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汪楓白、意地悪な神に愛されるの巻
其の弐 (最終話)
しおりを挟む「それにしても、いいよなぁ……実にうらやましいよ、楓白君」
「まったくねぇ……凛樺さんに逃げられて、まだ間もないのに」
「今度は、美人で可愛い奥方を、二人も娶ったそうじゃないか」
再び、友人三人と訪れた『金玉飯店』上客間。
うつらうつらと居眠りしていた僕は、唐突に肩を叩かれ、ハタと我に返った。
啊、今度は夢じゃないんだ……でも現実は、そうたやすくないんだぞ?
他人事だと思って、佳山君も、彩雲君も、燎仙君も、呑気なんだから!
「それに、例の神々廻道士とまで、懇意になったそうじゃないか」
「懇意ねぇ……うぅん」
「しかも、百鬼討伐隊の指揮官から、誘惑されてるって話も聞いたぜ」
「誘惑ねぇ……うぅん」
「さらに、不潔で好色そうなオッサンや、謎の美青年からも求愛されてんだろ」
「求愛ねぇ……うぅん」
え? 懇意? 誘惑? 求愛? はぁ!? ちょっと、待ってよ!
「ち、ちがう! ちがうよ! それは誤解だって!」
僕は慌てて、友人たちからの質問を、否定した。本当は、すべて本当なんだけどね。
すると彩雲君が、階下を指差し、とんでもないことを云い出した。
「じゃあさ、誤解かどうか、本人に聞いてみようか。丁度、一人はここに来てるし」
「え?」
「ほら、あそこ……階下の隅の席、神々廻道士の姿が見えるだろ?」
「げ!」
な、なな、なんで、神々廻道士が、またこの店に!?
ってことは……まさか! まさか! まさかなの!?
「おや? 新しく入ったばかりの美人給仕《星那》嬢が、奴に近づいて往くぞ?」
「なんの用だろう……どうも、胸騒ぎがするな。前にも、こんなことがあったような……」
佳山君と燎仙君も、不可解そうに眉をひそめ、ことの成り往きを見守っている。
「お待たせしました。私に、どんな御用でしょう」
アレは……別人に変身してるけど、多分、蛇那だ!
旗袍の詰襟の隙間から、確かに首輪の一部が、見え隠れしてるもの!
一体全体、今度は、どんな騒ぎを起こすつもりだよ!
と――次の瞬間、事件は起きた!
「お前の正体は、お見通しなんだよ! さっさと泥梨へ、去れ!」
『ぐぎゃあっ!』
――スパァ――ンッ!
突如、(というか、案の定)給仕に化けた蛇那の首を、偃月刀で斬り飛ばした神々廻道士は、ヒラリと円卓の上に飛び乗り、闘志をむき出しにする。
蛇那は、白い大蛇と化して、己の首を呑みこむと、耳をつんざくほど凄まじい雄叫びを放ち、神々廻道士へ襲いかかる。
『殺ァアァァァアァァァァァアッ!』
これにて『金玉飯店』は、またしても、上を下への大騒動となった。
「星那ちゃんが、大蛇に……ぎゃあぁあっ!」
「うっ、うわぁあっ! また妖怪かよおぉおっ!」
「きゃあぁぁあっ! 誰か、助けてぇえっ!」
「ひぃいっ……こっちに来るなぁあっ!」
「みんな、落ち着け! ここは俺に、まかせておけ!」
神々廻道士は、恐れおののく客たちを避難させ、ちょび髭で小太りの店主に向けて叫ぶ。
「もっと早く、俺に祈祷を頼むべきだったな! こいつは以前、倒した蛇精のつがいだ! 相方を殺された怨念で、さらに強大化してやがる! 退治するのに、難儀しそうだぜ!」
「おおっ、そんなぁ……お願いします、道士さま! 手間賃は、いくらでもご用意しますから、この蛇妖怪を退治してくださいませ! 今度は祈祷も、ただちにご依頼します!」
人の好い店主は、恰好のカモだ。
情けない泪目で、手を合わせて懇願し、まんまと神々廻道士の罠に嵌まる。みながみな、恐怖に震え、逃げ惑い、冷や汗まみれで見守る中、僕だけが、大きなため息をついていた。
「また、始まったよ……はぁ」
友人たちでさえ、すっかり神々廻道士のニセ芝居に騙され、賞賛の声を送っている。
「凄い! やっぱり、神々廻道士は、凄いよな! 大したモンだよ!」
「啊! 奴の功力は、本物だ! けど……この店、ヤケに妖怪多くない?」
「方位が悪いのかな……と、とにかく、見ろよ! 今度の敵は、手強そうだぜ!」
それにしても、最初の頃は気づかなかったけど、この首輪、どうやら伸縮自在らしい。
僕は変化しないから、判らないが、白蛇の太い胴回りに、今もガッチリと喰いこんでいるモン。
あ~あ、あれじゃあね……蛇那も、好き勝手に操られて、本当いい迷惑だろうな。
この分だと、蒐影・呀鳥・醸玩も、その内、出て来て、参戦するんじゃないか?
なんにせよ、いつだって事態は、神々廻道士の好都合、思惑通りに進むのだ。
いや、無理やりにでも、そう進めるのだ。
それが、彼のやり方なんだと、もう痛いほど学習済みだよ。僕はね。
「喂、道士が苦戦を強いられてるぞ!」
「前に出た蛇妖怪の、つがいだとさ!」
「啊、大丈夫かな……道士、頑張れ!」
「うん……珍しく、苦戦してるよねぇ」
やっぱり僕だけが、冷めた眼差しで階下の激戦を見やり、ヤレヤレと首を横に振った。
どうでもいいよ。もう、あんなインチキに興味ない。好きにやってくれ。
だが、その時だった。
偶然(あるいは必然? うぅむ、その確率の方が高いぞ!)、僕と目が合った神々廻道士は、広い店内の隅々にまで、響き渡るほどの大音声で、とんでもないことを叫んだのだ。
「喂、莫迦シロ! 汪楓白! 高みの見物してねぇで、師父に加勢しろ!」
そのセリフを聞くなり、友人三人は吃驚仰天。僕を取り囲み、問いただした。
「「「えぇ!? 楓白君、彼の弟子になったの!?」」」
「いや、ちがっ……ちょっと! 僕を巻きこまないでくださいよ!」
なんで、こんな時だけ、本名で呼ぶのさ! 莫迦! 莫迦! 莫迦ぁ!
けれど、神々廻道士は、相変わらず横暴だった。
一時でも変わったと思ったのは、僕の錯覚だったようだ。
だって、だって……だって! 容赦なく、例の呪禁を唱えたんだよ!
「うるせぇ! さっさと来い! 唵嚩耶吠娑嚩訶!」
だけど、ふん、今更……そんなの、効く、モン、か……えぐっ……えぐっ、えぐっ!?
「ぐっ……ぐえぇえぇぇぇぇえっ! く、首輪がぁあっ……なんでだぁあぁぁぁあっ!」
宝玉が妖しい光を放ち、同時に猛烈な勢いで、首輪が僕の首を絞め上げ始めたのだ!
くっ、苦しいっ……死ぬっ! ひぃっ……うわぁあぁぁぁぁぁあっ!
「「「楓白君!!」」」
苦痛にあえぎ、もだえる内、上階の欄干から身を乗り出して、ついに修羅の戦場へ落下してしまった僕!
そんな僕の体を剛腕で受け止め、素早く呪縛解除の文言を唱える神々廻道士!
あぁあっ……また、捕まってしまった! でも、なんで? なんでなのさぁ!
「吽! よく来たな、シロ。なんで首輪が……って? そらぁ、体質が元に戻ったせいだ」
ひぇ――っ! また、心の中が読めるようになったの!?
そんなの、そんなの……あんまりじゃないかぁ!
「やっぱ、面白くて、この仕事はやめられねぇ。お前をこき使うのもなぁ」
あの日、廟で、永久にお別れしたつもりだったのは、どうやら僕だけだったらしい。
なんてこった! 畜生!
これじゃあ、僕……永久に、こいつから、逃げられないよぉおっ!
「その通りだ。好い加減、あきらめて、生涯、神に仕えろ」
耳元でささやく神々廻道士の表情は、邪悪な喜びに満ちあふれていた。
「こんなの、非道いよぉ! もう自由にしてくれぇえっ!」
泣き叫ぶ僕にだけ、ニヤリと嗜虐的な笑みを見せ、神々廻道士は命令した。
「いいから、さっさと奴の動きを止めろ!」
そうして、思いっきり、僕の背中に蹴りを入れる。
「おぉ、押さないで! うぎゃあぁぁあっ!」
『いらっしゃい、シロちゃん……殺ァアァァァァアッ!』
演技だと判っていても、近くで見るとすくみ上がる蛇那の凶相だ。
そして、背後で僕を差配し、北叟笑むのは、神々廻道士の悪相だ。
啊、天帝君!
僕自身が救われる日は、いつ来るのでしょうか?
もう……神さまなんて大嫌いだぁ――――っ!
このように、僕の受難の日々は、再び幕を開けたのでした……ガックリ。
ハテさて、続きが気になる人に、ここでひとつ朗報です。
ここから先の、くわしいことの顛末は、僕の最新作である――『続・神々廻道士悪逆厭忌譚』に綴ってありますので、興味のある人は是非とも、お読みくださいね。それでは。
【神さまなんて大嫌い!】 完
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