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【犬の手も借りたい】
『5』
しおりを挟む「ここか、例の事件現場ってのは……にしても、きったねぇトコだな」
「おやぁ? どこの間抜けどもが、大騒ぎしてるのかと思ったら」
「アンダードッグギルドの、無様な役立たずどもじゃないか」
「こんなクソ溜めで、なにしてんだ? 破産して、ここに越して来たのか?」
「ダメよ。近寄ると馬鹿が伝染るわ。関わるのは、やめときなさい」
「そうそう、『触らぬ神に祟りなし』ってな。貧乏神に取り憑かれるぞ」
どこからともなく聞こえ来る、耳障りな罵詈雑言……ゆっくり振り返れば、なんと!
「「「げげっ!! クラッカージャック!!」」」
俺たち六人は、ギョッとして目を見開いた。路地の反対側から、続々と姿を現したのは、我らが宿敵《クラッカージャック》の連中だったのだ。セリフ順に、ざっくり紹介しよう。
《ボッズ》横柄な態度の筋骨隆々大男。
《ブーリー》博識を気取ったお調子者。
《ザジ》男勝りで可愛げのない性悪女。
《ジャウ》狡猾で計算高い拝金主義者。
《オキーマ》男好きで露出狂の色魔女。
《ダンバール》諺と蘊蓄好きの偏屈爺。
(ちなみに覚える必要ねぇから、苗字の方は割愛だ)
とまぁ、こんなトコだな。
要するに、筋肉馬鹿と、知ったかぶりと、根性曲がりと、金の亡者と、色欲女と、オッサン二号。つまり、中身の薄い脇役どもだから、誰一人、相手にしなくていいぞ、ナナシ。
「ザック。なかなか言い得て妙だね。上手くまとめたじゃないか。特徴をよくつかんでる」
「ただですね。たとえそれが真実であっても、口にするのは、いかがなものかと思いますがね」
「これ、ザック。オッサン二号とは、若のことか? 確かに若は童貞のまま、御年二十四」
「だぁぁあっ! ゴーネルス! 余計なこと言うな! 僕は、と、とっくに経験済みだ!」
「黙ってれば、誰も本当にしなかったでちよ、侯爵さま……もう、こっぱずかちいでち!」
仲間たちの軽口を受け、俺は空っとぼけながら、さらなる嫌味で怨敵にとどめを刺した。
「あ? 俺、口に出してたか? 心の中で、念じただけだと思ったのになぁ。わりぃ、わりぃ」
「「「てめぇ!! 丸聞こえなんだよ!!」」」
案の定、クラッカージャックの奴らは、怒り狂って、現場は一触即発状態となった。
そこへ、やんわりと割って入ったのは、バティック捜査官だった。
「なにやら、話が混線して来たな……しかし、ここは厳粛な事件現場だぞ。そういうくだらないもめごとは、時と場合をわきまえた上、すまんがヨソでやってくれないかね、諸君」
バティックの言う通りだ。俺も少し軽率だったな。
「悪かった、バティック。それじゃあ、事件の経緯を、もうちょいくわしく話してくれ」
素直に謝るのも、大切なことだ。俺はバティックに詫びを入れ、話の先を促した。
「ああ、実はね……」
ところが――、
「それって、役に立つ情報なんだろうな」
「時間を無駄にしたくねぇ。さっさと頼むぜ」
「つまんない長話は嫌よぉ? 簡潔にお願いねぇ」
ちょい、ちょい! 保安院の捜査官に対して、そういう不遜な態度はまずいだろ!
けれどバティックは、めげずに話を進めようとする。
「うむ、それでな……」
ところが――、
「おい、勿体つけんなよ!」
「どうせ、大した内容じゃないんだろ?」
「期待などせんが、お情けで聞いてやろう。早くせい」
だから! 水を差すんじゃねぇって! バティックが話そうとするたび、クラッカージャックの馬鹿どもが、要らん口をはさむから、結局、頓挫してしまう……黙って聞けよ!
そして、到頭――、
「…………」
む、無言の重圧……感じてるのは、俺だけか?
バティックの目が、なんか……すわってるぞ?
この、妙に冷たい空気感……お前ら、気づけ! かなり、怒ってるぞ!
すると、バティックは一呼吸おいたのち、ようやく事件の詳細を語り始め(られ)た。
「被害者は、この貧民窟に半年前から居ついていた物乞い男だ。年齢は五十歳前後。ジャヤ族の血を引いていたらしい。他の連中からは《ベアフット》と呼ばれていた。靴を買う金もなかったようで、いつも裸足だったからだ。本名は不詳。出生地も不詳……以上だ」
今度は邪魔が入らないよう、一息にしゃべりきる。
だが、案の定――、
「「「……それだけ?」」」
これには、クラッカージャックの奴らだけでなく、俺たちも完全に肩透かしを喰った。
とても、詳細とは言えない、ありきたりな情報だな……(口にはできんけど)。
「チッ! 無駄な時間を取らせやがって!」
「散々焦らしておいて、薄っぺらな情報だな!」
「そんなモンでいいなら、誰だって捜査官になれるぜ!」
とくに気の短いボッズとブーリーとザジが、バティックに情け容赦ない舌鋒を向ける。
こらこら! それは言いすぎだろ! バティックも、絶対に機嫌を損ねたぞ!
機嫌を……機嫌……ん?
「保安院の遺体安置所に、まだ死体があるから、自由に検分してくれてかまわんぞ。監察医なら、もっとくわしい死因や、身元につながるなにかを、見つけ出しているかもしれん」
しかし、バティックは、思いのほか寛容な態度で微笑み、クラッカージャックの礼儀知らずな連中に、さらなる情報を与えてやった。いやぁ……懐が深いな。捜査官の鑑だぜ。
「よし! 保安院へ直行だ!」
「「「おうっ!!」」」
ところが、クラッカージャックの奴らは、バティックに礼も言わず、猛然たる勢いで現場を立ち去ってしまった。 いやぁ……度量がせまいな。賞金稼ぎの風上にも置けねぇぜ。
だが、バティックの目を見るや、俺はすでに気づいていた。
「おい! クラッカージャックの奴らに、先を越されちまうよ! 私たちも、急ごう!」
「急がば三回まわってワン! 早速、あとを追うぞ! 今度こそ奴らを、出し抜いてやるわい!」
相変わらず、忙しない女剣士と壮年騎士が、なにも気づかぬまま、走り出そうとする。
それを、俺が慌てて引き止めた。
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