神さまなんて大嫌い!

緑青あい

文字の大きさ
19 / 64
汪楓白、羞恥心の限界を超えるの巻

其の壱

しおりを挟む

 その後、神々廻ししば道士の働きで、鬼騒動が収まった村落では、ささやかな宴席が設けられ、村長むらおさの邪鬼祓い成功を祝い、集まった住民たちにより、こんな会話がなされていたそうだ。
「それにしても、神々廻道士さまは、素晴らしい御方だなぁ」
「本当ですね、お父さま。人は見かけではないのだと、よく判りました」
「そうそう! 現れた当初は正直、不安だったがねぇ……よくやってくれたよ!」
「身形はとにかく、強くて精悍で勇敢で……顔立ちも、なかなか男前だったじゃないか」
「なんにせよ、今夜は村長の完治と、神々廻道士さまの活躍に対し、祝盃を挙げようぜ!」
 村長も、愛娘も、住民たちもみな、村落中央広場の焚火台を囲み、酒酌み交わし、口々に神々廻道士へ惜しみない賛辞を送り、彼の武勇をほめたたえていた。ところが、そんな風に浮かれ調子の村人たちへ、突如、妖しい集団が忍び寄って来て、祝宴に水を差した。
「その祝盃、しばし待たれよ!」と、威風堂々たる男声。
 背後の闇に、ズラリと立ち並ぶのは、赤い戦袍せんぽうの一団。
 腰には段平刀だんびらがたな、背には〝事難方見丈夫心じなんほうけんじょうぶしん〟の黒字隊訓。
 振り返って、その姿を見るなり、村人たちは震撼した。
「そ、そんな……嘘だろ、まさか!」
「なっ……何故、あなたがたが……」
「「「ひっ……【百鬼討伐隊ひゃっきとうばつたい】!?」」」
 陶磁器製の祝盃が、村長の手からすべり落ち、地面で粉々に砕け散った。
【百鬼討伐隊】……それは、住劫楽土じゅうこうらくどを守護する二大軍部【左右衛士府そうえじふ】から選抜された、精鋭ぞろいの鬼退治専門護国団だ。全十二小隊からなり、おもに邪鬼や妖怪、鬼憑き罪人を捕縛断罪するのが仕事である。彼らは斬り捨て御免の権限を持し、ひとたびこの残忍な狩人に、鬼憑き嫌疑をかけられたが最期……一族郎党、連座で死罪というのが常套だった。
 ゆえに、天下の悪法『百鬼狩り令』発布時の当世では、民草たみくさから鬼より恐れられている存在なのだ。当然、村人たちも身に覚えがあるため、余計に、震え上がるのは道理だった。
「あ、あの……どういった御用でしょう」
 それでも平静を装いつつ、勇気ある村の若者が、赤戦袍の一団へ問いかけた。ちなみに、彼らの戦袍が赤いのは、討伐相手の返り血で、武功を競い合うように、染めているからだ。
「うむ。ここで鬼憑き騒ぎがあったと、近在の村の者から、通報を受けてな」
 副長とおぼしき髭面の壮年男が、威圧的な口調で、こう云った。村長は顔面蒼白、娘は戦慄、住民たちは焦燥……とにかく、みなが一丸となり、慌てて討伐隊の疑念を否定した。
「ご、ご冗談でしょう! 鬼憑きなんて、この村にはいませんよ!」
「えぇ、そうです! 謂われなき嫌疑は、はなはだ迷惑です!」
「そんなの、誤報に決まっています! どうぞ、お引き取りください!」
 しかし、残忍で執拗な狩人たちが、簡単にあきらめるはずもなく……討伐隊のまだ歳若き鬼隊長《鬼焼おにくべの彪麼ひょうま》は、炯々たる眼光で村人たちを睨み、ズバリ核心を突いて来た。
「それは妙だな……先程、お前たちが《神々廻道士》の話をしているのを、確かに聞いたのだが……奴が訪れたということは、邪鬼や妖怪にまつわる騒動が、ここで起きたという証ではないのか? 正直に話した方が、身のためだぞ? 奴は、ここでなにをしたのだ?」
「そ、それは……」
 村人たちは、鬼隊長の有無を云わせぬ気迫に圧倒され、うつむき、口ごもった。
 そこへ拍車をかけるように、一歩前に出た厳格な隊正が、語気を荒げて恫喝する。
「云え! 云わぬと、貴様ら全員、鬼憑きとして、連座の死罪にするぞ!」
 殺伐とした空気を漂わせる隊員が、一斉に村人たちを取り囲み、武具を軋らせ威嚇する。
 村人たちは腰砕け、おびえて冷や汗まみれ、それでも懸命に取りつくろおうと云い返す。
「そんな、殺生な! いくら、護国団筆頭のお役人さまでも、あまりに乱暴すぎます!」
「どうぞ、私どもを信じてください! 決して、嘘偽りなどは申しておりません!」
「これ、この通り……鬼憑きの兆候を見せる者とて、どこにもおりますまい!」
 だが、鬼より怖い【百鬼討伐隊】に、そんな云いわけは、まったく通用せず、かえって彼らの怒りに、火を注ぐだけの結果となってしまった。副長が、鬼の形相で怒鳴りつける。
「黙れ! 最早、貴様らに、選択肢などないのだ! 我々の云う通りにしろ!」
 こうなっては最早、如何いかんともしがたい。ついに観念した村長は、せめて愛娘や村人、恩人である神々廻道士だけでも救おうと、自ら名乗り出て、赤戦袍軍団に情けを乞うた。
「うっ……わ、判りました……ですが、神々廻道士さまは、あくまで私に憑いた邪鬼を祓ってくださっただけで……すべての咎は、邪鬼など依せてしまった、私自身にあります! 娘や、村人たちには、なんの罪もありません! ましてや、神々廻道士さまは、私どもの恩人! これ以上、迷惑はかけたくありません! どうか、どうか……寛大なご処分を!」
 地面に額をこすりつけ、必死に懇願する村長の姿を横目で見やり、鬼隊長は長嘆息した。
「ふっ……神仏まで手玉に取るという、イカサマ道士か。毎度毎度、我々の仕事を横取りしおって……今度ばかりは、許さんぞ。奴の化けの皮を、衆目の前ではがしてやる……」
 低くこもった声で、そんな怨言をつむぎ、【百鬼討伐隊】の中でも、とくに武勲誉れ高い『諡火おくりびの第三小隊』を統べる若き指揮官《鬼焼べの彪麼》は、黒瞳こくどうに闘志を燃えたぎらせた。しこうして【劫貴族こうきぞく(住劫楽土の人口大多数を占める『劫族こうぞく』の中でも、とくに身分の高い支配階級)】出身の彼は、この日……神々廻道士への敵愾心を、ますます強めたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...