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汪楓白、官兵に誤認逮捕されるの巻
其の四
しおりを挟む「カッコつけんなよ、彪麼。初恋の女の前で、うんこ漏らしては泣きわめいてたてめぇに、今更……哈哈、誇りもクソもあるか。いや、クソはあるな。あんだけ大量に垂れ流しちゃ」
「うえぇっほん! げほげほっ、ごほんっ! なんの話か判らん!」
はい? 今……なんと、おっしゃいました? うん……?
「た、隊長? 大丈夫ですか? お顔の色が……」
かたわらの副長が、急に咳きこみ、青ざめる燕隊長を、そっと気づかった。
しかし、その副長自身も、神々廻道士の発した信じがたいセリフに、かなり動揺している様子だった。
そんなことなど、おかまいなしで、神々廻道士の悪辣な出放題は続く。
「とぼけるなって、彪麼。そういや、志学館時代なんざ、せんずりしてるトコを同期生全員に見られて、三日間も高熱出して寝込んじまったっけな。ありゃあ、ケッサクだったぜ」
「え? 今の話、本当かよ?」
「まさか……俺たちの隊長にかぎって、そんな……なぁ」
「でも、なんか隊長の様子……おかしいぜ?」
今度は、背後に整列する隊員たちにまで、動揺の波が広がった。ヒソヒソとささやき合い、だが、まさかと思って打ち消し合い、尊崇する燕隊長の一挙手一投足を見守っている。
当の燕隊長は、いよいよ激しく咳きこんでいる。
「ぐえぇっほ、げっほ! ごほごほっ……貴様ぁ、もうつまらん作り話はよせ!」
えぇと……うろたえかたが、尋常じゃないんですけど……本当に、作り話、ですよね?
けれど、神々廻道士が次に放った悪口雑言こそ、とどめの決定打となった。
「そうそう。初体験の相手に、いきなり菊花責めして、ぶっ飛ばされたって例の話……さすがにあれは、嘘だよな? いくらてめぇが男色でも、そこまで下衆な真似しねぇよな?」
――ピキッ!
あ、燕隊長を、取り巻く空間に、一瞬だけど、亀裂が、走った、ような……直後!
「黙れぇえ! 景気づけだとか云って、告白の前に、下剤入りの酒を呑ませたのは、貴様だろうが! 八角賭博の借金払えなかった俺に、せんずり強要したのは、貴様だろうが! しかも、俺が云いなりになるのを見越した上で、同期生にあらかじめ招集かけておいたのも、貴様の企みだろうが! その上、賭博も結局は、貴様のイカサマだったではないか! 最後の話にしたって、なにも知らない俺に、『女の喜ばせかたを教えてやる』とか親切ごかして、大嘘教えた挙句、見事にしくじって嫌われた俺を嘲笑い、みなに『彪麼は男色だ』と云いふらして回ったのは、貴様だろうが! どこまで俺を、愚弄すれば気がすむんだ!」
烈火の如く怒り狂い、鬼の形相で、地団駄踏んで、わめき散らす燕隊長は、最早、先刻までの冷静な男の美学からは、かなりほど遠い人物像へと、なり下がってしまっていた!
「た、た……隊長」と、二の句が継げない副長。
「「「全部、実話かよ……」」」と、呆然自失の隊員一同。
「「「しかも、男色って……マジ?」」」と、顔を赤らめる極少数。
僕も驚愕のあまり、ワナワナと震えながら、神々廻道士を振り仰いだ。
そんなことまでするなんて、鬼畜にも劣る所業じゃないか!
しかも、平然と部下の前でばらし、大恥かかせちゃって……こんな人非人、初めて見たよ!
可哀そすぎるだろ!
「悲惨すぎる……ってか、非道すぎますよ、師……神さま」
「俺さまは、真実しか口にしてねぇぞ。そいつだって、認めてんじゃねぇか。なぁ?」
燕隊長は、悔しまぎれに激情をぶちまけた結果、まんまと神々廻道士の罠に嵌まり、大変な墓穴を掘ってしまったことに、気づいたようだ。ガタガタと、痛ましいほど震え出す。
啊、なんてこった! 僕に少しでも力があったら、彼を助けてあげたいよ!
うぅん……せめて入れる穴くらい、掘ってあげようかなぁ。
「な、なにをボサッとしている、お前たち! 我らの敬愛する隊長を、散々愚弄した不届き者だぞ! ただちに捕縛するのだ! 場合によっては、この場で殺してもかまわん!」
ホッ……よかった。副長さんは、まだ敬愛の念をいだいてくれてるみたいです。
ちなみに、同情……では、ないよね?
「頭の固い奴らだな……ほれ、莫迦シロが、こんだけ丁寧に謝ってんだ。許してやれよ」
グイッと僕の頭を押さえつけ、神々廻道士が相変わらずの軽口を叩く。
こらぁ――っ!
「冗談じゃない! 僕は一切、無関係……ぎゃはぁあっ!」
目の覚めるような、回し蹴りでした……はい。
僕は、副長の足元に倒れこみ、前後不覚となった。
「弟子も同罪だ!」
副長は、そんな僕を足蹴にし、冷酷な声音で宣告する。
「弟子じゃねぇ、そいつぁ奴隷だ」
「弟子でも、奴隷でも、ありません! 僕が一番の被害者で……おげっ!」
すかさず否定した僕に、腹を立てた神々廻道士は、ワザワザ副長の足元にいる僕のところへ、ズカズカと近づいて来て、僕の腹を思いっきり蹴りつけた。もう、泣きたいよぉ!
「喂々、そう熱くなんなっての。ついてってやるから。もう泣くなよ、彪麼」
完全包囲で、戦意高揚させる隊員一同を前に、神々廻道士は、のんびりアクビしながら云った。天下の護国団筆頭【百鬼討伐隊】ですら、片手間にあしらっちゃうこの豪胆さ!
怖いもの知らずにも、ほどがあるよ!
誰か、この極悪非道な鬼畜を、止められる人はいませんか!
「誰が泣いてるか! この巫山戯た連中を、『白宿本陣』に連行する! 往くぞ!」
燕隊長は、気持ちを立てなおし、あらためて厳格な面持ちで、部下たちに命令した。
「「「は、はい!!」」」
なんか、心なしか先刻より、隊員たち返事に、覇気がないような……って、他人を心配してる場合じゃない!
このままじゃあ、僕まで大罪人の汚名を着せられちゃうよぉ!
「ま、待ってください! お願いですから、話をっ……ごふっ!」
副長に、問答無用で当て身を喰らわされ、僕の視界は暗くなった。
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