神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、道士を志すも挫折するの巻

其の四

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 こうして僕は、白蛇、赤鳥、黒鬼の、三位一体攻撃に晒され、息も絶え絶え……まさに、絶命寸前だった。ああ……今までの、ろくでもない思い出の数々が、走馬灯となって脳裏によぎる。せめて【空劫浄土くうこうじょうど/天国】へ逝けますように……けれど、そんな最悪の窮地に立たされた……と云うか、はさまれた僕を助けるべく、頼もしい〝救世主〟が現れたのだ!
「そこまでだ! 妖怪ども!」
 どこからともなく響いた大音声、赤い月明かりに照らされ、廟の入口に立ちはだかる男。
 三妖怪は、その声に驚き、ビクッと身をすくませた。
 僕も、声の主を凝視し、ハッと息を呑んだ。
「……ま、まさか……」
 布で巻き簡単にひとたばねにした蓬髪、黒い道服に革の手甲脚絆、腰には反りのきつい偃月刀えんげつとう、色黒の精悍かつ雄々しい体躯、鋭利で力強い眼光、無精髭に右頬の傷……啊、助かった! 天帝君てんていぎみは僕を見捨てなかったんだ! 道士と呼ぶには、いささか胡乱うろんな姿形ではあったが、僕はその男の登場で心底安堵し、感泪にむせび、歓喜に声を打ち震わせた。
「し、神々廻ししば道士さま! 啊、夢じゃない……助けに来てくれたんですね!?」
 神々廻道士は、険悪な表情で、からみ合う三妖怪と僕を睨み、つかつかと歩み寄った。
蛇那じゃな! 蒐影しゅうえい! 呀鳥あとり! この三莫迦さんばかが! なにし腐っとんじゃあ!」
 そう叫ぶなり、神々廻道士は、なんと三妖怪の頭を、鉄扇てっせんで思いきり殴打し始めたのだ。
『ごめんなさい、ご主人さま! 許して……きゃあっ!』
――スパァンッ!
『悪気はなかったのだ! ただ、こいつが……ぐほっ!』
――スパァンッ!
『ちがう! 俺は、止めようとしただけで……おげっ!』
――スパァンッ!
「てめぇも、俺さまの留守中、勝手に上がりこみやがって! 巫山戯ふざけんなよ、破落戸ごろつきが!」
――スパァンッ!
「いっ……痛ぁあっ! なんで僕まで殴るんですか!?」
「問答無用じゃ、このボケェ!」
――スパァンッ!
「ふぎゃあっ……ひ、非道い! 僕だけ、二発も!」
 神々廻道士の一撃で、三妖怪はたちまち、人の姿に戻り、頭を押さえ、項垂れている。
 神々廻道士の二撃で、僕は情けない悲鳴を上げ、泪目で頭を守り、異議を唱えている。
 すると、ますます激昂した神々廻道士が、さらに鉄扇を振り上げ、僕を威嚇して来た。
「もう一発、喰らいてぇか!」
「い、いい、いいえ! 結構です! 本当に、冗談抜きで痛いモン!」
 僕は慌てて、防御の姿勢を取り、あまりにも理不尽な暴虐から、逃れようとした。
「なにが〝モン〟だ! それが男の言葉か! イラつかせやがって! さっさと出てけ!」
――スパァンッ!
 結局、殴られた。
 うぅ、マジで痛い……これで三発目だぞ! いくらなんでも、非道すぎるよ!
 これ以上は、堪えられない。無駄な鉄扇攻撃を受ける前に、さっさと退散しよう……と、思ったんだけど、しまった! 白蛇の毒が、まだ効いてる! 体がしびれて、動けない!
「は、はい! すぐに……そうしたいんですが、毒のせいで、体が」と、僕が事情を説明し終えるより早く、瓢箪を豪快にあおった神々廻道士が、僕に向けて口内の酒を噴射した。
「ぶぅ――っ!」
「うひゃあ! いきなり、なにすんですか! うえっ……酒臭い!」
 僕は、顔から、衣服の上から、びしょ濡れになり、また鬼去酒きこしゅの強烈な酒気にてられ、思わず吐きそうになった。神々廻道士は、なおも腹立たしげな語気で、辛辣に云い捨てた。
「清めの『鬼去酒』だ! これで少しは、すっきりしたろ! 早く出てけ!」
 散々な云われようだが、神々廻道士の云う通り、確かに鬼去酒を呑んだ(気持ち悪いけど、入っちゃったんだよ、口に!)お陰か、僕の体の不調は、一気に吹っ飛んでしまった。
「啊、本当だ……じゃあ、これで……」
 僕は、すっかり当初の目的を忘れ、この厄介な状況から早く解放されたい一心で、そそくさと神々廻道士の廟から、出て往こうとした。
 ところが、ここでまた、事態は急転した。
「いや、待て。やっぱ、殺す」
 今度は偃月刀を抜き払い、僕の進路をふさいだ神々廻道士……切っ先を、僕の咽元に突きつけては、とんでもないことを云い出す始末。僕は吃驚びっくり仰天し、思わず声を裏返した。
「はぁ!?」
「お前、朝廷の犬だろ」
「えぇ!?」
「あるいは、百鬼討伐隊の密偵」
 次々と嫌疑をかけては、僕に不審な眼差しを向ける神々廻道士だ。
 僕は、ついつい本音まで吐露して、必死に弁明した。
「ち、ちがいますよ! 僕は、妖怪に騙されて、このボロ屋に連れこまれ……」
 啊、いけね! ボロ屋は、ちょっと、まずかったかな?
「ボロ屋だぁ? 俺さまの廟を、云うにこと欠いて、ボロ屋だぁ!?」
 うわぁ……やっぱ、かなり……いや、凄く、まずかったよぉ!
「大体、てめぇ! なにが目的で、この俺さまの廟に、不法侵入しやがった!」
「だから、妖怪に騙されて……じゃない! 僕は、あなたに弟子入りし……ぎゃふっ!」
――スパァンッ!
 また、殴られた! どうしてこの人は、こうも乱暴なんだ!
「もうやめてください! 僕はあなたと、喧嘩しに来たワケじゃないんです! 今も云おうとしたように、僕は高名な《神々廻道士》さまの……つまり、あなたの弟子になりたくて、この廟を訪ねたんです! それなのに、妖怪に喰い殺されかけるわ、不審者あつかいされるわ……何故、話もろくに聞かず、暴力ばかり振るうんですか! 非道すぎますよ!」
 すっくと立ち上がり、僕は勇気を振りしぼって、神々廻道士に諫言かんげんした。けれど神々廻道士は、平気の平左。まったく悪びれもせず、口の端をゆがめて、からかい気味に云った。
「何故、てめぇを殴るのかって? 面白いからに、決まってるじゃねぇか!」
 僕は、あまりにも理不尽な神々廻道士のセリフに、驚倒し、戦慄し、絶句した。
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