アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【序】

『1』

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 俺は今、猛烈に頭が痛い。
「そっちへ逃げたぞ!」
「まかせな! 一撃で仕留めてやる!」
 べつに、病気ってワケじゃない。
「クソ! なんてすばしっこい奴だ!」
「同感ですな! この執拗さは尋常でない!」
「あぁっ! どうちましょ! 今度は、あんなトコに!」
 理由は簡単。
「危険ですから、動かないでくださいよ、若!」
「お、おい! 危険って……なにする気だ! 待て!」
――バッチ――ンッ!
「おおっ、ついに取ったぞ! 若、やりました! 見てください、コレを!」
「やっぱり、従者さまは、しゅっごいでちねぇ! カッコいいでち!」
「うむ。さすがだ、シャオンステン。私が、好敵手と見こんだだけのことはある」
「相変わらず、見事なまでに容赦ない仕打ち……いや、お手並みでした」
「くっ……ぶ、無礼者ぉ! 主人に、平手打ち喰らわすとは、何事だぁ!」
 この馬鹿どもの、面倒を見なくちゃならんからだ。
「お前らなぁ……たかが蚊一匹で、朝っぱらから大騒ぎするな!」
「いいじゃないか。難敵を倒せたんだし」
 どこが、難敵だ。
「昨夜からだいぶ、苦しめられたからな。やむを得んわい。『背と腹は表裏一体』じゃ」
 は? 意味わからんし。
「だからって、僕の頬を、思いっきり叩きやがったぞ! こいつ、許せぇん!」
 ははは。正直、俺が殴りたかったぜ。
「可哀そうでち……でも、これでやっと、カユカユ地獄から解放されるでち」
 それはよかったでちね。ってか、俺は刺されなかったから、べつにどうってことねぇや。
「そうですよ、ダルティフ。大体、あなたが一番、被害に遭っていたのだし、ここはシャオンステンに感謝すべきではないですか? それにしても、すごい出血量ですな。馬鹿の血は、よほど美味いと見える。逆に、冷淡で冷酷な冷血漢の血は、よほど不味いと見える」
 あ? 俺のことか? お前にだけは絶対、言われたくねぇな。どっちが冷血漢だ。
 それにしても、酷い有様だな……なけなしの金で買ったテントはボロボロ、安物とはいえ愛着のあった一張羅はズタズタ、昨日半日がかりで集めた食材はメチャメチャ……本当に、たかが蚊一匹で、毎回ここまで甚大な被害を出されては、たまったモンじゃねぇよな。
 これじゃあ、先が思いやられるぜ……ハァ。
 おっと……また、ため息が出ちまった。いけねぇ、いけねぇ。
 それより、まずは俺たちパーティの自己紹介と、舞台説明からしねぇとな。お前は新人だし、俺たちのギルドに入って、まだ間もないし、そこに突っ立ったまま、さっきから困惑した表情で、この異様な状況を観察しているし……まぁ、心配すんな。すぐなれるさ。
 取りあえず、ここがどこかは覚えてるか?
 うむむ……もう、忘れちまったか。記憶喪失症ってのは、色々と厄介だな。
 しょうがねぇ。最初から教えてやるよ。
 ここは六神界。最高神《カリダ》の、分断された体の部位六つからできたっちゅう、六つの浮遊大陸の内ひとつ【バスティリア】だ。はるか上方には天青界、はるか下方には無限海、その中間に俺たちが暮らす六神界はある。
 ちなみに、他五つの国は【ピジオ】【レグランド】【ギムネリオ】【ゾラ】【アウダ・ジョナス】……最後の国は二国政で、ここはカリダの胴体部が、分断されかけて止まったからっちゅう……やっぱ、思い出せんか?
 いいよ、いいよ、気にすんな。じゃあ、講義を続けるぜ。
 この六神界にある六つの浮遊大陸は、五百年に一度『六角の大移動』ってヤツを起こす。
 普段は、高度も距離もバラバラな六つの国が、名前の通り大移動し、リング状にピッタリ合わさるんだ。すると、中心部の空洞に、幻の七つ目の国【ナユタミラ】が、姿を現すんだとさ。そこは、いわゆる神の国で、カリダ神の心臓に当たり、神聖な場所なんだとさ。
 しかも、六つの国いずれかから、虹の架け橋がナユタミラへ伸び、神に選ばれた者だけが、それを渡ってナユタミラへ行き、世界の覇者となれるんだとさ。な? 噓臭ぇだろ?
 あくまで伝説だからな。今のは、軽く聞き流してくれて結構だぜ。
 で、ここからが本題。
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