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汪楓白、意地悪な神に愛されるの巻
其の壱
しおりを挟むさて、これは後日談だが、宮内大臣は、息子の鬼憑き嫌疑に端を発し、開始された身辺調査で、過去の不正や現在の不正が次々と明らかになり、到頭、失脚……自害したそうだ。
逆に神々廻道士は、鬼憑き太子征圧の武勇伝で、さらに名を上げ、市井の民から英雄視されるようになったし、愛する女性・紗耶さんとも晴れて夫婦になり、とても幸せそうである。
あれだけ汚く、荒れ果てていた廟も、紗耶さんが来てからというもの、見ちがえるほど、綺麗になった。隅々まで掃除が往き渡り、整理整頓され、すこぶる居心地がよくなった。
ただ、可哀そうなのは三妖怪で、この前、廟を訪ねた時、またしても嵌められた首輪を僕に見せて、「「「騙された!!!」」」と、猛烈に悔しがっていたっけ。太子を通しての、宮内大臣への復讐劇で、最後にすると約束したから協力したのに、お別れ会で眠り酒を盛られ、その隙に……だってさ。
そういえば、僕だってまだ、首輪を外してもらってないよ!
そのことを、神々廻道士に相談すると……、
「似合ってるから、つけとけよ」
だってさ!
絶対に、僕のことも、三妖怪のことも、手放す気はないんだな! クソッ!
だけど、紗耶さんのお陰か、以前よりだいぶ、穏やかになった神々廻道士は、つき合いやすい性格になっていたし、まぁ……我慢するしかないか。僕の場合は、三妖怪とちがって、最早ただの飾りにすぎないんだからね。多分……そうだよね? 確かめる勇気はないけど。
ただ、これだけはどうしても、確かめておきたかった。
「あの、師父……そもそも、どうして僕を、手元に置こうと思ったんですか?」
多分、「俺さまの奴隷として、虐使するために決まってんだろ!」って、云われそう。
だけど、思いきって聞いてみた。
しばしの沈黙……その間、神々廻道士は、じっと僕を見つめている。
啊、やっぱり聞くんじゃなかったな。
なんか、最悪の答えを聞く破目になりそう…………ところが!
「初見で、ピンと来たからさ」
「え?」
「お前なら、俺さまを救……いや、殺してくれるんじゃねぇかと、思えたのさ」
真剣な眼差しで語る神々廻道士に、僕は悄然となった。
「そ、それって、どういう……」
すると神々廻道士は、目を伏せ、大きく息を吐き、ゆっくりと真相を明かし始めた。
「俺は、知っての通り、半鬼人だった。一時、ヤケになり、自ら進んで鬼神に魂を売ったのさ。親父が【鬼宿木】の鬼業で自死し、助けに入った母上も、呪木に犯されながら死んだ……それを目撃した時から、俺は死に急いでたんだなぁ。だが、わずかながら生への執着もあった。それを、捨てきれなかった。紗耶の存在が、それだ。だから俺は常に鬼去酒を呑み、鬼業を抑えながら生きた。一方で、不死身に近い半鬼人の俺を、殺してくれる奴、この世から消し去ってくれる奴を、探しもとめてたんだ。哈哈……矛盾してるだろ? 笑っちまうよな。親父のように死にたがりつつ、結局は死にきれず、長い間あがいてたんだ」
お前に逢うまではな……と、神々廻道士は話を締めくくった。
啊、この人は、それで僕の恨みを買うような真似ばかりして……莫迦だな。
本当は、救われたかったはずなのに……そんな僕らの話を、聞いていたらしく、お茶を運んで来た紗耶さんが、優しく神々廻道士の肩を、抱きしめた。道士も、その手を愛おしそうに撫でている。よかったね、師父……本当に、よかったね。
僕は彼から、今まで受けた仕打ちに対する恨みも、全部忘れて、ただただ、彼と紗耶さんの末永い幸福を願った。
「さようなら、師父……お幸せにね」
そう告げて、僕は神々廻道士の廟をあとにした。首輪のことは、もうあきらめるよ。
あの、奇妙でムチャクチャで、劇的な日々を忘れ得ぬための、思い出の品としてね。
ちなみに、実は趙家の侍女だった白菊さんも、やはり神々廻道士の計らいで、月明大酒楼から請け出されることになっていたのだが……彼女自身、口にしていた通り、よっぽどアレが好きなんだろうなぁ。
折角の身請け話も、道士の密偵として働いた賃金授与も断り、再び遊郭へ舞い戻ってしまったとさ。
今でも、せっせとスケベな客の相手をしているそう。
一方で、醸玩には、かなり困っていた。
しょっちゅう、僕の周囲に姿を現しては、いかがわしい行為に及ぼうとするんだ。
こっちもこっちで、よっぽど男好きなんだなぁ……ホトホト、まいったよ。
しまった! 別れる前に、神々廻道士に、こいつの退治だけでも、頼むんだった!
(あとで気づいて愕然!)
さらに、困ったことが、もうひとつ……燕隊長である。
「先生……そろそろ、例の返事を頂きたい」
「あ、あの……僕には、そういう気はないんで、許してもらえませんか?」
「いいや、あなたならできる。素質がある。私の目に、狂いはない」
ギラギラした熱い目で、僕の両手をつかむ燕隊長……僕は全身、冷や汗まみれだ。
「で、でも……男同士の恋愛を執筆なんて、僕にはとても……」
丁重に、辞退しようとした僕に、燕隊長は断言した。
「書くべきです! 私は、必ず読みますよ!」
「いえ、あなたしか、読んでくれませんよ!」
頻繁に百鬼討伐隊本陣へ呼び出されては、毎度こんなやり取りを繰り返してるんだ。
好い加減、男色の相手は疲れる……はぁ。
(本当に相手してるワケじゃないぞ!)
と、まぁ……こんな具合に、色々あったが、僕自身は、どうしたかというと……、
「楓白さま、夕餉はなにを召し上がる? お風呂が先? それとも……私?」
このたびの事件を執筆したところ、予想外の好評を博し、再び文士としての名声を得た僕の元に、僕の作品の熱狂的な愛読者である、あの人物が、無理やり押しかけて来たのだ。
「あ、あの……琉樺耶さん。僕は、まだ誰とも再婚する気は……」
そう、【嬪懐族】の女賞金稼ぎ《魑魅狩り琉樺耶》である。
髪を桃割に結いなおし、女性らしい襦裙姿になった琉樺耶は、上忌地での一件以来、すっかり色気を身につけて、なのに処女のままという、反則伎で僕にしなだれかかって来る。
「楓白さま……私のこと、嫌い?」
大きな瞳に泪を一杯ためて、僕を仰ぎ見る琉樺耶……う、綺麗だ!
理性が吹っ飛びそう!
凛樺とも、スッパリ別れたわけだし、もうそろそろ、いいのかなぁ……で、でも!
「まさか! とんでもない! ただ……ただね、僕は」
湧き上がる欲心を振り払い、琉樺耶の肩をつかんで、引き離そうとした刹那!
「こらぁ! よくも、おねぇたまを泣かちたわねぇ!」
――ドッス――ンッ!
僕と琉樺耶の間を裂くように、勢いよく大鉞が振り下ろされ、床板にめりこんだ。
「うわぁっ……あぶ、危ない! 茉李ちゃん! 無闇に斧を振り回さないでよ!」
折角、借金まみれになって建てた家が、このままじゃあ、ぶっ壊されちゃうよ!
「茉李、いけない娘!」
「だってぇ……おねぇたまぁ」
琉樺耶に叱られ、項垂れる茉李も、当然の如く、僕の家に転がりこんでいる。居候なら居候らしく、もうちょっと気を使って欲しいよな、まったく!
それに、相変わらず露出度の高い服!
いや、服って云えるのかな?
今日は、豊満な胸の、てっぺんだけ隠れる程度の、花をあしらった胸当(?)を着け、腰回りは、パッツンパッツンの短袍で、大事な部分を辛うじて隠している。
いや、隠れてないな……チラチラしてるよ。肢のつけ根が。
「旦那さま、どうなさったの? 顔が赤いわ……まさか、お熱が?」
「なによぉ! おねちゅくらい……コチョコチョちてやる! てぇい!」
わわっ! 二人がかりで、寄りそわないで! はさみこまないで!
いかん……は、鼻血が……理性の、箍が……外れる! もう、ダメだ!
「旦那さま、どうなさったの?」
「る、琉樺耶さん! ちょっと、一緒に来て!」
僕は到頭、欲望を抑えきれなくなり、琉樺耶の手を取ると、寝所へ連れこもうとした。
「まぁ! やっと、その気になってくださったのね?」
「嫌ぁん! おねぇたまに、ヘンなことちないでぇ!」
こら! 茉李ってば! こんな時まで、邪魔しないでくれよ!
「茉李ちゃんは、そこで待機!」
「ダメ、ダメ、ダメぇ! 茉李も一緒に往くぅ! 往きたいのぉ! 往かせてぇ!」
あうっ……なんて、淫らな云い回し!
だったら、イカせてあげようじゃないか!
それに、もう……もう、もう、もう、我慢の限界だぁぁぁあっ!
「ぬぁぁあっ! はちきれそう! だったら、三人で一緒に……」
――パンッ!
――パンッ!
僕は、琉樺耶と茉李から両頬を叩かれ、その夜は一人寂しく寝台に入ったのでした。
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