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独立編

第十九話「最嘉とキャッチボール」前編(改訂版)

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 第十九話「最嘉さいかとキャッチボール」 前編

 「先週も既に無理っぽいなと思ったけど……やっぱ寒いな」

 俺は屋上で愚痴っていた。

 「……」

 傍らには俺の言葉に特に反応もせず、まったく寒そうな素振りも無く、白金プラチナの髪を靡かなびせて立つ純白しろい美少女。

 「って無視かよ……お高いね、白金プラチナのお嬢さん」

 俺は冗談っぽく言いながら彼女の整った顔を覗き込んだ。

 「…………」

 「……いや……さすがに何か反応しろよ、俺が馬鹿みたいだ……」

 「馬鹿?」

 白金プラチナの瞳をパチクリと瞬かせて俺を見る雪白かのじょ

 「その単語には反応するのか?……お前ちょっと性格が……」

 しかし雪白ゆきしろは、また黙ったままで俺を見ている。

 「……機嫌悪いのか?」

 なんとなく、ほんと何となくだが、ちょっといつもと感じが違う雪白ゆきしろに、俺は半歩下がって距離を置いた。

 「ご機嫌だね……」

 直後、少女の桜色の唇から初めて自発的に言葉が紡がれた。

 「ご機嫌?いや、お前悪いだろ機嫌……相変わらず見た目じゃ解り辛いけど、ちょっと雰囲気が……って?”ご機嫌だね”?」

 ”ご機嫌よ”でも、”ご機嫌だよ”でも無く、”ご機嫌だね”……?

 「…………」

 じっと俺を見つめる宇宙そらの銀河を再現したような白金プラチナの瞳……
 それは幾万の星の大河の双瞳ひとみ

 ――
 ―

 いや、見蕩みとれている場合かっ!!

 「ご機嫌って、もしかして俺の事言ってるのか?」

 「……」

 なんだか馬鹿にされたようで、少し不機嫌になった俺を彼女は依然と見据えたままだ。

 「あのな、お前の機嫌は知らないが、言い方ってものがあるだろ?いいか、雪……」

 「この場に浮かれたひと……”うかれぽんち”は独りだけ」

 「!」

 ――って、言い方を選んでみたけど、最初より明らかに非道くなってるんですけどっ!

 「……」

 「……ふぅ」

 俺は見た目からは中々解り辛いが、何だかとってもご機嫌斜めの少女から溜息をいて離れた。

 ――ガシャッ

 そして屋上の金網製フェンスに背を預けて空を仰ぐ。

 「……」

 ピーヒョロロー

 ――とんびがクルリと輪を描いた……か

 「……」

 久鷹くたか 雪白ゆきしろは相変わらずだ。

 今も、俺に無表情で毒づいた時と同じ場所で、同じ無表情で……
 俺を観察するように此方こちらを眺めている。

 ――なんなんだ一体……

 そもそも……だ。

 ついさっき、たまたま二年の廊下で会って、俺が屋上に用事があるって言ったら勝手について来て……

 で、何か用事があるのかと思えばこの態度だ。

 「……」

 ほんと、少しは理解したつもりでいたけど……
 相変わらず謎な天然白色美少女だ。


 ――世界が近代国家世界こっち側に切り替わった金曜日。
 
 俺は、鈴原 真琴まこと臨海りんかい高校の屋上で待ち合わせの約束をしていた。

 真琴まことが無事なことは朝一のメールで確認済みだったが、詳しい話をするなら、やはり直接会った方が良いと言うことで、”学校で……”と相成った訳だが。

 びゅぅぅぅーー

 冷たい北風が、遮る者の無い屋上を吹き抜ける。

 ――うぉっ……寒っ!

 俺は吹き晒しになるフェンスから離れると、再び制服姿の純白しろい美少女の元に戻った。

 「雪白ゆきしろ、寒いときは運動するのが一番だよな、どうだ?」

 そう言って、俺はポケットから緑色のカラフルなゴムボールを取り出す。

 「……」

 「キャッチボールしよう、暖まるぞ!」

 「……さいかは……子供」

 風に少しだけ乱れた白金プラチナの髪を押さえながら美少女は呟く。

 「ああ?馬鹿だな雪ちゃん、キャッチボールは大人の遊戯だぞ、いや真剣勝負だ!」

 だが、断然俺は反論する!

 「……?」

 「つまりな、相手の投げたボールを捕れなかったら罰ゲームありの”真剣勝負!”」

 俺は緑のカラーボールを彼女の目の前でユラユラさせながら無駄に決め顔を作る。

 ――たかが遊び、されど遊び、何事も真剣さがあってこその娯楽だ。

 「……」

 相変わらず無言で俺を見る白金プラチナの瞳だが……
 なんだか俺には、いつもより感情豊かに見える気がする。

 ――感情豊か?

 そう、何となく不機嫌そうと言ったが、機嫌が悪いのも感情豊かの範疇だろう。

 「えっと……雪ちゃん?」

 「……」

 「……」

 い、いや、前言撤回……相変わらずの無反応娘だ。

 「って!お前は先ず、言葉のキャッチボールをしろ!」

 「……」

 上手く?ツッコんでみた俺だが……駄目か?

 「……ふぅ」

 万策尽きた俺は、溜息と共に諦めてカラーボールをポケットに……

 「…………何を賭けるの?」

 「へ?」

 ボールを再びポケットに片付けようとしていた俺は、そのままのポーズで固まっていた。

 「……だから、勝負だって」

 ――ああ、それを考えていたのか……

 というか、なんにも賭けなくても勝ち負けだけで真剣勝負は成立するけど……

 俺がさっき言った”真剣勝負”つまり、”罰ゲーム”を彼女なりに考えていたという事なんだろう。

 「解った、さいかが勝ったら一枚脱ぐわ」

 「は?……はぁ……へ?」

 ――なに言ってんの?このお嬢様?

 服を一枚脱ぐ?
 どんな流れで?

 「いや、これはそんなゲームじゃ……」

 「真剣勝負なら勝者は敗者に望むことを出来るはずだよ」

 「……」

 ――勝者の望むこと……
 ――俺が勝者の場合……女子の衣服をはぎ取るのが?

 「って、俺はお前の中でどんなキャラになってんだよぉぉ!!」

 俺は猛烈に抗議した!

 あり得ないだろ!そんな公序良俗に反するような行為!

 俺は目の前の少女に……目の前の……

 「…………」

 白磁のようなきめ細かい白い肌、整った輪郭に、それに応じる以上の美しい目鼻パーツが配置された容姿。

 白い肌を少し紅葉させた頬と控えめな桜色の唇と白金プラチナの輝く髪と瞳が眩しい、紛れもない美少女の服を……合法的?に脱がす事が……でき……る……

 ――ゴクリッ!

 「えっと……公序良俗に反する……だな……えっと……」

 俺が色々と考えている間に、白金プラチナの輝く髪と瞳の美少女は再び口を開く。

 「……解った……じゃあ、やめよ……」

 「よし!ハンデとして俺が負けたら二枚脱いでやる!うっし、始めるかぁ!よしっ!」

 「……」

 美少女はキョトンとした顔で白金プラチナの瞳を瞬かせていた。

 そして……テンションの低い口調で、雪白かのじょには珍しく直ぐに応えが返ってくる。

 「二枚……別に嬉しくない……」

 ――ああそうですか!……くそ

 「どっちだ?どっちが先行にする?」

 だが俺には関係無い!
 この美少女の気が変わらないうちに……

 「さいか、そうで無くて……脱ぐのは冗談……」

 だから俺には関係無い!
 関係無いんだもーん!

 「解ったよ、欲張りさんだな、雪ちゃんは……先行は雪白ゆきしろでいいよ」

 「さ、さいか?」

 俺は有無を言わせずに、緑色のカラーボールを強引に彼女の白い手の平に握らせた。

 「……」

 「ルールは直球ストレートのみ、相手の体から極端に遠いのは無しだ、OK?」

 「お……おーけー?」

 可愛らしく小首を傾げながらも、何となく押し切られる純朴な美少女。

 「よし!」

 そして、そこにつけ込む悪辣な俺。

 俺は背を向け、スタスタと彼女から数メートル程離れてから、ゴールキーパーの様に両手を広げた。

 「ばっちこーーい!」

 「…………」

 諦めたのか、少し間を置いてから雪白ゆきしろはゆっくり振りかぶってボールを……

 ――ほほぅ、中々のピッチングフォームだな……

 南阿なんあの”純白の連なる刃ホーリーブレイド”こと、久鷹くたか 雪白ゆきしろ……
 もしかして剣技だけでなく、こっちも……凄い剛速球を投げるとか?

 ーービシュッ!

 と言う、俺が一抹の不安を感じている間に、雪白ゆきしろは投げていた。

 「!」

 ――おぉっ!女子にしては中々だ……が、これくらいなら全然余裕で捕れる!

 「よし!」

 俺はよこしまな考えを抱きつつも、向かってくるカラーボールに右手を伸ばして……

 ――ガッ!

 ――テンッ、テンッ、コロコロコローーーー

 緑色のカラーボールは、俺の指先を弾いて屋上のコンクリート上を転がっていた。

 「えっええーー!!ウソだろっ!?」

 ――信じられない……捕れない球じゃなかった……なのに?

 「わたしの勝ち、さいか二枚脱いで!」

 ――びゅぅぅぅーー

 立ち尽くす俺の背中に、絶妙なタイミングで冷たい北風が通り抜ける。

 「い、いや、ちょっと待て、今のは……」

 「えっと、ズボンとパンツを……」

 「鬼かぁっ!!その選択チョイスは鬼以外何者でもないぞっ!!」

 しれっとした顔で、とんでもない事を……
 乗り気で無いと言ったクセに俺の下半身に容赦の無い白金の姫プラチナ・プリンセス

 「……さいかぁ」

 「まだぁ?みたいな顔してんじゃないっ!ていうかお前、今、カーブを投げただろ!?しっかり曲がっていったぞ!」

 「かーぶ?」

 俺の猛抗議にキョトンとする美少女。

 「そうだ!変化球は駄目だって言っただろ……って?お前、もしかして変化球自体を知らないのか?」

 ”学び舎の屋上こんなところ”で下半身露出という愚行だけは避けたいと必死の俺を見る美少女、久鷹くたか 雪白ゆきしろは、要領を得ない顔だ。

 「……知ってて無視したっていう邪気は……なさそうだな、お前そもそもキャッチボールしたこと無いのか?」

 彼女の感情表現薄い顔からでも俺はそう感じ取っていた。

 「”きゃっちぼーる”というスポーツはあまり知らないわ……オリンピック種目としか……」

 ――いや、どの時代の、なにオリンピックの公式競技なんだ、それ!

 「……」

 俺の視線に、心持ち恥ずかしげに佇む美少女。

 「……本気マジか」

 しかし、だとしたら、全く知識の無い雪白ゆきしろがあんな見事なカーブをどうやって?

 「ちょっとお前、握りを見せて見ろ」

 どうでも良い好奇心に負けた俺は、自身の右足に負担が掛からないように小走りに近寄り、彼女の白い手を俺の手で包み込むように掴んでいた。

 「っ!」

 「えっと……どんな風に握ったんだ?もう一回……」

 「……」

 「……?」

 ――なんだ?雪白ゆきしろのやつ……急にうつむいたりして?
 ――顔も、心持ち赤いし?

 「…………」

 俺に両手を包まれたままの状態で、依然頬、白いを染めてうつむいたままの美少女。

 「えっと……雪……」

 ――
 ―

 「そこぉぉっ!!何してるんですかっ!」

 ――なっ!?

 瞬間、屋上に高らかに響く……なんだか聞いたような少女の声。

 「ま、真琴まこと……」

 俺が声のした方へ視線をやると……

 屋上の出入り口付近のドア前に仁王立ちして俺と雪白を睨む……

 黒髪のショートカット少女……鈴原 真琴まことの姿があった。

 第十九話「最嘉さいかとキャッチボール」 前編 END
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