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13.打ち解ける俺
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遺跡の奥へ進むにつれて、空気が変わっていった。
温度が下がり、魔石灯の光が弱まっている。壁の文様がより複雑になり、古代文字が密度を増して刻まれていた。リーゼによれば、これはより高度な魔術が施されたエリアに近づいている証拠だという。
さらに二回ほど小規模な戦闘をこなした。コボルト八匹の群れと、石を擬態した待ち伏せ型のガーゴイル三体。どちらもパーティーの連携で問題なく処理できたが、リーゼの消耗が目に見えて激しくなっていた。
「リーゼ、少し休むか?」
アルたんが声をかけると、リーゼは即座に首を振った。
「大丈夫よ。あたしを誰だと──」
「見栄を張るなとは言わないが、倒れられたら困る。五分だけ休め」
有無を言わさぬ口調に、リーゼは渋々腰を下ろした。壁に背を預けて、小さく息を吐いている。強がっているけれど、顔色が少し蒼い。
俺はなんとなく、リーゼの隣に腰を下ろした。
「……なによ」
「べつに。隣、空いてたから」
「…………」
リーゼは無言で目を逸らした。拒絶ではなさそうだったので、そのまま隣にいることにした。
「ねえ」
しばらくして、リーゼが小さな声で言った。
「あんた、なんで魔術使えないの。本当に」
顔は壁の文様を見つめたまま。こちらを向いてはくれないけど、その声は先ほどまでの刺々しさが薄れていた。
「……信じてもらえないと思うけど、この力はもともとわたしのものじゃないんだ。ある人から受け取ったもので、使い方がわからないの」
「他人から受け取った力……?」
リーゼが怪訝な顔でこちらを見た。
「それって、どういう……」
「うまく説明できないんだけど。だから、リーゼが自分の力で三年間頑張ってきたのは、本当にすごいと思ってる。わたしには、そういう経験がまったくないから」
嘘をついてない範囲で、伝えられることを伝えた。リーゼは長い間黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……言われなくたって、あたしは自分に自信を持ってたわよ。でもあんたを見てたら、わかんなくなった。あんたの封印解除には、正直、度肝を抜かれたもの」
「ごめ──」
「謝ったら怒るって言ったでしょ」
リーゼが初めて、ほんの少しだけ笑った。口の端がほんの一瞬だけ持ち上がっただけの、それは小さな笑みだった。けれど、ずっと戦闘態勢だった翡翠の瞳が、一瞬だけ柔らかくなったのを俺は見逃さなかった。
「でも、次はあたしが先にやるからね。覚えときなさい」
「うん」
少しだけ、彼女との距離が縮まった気がした。
「そろそろ行くぞ」
アルたんの号令で全員が立ち上がり、さらに奥へ進む。
通路の先に、巨大な二重扉が現れた。扉の表面には、今まで見てきた文様とは桁違いに複雑な魔法陣が刻まれている。
そして──扉の向こうから漏れ出してくる魔力の圧が、凄まじかった。
体中の毛穴が開くような感覚に、思わず一歩退いてしまう。俺だけじゃない。リーゼも、ゲオルクも、顔色を変えている。魔力に敏感な者ほど、この異常さがわかるのだ。
「……この奥に、大物がいるな」
アルたんが低い声で言った。剣の柄を握り直す手に力が入っている。
「かなりやばい。引き返すか?」
クルトが珍しく弱気とも取れる提案をした。それだけ、この気配が尋常ではないということだ。
「ははっ、燃えるじゃねえか。ははっ」
カールだけが嬉しそうにしている。こいつの度胸だけは本物だ。
「……行こう」
アルたんは数秒の躊躇の末、前に進むことを選んだ。勇者だからだ。名前だけの勇者じゃない。窮地から逃げないからこそ、こいつは勇者なのだ。
俺は──なぜだか不思議と、怖くなかった。
三日前の俺なら、ここで真っ先に逃げ出してただろう。村人だった頃の俺は、戦闘が始まるたびにアルたんの背中に隠れて、終わるのをただ待つだけだった。自分が無力だと知っているからこそ、戦う意志すら持てなかった。
でも今は違う。力がある。使い方はわからなくても、確かにこの体の中に眠っている。あの封印を解いた時の、指先に集まる光の感覚を、俺はまだ覚えている。
それに──リーゼが隣にいる。ライバルだか仲間だかよくわからない関係だけど、この子が横にいると、不思議と踏ん張れる気がした。
「ちょっと。あんた、なに笑ってんのよ」
リーゼが不思議そうな顔でこちらを見ていた。自分が笑っていたことに気付いて、慌てて表情を引き締める。
「な、なんでもない」
「変な人……」
リーゼは呆れたように呟いたが、その口調にもう棘はなかった。
温度が下がり、魔石灯の光が弱まっている。壁の文様がより複雑になり、古代文字が密度を増して刻まれていた。リーゼによれば、これはより高度な魔術が施されたエリアに近づいている証拠だという。
さらに二回ほど小規模な戦闘をこなした。コボルト八匹の群れと、石を擬態した待ち伏せ型のガーゴイル三体。どちらもパーティーの連携で問題なく処理できたが、リーゼの消耗が目に見えて激しくなっていた。
「リーゼ、少し休むか?」
アルたんが声をかけると、リーゼは即座に首を振った。
「大丈夫よ。あたしを誰だと──」
「見栄を張るなとは言わないが、倒れられたら困る。五分だけ休め」
有無を言わさぬ口調に、リーゼは渋々腰を下ろした。壁に背を預けて、小さく息を吐いている。強がっているけれど、顔色が少し蒼い。
俺はなんとなく、リーゼの隣に腰を下ろした。
「……なによ」
「べつに。隣、空いてたから」
「…………」
リーゼは無言で目を逸らした。拒絶ではなさそうだったので、そのまま隣にいることにした。
「ねえ」
しばらくして、リーゼが小さな声で言った。
「あんた、なんで魔術使えないの。本当に」
顔は壁の文様を見つめたまま。こちらを向いてはくれないけど、その声は先ほどまでの刺々しさが薄れていた。
「……信じてもらえないと思うけど、この力はもともとわたしのものじゃないんだ。ある人から受け取ったもので、使い方がわからないの」
「他人から受け取った力……?」
リーゼが怪訝な顔でこちらを見た。
「それって、どういう……」
「うまく説明できないんだけど。だから、リーゼが自分の力で三年間頑張ってきたのは、本当にすごいと思ってる。わたしには、そういう経験がまったくないから」
嘘をついてない範囲で、伝えられることを伝えた。リーゼは長い間黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……言われなくたって、あたしは自分に自信を持ってたわよ。でもあんたを見てたら、わかんなくなった。あんたの封印解除には、正直、度肝を抜かれたもの」
「ごめ──」
「謝ったら怒るって言ったでしょ」
リーゼが初めて、ほんの少しだけ笑った。口の端がほんの一瞬だけ持ち上がっただけの、それは小さな笑みだった。けれど、ずっと戦闘態勢だった翡翠の瞳が、一瞬だけ柔らかくなったのを俺は見逃さなかった。
「でも、次はあたしが先にやるからね。覚えときなさい」
「うん」
少しだけ、彼女との距離が縮まった気がした。
「そろそろ行くぞ」
アルたんの号令で全員が立ち上がり、さらに奥へ進む。
通路の先に、巨大な二重扉が現れた。扉の表面には、今まで見てきた文様とは桁違いに複雑な魔法陣が刻まれている。
そして──扉の向こうから漏れ出してくる魔力の圧が、凄まじかった。
体中の毛穴が開くような感覚に、思わず一歩退いてしまう。俺だけじゃない。リーゼも、ゲオルクも、顔色を変えている。魔力に敏感な者ほど、この異常さがわかるのだ。
「……この奥に、大物がいるな」
アルたんが低い声で言った。剣の柄を握り直す手に力が入っている。
「かなりやばい。引き返すか?」
クルトが珍しく弱気とも取れる提案をした。それだけ、この気配が尋常ではないということだ。
「ははっ、燃えるじゃねえか。ははっ」
カールだけが嬉しそうにしている。こいつの度胸だけは本物だ。
「……行こう」
アルたんは数秒の躊躇の末、前に進むことを選んだ。勇者だからだ。名前だけの勇者じゃない。窮地から逃げないからこそ、こいつは勇者なのだ。
俺は──なぜだか不思議と、怖くなかった。
三日前の俺なら、ここで真っ先に逃げ出してただろう。村人だった頃の俺は、戦闘が始まるたびにアルたんの背中に隠れて、終わるのをただ待つだけだった。自分が無力だと知っているからこそ、戦う意志すら持てなかった。
でも今は違う。力がある。使い方はわからなくても、確かにこの体の中に眠っている。あの封印を解いた時の、指先に集まる光の感覚を、俺はまだ覚えている。
それに──リーゼが隣にいる。ライバルだか仲間だかよくわからない関係だけど、この子が横にいると、不思議と踏ん張れる気がした。
「ちょっと。あんた、なに笑ってんのよ」
リーゼが不思議そうな顔でこちらを見ていた。自分が笑っていたことに気付いて、慌てて表情を引き締める。
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リーゼは呆れたように呟いたが、その口調にもう棘はなかった。
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