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シンゴニウム・8
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「よし、次はどこ行こう?」
「んっ、次?」
菖蒲園を一周し、食堂らしき食べ物屋で山菜ごはんを二人で分けて食べたところで、相原は俺に次の行動を要求した。予想していなかった要望だった。
花一つ一つに驚きの声を上げてくれる相原は見ていて飽きなかったけれど、彼女自身はどうだったのだろうか。幸せから一転して、不安になってきた。山菜ごはんの一粒をきっちり箸で摘み、食しながら思う。
まだ何かするのですね、やっぱり。
「もう飽きた?」
「というか来週の方がもっと楽しそうだから、今日はこのくらいにしておく。今日の分は十分楽しんだ!」
昼食後だと言うのにご飯を食い、更にデザートの黒豆アイスまでも食べながら、俺は相原と共に空を見上げて思い悩む。腹は満ちている。しかし次と言われて困るではないか。天気は良くなっていて、このまま帰るのは少しもったいないのは同意だ。しかし今から遠出をするには時間もなく、近場としても何があるのかわからない。
「花より団子、ってことで食事とか?」
「今してるじゃない? さすがにお腹いっぱい。別に映画に行ってもいいけれど?」
けれど、と言うのが相原流だ。言葉にはせずに、「他に何かない?」と俺に問うている。映画もやはり行く気はないのだろう。というより観たい映画がないのかもしれない。そう思えば確かに、今の時期は大した映画をやっていない。
彼女は暇をつぶす為に映画を観るのは嫌なのだ。
俺とて観たいものは既に観ているので、もう一度同じのを観るくらいだろうか? ここに来て、相原が映画をのんびりと観ている姿は想像できない。相原はマグロと同じで、止まれば死ぬような人なのだ。見る映画も、心湧き上がるようなものでないと。
相原を死なせるわけにはいかない。俺は必死に、次の行動を思案する。
「んー、何があるだろう」
舌に広がる黒豆茶の香ばしい味を堪能しながら、遠くの山を見やる。ただのドライブでもいいのだろうか。
俺の実家であり一人暮中のアパートもあるこのあたりは、とにかく山が多く、自然が豊かだ。むしろ緑しかないぞという町で、何か楽しめるものがあるかと悩むが浮かばない。今はチラシもないので記憶に頼るしかないのだが。
考える。過去行った場所をメインで考えてみる。
行くところ、行きたい所。腕組み首を捻って思い出してみる。しかしうん、この近辺、本当に何もない。いっそ車で隣町へ行った方がいいか、と思案。
遠くの山と、展望台を見ながら思う。
大きな手を小さな手が握っていた。小さな靴、ドングリ。
「あ」
「何かあった?」
そこでふと、俺は一つの自然と過去を思い出した。脳裏に過ったのは木。森。山だった。
記憶が思い出として蘇る。
黄色い帽子を被ってリュックを背負っていた。小さな靴を踏み鳴らして、野苺を取って食べた。ドングリを宝物にした。もっと。頭を撫でられて悔し泣きして、先生に嫌々をして諦めた、そんな過去を思い出す。わがままを言ったのはあの時だけだったかもしれない。
それは子供の頃、訪れた記憶だ。今より遠い過去、俺は小さな足で山を登った。子供ながらに決心して、次こそはと思ったのを思い出す。
悔しさに涙を溜めて、次は絶対と思ったんだ。
何をだろう。
俺の中の過去の映像が、今になって頭を過る。俺は山で何かをしようとして、諦め事がある。次こそはと気持ちを強くして、しかし訪れなかった事があった。俺は腕組み思い出す。俺は過去、何を悔やんだのだろう。
「葛城?」
「あ、うん。ちょっと行きたい所が出来たかも」
「お、何々?」
相原に問われ、俺はどう言っていいかが分からず押し黙る。
小さい頃、大きな先生の手を引っ張って駄々をこねた。首を振って「行きたい」と言った。先生は「駄目よ、危ないから」と言って俺を窘めた。そう、先生に登りたいと言ったんだ。
記憶が徐々に鮮明になってくる。それは山への挑戦だ。幼稚園の頃、先生にダメだと言われて登れなかった山があった。先に進めなかった道があった。それは小さくて、登山なんてレベルの山ではなかったはずだ。
ただ山があって、幼稚園のみんなで登ったような些細な山。名前すら覚えていない山。確かそれは頂上の手前で、そこから先には行けないと言われて、断念したのだ。
大人になったら行くんだ。
そう決意したっけ。
「この近くに、昔何度か登った山があるんだけどさ」
「へ? 山?」
俺の唐突な発言に、相原が驚いた顔をする。彼女がそんな面持ちを浮かべるのを、俺は初めて見た気がする。
《続く》
「んっ、次?」
菖蒲園を一周し、食堂らしき食べ物屋で山菜ごはんを二人で分けて食べたところで、相原は俺に次の行動を要求した。予想していなかった要望だった。
花一つ一つに驚きの声を上げてくれる相原は見ていて飽きなかったけれど、彼女自身はどうだったのだろうか。幸せから一転して、不安になってきた。山菜ごはんの一粒をきっちり箸で摘み、食しながら思う。
まだ何かするのですね、やっぱり。
「もう飽きた?」
「というか来週の方がもっと楽しそうだから、今日はこのくらいにしておく。今日の分は十分楽しんだ!」
昼食後だと言うのにご飯を食い、更にデザートの黒豆アイスまでも食べながら、俺は相原と共に空を見上げて思い悩む。腹は満ちている。しかし次と言われて困るではないか。天気は良くなっていて、このまま帰るのは少しもったいないのは同意だ。しかし今から遠出をするには時間もなく、近場としても何があるのかわからない。
「花より団子、ってことで食事とか?」
「今してるじゃない? さすがにお腹いっぱい。別に映画に行ってもいいけれど?」
けれど、と言うのが相原流だ。言葉にはせずに、「他に何かない?」と俺に問うている。映画もやはり行く気はないのだろう。というより観たい映画がないのかもしれない。そう思えば確かに、今の時期は大した映画をやっていない。
彼女は暇をつぶす為に映画を観るのは嫌なのだ。
俺とて観たいものは既に観ているので、もう一度同じのを観るくらいだろうか? ここに来て、相原が映画をのんびりと観ている姿は想像できない。相原はマグロと同じで、止まれば死ぬような人なのだ。見る映画も、心湧き上がるようなものでないと。
相原を死なせるわけにはいかない。俺は必死に、次の行動を思案する。
「んー、何があるだろう」
舌に広がる黒豆茶の香ばしい味を堪能しながら、遠くの山を見やる。ただのドライブでもいいのだろうか。
俺の実家であり一人暮中のアパートもあるこのあたりは、とにかく山が多く、自然が豊かだ。むしろ緑しかないぞという町で、何か楽しめるものがあるかと悩むが浮かばない。今はチラシもないので記憶に頼るしかないのだが。
考える。過去行った場所をメインで考えてみる。
行くところ、行きたい所。腕組み首を捻って思い出してみる。しかしうん、この近辺、本当に何もない。いっそ車で隣町へ行った方がいいか、と思案。
遠くの山と、展望台を見ながら思う。
大きな手を小さな手が握っていた。小さな靴、ドングリ。
「あ」
「何かあった?」
そこでふと、俺は一つの自然と過去を思い出した。脳裏に過ったのは木。森。山だった。
記憶が思い出として蘇る。
黄色い帽子を被ってリュックを背負っていた。小さな靴を踏み鳴らして、野苺を取って食べた。ドングリを宝物にした。もっと。頭を撫でられて悔し泣きして、先生に嫌々をして諦めた、そんな過去を思い出す。わがままを言ったのはあの時だけだったかもしれない。
それは子供の頃、訪れた記憶だ。今より遠い過去、俺は小さな足で山を登った。子供ながらに決心して、次こそはと思ったのを思い出す。
悔しさに涙を溜めて、次は絶対と思ったんだ。
何をだろう。
俺の中の過去の映像が、今になって頭を過る。俺は山で何かをしようとして、諦め事がある。次こそはと気持ちを強くして、しかし訪れなかった事があった。俺は腕組み思い出す。俺は過去、何を悔やんだのだろう。
「葛城?」
「あ、うん。ちょっと行きたい所が出来たかも」
「お、何々?」
相原に問われ、俺はどう言っていいかが分からず押し黙る。
小さい頃、大きな先生の手を引っ張って駄々をこねた。首を振って「行きたい」と言った。先生は「駄目よ、危ないから」と言って俺を窘めた。そう、先生に登りたいと言ったんだ。
記憶が徐々に鮮明になってくる。それは山への挑戦だ。幼稚園の頃、先生にダメだと言われて登れなかった山があった。先に進めなかった道があった。それは小さくて、登山なんてレベルの山ではなかったはずだ。
ただ山があって、幼稚園のみんなで登ったような些細な山。名前すら覚えていない山。確かそれは頂上の手前で、そこから先には行けないと言われて、断念したのだ。
大人になったら行くんだ。
そう決意したっけ。
「この近くに、昔何度か登った山があるんだけどさ」
「へ? 山?」
俺の唐突な発言に、相原が驚いた顔をする。彼女がそんな面持ちを浮かべるのを、俺は初めて見た気がする。
《続く》
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