魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-

ひろすけほー

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独立編

第二話「最嘉と恋文」

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 第二話「最嘉さいかと恋文」

 「あぁ、また今日から学校かよ、かったるいなぁ」

 「そう言うなよ、学生は学業が本分だろ」

 「私はこっちの世界の方が平和でいいなぁ」

 ――

 「…………」

 俺は校門前を騒がしく行き交う生徒達を見ていた。


 ここは市立臨海りんかい高等学校の校門前。眺めているのは朝に見られるごくごく日常の風景だ。

 「”こっち”は変わらず、平穏そのものなりってか」

 少しの間だけ立ち止まっていた俺は――

 それ自体が中身より重いんじゃ無いかという、薄っぺらい革製の鞄を肩に背負って”とぼとぼ”と歩き始めた。


 「あ、おはよう!鈴原すずはらくん」

 「おぅ、おはよ」

 「あのね、鈴原すずはらくんは……」

 校門に入る直前でクラスメイトの女子に発見された俺、彼女は愉しそうな表情で話しかけてきた。

 キキーー!!

 「あっ」

 その女子が校門前に急停止した黒塗り高級車を見て短い驚きの声を上げる。

 バタンッ!

 停止するやいなや、運転席から素早く飛び出て後部座席のドアに回り込んだ男は、鏡の様に磨かれた重厚なドアを丁寧に開く。

 「……」

 「……」

 登校中である多数の生徒達がにわかに注目する中、車中からスッと姿を現す白い生足。

 続いて優雅に揺れるプリーツスカートの裾を上品に押さえながら、制服姿の清楚可憐な、如何いかにもお嬢様な少女が姿を見せたのだった。

 ――清楚で可愛らしいながら大人っぽさも感じさせる黒髪のショートカット美少女

 ”校則のお手本通り”きっちりと正した制服姿は、そのやや小柄な少女の性格を表しているのだった。


 「あれって、一年の鈴原すずはらさんだよな?」

 「ああ、鈴原すずはら 真琴まことさん。”SUZUHARA財閥コンツェルン”の重役令嬢だったっけ?」

 「わあ!お、俺、初めて見た!か、かわいいなぁ」

 「ああ、けど確か彼女って……」

 立ち止まっていた何名かの生徒達がその少女を遠巻きに眺め、彼女のゴシップを共有している。

 「……」

 当の少女はというと、そんな大衆には全く興味が無い様子で車から降りて……

 恭しく彼女を送り出す運転手から革製の学生鞄を受け取ってから――


 ツカ!ツカ!ツカ!ツカ!ツカ!ツカ!!

 猛烈な勢いでこっちに歩いて……

 ツカ!ツカ!

 歩いて……

 「…………っ」

 思い詰めた大きめの瞳で……

 ババッ!!

 「うおっ!?」

 俺のすぐ眼前で土下座していた。

 ――

 ――

 ――おいおい……

 俺は……呆然と立ち尽くす。


 ざわ!ざわっ!!

 登校時間帯、生徒達で賑わう校門前で男子生徒に全力土下座するお嬢様。

 ――いやいや、ありえんだろ?お嬢さん!

 よくあるごくごくありふれた日常風景のはずが、一気に異次元の修羅場へと化す!

 「…………」

 手入れが行き届いた綺麗なシルエットの制服が土で汚れることも顧みず、地面に正座して深々と頭を下げる美少女。

 ざわざわっ!!

 勿論、周りの生徒達はどん引きだ!!

 ってか、張本人の美少女にというよりも、このざわめきの……

 いや、もっとハッキリ言うと動揺から怒りや憎しみに変わりつつある視線は――

 清楚可憐な少女に”そんな事を”させている傲岸不遜の外道男に対してだろう。


 ――まぁ、なぁ……

 確かに、純真無垢そうな美少女にこんな事を強いる輩は屑だ!

 そう、人間のクズ!

 そうだっ!今すぐ消えて無くなってくれれば、地球環境も少しは改善するだろうさ!!

 ――

 「…………って!?、それ俺だっ!!」

 俺はあまりの唐突な出来事に、スッカリ傍観者と化していたが……

 遅ればせながら重要な事に気づいていた。


 「え、えっとぉ……鈴原すずはらくん?じゃ、じゃあ、またあとでねぇ、あはは……」

 俺に親しげに話しかけていたクラスメイトの女子は、なんだか引き攣った笑顔で離脱して行った。

 ――お?速っ!?

 ”己だけは無事離脱に成功する”ある意味で危機管理能力の高い女子を見送りながら、中々の修羅場に独り取り残された俺は……

 もう色々と諦めて足下の美少女を眺めていた。

 「……ふぅ」

 そして、ため息を一つ。

 「真琴まこと、なんのつもりだ?朝っぱらから……」

 呆れ声の俺の問いかけに、黒髪が美しいショートカット美少女は頭を伏せたまま応える。

 「申し訳ありません!最嘉さいかさまっ!!私が至らないばかりに此度こたびいくさ!よりにもよって主君にあのような辱めを……万死に値しますっ!!」

 畏まって正座したままで、深く深く頭を垂れる美少女。

 「いや、死ぬなよ……そんなことで」

 「そんなこと??いいえ!いいえ!最嘉さいかさま!!臣下として!忠実な下僕として!主君の窮地になにを成すことも出来ず、主人にあのような辱めをっ!!ああ!辱めを!!」

 ざわざわっ!!

 「だ・か・らぁぁ!”辱め、辱め”と!こんな往来で連呼するなよっ!状況的に変な目で見られるだろうが!!」

 ――おもに俺がな……

 焦る俺は地面に突っ伏したショートカット美少女に向け、とにかく早く起き上がるように促す。

 「う……うぅ」

 怒鳴られた少女はそのままの姿勢にて、恐る恐る顔を上げ……

 「最嘉さいかさまぁ……」

 大きめの黒い瞳を潤ませていた。

 ――うっ!?

 「ま、まぁ……”あっちの世界”でのことだし、あのいくさ自体は俺が真琴まこと臨海りんかい領の留守を任せていたワケだから……あれだ、つまり、戦地の事は特にお前に責任は……ん?」

 少女の涙目にほだされ、全力でフォローを始めていた俺はふと”ある事”に気づいた。

 ――目前の美少女、鈴原すずはら 真琴まことは俺の側近だ

 臨海りんかい領主である俺、鈴原すずはら 最嘉さいか従妹いとこであり、幼少より学問・武術を厳しく仕込まれた、俺個人に絶対の忠誠を尽くす有能な側近。

 そう、側近……

 俺にはもうひとり”宗三むねみつ いち”という側近が居る。

 「……」

 目の前の真琴まことと同じく、俺の従兄いとこで同様に幼少より俺個人に仕える、割と無口だが頼り甲斐のある男。

 今回、”あっちの世界”での戦に俺は、この鈴原すずはら 真琴まことでなく宗三むねみつ いちを同行させていた。

 ――真琴まこといち

 どちらも俺に絶対の忠誠を尽くす人物だが……


 真琴まことはちょっと……なんていうか、今回の様に俺の事となると周りが見えなくなる傾向がある。

 優秀なんだが、常に冷静に対処できるいちとはそこが……

 ――

 ――いや、そんなことよりっ!!

 俺が気づいたのはそのいちの事だ。

 実際、いくさに同行もしてもいないのにこれだけ責任を感じる真琴まことが、俺に同行していたいちのことを……


 「ま、真琴まこと、ちょっと聞くけど、いちは……」

 「あ、ご心配には及びません我が君。私もそこはわきまえておりますから」

 真琴まことは不安な視線を向ける俺にニッコリと微笑んだ。

 「だ、だよなぁ?」

 ――それもそうか、考え過ぎだったよなぁ、はは……

 ――いち真琴まことにとっても従兄いとこだし、決して仲が悪いわけじゃないしな!


 「はい!キッチリと型にめてから学校ここに来ましたから!」

 「いぃぃぃぃやぁぁぁっ!!ご心配に及ぶだろぉぉぉっ!!それぇぇっ!!」

 鈴原すずはら 真琴まことは悪い意味で俺の予測通りの人物だった。


 ――くっ……

 兎にも角にも、少しだけ歪んだ真琴まことの忠誠心を再確認した俺は、俺の足を気遣って鞄持ちをするという彼女の申し出を丁寧に断ってから、一年の真琴まこととは別れて二年の教室に向かった。

 真琴まことにとっては俺への献身そのものの行動だろうが、後輩美少女を校門前で土下座させた挙げ句に鞄持ちさせて登校とか、フェミニストで鳴らす鈴原すずはら 最嘉さいか様の株がバブル崩壊並に大暴落も良いところだ!!

 「では、最嘉さいかさま、放課後にお迎えにあがります」

 「ん……ああ」

 ショートカットがとても似合う、大きな瞳の美少女は綺麗なお辞儀をしてから去って行った。

 「…………はぁぁ」

 俺にとって良いと思う事には全く周りが見えなくなって暴走してしまうのが、この鈴原すずはら 真琴まことの長所であり短所だった。

 「今日は金曜日、暫くはこっちの生活だが……週明けには戦場あっちの続きか」

 廊下で独りになった俺は、ヤケに説明的な独り言を呟いてから教室のドアに手をかけた。

 ガラッ!

 教室の引き戸を勢いよく開ける。

 「おはよう、鈴原すずはらくん」

 「おぅ!最嘉さいか

 教室で雑談していたクラスメイト達と軽く挨拶を交わしながら、俺は自身の席に着いた。

 「……?」

 そして直ぐに机の引き出しに”なにか”があることに気づく。

 「なんだ……手紙?」

 それはシンプルな封筒。

 特に変わったことの無い四角い白い封筒だけど……

 「……」

 それを手に取った俺は少々不吉な感覚を味わいながら無造作に裏返した。

 ふわり――

 僅かに乱れた空気から、少しだけ甘い香りが漂う。

 「…………まだ、苦難は続くってか」

 その封筒の裏面には――

 ”久鷹くたか 雪白ゆきしろ

 隅に小さくそう書かれていた。

 第二話「最嘉さいかと恋文」 END

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