武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~

田島はる

文字の大きさ
15 / 82

三河統治と遠江調略

しおりを挟む
 家臣たちへの恩賞と在郷の国衆たちへの所領安堵が完了すると、いよいよ三河統治に本腰を入れて取りかかれる。

 飯富虎昌や長坂昌国をはじめ、集まった義信家臣団を見回し、義信は声を張り上げた。

「三河を手中に収めたとはいえ、戦による荒廃が酷い。……元より豊かな土地なのだ。三河の復興は、我らの腕にかかっておる。皆、心してかかるように」

「「「ははっ!」」」



 三河の統治にあたって、義信は戸籍の管理や土地の整理から手をつけ始めた。

 これにより、徴兵可能な数が明らかになり、年貢の徴収が円滑に行えるようになる。

 また、武田の統治に切り替わるのを機に、今川、徳川時代の土地問題を解決することで、三河の支配者が武田家に変わったのだと知らしめることができる。

 武田家に届いた訴状を手に、長坂昌国がううむと唸った。

「河川の利権に、村落の帰属……。国衆の土地争いか……」

「これは一筋縄ではいかないぞ……」

 同じく訴状を読んでいた曽根虎盛が疲れた様子でため息をついた。

「この忙しい時に、いったい若はどちらへ行かれたのだ……」

 不平不満を並べる家臣たちに、筆頭家老の飯富虎昌が立ち上がった。

「いま若は他にやるべきことがある。それゆえ、お主らを信じてこの場を任せたのだ。お主らは若の期待を背負っていること、ゆめゆめ忘れるでないぞ」

 飯富虎昌が檄を飛ばしたこともあり、義信家臣団の動きが目に見えて早くなっていく。

 そんな中、ふと曽根虎盛の手が止まった。

「して、若はいまどちらに……?」





 岡崎城にやってきた客人を前に、義信が口を開いた。

「よう参られた、菅沼殿」

 井伊谷三人衆の一人、菅沼忠久が頭を下げる。

「此度の戦に勝利されたこと、まことにおめでとうございます。……つきましては、挨拶が遅れましたこと、誠に申し訳ございませぬ」

「構わぬ。お主も今は今川に臣従している身……背負うものも重ければ、何かと動きにくいだろう」

「はっ……」

 菅沼忠久が顔を引きつらせながら頭を下げる。

 現在、遠江では今川派と反今川派で事実上内乱状態に陥っている。

 菅沼忠久ら西遠江の国衆が反今川派として徳川に与していたこと、義信が知らないわけではあるまい。

 それを無視して今川に従属しているテイで話を進める義信に、菅沼忠久は徳川に与したことを責められているような気がした。

「……それがしは、今川のくびきから抜け出したい一心で反旗を翻し遠江の今川勢力と戦っておりました。
 徳川に与したのは、後ろ盾となってくれる者が徳川しか居らなかったため……。若君に後ろ盾になって頂けるのであれば、この菅沼忠久、身命を賭してお仕えいたしましょう!」

 熱弁を振るう菅沼忠久を義信は冷めた目で見つめていた。

 裏切ろうという者が身命を賭してとは、よく言えたものである。

 菅沼忠久は信用できない。……が、遠江の調略にはこの男が必要だ。

 義信が菅沼忠久に向き直る。

「よくぞ申した。遠江の調略、お主に任せてよいのだな?」

「はっ、西遠江の国衆である鈴木重時も近藤康用もよく知った間柄……。必ずや武田家に寝返らせてご覧入れましょう」

「……いいだろう。頼りにしているぞ」

「はっ」

 義信に従属を認められ、菅沼忠久が深々と頭を下げる。

 ひとまずは武田家勝ち馬に乗ることに成功し、菅沼忠久は安堵するのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...