武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~

田島はる

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山師の手口

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 飯富虎昌と共に長篠城に入った長坂昌国が大きく伸びをした。

 新たに手に入れた長篠統治の傍ら、義信に申し付けられた仕事もこなした長坂昌国は、思わず息をもらした。

「まったく……若様も無茶なことをおっしゃる……」

「若がどうしたのだ」

「説得に使うゆえ、至急今川家重臣や国衆が内応を約束する書状を偽造しろと……。
 まったく……それがしの字では、他の今川家臣に容易く見破られてしまいましょうに……」

「……………………」

 首を傾げる長坂昌国をよそに、飯富虎昌はどこか嫌な予感がしていた。

 果たしてそれは、本当に今川家の調略に使うものなのか、と。






「ニセの書状!?」

 曽根虎盛の頭が真っ白になる。

 嘘? あの書状が、すべて嘘だった!?

 未だ混乱する曽根を尻目に、義信がクククと笑った。

「父上を言い包めるには、あれくらいした方が間違いないだろう」

 万が一、長篠だけでは足りない時の保険のつもりだったが、信玄の反応を見るに間違いなく効果があった。

 事実、最後のひと押しになったらしい。

「そのようなことをして……バレたら大目玉を食らいますぞ……!」

 義信は不敵に笑った。

「嘘を真にすれば問題なかろう」

 結果的に信玄を騙す形になってしまったが、これも勝つためである。

 現在の兵力での三河攻略には不安も残る。
 そのため、信玄からの援軍はなくてはならないものだった。

 また、調略もこれから進めれば問題ない。
 すでに今川家臣団は動揺しており、氏真を見限り徳川につく者も少なくないという。

 徳川につく者がいるくらいなのだから、徳川より力があり、名門の家柄である武田家につく者が現れてもおかしくない。

「今川はこれだけ弱っているのだ。……三河を完全に掌握すれば、向こうから話が来よう」

 事実、三河侵攻を抗議する今川家とは別に、すでに遠江の国衆の一部から戦勝祝いが届いている。

 このまま流れが武田に傾けば、労せず調略。ないし、今川家の切り崩しが進むのは目に見えていた。

「……勝利を確かなものにするべく、父上から援軍の約束も取りつけたのだ。次の戦で三河を獲るぞ!」

「はっ!」

 義信が次の目標を宣言すると、曽根虎盛が頷いた。



 長篠城に戻ると、戦で荒れ果てた領地を治めるのと同時に、三河平定に向け徴兵を開始した。

 高遠城から用意した兵力がおよそ3000。
 長篠から徴兵した兵が2000。

 いずれもかなり無茶な徴兵だったが、この一戦で三河を獲れるのなら安いものだ。

「準備はいいな、じい

「はっ! 我が赤備えにて、徳川の若造を蹴散らしてみせましょうぞ!」

 飯富虎昌が槍を高く掲げると、赤備えたちが雄叫びを上げる。

 士気は十分らしい。

「いくぞ! この戦に勝てば、私は三河の国主だ!」

 永禄9年(1566年)8月。
 三河平定に向け、義信率いる武田軍が長篠城を出陣するのだった。
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