定命享年十方暮

緑青あい

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鬼灯夜猩々緋

『其の五』

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定命享年十方暮じょうみょうきょうねんじっぽうぐれ】《鬼灯夜猩々緋ほおずきやしょうじょうひ



「なんだ、お前ら。そのザマは」と、无人むたりが笑ったのは彼らの風貌でない。ご丁寧に板輿いたごしへ載せた長持ながもちを、屈強な男二人が、怖々と及び腰で担ぐ様子が、あまりに滑稽だったからだ。

 たちまち皆の視線を釘づけにし、広間中から、ドッと嘲笑が巻き起こった。

 舞姫朱彌あけびも、お株を取られ失速し、嫌味たっぷりに嬌笑する。

「嫌だ、あんたたちったらぁ! そんな道化芝居で、朱彌の明衣あかは舞台に水を差すつもり?」

 自分のことを名前で呼ぶのは、彼の癖だ。冷やかしも飛び、仲間の莫迦ばか笑いは続く。

「笑いごっちゃねぇっすよぅ。輿に載せるだけだって、大変だったんすからぁ」

   我楽がらくが緑色の唇をとがらせて云う。さらに皆の爆笑を誘う。

「こいつはとんでもない代物じゃぞ! 中に誰かが、ひそんどるような気配がするものの……くぉら! おのれらぁ、笑うんじゃない! 大概にせんと、終いにゃぶち殺すぞぉ!」

   相手かまわず怒鳴り散らすのは、短気な六呂坊ろくろぼうだ。

   无人は腕を組み、訝しげに眉根を寄せる。

「何故、さっさと開けねぇんだ」

「それができりゃあね、わざわざこんなトコまで持って来て〝文丑ウェンチュウ〟になんざ、ならしません」と、なおも笑い続ける一同を睨み、我楽が大きなため息をつく。

   六呂坊も、苦りきった表情でうなずく。

   彼ら二人は、手下の中でも一、二を争う使い手だ。

   我楽は『点穴針てんけつしん』や『惑乱香粉わくらんこうふん』の他、多くの秘密道具を使いこなす【三体伎師さんたいぎし】で、剣術・妖術・操術そうじゅつを表す三輪の持ち主。【雙覚磐派二刀流そうかくばんはにとうりゅう】の達人剣舞師けんぶしでもある。

 六呂坊も利腕には、体術・呪術・二種類の認可輪にんかりんを並べる【双体伎師そうたいぎしせい】で【鉄僧門派天衝棒てっそうもんはてんつきぼう】の名手。与太者ぞろいの盗賊家業には、とても勿体ない腕前の武術家なのだ。

   そんな二人の、滅多にない弱りように、无人はあらためて長持を見た。

   石床に置かれた朱塗りの長持は五尺ほど、頑丈な鉄鎖錠てっさじょうがかけられている。上部には白抜き卍模様まんじもよう、目をこらすと漆の下地全体にも、こまかい経文字がびっしり書き綴られている。

「なんでぃ。あにィたちがあんまり騒ぐから、どんな凄ぇお宝かと思ったら、たかが小汚ぇハコひとつ。どうってことねぇじゃんか。中身だって大したモン、入ってねぇんだろ?」

   かたわらで見ていた鵺雛ぬえびなが、なにげなく長持に手を伸ばした。

「莫迦ヒナ! 触るな!」

 少年の軽はずみを、慌てて止めに入った六呂坊。

   勢いあまって、自ら長持に触れてしまった。

   その瞬間――「いでぇ!」

   六呂坊の手から閃光がほとばしり、彼は大きくのけぞって尻もちをついた。

   赤く爛れ、血のにじむ掌。鵺雛は、戦慄のあまり身震いする。

   瞠目する一同も最早、笑いごとではない。
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