47 / 64
汪楓白、愛妻の鬼難に発奮するの巻
其の壱
しおりを挟むしこうして、一刻ほどのち――、
地下牢へ戻された僕を、神々廻道士は、相変わらずの鷹揚さで迎え入れた。
「よぅ、早かったな。どうだった?」
「……散々でした。いきなり殴られるわ、屈強な隊員たちに、寄ってたかって厳しく尋問されるわ、その途中で、例の鬼生虫が出て来ちゃうわ……あいつ、脱走しちゃいましたよ」
僕は、燕隊長に云われた通り、神々廻道士を騙すための演技を始めた。
バレたら怖いけど、落ち着いてやれば大丈夫だ、楓白。首輪の宝玉は、壊れているらしいから、下手に動揺してボロを出さない限り、嘘だと見抜かれることはない……はずだ。
だって当の神々廻道士は、僕のセリフに喰いついて、いつものように嘲笑ってるモン。
「そうか! ついに脱糞したか! そいつぁ、よかったな!」
「脱走です! いい歳こいて、お漏らしなんかしませんよ! 失礼な!」
ところが、次の瞬間、神々廻道士の顔から、笑みが消え、口調は険悪になった。
「で、彪麼の野郎と、どんな謀略を練ってやがったんだ?」
「なんのことです?」
「とぼけんなよ。あいつに上手く丸めこまれ、表面上はすっかり仲良くなって、俺さまを陥れる詭計を、二人で練ってやがったんだろ? 隠したって無駄だぜ。お見通しなんだよ」
「わけが判りませんね」
僕は、背中にジットリと冷や汗をかきながら、必死で平静を装った。
もう、バレた? まさか……ものの二分で看破されるなんて、不甲斐なさすぎだ!
でも……やっぱり、バレてたんだ!
「喂、埋葬虫のオヤジ! 出て来い!」
突如、声を荒げた神々廻道士。
すると、天井部近くの小さな明かり取りの窓から、ぬるぅりと、なにかが忍びこみ、僕の足元へ落っこちた。それは瞬時に形を変えて、なんと!
「へへへ、先程は、どうも」
「げぇえっ!? 不潔で好色なおじさん!?」に、まちがいなかった!
「それとも、こっちの姿の方が、好きかね?」と、またまた変身する!
そうして、気色悪い不定形生物から、不潔な好色おじさん、そして総髪の美青年へ三段階変化して見せた男は……いや、妖怪は、腰を抜かす僕へにじり寄り、そっと頬をなでた。
「なっ……なな、な、何者なんですか、あんた!」
満面の笑みを浮かべる男……代わって、神々廻道士が彼の素性を紹介した。
「こいつの名は《埋葬虫の醸玩》だ。俺の手下の一人でな。討伐隊の……ってか、彪麼の動きが怪しいんで、数日前から、ここに潜入させてたのさ。てめぇのケツん中で聞いたこたぁ、すでにこいつから筒抜けだぜ。ま、そのために仕込んだんだけどなぁ。哈哈哈!」
神々廻道士の言葉を聞いて、僕の全身から血の気が引いた。
同時に、まんまと姦計に嵌められたことへの、憤りも湧いて来た。
「そんなっ……僕を騙したんですか!」
「てめぇも、俺さまを騙そうとしやがったじゃねぇか!」
そ、それは……だって、だけど!
「でも、あんた……いや、神さまだって、非道いじゃないですか、こんな妖怪に、僕の体を……売り飛ばすみたいな真似して! そうまでして、なんで鬼去酒が欲しいんですか!」
「喂、醸玩! こいつの尻と、もっかい遊んでやれ!」
「げへへぇ! それじゃあ、もう遠慮は要らないかなぁ? 最初だからと思って、負荷がかからないよう、最小限の姿でチュポッと入ってたからね。こんどは儂の素のまま、ヌボヌボ、ミチミチと……隘路を広げてあげようか。場合によっては、血が出ちゃうかもねぇ」
おえぇ! 『チュポッ』とか、『ヌボヌボ』とか、『ミチミチ』とか、擬音が卑猥すぎるでしょ!
しかも、オッサンの目が、妖しい光をおびて来たし、鼻息荒くなってるし!
お尻を地下牢の石床にすりつけたまま、ジリジリと後退する僕。好色な薄笑いを浮かべ、折角の美青年姿を台なしにしながら、僕に接近して来る、オッサ……いや、醸玩さん。
そこへ神々廻道士が、とどめの一言を浴びせて来た。
「醸玩! そんな奴のケツ、ズボズボ、メリメリ、ビチビチ、思う存分掘ったくって姦ってやれ! 穴が裂けて、締まりがなくなって、クソ垂れ流しになるまで、何度でもな!」
うげぇ! なんて恥知らずな上、無慈悲なことを、臆面もなく云えるんだ!
「彪麼なんぞに与し、この俺さまを、裏切った罰だ! 当然だろ!」
神々廻道士は、僕の心を読んだ……ワケじゃないだろうけど、推測してそうつけ加えた。
うっ……いや、落ち着け、楓白!
このオッサンも、話の後半部分は聞いてなかったわけだし……まだ手の内を全部、知られたわけじゃないんだ!
この場だけでも上手くごまかし、なんとか乗り切らなくちゃ!
「すみません、神さま……その、僕の作品の愛読者だと云われ、舞い上がってしまい、ついつい己の分際を忘れてしまいました……今後は、なにがあっても絶対に裏切りません! ですから、どうぞお許しください! 僕は、あなたのように強くなって、凛樺を……妻を、取り戻したいんだ! どうか、正式に弟子と認めてください! そばに置いてください!」
とにかく、僕は必死だった。
これも〝打倒神々廻道士〟のためと、覚悟を決めて、羞恥心も自尊心も投げ打って、彼の足元へ土下座までした。
クッソ――ッ!
悔しいけど、今は……堪えるしかないんだ!
「あの、これ……せめてもの罪滅ぼし、と云ってはナンですが、燕隊長の隙を見て、彼の執務室からかすめ取って来た酒瓢箪です。まだ入ってますし、よかったら呑んでください」
さらに僕は、燕隊長から渡された『樒酒』入りの瓢箪を、神々廻道士の前へ差し出した。
「俺さまの、酒瓢箪じゃねぇか」
僕の手からつかみ取り、しげしげとながめる神々廻道士。ポンッと栓を開け、口を近づける。
よし! もう少し……もう少しだ!
僕は、道士の目を盗んで、地下牢の出入口付近にて、内部の様子を観察する極卒の方を、そっと見やった。
目が合った途端、うなずく極卒。
急いで一人が、燕隊長の元へ報せに走る。長かった……けど、これで、やっと……。
ところが、ここでまた事態は急転直下……驚愕の展開が、僕を待ち受けていたのだ。
「その凛樺だけど、ちょっとまずいことになってるわよ」
突如、牢獄の石組みの隙間、僕の股間の辺りから、白蛇がニュルンと這い出して来た。
「うひゃあっ! じゃ、じゃじゃ……蛇那!?」
「我々は、止めたんだがな。まるで聞く耳を持たんのだ」
突如、牢獄の暗闇の奥、僕の背中と石壁の間から、影鬼がヌゥッと伸び上がって来た。
「のえぇえっ! しゅ、しゅしゅ……蒐影!?」
「このままだと、琉樺耶と茉李の身まで、危うくなるぜ」
突如、牢獄の天井から、僕の頭上一寸のところへ、怪鳥がバササッと急降下して来た。
「ぐひぃいっ! あぁ、あっあっ……呀鳥!?」
三妖怪の、突然の出現に仰天し、悲鳴を上げる僕の頬を、神々廻道士が容赦なく殴る。
「うるせぇ、莫迦シロ! 獄卒に気づかれるだろ!」
「ふがっ……す、すみません……いや、そうじゃなくてですね!」
僕は慌てて体勢を立てなおし、出入口の方へ視線をやった。いない?
見張り役の獄卒が、一人もいない?
どこに往ったんだよ、こんな時に!
なんにせよ、僕は胸の鼓動を鎮めつつ、三妖怪に噛みついた。
彼らは勢ぞろいして、神々廻道士の前へかしずいている。
「どうして、あんたたち三人が、百鬼討伐隊の地下牢に!? ……ってか、いきなり変なトコから、姿を現さないでくださいよ! 心臓が、止まるかと思ったじゃないですかぁ!」
「案外、入るのチョロかったわよねぇ」
「影から影を移動するだけ。問題ない」
「俺は天上から大滑空……ってな具合」
僕を振り返り、こともなげに云い放つ三妖怪だ。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる