神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、羞恥心の限界を超えるの巻

其の弐

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 さて、僕は死に、物語は完結……したかに見えたが、いや……悪夢はまだ、続いていた。
「それにしても、あのクソオヤジ! 正気に戻った途端、えらそうな態度取りやがって! 折角、助けてやったのに、手間賃は、これっぽっちかよ! ケチ野郎! これじゃあ、骨折り損のくたびれ儲けじゃねぇか! ムカッ腹の立つ! いっそ目の前で小娘を、嬲り者にしてやりゃあよかったぜ! 畜生っ……この莫迦ばかは、信じられねぇポカやらかすしよ!」
――バンッ!
「柩に放りこんで、村民から謝礼金を騙し取り、さっさと引き上げるつもりが……まさか、この莫迦が、あんな真似するとは……俺さまの刀身をワザと受け止め、しかも、あんな信じられねぇコト……とにかく、お陰で村人どもをなだめ、取りつくろうのに、余計な手間をかけちまったじゃねぇか! 一体なんなんだよ、こいつ! イラつくったらねぇ!」
――バンッ、バンッ!
「まぁ、まぁ、ご主人さま。そう、お怒りにならず……」
「こんな危険なヤツ、さっさと殺しちまいましょうぜ!」
ああ、それが得策ですな。廟へ着く前に、この場で……」
――バンッ、バンッ、バンッ!
「だぁあぁぁぁあっ! うるさあぁぁぁあいっ!」
 何度も何度も執拗に、柩の上蓋を叩かれ、僕はようやく意識を取り戻した。
 思わず上蓋を押し開け、柩を乗せた大八車の上に、敢然と立ち上がる。無論、素っ裸で。
「おぅおぅ。相変わらず、口先だきゃあ、威勢がいいな」
 同じく大八車の上、柩の横に乗り、僕を嘲笑いながら、瓢箪酒をあおる神々廻ししば道士だ。
「ついでに、下もねぇ……クス❤」
 大八車の後ろから、一見美少女の蛇那じゃなに、下腹部を指差され、僕は慌てふためいた。
「うひゃあぁぁあっ! ちょっと、見ないでくださいよぉぉおっ!」
 僕は、その部分だけでも手で隠し、急いで柩の中へ座りこんだ。すると大八車の横側へ、ヌゥ――ッと立ち現われた不気味な影法師・蒐影しゅうえいが、僕の倉皇そうこうぶりを茶化すように云った。
「見せつけるかのように、我々の目前へ立ちはだかったのは、お前の方だろう」
 大八車の牽き手・赤毛の呀鳥あとりも、僕を小莫迦にしたように見上げ、口の端をゆがめる。
「今更、隠したってムダムダ。みぃんなに、見られちまったからなぁ」
 そんな、絶望的なこと……真実でも、云わないでくれよぉおっ!
「……ってか、なんで僕、裸なんですか! しかも髪は、ボサボサだし……僕に一体、どんな恨みがあって、晒し者に……ここまでの辱めに合わせるんですかぁ! うわ――ん!」
「男のクセに、泣くんじゃねぇ!」
――バチ――ンッ!
 途端に、情け容赦ない張り手が炸裂……ひえぇえっ! 頬っぺた、腫れそう!
「痛ぁあっ! また殴る! どうして、あなたは、そう暴力的……アレ? そう云えば僕、さっきあなたに、胸を刺されたような……でも、傷跡がない……肢だって、物凄い痛みを感じたのに、なんともない……立ち上がれる……ってことは、悪夢だったのかなぁ……」
 そうだ、あの時……確かに、僕は、こいつに……どうなってるんだ!?
 すると神々廻道士は、不機嫌そうに舌打ちし、僕を睨みつける。
「誰が、〝こいつ〟だって?」
「ひっ……ごめんなさい、ご主人さま!」
 僕はすっかり、気持ちの面で委縮し、条件反射で、謝る必要もないのに、謝っていた。
 神々廻道士は、逆にどんどんつけ上がり、悪辣きわまりない暴論を、平然と振りかざす。
「てめぇは罪人の死骸だっつってんのに、あんな身綺麗なカッコしてたら、怪しまれるだけだろ! そんなことも判らねぇのか、この莫迦が! 文官のクセに、ホント頭わりぃな!」
「なるほど、尤もですね。はい……いや、もう騙されないぞ! よくも僕に、生き恥を!」
 僕の我慢も、ついに限界に達し、拳を振り上げ、神々廻道士へ、殴りかかろうとした。
――ドカッ!
「ふぐっ……」
 無防備な股間に、神々廻道士の足蹴りが直撃……って、冷静に、状況を説明してる場合じゃないや! こいつは効いたぁあっ! 死ぬほど痛いよぉおっ! 痛すぎて、はっ、吐きそう! うっぷ! もう……なんも云えんわ!
 男なら、察してくれるよねぇぇえっ!
「脳足りんの阿呆が! 俺さまに、口ごたえすんじゃねぇ! 八つ裂きにすんぞ!」
 …………くっ! 怒声も響く……つらい……潰れた、かも…………うがあぁぁあっ!
「嫌だ……痛そう」
「声も出んらしい」
「自業自得だろ!」
 蛇那、蒐影、呀鳥は、三者三様。口々に、さまざまな言葉を、投げかけて来る。
 但し、誰の顔にも、嘲るような笑みが、たたえられていた。ち・く・しょ――――っ!
 永らくの間、脂汗をかき、悶絶している僕だったが、やがて、ナニがナニして、ナニになり……なんとか苦痛も引いて来たので、ようやく柩の縁につかまって、半身を起こした。
「なんだ、永眠したんじゃねぇのか?」
「……ゼェ、ゼェ、悪い冗談は、ゼェ、ゼェ……や、やめてくださいよ」
 ただ、呼吸の乱れだけは、なかなか元に戻らなかった。
 僕は切れ切れに、声をつむぐのが、やっとだった。
 さらに半時ほどすると、僕は急に寒気を覚え、ゾクッと身震いした。
 多分、廟の近くまで来ているのだろう。辺りは鬱蒼たる竹林で、蚊も多い。
 天には赤い忌月いみづきが満々とたたえられ、深奥な夜闇を、不気味に照らし出している。
 暑気も隆盛の胠月きょげつ、朱夏とはいえど、全裸では寒くて当然だ。
 それに、羞恥心だってある。
「あの~、すみません。凄く寒いんですけど……そろそろ服を、返してもらえませんか?」
 僕は思いきって、延々と酒をあおり続ける神々廻道士に、こう願い出た。しかし――、
「啊、アレな。俺さまの腹ン中だ」
「え?」
「酒代にして、呑んじまったってことだよ」
「えぇっ!?」
「ついでに、懐中品も全部、酒代に変えたからな」
「えぇえっ!?」
「おっと、こいつだけは売れなかったぜ。こんなクソくだらねぇ三文小説、ゴミだってよ」
「えぇえぇぇえっ!?」
 神々廻道士は、ボロボロになった日記だけを、僕に投げ返した。
 そんな……あんまりだ! 僕になんの断りもなく、勝手なこと……非道すぎる! どこまで根腐れた野郎なんだ、このイカサマ道士は!
 こんな奴、死後は絶対、地獄逝きだ!
 と、心の中で、思いっきり悪態をついた、その瞬間!
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