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汪楓白、師父の恋路を応援するの巻
其の四
しおりを挟む燕隊長は、あらためて僕に訊ねた。
「凄まじい鬼業を、奴から感じます……奴が、宮内大臣の子息というのは、本当ですか?」
「はい! 確かに、そう聞きました! まちがいないですよね、家臣のみなさん!」
僕はあえて、後方でアタフタする家臣へ、少し(かなりだな)意地悪な質問を投じた。
「いや、それは……う、うるさい! 青二才が、余計な口を利くな!」
いよいよ慌てて、僕に逆ギレする家臣たちだった。燕隊長も得心する。
「なるほど、図星か。ならば……私にとっても、これは見過ごせぬ事態だな!」
キラリと、燕隊長の黒瞳が、怪しい光を放った。
「一同! すみやかに陣を組み、間隙を開けず包囲しろ! 砲撃隊は前に出て、ただちに地獄枘の準備! いきなり急所は撃つな! 手足や翼を狙え! 生け捕りにするのだ!」
うわぉ! この人も、本気になったぞ!
太子には気の毒だけど、まぁ仕方ないよね!
けれど、燕隊長の決断に、ますます困窮したのは、当然の如く家臣たちだった。
「ま、待たれよ! 太子を傷つけたら、いくら天下の護国団筆頭でも、ただでは……」
「それは、脅しですか?」と、すかさず食いつき、堂々たる巨体で、燕隊長と家臣たちの間に割り入り、圧倒する副長。哈哈……これじゃあ、どっちが脅してるんだか判らないな。
「うっ……ぬ、それは、その……」
案の定、家臣たちは言葉に詰まり、スゴスゴと後退する。
燕隊長は、苦戦する神々廻道士に向けて、叫んだ。
「劉晏! 半時だけ待ってやる! その間に、奴を倒せなかったら、我々も動くぞ!」
神々廻道士は、不敵な笑みを浮かべて、宣言した。
「半時だぁ? ハッ……こんな雑魚! 十分ありゃあ、地獄送りにしてやらぁ!」
いつでも有言実行(時々無言実行)の神々廻道士は、執拗こくまとわりつく鬼憑き太子の腹部へ、稲妻のような蹴りを入れ、後方へと吹き飛ばした。あとを追って飛ぶ神々廻道士は、ようやく取り出した五色札を、鬼憑き太子の五体へ素早く貼りつけ、身動きが取れなくなった相手の腹を、さらにこれでもかってほどに、殴り続けた。
そうする内、鬼憑き太子の赤い大翼は、サラサラと刃を散らし始め、下腹部から生える白蛇の尻尾は、ポロポロと鱗を剥がし始め、体中でうごめく不気味な触手は、ボタボタと線虫を落下させ始めた。
そして、ついに次の瞬間――、
『ぐおぉおぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉおっ!』
――ブリブリブリブリブリッ!
どっひゃあ――っ! き、汚い! えげつない!
なんか、ドス黒いモノを、下から大量に、垂れ流しちゃったよ、あいつ!
いや、待てよ……ってか、アレさ、アレじゃない?
「しゅ、蒐影……むごっ!」
「し――っ、静かに!」
僕は突然、背後から何者かに口をふさがれ、後句を、呑みこまざるを得なくなった。
だ、誰……って、えぇえ!?
「醸玩!? いつの間に、戻って来たの!?」
「なぁに、アレは儂の体の一部にすぎん。云うなれば、精子だよ、精子……哈哈哈」
僕の耳元で、ヒソヒソとささやく醸玩だ。
はぁ!? 精子!? それは……なんつうか……とにかく、ますます吃驚!
燕隊長は、そんな醸玩を厳しい目つきで睨み、僕の体を無理やり引き寄せ、忠告した。
「いけません、先生! この日和見主義者は、危険です! 隙を見せないでください!」
「あ、はい……今後は、気をつけます」
あなたにもね……だって、目が血走ってて、鼻息荒くって、怖いんだモン!
しかし、神々廻道士の宣言通り、十分以内で勝敗は決した。
蛇那・蒐影・呀鳥の三妖怪(と醸玩)から、解放された太子は、腑抜けたように虚脱し、ぼんやりと宙を仰ぎ、その場にへたりこんでいる。
姿こそ、元の人間に戻れたけど、衆目の中で、とんでもない赤っ恥をかかされるし、最悪だなぁ……なんだか、可哀そうにさえ思えて来るよ。しかも、百鬼討伐隊に、鬼憑き嫌疑までかけられるのか……うぅむ、悲惨。
しかし、周囲で見守る呑気な野次馬からは、一斉に拍手喝采が巻き起こった。
「す……凄い! さすがは、神々廻道士さま! 噂以上のお手並みだね!」
「あの恐ろしい鬼畜を、たった一人で撃退しちまうなんて、大したモンだよ!」
「太子だか、なんだか知らないが……まったく、人騒がせな上、無様な姿だねぇ!」
「啊……威張り腐って、えらそうにしてたって、貴人にも鬼は憑くんだなぁ!」
なにも知らないってのは、怖い……罪作りだよね。だってさ、これってやっぱり、神々廻道士と三妖怪(と醸玩)による、『華麗なる鬼憑き退治』劇場だったわけでしょう?
これじゃあ、丸っきり、冒頭の『金玉飯店』でのニセ芝居と、同じ展開じゃないか!
「あらあら、大変な人気者ね、ご主人さま。まぁ、これも私たちのお陰でしょうけどね」
「当然だろう。我々が、あそこまで骨を折ったんだからな。相応の見返りも要求せねば」
「人を喰って、人を騙して、人をもてあそんで、ボロ儲け……案外、面白い家業かもな」
「げげっ!? 蛇那!? 蒐影!? 呀鳥!? お前らも、いつの間に!?」
ちゃっかり野次馬に扮して、僕の隣に立ち現われた三妖怪も、人間の姿に戻っている。
そういえば、太子が漏らしたドス黒いモノが、もう消えている!
君たちも、アレの一部だったんでしょう? なんちゅう早業だ!
すると――、
「劉哥さん!」
颯爽と立ち上がり、道服の埃を払う神々廻道士の胸に、紗耶さんが飛びこんだ。
肩を震わせ、泣きじゃくっている模様。
神々廻道士は、そんな紗耶さんの細身を抱きしめ、優しく背中をさすり、慰めている。
「大丈夫か、紗耶……怖い思いさせちまったな」
「いいの……もう、いいの! 劉哥さんさえ、無事なら……そばにいてくれるなら」
泪に濡れた紫紺の瞳、艶やかな朱唇、芳しい白檀の香り、やっぱり美しい人だなぁ……多分、神々廻道士も僕と同じように……いや、僕以上に紗耶さんを愛しく思ったのだろう。
もう、遠慮はしなかった。
ためらうことなく、唇をかさねる。
紗耶さんも、それを喜んで受け容れる。
途端に、周囲の野次馬から、またしても大仰な歓声が上がった。
燕隊長も、百鬼討伐隊の面々も、しぶしぶではあるが、拍手を送っていた。
だけど、同時に、不穏な罵声もとどろいて、愛情を確かめ合う二人の仲に水を差した。
無論、怒り狂った太子の家臣団である。
「待て、待て! 物乞い道士!」
「このままでは、すまさんぞ!」
「そうだ! 太子の仇討ちだ!」
「この場で斬り捨ててくれる!」
太子を背にかばい、またしても抜刀し、対決姿勢を見せる家臣四人。
だが神々廻道士は、まるで相手にせず、紗耶さんの唇を吸い続けている。
角度を変え、むさぼるように、何度も、何度も……ありゃあ、相当、深いな……。
いやいやいや、でも! ちょ、ちょっと……今度は今度で、かなり甘すぎません?
そんな神々廻道士と、紗耶さんに代わって、家臣四人の前へ立ちはだかったのは、三妖怪でも、醸玩でも、百鬼討伐隊でもなく、集まった数多の野次馬……市井の民であった。
「喂、てめぇら! 道士さまに感謝もせず、逆恨みするたぁ、どういう料簡だ!」
「折角、助けてくれたのに……恩を仇で返そうなんて、非道すぎるわ! 最低!」
「この御方に手出しする気なら、俺たち市井の民が、黙っちゃいねぇかんなぁ!」
「さっさと、その莫迦連れて、劫初内へ帰れ! さもねぇと、袋叩きにすんぞ!」
いきり立つ野次馬連中に、恐れをなしたのか、家臣四人はあとずさり、刀を退いた。
確かに、御府内で問題を起こすのは、高家の体面にもかかわるし、百余はいるであろう市井の民を、すべて敵に回すのは、あまりにも無謀と云えた。圧倒的に、分が悪すぎた。
「ぐぬぬっ……仕方ない! とにかく、太子さまを一刻も早く、この場から!」
「そうですな! 早いところ、鬼道術師に看て頂かなくては、手遅れになる!」
「おのれ……口惜しいがやむを得ん! 今日は引き上げた方が、賢明だろう!」
「ささ、太子さま! どうぞ私の肩につかまって! 劫初内へ帰りましょう!」
家臣四人も、引きぎわを心得たらしく、呆然自失の太子をかかえると、乱暴に馬車へ押しこんだ。
そうして、馬に鞭を入れ、脱兎の如く、その場から逃げ去ってしまったのだ。
「ヤレヤレ、逃げ足の速いコトで……とにかく、この件は上へ報告しておこう」
燕隊長は、薄笑いを浮かべ長嘆息だ。
だが、あらためて神々廻道士と紗耶さんを見ると、小声で確かに、こうつぶやいた。
「今度こそ、幸せになれよ……劉晏、紗耶」
そうこうする間に、三妖怪と醸玩も、どこかへ姿をくらましていた。
その間も、二人の接吻は続いている。
神々廻道士も、紗耶さんもお、お互いに夢中で周りが目に入らない模様。
あの~~やっぱり、かなり、いや、だいぶ、甘々しすぎませんか?
なんだかなぁ……すっかり、毒気を抜かれちゃったよ。
『よくも騙して!』って……怒る気さえ失せました、はい。
もう、どうぞお好きなように。気のすむまで、イチャついてください。
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