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【馬鹿とカラスは使いよう】
『8』
しおりを挟む「ふふ……ま、とりあえずさ。ここは協力しないかい? だって、味方は多いに越したことないだろ? 頭数が増えりゃあ、それだけ戦闘力も上がるし、JADとやり合うのにも、心強い。どうだい、【ガリバー団】のみんな。そして、ニーナ首領。手を組まないかい?」
お? どうしたんだ、ラルゥ? いきなり、そんな提案を持ちかけるなんて……いつも一人で突っ走り、協調性のカケラもなく、それでいて周囲に迷惑ばかりかける、戦争馬鹿なお前らしくないぞ? だが、俺の懸念とは裏腹、タッシェルは諸手を挙げて賛同した。
「なるほど! それは、ナイスアイディアですね、ラルゥ! 是非、お願いします!」
なんか、軽いな……大丈夫か? もっと、慎重になった方が、いいんじゃねぇのか?
「うぅむ……山賊の手を借りるというのは、いささか腰が引けるが、背に腹を変えてみたいからのう。ここは、やむなしじゃ。お前さんの父御の仇も討ってやるから、協力せい」
うわぁ……上から発言。しかも、恩の売りつけ、ゴリ押しって感じ。オッサン、お前もダルティフのこと、どうのこうの言えねぇぞ。挙句、背に腹を変えてみたい? 馬鹿!
「うむ、こいつらを手駒として、酷使するワケだな? これだけの人数がいれば、僕がこの手を汚すこともないだろう。楽に依頼完了だな。いい考えだ、ラルゥ。僕も乗ったぞ」
こら、ダルティフ! 聞こえよがしに、悪辣なたくらみを吐露するな! ニーナと山賊の口元が、引きつってるじゃねぇか! 視線は痛いし、ありゃあ相当、気分を害したぞ!
「チェルは……なんか、嫌でち。あの娘……気に入らないでち。旦那さまに、なれなれしくしすぎでち。さっきだって、止めに入る間もなく、旦那さまの目にブチュ―して……」
ブチュ―ったって、ガキのしたことだろ。チェル……そろそろ歳相応に、寛容な心を持てよ。若作りのババァが、若い娘と張り合ったって、結局は自分が惨めになるだけだぞ。
「おい、こら! 勝手に決めるんじゃねぇ! それに、俺たちは【ヴァルガー団】だ!」
おっと、相手方の気持ちを、完全無視してたな。そりゃあ、そうだろ。怒って当然。
それに、そうそう【ヴァルガー団】だったな。ウチのメンバーが、悪ぃ、悪ぃ。
「こんな奴らと一緒にやるなんて、嫌ですよね、御頭!」
「こんな奴らに協力するなんて、絶対ありえませんよね、御頭!」
「こんな奴らと手を組んだって、損するだけですよね、御頭!」
こんな奴ら、こんな奴らって……好い加減、頭来るな! 大体、最初にからんで来たのは、そっちの方じゃねぇか! 俺たちはただの、通行人だったのに……みんなズタボロで、ダルティフに至っては糞まみれ。俺は大怪我までさせられて、踏んだり蹴ったりだぜ!
すると、ニーナが突然、俺を振り返り、ジッと睨みつけて来た。
げげっ……神通力を持つだけあって、まさか……今の心裏が、読まれたのか?
と……思ったら――、
「……あんた、どう思う?」
「へ?」
「だから……協力して欲しいかい?」
ニーナは、俺の出方を、俺の返答を待っている。
なんで、俺? 疑問に感じたが……とにかく、俺は思った通りの言葉を口にした。
「そうだな……まぁ、ラルゥの言う通り、頭数は多けりゃ、大いにいいとは思うが……」
「なら、決まりだね。手を組んでやるよ」
ニーナの出した結論に、誰より驚いたのは、手下の山賊どもだった。
「「「「えぇえ――っ!? 本気ですか、御頭!?」」」」
その時である。
「ニャア」
今まで、チェルが背負うリュックの中で、大人しく眠っていた黒猫のリタが、目を覚まし突然、飛び出したのだ。しかも、その足で、まっすぐにニーナの元へ向かう。ニーナは、カラスだけでなく、どうやら動物全般が好きらしい。顔をほころばせ、リタの頭をなでた。
「あ、可愛い猫じゃないか」
途端に、チェルが怒り狂い、リタを取り返そうと、ニーナを牽制し、わめき始めた。
「こら、ダメでちよ! その子は、チェルのモノでち!」
しかしここで、チェルは見事に、十二歳前後の小娘に、一本取られてしまった。
「人にも、動物にも、モノなんて縛りはない。おいで、いい子」
うぅむ……確かに、その通りだ。反論の仕様もない。
チェルは、すっかり機嫌を損ね、ふくれっ面してる。だが結局は、グウの音も出ない。
そんな黒猫を抱き上げ、慈しむニーナと、まるで逆らわず、気持ちよさそうに咽を鳴らすリタの様子を観察し、ラルゥが『おや?』と、不可思議そうに首をかしげ、つぶやいた。
「リタが、ザック以外の人間になつくなんて、珍しいね」
「うむ。アレだけ猫っ可愛がりしていながら、チェルにもあまりなつかんのにのう」
「動物は、人を見るからな」
「そういう侯爵には、見向きもしませんね、リタは」
うん、タッシェルの言葉も正しい。
リタは、他の猫とちがって、かなり人を見る目がある。それというのも、やはり【シェナトスの涙】が関係しているんだろうか……けれど、リタの秘密など、まったく知らないニーナは、黒猫のバイ・アイと、俺のバイ・アイを見比べ、何故か口元に笑みを浮かべた。
「そうと決まれば、お前らを特別に、俺たちのねぐらへ、案内してやるよ。そこで、JAD攻略の作戦を立てようじゃないか」と、リタを抱いたまま、さっさと歩き出すニーナだ。
手下どもは、そんな御頭に慌ててつき従った。
どうでもいいけど、リタを早く返してくれよ。チェルが、本気で怒り出す前にさ。
しかし、(あとで知ったことだが)スタスタと森の中を先行するニーナと【ヴァルガー団】の手下どもは、実のところ俺たちに聞えぬよう、こんな会話を繰り広げていたらしい。
「いいんですか、御頭……あんな怪しい奴らと、手を組むなんて……」
「いいのさ。いざって時は、奴らをJADからの楯にする。昔から言うだろ? 〝馬鹿とウサギは使いよう〟ってね。上手く利用すれば、こっちが手駒にしてやれるさ……だろ?」
「な、なるほど! しかし、御頭……それを言うなら、〝馬鹿とハサミは使いよう〟です」
「モク……誰だろうね。今、俺を馬鹿にした馬鹿は」
「す、すす、すみません!」
一方で、少し離れて後ろからついて行く俺たちも、小声でこんな会話を繰り広げていた。
「けど、いいのか、ラルゥ。あんな提案しちまって。相手は山賊だぞ?」
「まぁ、下手に油断すれば、痛い裏切りに遭うかもね」
「なぁに、心配無用じゃよ。昔から言うじゃろ? 〝馬鹿とカラスは使いよう〟とな」
「オッサン……〝馬鹿とハサミは使いよう〟だろ。諺を都合よく、作り替えるなよな」
……ってな具合。な、心配だろ? だって、なんかなぁ……《サンダーロックギルド》の前途に、暗雲が立ちこめて来たような……そんな気がしてならないのは、俺だけか?
だが、この日のニーナ及び【ヴァルガー団】との邂逅こそ、のちに俺たちの前途を照らす一条の光になろうとは……そしてJADに、こと《ジャーク・アンジャビル卿》にとって、大いなる波乱を巻き起こす台風の目になろうとは、誰一人想像だにしていなかった。
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