神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、忌地で人外の者を見るの巻

其の弐

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「だから、待てって……ああ、ほら」
 云わんこっちゃない……と、彼らは後句を続けたかったんだろうな。
 何故なら――、
「ぐはぁっ……くっ、いっぅ!」
 突如、赤と深紅の境目から、物凄い勢いで木の根が隆起。天高く伸び壁となり、僕を手痛くはじき出したからだ。
 木の根に腹部をしこたま殴られ、猛烈な吐き気に襲われた僕は、その場にかがみこみ、うんうんとうめいた。
 そんな僕の背中を、神々廻ししば道士が軽く叩いた。
「男は結界内に入れねぇ。無理に侵せば、棘を刺されてあの世逝きだぜ」
「じゃあ、どうすりゃいいんですか! このままじゃあ、凛樺りんかも、琉樺耶るかやも、茉李まつりも、その他の女性たちも、みんな鬼に犯され……あわわ」と、僕はおぞましさで、総毛立った。
「心配すんな、シロ。さっきも云った通り、その瞬間が来たら、女は絶頂の中、一突きで死ぬ。それでもなおかつ、女の胎内に宿った鬼子は、女の屍骸から生まれて来るのさ。今はまだ、そう……云うなれば、前戯の真っ最中ってトコだなぁ。なにせ鬼宿木おにのやどりぎの樹液には、強烈な催淫効果も、含まれてるし……もう、狂いそうなほど、善いんだろうぜ。哈哈哈ハハハ
 前戯? 前戯って……うわぁ、妙に生々しい! 
 巨木に喰われ、隠れて見えない部分では、どんなコトが行われているんだろう……想像すると、興奮……いやいや! 想像しない!
 だが、その時、女性の一人が突如、からみ合う巨木の中から、はじき出され、丁度、僕たちの目前で、とんでもない行為をし始めた。
「はぁあん! 善いよぉ、気持ちいいよぉ! 死ぬぅ、死ぬっ……あぁぁあぁぁああっ!」
 手足を枝にからめ捕られ、まるで操り人形のように、自慰行為を始めたのだ!
 しかも、背後から巨木が伸ばした太い枝先を、自ら秘所にあてがおうとしている!
 僕らの目前でだ! 信じられない……こんな可愛い娘が、こんな卑猥な真似を……ヤバい! パックリ開いたアソコを、直視しちゃった! ってか、彼女が指で開いたんだよ!
「なな、なっ、なんちゅう……ひえ――っ! あんた、やめなさい!」
莫迦ばかね、シロちゃん。この女の意思じゃないわよ。私たちを誘いこむため、鬼宿木が挑発してるのよ。うっかり、助けようなんて……あまつさえ、触りたいからなんて、手を出さないでね」と、蛇那じゃなに忠告されたものの、だって、すぐ手が届きそうな位置で……啊!
「哈哈哈! こいつぁ、ますます絶景だな!」
 神々廻道士は、女の痴態を、じっくりと観察しては、愉しそうに笑っている。
「ちょ、ちょっと! いくらなんでも、これは笑いごっちゃないでしょう! こ、こんな淫らで、はしたない真似……凛樺や琉樺耶、茉李にさせようモンなら、僕は絶対、許しませんよ! 啊……ますます、心配になって来た……早く、なんとかしないと……大体、どうしてこんなことに、なってしまったんですか! あの巨木は、一体なんなんですか!」
 神々廻道士に代わり、説明したのは蛇那だった。
「云ったでしょう? アレは【鬼宿木】……鬼の屍骸から生えた、とっても危険で邪悪な人喰い呪木なの。苗床は雌雄同体の【鵺醜女ぬえここめ】って『淫鬼いんき』で、核になってるのは楊榮寧ようえいねい
「えぇえ!? 楊榮寧も、あの中に!?」
 驚倒する僕へ、さらに呀鳥あとり蒐影しゅうえいが補足する。
「話はちゃんと聞いとけよ、シロ。凛樺の話によると、榮寧は別の女から『姉を助けてください』と、依願されて、『武術家の務めだ』とか、なんとか格好つけて、この忌地いみちへ足を踏み入れちまったんだとさ。てめぇの分もわきまえず、莫迦な野郎だよな、まったく」
「そして案の定、【鬼宿木】に吸収され、新たな憑坐よりましとして、女どもを次々と喰らい始めたらしいな。最初に助けをもとめて来た女も多分、【鬼宿木】の手先だったんだろうよ」
「つまり、【鬼宿木】に操られるまま、女たちを鳴かしてるのは、楊榮寧なのよ。ほらね、よぉく見てご覧なさい。あの巨木のうろ……中に人の顔があるでしょう? 見覚えない?」
 蛇那が指差す先、巨木の中央に空いた洞へ、目を凝らした僕は、いよいよ震撼した。
「あぁっ……確かに、あの顔は……楊榮寧だ! なんてこった、クソッ!」
 楊榮寧! 凛樺を奪った挙句、負け犬と嘲笑い、この上、まだ僕を苦しめる気かぁ!
「あぁんっ……旦那さまぁ! 気持ちよすぎて、もう死んじゃう! ひぁ、あぅうっ……」
「り、凛樺……あんなになっても、まだ奴のこと……ち、畜生っ! どうしてだぁっ!」
 僕はそれ以上、愛する妻の媚態を直視できず、目をそむけた。いや、凛樺だけじゃない。
 琉樺耶も、茉李も、他の女性たちも、見るに堪えないほど、淫猥な乱れっぷりだった。
「嫌ぁあ! ダメッ、ダメぇえ! そんなに……しないでぇ! おかしくなっちゃう!」
「あんっ、あんっ……ちょこは、それ以上、いじっちゃらめぇ! 〇〇〇〇も、〇〇〇も、せちゅないのぉ! もう、我慢できないよぉ! あぁ――おねぇたま! 〇×△※+□!」
 筆舌に尽くしがたいとは、まさにこのことだ。僕は必死で、耳もふさいだ。
 逆に、惨状をよくよく観察し、安穏とした声音で、軽口を利くのは、神々廻道士だ。
「いやぁ、それにしても、凄まじいながめだな……親父の死、あれ以来か……ふぅん」
 また出たよ、「以来」……今度は、親父の死? 本当に、どういうことなんだ?
 すると神々廻道士は突然、酒瓢箪さけびょうたんを投げ捨てた。
 あれだけ執着し続けた鬼去酒きこしゅを、自ら手放したのだ。
 しかも彼の目つきは、鋭利に研ぎ澄まされ、凄まじい殺意さえ孕んでいた。
「蛇那、蒐影、呀鳥……これが、最後の命令だ。俺の酒気が抜け切るまで、時間稼ぎしろ」
 かつてない闘志で、身をつつんだ神々廻道士の命令に、三妖怪はハッと息を呑んだ。
「え? ご主人さま……それって、まさか」と、怪訝そうに眉をひそめる蛇那。
「我々を、自由にしてくれるってことか?」と、不可解そうに問いかける蒐影。
「本当に本当だな? 嘘じゃねぇんだな?」と、疑わしそうに念押しする呀鳥。
「あの状況を見ろ! シラフになんなきゃ、やってられねぇだろ!」
 そこは普通、酒呑まなきゃ、やってられない……のような気が、いや!
 そんなこと、どうでもいい!
 神々廻道士が、ようやく本気になってくれたんだ!
 よぉし! 僕も気合い入れるぞ!
師父しふ! なんでも云ってください! 僕にできることは、どんなことだってします!」
「じゃあ、その場を動くな!」
「はい! りょうか……え、ちょっと? やっぱり、足手まといだってぇの!?」
 畜生っ……どうすりゃいいんだ! 目の前で、琉樺耶が、茉李が、数多あまたの女性が……そして愛する凛樺が、苦しみにあえいで……いや、気持ちよくてあえいでいるのに、僕はただ、指をくわえて見てるだけだなんて! とても堪えられない!
 早くなんとかしないと、今にも爆発(怒りがだよ、怒りが!)しそうだ! 僕にできること……僕にできることは、
「……だぁあぁぁあっ! なにも思いつかないよぉおっ!」
 やっぱり、僕はダメ男なんだぁ――――っ! と、あきらめかけた、その時だ!
「心配無用です、先生!」
「こ、この声は……えん隊長! と、【百鬼討伐隊ひゃっきとうばつたい】のみなさん!」
 背後の森陰から、一斉に登場したメンツに、僕は魂消たまげて腰を抜かしそうになった。
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