないようで授業を続けた。その様子を見て安心した俺は小さなため息をついた。そして周りに気づかれないようにそっと携帯を取り出し何が起きているのか確認した。
やはりというべきか、河守からメールが幾つも幾つも送られてきていた。内容は彼女達に関するものだった。
確かに元演劇部員について詳しく教えてほしいと言ったのは俺だが、だからって授業中に返信してくることはないだろうに。
『彼女達について知っといた方がいいのはこの四人ね。こいつらにだけは見つからないようにしなさい。逆にそれ以外はもうあまり積極的にイジメようとしてこないわ』
その後には四人の名前と写真が続いていた。
村井茜、華原真希、小澤美佳、古川綾音。彼女らが特に花柳を敵視しており周囲を先導しあいつを孤立させている犯人だ。
それぞれクラスは、村井と古川がA組。華原はB。そして小澤がD組の生徒だ。
『彼女達以外にも知っといた方がいいのが居るわ。D組の小此木舞さん。事件が起きる前まで彼女は花柳さんと友達だった人よ』
その小此木という人は彼女達のイジメが嫌で花柳の側を離れていったらしい。
「おい、榊」
さっきまで遠くで聞こえていたはずの声が何故か俺のすぐ隣で聞こえた。恐る恐るそちらへ向くとそこにはお怒り気味の先生がそこにいた。
「授業に集中せんか」
丸めた教科書で軽く一発、面を喰らった。そして当然、携帯は没収され放課後に職員室へ取りに行かなくてはならなくなってしまった。
「この天才的運動神経の持ち主であるこの僕の玉を受けてみよ!」
3時間目は体育だった。種目はテニス、あいつが最も得意だとする競技だ。まああいつはいつどんな競技だろうとそう言っているが。
あいつは珍しく午前中に登校してきた。ただこうしてテニスがしたいがために。とても幸せなやつだ。
「スーパーウルトラスペシャルパーフェクトサーブ!」
ああ、なんて憂鬱なことか。
俺はあまり体育が好きじゃない。運動が苦手だし肉体的に疲れることが嫌いだからだ。
「あっやべ!」
それに加えて今日はいろいろあって考えたいことが山積みだというのにこうしていてはそんな暇もない。
「榊!避けろ!」
「ん?」
振り向いた瞬間、何かが俺の頬に飛び込んできた。痛みよりも驚きが強かった。視界が一瞬ぐらついて俺はその場に倒れた。
ぼやける視界の先で何かが転がっていた。それは黄色くて毛むくじゃらの玉だった。何が起きたのか俺はすぐに理解し立ち上がった。
「何が天才的運動神経の持ち主だ!この下手くそが!」
「悪い悪い」
空閑の放ったノーコンサーブが近くを歩いていた俺の方に飛んできて運悪く当たったのだ。
俺は腹いせにまったく違う方向へボールを全力で投げてやった。
「ほらよっ!」
「あぁ、ちょっ」
まったく今日という日はとことんツイてないな。
本当にツイてないだけで片付けられる問題なら楽なんだが……。いや、でも楽じゃなくていいか。
何、考えてんだ。俺は。
あの後、突然どうしてかトーナメント戦が始まった。
教師の話をあまりちゃんと聞かない癖が悪い結果となって現れた決定的事態だ。
真面目に授業を受けてこなかったので俺の結果はたかが知れている。そうではなく驚いたのはあいつの方だ。
テニス部メンツ丸つぶれ。なんと優勝したのは空閑だった。伊達に天才的運動神経の持ち主を自称していたのではないらしい。
確かに運動神経は悪い訳じゃないが……まあそうだな。あとは運だろう。
そんな余計なことを考えながら俺は着替えていた。そこへ空閑がニヤニヤしながらやってきた。
どうせ自慢でもしに来たんだろう。
「よっ!一回戦敗退さん!」
「うっせ。自慢話がしたいならあっち行けよ」
「いやいやそうじゃないんだって、まあしたくない訳じゃないんだけどね?」
「は?」
「おまえ、今日なんかずっとぼーっとしてない?」
俺はかなり驚いた。空閑がそんなことを気にするやつだったかという点ではなく、周りから俺はそんな風に見えていたんだというところに。
「僕のボールだって、いつものおまえだったら避けれてたと思うんだよね。いくら運動神経が悪いとは言え」
「かもな……」
「何、なんか悩み事?」
こうなった空閑はなかなかしつこい。何度振り切っても訊いてくるだろう。
態度から誤解されがちだがこいつは別に人の悩みを茶化すような悪いやつではない。
俺は河守のことを伏せて今朝のできごとや花柳の話をした。
「なるほどねぇ。ふーん」
「なんだよ」
「おまえ、やっぱりすげー無視に反応するよね」
「そ、そうか?」
自分ではあまり意識はしていなかったが、言われてみればそうだったのかもしれないというシーンはあった気がする。
あの日、花柳に声をかけた理由もあいつが一人だったからかもと、今なら思う。
「ま、そういうことなら僕を花柳さんに紹介してくれよ!」
「はあ?」
「いやいや、冗談じゃなくってさ。花柳さんは友達を欲しがってるんだろ?なら僕がなってあげるって言ってるの。もともと僕はこんなだし、イジメられようが関係ないね。なんなら彼氏にだってなってあげちゃうよ!」
冗談めかしく聞こえるが確かに空閑の言ってることは理にかなっているとは思う。しかしそれはまた別の懸念が生まれる。
空閑は不良だ。不良ってのはクラスひいては学校の嫌われ者だ。
そんな男の友達となると同じように不良と……そうじゃなくても悪いイメージがついてしまうかも知れない。
実際、俺がそうであるように。
空閑の申し出はありがたいが今じゃない。あるいは、そうするならもう一人必要だろう。
空閑の不良イメージを払拭できるような真面目で誠実なやつがいい……。
「なあ、ダメなのか?」
「あいや、ダメって訳じゃ無いんだがな?ちょっと気になるとこがあって」
「ふーん、そう。じゃそれならさ。そのイジメてきてるやつらを体育館裏にでも呼び出してボコボコにするってのは?二度と花柳に手ぇ出すんじゃねえぞって!」
「いやいやいや」
「なんだよ、絶対に上手くいくって!イジメられたらイジメ返すってのは常識だろ?」
「その理論、ただただイジメがエスカレートしていくだけな気がするぞ」
「おまえら」
俺と空閑は同時に誰かに軽く叩かれた。
声の主の方へ振り向くとそこには呆れた顔で俺らを見ている教師がいた。
「もう授業始まってるんだぞ。いつまでも話してるな。まったく」
いつの間にかまわりは授業の準備を終えて、もちろん着替えも済んでいる。まだなのは俺たち二人だけだ。
ああ、クラスメイトの異質なものをみる視線が痛い痛い。
「さっさと着替えてこい」
俺らは廊下に放り出された。
にしても、誰かそろそろ授業が始まるって教えてくれればいいのにさ。
とんでもない大恥をかいた四時間目の終わりを知らせる鐘がやっと鳴った。
着替え終えてが教室に戻ったときクスクス笑われたのには少し堪えたな。
「榊!購買行こうぜ!」
こいつ、悩んだこととかあるんだろうか。
「いや、俺は……」
「花柳さんのとこ?」
「あ、ああ」
「行ってどうすんのさ。何のアイデアも無しに会いに行ったって、おまえのことだ。きっと何も話せなくて終わりだろ?」
腹立つ言われ方だが間違いじゃない。
今の俺が会いに行っても無駄、彼女の状況は変えられない。
「かもな」
「だろ?ほら、行こうぜ」
仕方なく俺は空閑に続いて教室を出ていった。
花柳の友達になる。あるいは誰かにそうさせる。それはとても大きなリスクを同時に背負うことになる。
彼女達、元演劇部員からのイジメだ。
これを止められない限りはどんな手段も完全な打開策とは絶対にならない。
もし彼女達を無視して花柳と友達になっても、イジメなんか気にしないという態度をとっていても、それを見た花柳はどう思うだろう。
決していい気はしないだろうな。
きっと自分のために誰かが傷つくのは見たくないとか行ってあいつの方から距離を取ってくるだろう。
空閑の言うイジメはイジメで対抗というのは確かに一つの手段だが、彼女達からの花柳へのイジメがエスカレートする危険性が高い。
彼女達の問題を穏便に解決して花柳の友達探し、これだけでもめちゃくちゃに大変だってのに。
その上、河守のスパイとして神尾を調べなきゃならないなんて……。
「……き、おい榊、聞いてるのか?」
「すまん。なんだって?」
「だから、委員長は?」
「どういう意味だ?」
「僕がどうしてダメかは大方想像つくよ。ま、不良だからね。だったら委員長を花柳さんに紹介してやったら?」
標か、確かに委員長の肩書があるあいつなら空閑が近くにいても花柳へ悪影響が出ることはなさそうだ。
でもやっぱり……。
「それでも演劇部がな……」
「だからさ。委員長なら何となくその辺、うまくやってくれそうじゃん?」
「どうしてそんな自信あるんだよ」
「勘さ!僕の勘は当たるんだ!」
なんて幸せなやつなんだ。
「にしてもおまえ、僕の意見を否定してばっかだけどさ。だったら何か案ないの?」
「いや……」
「じゃ僕の言ったことやってみようぜ?何か変わるかも知んないじゃん」
俺はどうしても空閑の言うように事を進めたときもし悪い結果を招いてしまったらを考えてしまう。
良くない癖だとは思うがなかなか変えられない。
悪い結果になるのが怖い。どうにもできなかったら俺はまた、だれかを……。
炎の先にいた。何て言っていたんだろう。
聞こえてたはずだ。思い出せるはず……だと、思う。
「とりあえず!あとで委員長に訊いてみようぜ。もしかしたら俺らよりいいアイデアあるかもよ?」
「……だな」
「それに、もし演劇部の事件ってのが大きなものなら委員長が何か知ってるかもしれないしね」
それは盲点だった。
てっきり、事件のことは本人から聞き出す以外の方法はないとばかり思っていた。
そこになにか解決の糸口を見いだせればいいが。
俺らは適当なパンと飲み物を買ってさっさと購買を出ようとした。そのときだった。
「ゔあっ……!」
先に出ていった空閑が短い悲鳴と共に俺の目の前から姿を消した。
代わりにそこに立っていたのは誰だったか、もう言うまでもあるまい。
「おまえさ、何か格闘技でもやってたのか?」
「いいえ、どうして?」
「一撃であいつを吹っ飛ばすなんて、そんな女の子らしからぬ力っ……!」
まだ言い終わる前に河守は俺の胸ぐらを掴んで続きを制止した。
「誰が馬鹿力ですって?!」
「そこまでは言ってねえよ!」
やっぱりとんでもない力持ちじゃねえか。今、おまえに持ち上げられてるぞ俺!
「だいたいあんたね!なんでメールすぐに返さないのよ!何回も送った……くっ」
急に河守は静かになってあたりを見回した。
まあこれだけ騒いでいるんだから目立って当然だ。どうもそんなことに今気づいたらしい。
すると俺を掴んだまま移動し始めた。
「ちょっ、どこへ?」
「いいから!」
俺は引きずられて人気のない階段の踊り場まで連れてこられた。そこでようやく手を離してもらうことができた。
「で?なんで返信しなかったの?」
「おまえが授業中にメール送ってくっから教師にバレて携帯没収されたんだよ」
「っは!とんだおマヌケね」
「うっせ。それで、演劇部の情報以外になんか送ったのか?」
「そうよ。神尾から情報聞き出す方法は思いついたのかって」
「ああ、まったくだな」
呆れてなにも言えないという様子だった。ため息を吐いて露骨にがっかりしている。
考えても方法が思いつかないし、なにより今はどちらかというと花柳を優先してしまってるからな。
どうしたものか。
「あんまり時間ないのに……」
「そうなのか?」
「あんたバカ?カレンダー見てないの?」
「いや、見てないな。なんかあったか……?」
「はあ……。今週末にはもう夏休み入っちゃうのよ?そうなったら動きにくくなるじゃない。ったく」
完全に忘れてた。
そうかもう夏休みが迫ってるのか。それは、いろいろとまずいな。
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