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汪楓白、鬼憑き芝居に加担するの巻
其の壱
しおりを挟む『あなた……楓白さま』
『その声は、凛樺! 戻って来てくれたのかい!』
『ごめんなさいね、私……あなたのそばを離れて、ようやく判ったの』
『なにをだい?』
『私にとっての運命の相手は、榮寧なんかじゃない……やっぱり、あなただって』
『啊、凛樺! やっと、そこに気づいてくれたんだね!』
『こんなワガママで、ふつつかな女だけれど、また……妻としてそばに置いてくださる?』
『勿論だよ、凛樺! 僕はずっと、君を待ってたんだ! とても、うれしいよ!』
『楓白さま……心の底から、愛しています』
『僕もだよ、凛樺……世界で一番、愛しい人……』
二人は手を取り合い、微笑み合い、慈しみ合い、かつての愛の巣へ、帰っていった。
「けぇ――っ! 阿呆クサ! よくもこんな莫迦莫迦しい、ご都合主義な話を臆面もなく、書けるモンだよなぁ! 厚顔無恥ってなぁ、お前みてぇな色ボケ野郎のことを云うんだ!」
「は、はい!?」
――ガバッ!
何者かの、悪意に満ちた罵声を聞いた気がして、僕は現実に引き戻され、埃っぽい寝台の上、勢いよく跳ね起きた。うわっ……本当に埃っぽい。凛樺が出て往ってから、早半月。
こりゃあ一度、大掃除しないとダメだな……まぁ、彼女も家事は得意じゃなかったけど、いくらなんでも酷すぎる。布団は継ぎだらけ、中綿は飛び出し、天蓋には穴が開き、仕切りの垂れ布は、あちこち破けて、しかも黄ばんでいる。
その上、なんか物凄くカビ臭い。
ん? それにしても、変だぞ? ここ、いつもの僕の部屋じゃないよな……あれれ?
「えぇと……ここは? なんか、非道い悪夢を見ていたような……」
僕は眠気の残る目をこすり、室内の様子を見回し……そして、ハッと息を呑んだ。
「あら、やっとお目覚めね、シロちゃん」
なんと僕のかたわらに、いつの間にか例の妖怪の一匹が、チョコンと座っていたのだ。
「うわぁっ……白蛇オカマ!」
『なんだと、コラ!』
思わず悲鳴を上げた僕……だけど、その言葉が気に入らなかったようで、妖怪は蛇面に戻り、牙をむいて僕を威嚇した。僕はおびえて慌てふためき、寝台から転げ落ちてしまった。なおも蛇特有の威嚇音を上げ続ける妖怪に、僕は恥も外聞もなく媚びへつらっていた。
「ひぇえっ! ご、ごめんなさい! 蛇那さん……でしたよね? 相変わらず、お美しい」
「そうよ。坊や、判ってるじゃない……今後、お口の利き方には、要注意ね❤」
蛇那はようやく怒気を抜き、人間の美少女顔を取りつくろうと、ニッコリ微笑んだ。
僕は額の汗をぬぐい、大きく息を吐いた。すると、寝台の後ろから、不気味な笑い声が聞こえて来た。僕はまたまた驚き、急いで背後を振り返る。そこにいたのは、無論……。
「お前、学習能力ねぇな。さぁて、使い物になっかな」
神々廻道士である! 彼も相変わらず、道士とは思えぬ気だるい姿で、椅子にもたれかかり、こちらをジッと凝視している。
その間も、瓢箪から絶えず、酒をあおり続けている。
強烈な酒気と匂いから、中身はやはり『鬼去酒』だと判る。
と、云うことで……だぁ――っ! やっぱり、悪夢じゃなかったんだ!
首輪も、しっかりと、嵌めてあるよぉ――っ!
僕は絶望的な気持ちになったが、いや……ここで負けていられない。こいつらの隙を見て逃げ、ただちに判官所へ駆けこみ、首輪は知り合いの神祇官に、なんとかしてもらおう。
そんなことを考えつつ、僕は別の疑念をいだき、蚊の鳴くような声で二人に問いかけた。
「それで……あの、お二人は、なにをなさって……僕は一体、どうして……」
「ふふ……君の寝顔を見て、色々と思いを馳せてたの❤」
「はぁ?」
蛇那は悪戯っぽく笑い、何故か舌なめずりして、僕の眉間を指でつっつく。
見てくれこそ美少女だけど……凄味がある。悪寒が走る。背中を冷や汗が伝う。
「それより、お前が書いた本……読ませてもらったぜ。こりゃあ、傑作だな」
神々廻道士が手にしている本……それは僕の日記帳でもあり、きわめて個人的な物語や追想を書いた、散文集でもあるのだ。どうやら僕が失神中、勝手に懐から持ち出したらしい。
でも……たとえ、鬼畜のような人非人でも、やっぱり、ほめられれば素直にうれしい。
「え? それ……本当ですか? 一度は心の離れた僕と妻を題材にし、二人が再び愛を取り戻すまでの試練に満ちた顛末を、少し、若干、かなり、だいぶ、脚色して、僕自身の願望もまじえて書いた、泪なしでは絶対に読めない、日記形式の大作なんです! 未完成で、かつ今のところは世に出すつもりもない、あくまで自己満足の域を出ない作品なんですが、師父……いえ、偉大なるご主人さま、気に入ってくれましたか? いやぁ、うれしいな! それなら思いきって、版元へ持ちこもうかな! そうだ……あるいはこれを読んだ凛樺が、感動し、己の行いを反省し、僕の愛情の深さをあらためて知り、戻って来てくれるかも!」
そうだよ、その手があったよ。僕の唯一最高の武器である筆の力を借りて、凛樺の心情に訴えかければいいんだ。なにも、こんな恐ろしい伏魔殿を、訪ねることもなかったんだ。
と、僕が一人、悦に入っていた時、それを打ち破るように、神々廻道士が嘲った。
「笑った、笑った、最高、最高、ケッサク、ケッサク! 腹筋が壊れかかったぜ、哈哈!」
「……完全に、僕を侮辱してますね」
くっ……畜生! やっぱり、こんな鬼畜の人非人に、僕の純真な感性が、伝わるワケがなかったんだ! 喜んで損した! 啊、もう! なんか、イライラする! 腹立たしい!
けれど神々廻道士は、そんな僕の無垢な想いを、さらに踏みにじるかの如く云い放った。
「とくにここ……別れた女房を『世界で一番、愛しい人』なぁんてよ、甘い言葉で家に引き入れたあと、殴る蹴るの暴行を加えた挙句、悪友どもと寄ってたかって犯しまくり、腰が立たなくなるまで、散々慰み者にするってくだり……お前の、素直な思いのたけが、鋭い筆致でぶつけられてて、グッと来たぜ。上品ぶってるが、お前も相当の下衆じゃねぇか」
なな、な、なにぃ!? 僕は怒り心頭で、神々廻道士から、大切な日記帳を奪い返した。
「ちょ……ちょっと! やめてください、師父! そんな場面、一行だって書いた覚えはありませんよ! そも、この僕が、命より大切な凛樺に、そんな酷い真似できるワケな……」
「師父ぅ? はぁ? 誰だってぇ? あぁん?」
――ヒヤリ……冷酷な偃月刀の刃が押し当てられ、僕の頬を……いや、心を凍てつかせる。
「偉大なるご主人さま、でした!」
慌てて訂正する僕。
くぅ――っ! なんで、僕が、こんな目に! こんな奴に、謝らなきゃならないんだ!
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