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シンゴニウム・13
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「葛城の子供だったら、私、産みたい。でも、嫌だったら、もうね、捨てた方がいい。私を、捨てて」
きんと耳鳴りがした。これは現実だろうか。
目の前にある彼女の瞳から涙が零れ落ちる。
見たことない。こんな彼女は知らない。俺の目の前で、見たこともない彼女の姿があった。嘘だろ。相原は泣きながら、俺に「捨てて下さい」と告げてきた。
相原の言葉が俺を天国から地獄へと突き落す。それは一かゼロだった。相原の手は俺の手を握っている。周囲に人は居ない。雨上がりの山上だから当然か。
喉が鳴る。相原は俺の目標のような人だ。いつも楽しそうで、素敵な人だ。こんな風になりたいと思っていた。相原の隣に居たいと思って言い寄って、付き合ってその気持ちは更に強くなった。
こんな愛おしい人が、俺の子供を産みたいと、言って泣いているのか。
背筋が凍りそうになる。今にも逃げ出したくて、心が震えて止まらない。人生が行き当たりばったりだということは、相原と一緒に居続けて知っている。でもこれは最強過ぎる。
あり得ない。視界が揺らいだ。空気が薄いからだろうか。呼吸すらままならい。
「何言ってんだよ」
「私は、本気よ」
言葉が出ない。俺は何て言うべきか、言葉を選び、迷い、選別して。苦悩して吐き出して声にならず気持ちを凍結して熱して試行錯誤して。
あと五時間考えたら、答えが出るか。
いや、無理だろ。
そう思うと肩の力が抜けた。つまり、俺は。
決断を諦めた。
「相原、後悔しない?」
「しなかった後悔より、する後悔がいい」
「一生に関わる問題だぞ?」
「だから、何?」
言うと思った。相原の泣き顔を見て、首を振った。
考えてもしょうがないのだ。ただ今の気持ちを言えば、これから先の全てを、相原に捧げてもいい。そもそも俺は、相原と共に逝くと、さっきクマの看板を見て決めたじゃないか。だからそれ以外の、俺にあったかもしれない、相原以外の女性との可能性を、言葉の通り諦めた。
俺は静かに、相原の背中に手を当てた。相原の身体が震えている。俺は言葉ではなく、態度で彼女に気持ちを寄せた。彼女をそっと、ベンチへと押し倒す。相原は抵抗しない。拭ってもなお落ちる涙を、必死に止めようとする彼女の唇を塞いで、覆う手のひらを退けて、もう一度キスをした。
そして彼女を下敷きにして、俺はその上に寝そべった。彼女の上に覆い被さり、静かに自身のズボンに手を掛けた。
彼女の瞳が大きく見開かれる。冷えた手のひらで、相原に触れる。
「妊娠させたらごめん。その時は学校辞めて働くから」
びくんと、相原の身が震えた。彼女の唇がわなわなと震えて、零れる涙の量が、
「……うそぉ……何でっ、断らないかなあ」
「俺が断るわけないだろう?」
俺の言葉に相原が新たな涙を流してくる。それが悲しい涙ではないと解っている。俺は彼女の涙を舌で掬い、額にキスをした。ちゅと、軽く唇を鳴らした。
「いいの? そんなの、いいの? でも、でも」
「俺が病気を持ってたらごめん。今度検査しておくから、後になるけど、っていうか最初からしておけっていうね。ごめん」
「大げさ、でもないか。うん、そういう馬鹿で真面目な君が好き」
相原の笑顔がくしゃくしゃになっている。もう泣いているのか笑っているのかわからない。ただ静かに、彼女はこくんと頷いた。
「そういう君だから、私は全身全霊で君を愛せる。信じられる」
相原のズボンが下ろされる。俺のズボンもずれ落ちて、互いの下着が露わになる。今誰かが着たらかなりまずいだろう。しかし今はそれどころではない。
「私を、一人にしないで」
「……うん」
今はただ、彼女を愛したいと思った。
《続く》
きんと耳鳴りがした。これは現実だろうか。
目の前にある彼女の瞳から涙が零れ落ちる。
見たことない。こんな彼女は知らない。俺の目の前で、見たこともない彼女の姿があった。嘘だろ。相原は泣きながら、俺に「捨てて下さい」と告げてきた。
相原の言葉が俺を天国から地獄へと突き落す。それは一かゼロだった。相原の手は俺の手を握っている。周囲に人は居ない。雨上がりの山上だから当然か。
喉が鳴る。相原は俺の目標のような人だ。いつも楽しそうで、素敵な人だ。こんな風になりたいと思っていた。相原の隣に居たいと思って言い寄って、付き合ってその気持ちは更に強くなった。
こんな愛おしい人が、俺の子供を産みたいと、言って泣いているのか。
背筋が凍りそうになる。今にも逃げ出したくて、心が震えて止まらない。人生が行き当たりばったりだということは、相原と一緒に居続けて知っている。でもこれは最強過ぎる。
あり得ない。視界が揺らいだ。空気が薄いからだろうか。呼吸すらままならい。
「何言ってんだよ」
「私は、本気よ」
言葉が出ない。俺は何て言うべきか、言葉を選び、迷い、選別して。苦悩して吐き出して声にならず気持ちを凍結して熱して試行錯誤して。
あと五時間考えたら、答えが出るか。
いや、無理だろ。
そう思うと肩の力が抜けた。つまり、俺は。
決断を諦めた。
「相原、後悔しない?」
「しなかった後悔より、する後悔がいい」
「一生に関わる問題だぞ?」
「だから、何?」
言うと思った。相原の泣き顔を見て、首を振った。
考えてもしょうがないのだ。ただ今の気持ちを言えば、これから先の全てを、相原に捧げてもいい。そもそも俺は、相原と共に逝くと、さっきクマの看板を見て決めたじゃないか。だからそれ以外の、俺にあったかもしれない、相原以外の女性との可能性を、言葉の通り諦めた。
俺は静かに、相原の背中に手を当てた。相原の身体が震えている。俺は言葉ではなく、態度で彼女に気持ちを寄せた。彼女をそっと、ベンチへと押し倒す。相原は抵抗しない。拭ってもなお落ちる涙を、必死に止めようとする彼女の唇を塞いで、覆う手のひらを退けて、もう一度キスをした。
そして彼女を下敷きにして、俺はその上に寝そべった。彼女の上に覆い被さり、静かに自身のズボンに手を掛けた。
彼女の瞳が大きく見開かれる。冷えた手のひらで、相原に触れる。
「妊娠させたらごめん。その時は学校辞めて働くから」
びくんと、相原の身が震えた。彼女の唇がわなわなと震えて、零れる涙の量が、
「……うそぉ……何でっ、断らないかなあ」
「俺が断るわけないだろう?」
俺の言葉に相原が新たな涙を流してくる。それが悲しい涙ではないと解っている。俺は彼女の涙を舌で掬い、額にキスをした。ちゅと、軽く唇を鳴らした。
「いいの? そんなの、いいの? でも、でも」
「俺が病気を持ってたらごめん。今度検査しておくから、後になるけど、っていうか最初からしておけっていうね。ごめん」
「大げさ、でもないか。うん、そういう馬鹿で真面目な君が好き」
相原の笑顔がくしゃくしゃになっている。もう泣いているのか笑っているのかわからない。ただ静かに、彼女はこくんと頷いた。
「そういう君だから、私は全身全霊で君を愛せる。信じられる」
相原のズボンが下ろされる。俺のズボンもずれ落ちて、互いの下着が露わになる。今誰かが着たらかなりまずいだろう。しかし今はそれどころではない。
「私を、一人にしないで」
「……うん」
今はただ、彼女を愛したいと思った。
《続く》
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