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独立編
第十七話「真琴と勿体ない主人」後編
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「まぁいい、なんともならない場合は臨海の残兵を連れて日乃に撤退しろと言われてるしな、そのくらいならなんとかなるだろう」
「熊谷様!訂正してください、最嘉さまが……」
取りあえずの方針を決める熊谷 住吉に鈴原 真琴が食い下がる!
「あぁぁ、はいはい、鈴原 最嘉は勿体ない主人だよ、”もったいないオバケ”だよ」
「そうでは無くて!!熊谷様に泣いて縋ったってところですっ!最嘉さまはそのようなみっともない事は決してなさりません!!」
「って、そこかぁ?」
――
「……」
私は真剣な瞳で目の前の偉丈夫を睨んでいた。
「確かにアレは出任せ、軽口だが……でもな、嬢ちゃん。俺は”お嬢ちゃんのため”で、”それしか選択肢”が無かったら鈴原 最嘉はやっぱり”そうする”と思うがな?」
「…………そ、それは」
熊谷様からの予想だにしない言葉に私の頬はボッと熱を帯びた。
「それは……最嘉さまが……おやさしい……から」
蚊の鳴くような声でそう呟く私。
ガタッ!
その時――
「はっ!」
「なんだぁ?」
ガタガタッ……
先ほど熊谷様が作った瓦礫の山……それが音を立てて崩れた!
ガラララッ……ガシャン!
「……貴様……誰だ?日限の……圧殺王なのか?」
そしてその瓦礫の下から現れたのは……
剣を片手にこちらを見据えた恐ろしい鬼の眼光の男。
「なんだぁ?まさか生きてるのか?てっきりバラバラの木っ端微塵になったとばかり思っていたがなぁ」
ガシャリ!
熊谷様が崩れた瓦礫の方を睨み、人間の体長ほどもあろうかという雑な作りの”大剣擬き”を構えていた。
「完全なる不意打ちとはいえ、多少は驚いた。日限の熊谷 住吉……か?」
「お前……”十剣”だったか?」
瓦礫下から姿を現した男は砂埃で汚れてはいるが傷という傷は負っていない。
「如何にも。十剣が一振り、阿薙 忠隆」
そして――熊谷さまの問いかけに薄く微笑って名乗りを上げる。
「ほほう?そりゃたいしたもんだ、俺は熊谷 住吉で間違い無いぜ、”鬼”阿薙さんよ」
相手が何者か察しがついた偉丈夫もニヤリと武骨な口元を吊り上げる。
「今日は僥倖だ、中々に楽しめる戦場に巡り会えた」
阿薙 忠隆は剣を構えて僅かに腰を落とす。
「……ほぅ……なるほどな」
正面に立つ熊谷様は……
その表情から既に笑みは消えていた。
「では圧殺王…………参る!!」
ダッ!
鋭い踏み込み!
数メートルの間合いを一呼吸で詰める鬼神の足裁き!!
「は、はははっ!!」
でも関係無い。
ブオォォォォォォォォォォォン!!
熊谷様が振るう大剣擬きには小賢しい速度も技術も関係無い!
だってそれは……
あまりにも雑で!あまりにも常識外れ!
そんな膂力の前では全ての技術が無意味になる!
「オラよぉぉぉっ!」
ガシィィィィィィィィン!!
その場の空気を根こそぎ鷲掴みにして振り回したような如き傍若無人な剣風!!
当たったのか?当たってないのか?
――――――――ズザザザザザァァァァァ
どちらにしても吹き飛ぶ相手。
「オマケだぁ!持ってけぇぇっ!」
ブゥオォォォォォォォンッ!!
追い打ちで振り回される!巨大であまりにも雑な鉄の塊!!
――――――ズバァァ!
「ぐぉっ!?」
それは一瞬だった……
吹き飛ばされたかの様に見えた相手が反撃し、熊谷様の脇腹に斬りつけていた!
「良いぞ、圧殺王、なかなかの豪勇ぶりだ。”呼び名”に見劣りしない」
血のついた剣を払ってから笑う鬼。
「てめぇ……」
脇腹付近から血を溢れさせた熊谷様は大剣を担いだまま、傷口を押さえることも無く鋭い眼光で相手を睨んでいた。
一瞬にして……
吹き飛ばされたかの様に見えた阿薙 忠隆の下半身は、実はしっかりと大地に根を張っていて――
剛剣の勢いで思い切り仰向けに仰け反った彼の上半身は剣風が過ぎ去ると同時に跳ね上がったのだ!
まるで、地面に固定され建てられたバネの支柱が弾かれて元の位置に戻るように……
反動を加味された分だけ相手の懐まで一気に浸食する勢いで!
――舞い戻って無防備な脇腹を強襲したっ!!
「熊谷様っ!」
そしてこれは”斬られた場所”が悪い。
横腹は血が止まらない。
「えっ!?」
しかし、熊谷様の斬られた腹部から溢れていた血はいつの間にか止まっていた。
――いいえ、そもそもこの偉丈夫は……
一度たりとも傷口を気にすること無く、現在進行形で目前の敵を睨んでいる!
「う……」
強靱な筋肉を収縮させ出血を防いでいるとでもいうの??
――だとしたら、なんてデタラメな……剛体
「常識を知らぬ身体だな、圧殺王。日限の片田舎ではそれが普通なのか?」
阿薙 忠隆が嗤いながら問う。
「てめぇは、日限をどんな異境だと思ってやがる。この羅刹が……」
そして、熊谷 住吉の頑強な口元にも笑みが浮かんでいた。
――鬼阿薙
――圧殺王
名は体を現すと言うけれど……
鈴原 真琴の身の周辺は”化物”ばかりだ。
「興味が湧いた。ならば有りと有らゆる箇所を斬り刻んで、それがどんな身体なのか確認してみるのも良いだろう」
阿薙 忠隆は剣を構え直し、そして一歩踏み出した。
「やってみろよ、鬼ッコロがっ」
熊谷 住吉は威圧感が尋常で無い大物を頭上に大きく掲げて是を迎え撃つ!
「……」
――明らかに次元が違う……いま、この場で鈴原 真琴にできることなんて……ない
――
「将軍っ!阿薙将軍!!」
張り詰めた空気を破ったのは――
駆け付けて来た、天都原兵士の叫び声だった。
「……」
「……」
当の二人は睨み合ったまま。
「しょ、将軍!大変ですっ!本営から!閣下からの緊急指令が……」
空気を読まない兵士が続けると、
「………………閣下からだと?」
その言を耳に為た途端に、駆け付けた兵士を睨み付ける阿薙。
「う……」
兵士は立ち止まり、ビクリと身体を硬直させて青くなる。
――いまさら……この雰囲気に気付くなんて
兵士の鈍感さに呆れながらも、私は少しだけ安堵していた。
「……」
「も、申し訳ありません!お、お許しを……」
阿薙 忠隆が無言の圧力を放つのも無理も無いだろう。
ここは戦場只中……
剰え敵将の目前だ。
そんなところで自陣営の内情を声高々に報告なんて。
――見たところあまり朗報では無いようだし……
「……うぅ」
とはいえ、恐縮して震え上がる兵士はまるで戦場で敵と対峙している方が何倍もマシだというくらい萎縮している。
――まぁ……この鬼を前に、わらからないでもない
それは、格違いにも刃を交えた私にはよく理解できる恐怖だった。
――
「完結に用件だけ述べろ」
少し間を置いて、阿薙 忠隆は熊谷様に向き合ったままで目線も向けずにそう言った。
”いらぬ事には触れずに”ということだろう。
「は、はい……て、撤退を……いえ、今すぐに撤収を!!との命令でありますっ!」
「!」
阿薙の鋭い眼が僅かに開いた様に見えたが……
「…………そうか」
彼はそのまま、静かに剣を下ろした。
「なんだぁ?止めるのかよ?」
熊谷様が残念そうに笑う。
「是非も無い……圧殺王、貴様との決着はとりあえず次回以降だ」
「ほう?だが……な、俺がすんなり行かせると思っているのか?」
ガシャリ!と大剣を掲げて威嚇する偉丈夫!
――くっ……ここは行かせた方が……臨海側の方が圧倒的に不利……
軍の戦況的にもそうだけど、熊谷様の傷も含めて、続けて有利な事はひとつもない。
私は内心でヒヤヒヤしながら二人を見守っていた。
ザッ!
しかし実にアッサリと、熊谷様を前にしたまま阿薙 忠隆は背を向けて去って行く。
まるで追い打ちを恐れぬ堂々とした所作で……
「……ちっ、可愛げの無い鬼ッコロだぜ」
そして、口とは裏腹に追い打ちを強行しない……できない熊谷様は不機嫌に、去って行く鬼の背に吐き捨てていた。
「撤収!!撤収だ!!」
そして何人かいた天都原兵士達も同様にこの場を去って行く。
――
「……くっ」
「熊谷さまっ!」
目前の天都原軍が去って行くと直ぐに熊谷様は、その巨体のバランスを崩して地面に片膝を着いていた。
「こ、こっちの……事情もお見通しってか?くそ、今度あったらこうは行かんぞ、天都原の鬼ッコロめ……」
額に脂汗を吹き出させながら顔を顰める大男。
「傷が……深いのですね。直ぐに九郎江で手当を」
「世話になる。しかし……鈴原の野郎……今度はどんなイカサマ魔法を使いやがったんだ、まったく、鬼よりも天都原よりも……はぁぁ、一番得体の知れないヤツは、嬢ちゃんのご主人様かもしれんな」
熊谷様はなんとも複雑な表情で笑ってこちらを見ていた。
「同感です。最嘉さまは最も優れたお方です。”イカサマ”という表現はいただけませんが、最嘉さまの神算鬼謀は本当に魔法ですから!」
脂汗にまみれながら笑う大男に私は苦笑いを返しながら――
少し遅れて到着した兵士……
たぶん、熊谷様を此処に案内して来てくれた私の部下に伝える。
「木崎、直ちに敵の退却の真偽を確認。それから九郎江城で熊谷様に手当を。麾下の日限軍の方々にもお礼と休息の手配を……」
「了解いたしております!ですから真琴様もどうか本城にお戻りになって手当を……」
私を気遣う部下に私は首を横に振り、熊谷様の横から立ち上がった。
「今はまだ十分安心できないわ。私は”我が君”から大事なこの九郎江城をお預かりしているのだから!一通りの確認を済ませて、しかるべき処置と対応を済ませた後で休むことにするわ」
「は、はい……了解いたしました」
不承不承といった感じで敬礼する木崎。
そして片膝を着いたまま、そんな私の横顔をジッと穴が空くように眺めている熊谷様に……
「なにか?」
「いや、嬢ちゃん、本当に別嬪だなと思ってな」
「そうですか、ありがとうございます」
特になんの感情も無い表情で私は熊谷様のお世辞に返答した。
「ほんとに……出来た家臣だ。別嬪だし、あの野郎にはもったいないな」
呆れた様な、感心した様な、そんな声が耳に入ったけど……
「手の空いている者はこっちへ、城内外の情報を……」
私は少しも気にせずに部下達に指示を続けたのだった。
第十七話「真琴と勿体ない主人」後編 END
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