神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、愛妻の鬼難に発奮するの巻

其の壱

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 しこうして、一刻ほどのち――、
 地下牢へ戻された僕を、神々廻ししば道士は、相変わらずの鷹揚おうようさで迎え入れた。
「よぅ、早かったな。どうだった?」
「……散々でした。いきなり殴られるわ、屈強な隊員たちに、寄ってたかって厳しく尋問されるわ、その途中で、例の鬼生虫きせいちゅうが出て来ちゃうわ……あいつ、脱走しちゃいましたよ」
 僕は、えん隊長に云われた通り、神々廻道士を騙すための演技を始めた。
 バレたら怖いけど、落ち着いてやれば大丈夫だ、楓白ふうはく。首輪の宝玉は、壊れているらしいから、下手に動揺してボロを出さない限り、嘘だと見抜かれることはない……はずだ。
 だって当の神々廻道士は、僕のセリフに喰いついて、いつものように嘲笑ってるモン。
「そうか! ついに脱糞したか! そいつぁ、よかったな!」
「脱走です! いい歳こいて、お漏らしなんかしませんよ! 失礼な!」
 ところが、次の瞬間、神々廻道士の顔から、笑みが消え、口調は険悪になった。
「で、彪麼ひょうまの野郎と、どんな謀略を練ってやがったんだ?」
「なんのことです?」
「とぼけんなよ。あいつに上手く丸めこまれ、表面上はすっかり仲良くなって、俺さまを陥れる詭計を、二人で練ってやがったんだろ? 隠したって無駄だぜ。お見通しなんだよ」
「わけが判りませんね」
 僕は、背中にジットリと冷や汗をかきながら、必死で平静を装った。
 もう、バレた? まさか……ものの二分で看破されるなんて、不甲斐なさすぎだ!
 でも……やっぱり、バレてたんだ!
おい埋葬虫しでむしのオヤジ! 出て来い!」
 突如、声を荒げた神々廻道士。
 すると、天井部近くの小さな明かり取りの窓から、ぬるぅりと、なにかが忍びこみ、僕の足元へ落っこちた。それは瞬時に形を変えて、なんと!
「へへへ、先程は、どうも」
「げぇえっ!? 不潔で好色なおじさん!?」に、まちがいなかった!
「それとも、こっちの姿の方が、好きかね?」と、またまた変身する!
 そうして、気色悪い不定形生物から、不潔な好色おじさん、そして総髪そうはつの美青年へ三段階変化して見せた男は……いや、妖怪は、腰を抜かす僕へにじり寄り、そっと頬をなでた。
「なっ……なな、な、何者なんですか、あんた!」
 満面の笑みを浮かべる男……代わって、神々廻道士が彼の素性を紹介した。
「こいつの名は《埋葬虫の醸玩じょうがん》だ。俺の手下の一人でな。討伐隊の……ってか、彪麼の動きが怪しいんで、数日前から、ここに潜入させてたのさ。てめぇのケツん中で聞いたこたぁ、すでにこいつから筒抜けだぜ。ま、そのために仕込んだんだけどなぁ。哈哈哈ハハハ!」
 神々廻道士の言葉を聞いて、僕の全身から血の気が引いた。
 同時に、まんまと姦計に嵌められたことへの、憤りも湧いて来た。
「そんなっ……僕を騙したんですか!」
「てめぇも、俺さまを騙そうとしやがったじゃねぇか!」
 そ、それは……だって、だけど!
「でも、あんた……いや、神さまだって、非道いじゃないですか、こんな妖怪に、僕の体を……売り飛ばすみたいな真似して! そうまでして、なんで鬼去酒きこしゅが欲しいんですか!」
「喂、醸玩! こいつの尻と、もっかい遊んでやれ!」
「げへへぇ! それじゃあ、もう遠慮は要らないかなぁ? 最初だからと思って、負荷がかからないよう、最小限の姿でチュポッと入ってたからね。こんどはわしの素のまま、ヌボヌボ、ミチミチと……隘路あいろを広げてあげようか。場合によっては、血が出ちゃうかもねぇ」
 おえぇ! 『チュポッ』とか、『ヌボヌボ』とか、『ミチミチ』とか、擬音が卑猥すぎるでしょ!
 しかも、オッサンの目が、妖しい光をおびて来たし、鼻息荒くなってるし!
 お尻を地下牢の石床にすりつけたまま、ジリジリと後退する僕。好色な薄笑いを浮かべ、折角の美青年姿を台なしにしながら、僕に接近して来る、オッサ……いや、醸玩さん。
 そこへ神々廻道士が、とどめの一言を浴びせて来た。
「醸玩! そんな奴のケツ、ズボズボ、メリメリ、ビチビチ、思う存分掘ったくってってやれ! 穴が裂けて、締まりがなくなって、クソ垂れ流しになるまで、何度でもな!」
 うげぇ! なんて恥知らずな上、無慈悲なことを、臆面もなく云えるんだ!
「彪麼なんぞにくみし、この俺さまを、裏切った罰だ! 当然だろ!」
 神々廻道士は、僕の心を読んだ……ワケじゃないだろうけど、推測してそうつけ加えた。
 うっ……いや、落ち着け、楓白!
 このオッサンも、話の後半部分は聞いてなかったわけだし……まだ手の内を全部、知られたわけじゃないんだ!  
 この場だけでも上手くごまかし、なんとか乗り切らなくちゃ!
「すみません、神さま……その、僕の作品の愛読者だと云われ、舞い上がってしまい、ついつい己の分際を忘れてしまいました……今後は、なにがあっても絶対に裏切りません! ですから、どうぞお許しください! 僕は、あなたのように強くなって、凛樺りんかを……妻を、取り戻したいんだ! どうか、正式に弟子と認めてください! そばに置いてください!」
 とにかく、僕は必死だった。
 これも〝打倒神々廻道士〟のためと、覚悟を決めて、羞恥心も自尊心も投げ打って、彼の足元へ土下座までした。 
 クッソ――ッ! 
 悔しいけど、今は……堪えるしかないんだ!
「あの、これ……せめてもの罪滅ぼし、と云ってはナンですが、燕隊長の隙を見て、彼の執務室からかすめ取って来た酒瓢箪さけびょうたんです。まだ入ってますし、よかったら呑んでください」
 さらに僕は、燕隊長から渡された『樒酒しきみざけ』入りの瓢箪を、神々廻道士の前へ差し出した。
「俺さまの、酒瓢箪じゃねぇか」
 僕の手からつかみ取り、しげしげとながめる神々廻道士。ポンッと栓を開け、口を近づける。
 よし! もう少し……もう少しだ!  
 僕は、道士の目を盗んで、地下牢の出入口付近にて、内部の様子を観察する極卒の方を、そっと見やった。
 目が合った途端、うなずく極卒。
 急いで一人が、燕隊長の元へ報せに走る。長かった……けど、これで、やっと……。
 ところが、ここでまた事態は急転直下……驚愕の展開が、僕を待ち受けていたのだ。
「その凛樺だけど、ちょっとまずいことになってるわよ」
 突如、牢獄の石組みの隙間、僕の股間の辺りから、白蛇がニュルンと這い出して来た。
「うひゃあっ! じゃ、じゃじゃ……蛇那じゃな!?」
「我々は、止めたんだがな。まるで聞く耳を持たんのだ」
 突如、牢獄の暗闇の奥、僕の背中と石壁の間から、影鬼がヌゥッと伸び上がって来た。
「のえぇえっ! しゅ、しゅしゅ……蒐影しゅうえい!?」
「このままだと、琉樺耶るかや茉李まつりの身まで、危うくなるぜ」
 突如、牢獄の天井から、僕の頭上一寸のところへ、怪鳥がバササッと急降下して来た。
「ぐひぃいっ! あぁ、あっあっ……呀鳥あとり!?」
 三妖怪の、突然の出現に仰天し、悲鳴を上げる僕の頬を、神々廻道士が容赦なく殴る。
「うるせぇ、莫迦ばかシロ! 獄卒に気づかれるだろ!」
「ふがっ……す、すみません……いや、そうじゃなくてですね!」
 僕は慌てて体勢を立てなおし、出入口の方へ視線をやった。いない?
 見張り役の獄卒が、一人もいない?  
 どこに往ったんだよ、こんな時に!
 なんにせよ、僕は胸の鼓動を鎮めつつ、三妖怪に噛みついた。
 彼らは勢ぞろいして、神々廻道士の前へかしずいている。
「どうして、あんたたち三人が、百鬼討伐隊ひゃっきとうばつたいの地下牢に!? ……ってか、いきなり変なトコから、姿を現さないでくださいよ! 心臓が、止まるかと思ったじゃないですかぁ!」
「案外、入るのチョロかったわよねぇ」
「影から影を移動するだけ。問題ない」
「俺は天上から大滑空……ってな具合」
 僕を振り返り、こともなげに云い放つ三妖怪だ。
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