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恋とレシーブと13
しおりを挟む「おいおい、うまくね? あいつら」
試合に集中しろよ。そう思いながらも、俺も馬場の一言に釣られて視線を送る。
顔ぶれを見ると、一年と二年の試合らしい。と一年の面々の中に居たのは、入部して早々レギュラー候補に選ばれた葉山だった。
ぴ。音に気付いて視線を自らの試合に向ける。ボールが放物線を描いて来る。どんと鈍い音がして、馬場の腕が不器用ながらにレシーブをする。やや斜め前に上がり、俺はツーで跳躍のまま、ぽいと相手コートに返す。相手はわたわたと足をばたつかせて拾うも、パスが乱れ、失敗して床に落とした。
ま、球技大会なんざこんなもんだろうと思いながら、俺はもう一度、楽し気に騒ぐ葉山達の試合を見る。
「落ち着いて! 大丈夫! そのまま返して!」
葉山の声掛けに、全員が落ち着いた雰囲気だ。葉山が居るチームは上手い具合にトスが回っている。少し乱れても、葉山が修正してきれいに返す。運動部らしき奴もいるが、全体的に動きがぎこちなく、けれど上手い。
これは相当、試合形式の練習をしてきたな。そう思える余裕さだった。
「んー、まあ、葉山が居るからな」
「バレー部ならうちだってお前が居るだろうが」
「俺は個人芸だからなぁ」
ボールを渡され、俺は後ろに下がる。俺がサーブである。下手な奴を確認して、そいつに向かって強めのサーブを打つ。相手が失敗してボールが後方に飛んだ。もう一本、打ってそれも失敗。
さすがに可哀そうなので、少しマシな奴に向かって打つ。相手もようやくボールを上げて、無理やりにスパイクを打とうとして失敗した。下手だねぇ。そう思いながら三回目のサーブを、失敗。ちぇ。
少し緊張感が足りないのは、球技大会だからだろうか。
「上手いなぁ、さすがバレー部」
「バレーはさ。落とさないチームが勝つんだよ」
少し腰を落としながら、俺は静かに答える。馬場がくすくすと笑っているが、サーバーの視線から、お前にレシーブ来るぞと思った時には球が襲来。馬場の方にボールが来て、慌ててレシーブするが遅い。ボールが後方に飛んでいった。
まったく、構えろよ。
「試合中だぞ、前見ろって」
「悪い」
俺の活に馬場が謝罪し、次に来たボールを下手なりに上げた。これでも練習していたんだが、さすがに試合だとそうもいかないか。
そう思いながら、俺は隣のコートにある葉山の姿が気になった。年下の、少し熱い男の存在が、どうしても気になってしょうがなかった。
「サーブとか、スパイクの技量なら俺の方が上なんだよ」
俺らの試合を無事に終え、呑気に欠伸をする馬場に改めて告げた。馬場は少し首を捻り、会話の続きを思い出したらしく頷いた。試合は余裕で、俺らの勝ちだった。
「さっきから試合見てたけど、ラリー長い割にあいつあんまり打ってないな」
「まあ、球技大会だしなぁ。みんなで楽しもうが先なんだろ」
全員にいい感じにボールを回しながら、試合に慣れているといったところだろう。全員が楽しそうに、けれど真剣に試合している姿は見ていて気持ちがいい。
それに反してうちのメンバーときたら、ばたばたと不格好な勝ち方だ。俺や馬場にボールを集中させているから、相手側のサーブが上手い奴が居ると、下手な奴に集中攻撃されて結構苦しくなる。
まあ、勝っているけど。
「何となく、あいつが上手いのは分かるな。なんていうか、綺麗だ」
ふと馬場が言い、俺はしぶしぶ頷いた。二年である俺だが、正直に言えば葉山ほどうまくレシーブできる自信はない。あいつは中学の頃から練習馬鹿だった。
中学時代、奴がキャプテン候補になった時も、誰一人として不思議がらなかった程に、あいつはバレーに対して真面目で真剣なのだ。
「ま、俺が仮にキャプテンだったとしても、あいつを使うだろうさ。中学んときから葉山はずっとあぁだったからな」
「評価高いな」
「そりゃそうだ。あいつはチームを育てる奴で、入ると全体が安定するんだよ。全員の士気を上げるっていうか、チーム全体が掛け算になる感じだな。まあ、何よりあいつは、ボールを落とさない」
「……ほー」
俺の物言いに、よくわかっていない馬場が微妙な返答をする。
俺は葉山とは中学の頃から先輩後輩の仲だ。昔っから練習馬鹿で、一回戦敗退が常だった青西中のバレー部を強くした張本人である。
俺は遠くにあるリーグ表を見据えた。一つ、二つ。そして三回戦。
俺らはどうやら、葉山たちのチームと当たる事になりそうだ
〇〇〇
「お前に勝つ」
「俺らは負けません」
俺の宣戦布告に、当然のような笑顔を見せる葉山が啖呵を切ってきた。ああそうさ、お前はそういう奴だと改めて感じた。優しい顔して諦めが悪く、相手も称賛し楽しくバレーをする。
こうなるともう、四の五のいってらんねぇ。俺はサーブ、スパイクに対する制限を少し緩める事にした。
「きっつ、スパイク強烈過ぎ」
「バレー部! スパイク禁止だろ!」
「べっつにちょっとくらいいいだろー。葉山居るんだしよ」
大人げないと言われてもいい。ここで勝たないと、いや真剣にやらないと、先輩として面目が立たない気がした。緊張感が全身を駆け抜ける。たかが授業、けれど俺の先輩としての誇りが、あるいはただの男の意地として、俺のバレー魂が全力で臨めと言っている。俺だって一応はレギュラー候補なのだ。
本気で試合をする葉山に負けたくない、そう思って何が悪い。
「おい、作戦とかないのか。適当じゃ勝てないって。あのスパイク取れるのお前だけじゃん」
「じゃあ、滝、ちょっと頼みがある」
相手は明らかに葉山君を意識しているようだった。
相変わらず葉山君は笑顔のまま、今までよりも動きが早くなっている。相手の人はたぶんバレー部らしく、相手は二年生なので先輩だろう。
葉山君の動きはバレーボールが向かう先を予測しているように早い。早い段階で、全体の守る位置が狭まり、葉山君が守る範囲を増やした。それでも厳しかった。
ボールは誰も居ないところに飛んでくる。けれど気が付くと葉山君の身体がボールの下にあり、勢いが殺され軽い球になる。その魔法のような返球に、全員が確信した。
葉山君は、本気で上手い。
「ったく先輩も大人げない。勝ちたいのは分かるけど、あれじゃ一人バレーだ」
ぶつぶつと呟く葉山君の言葉は、不服そうに見えた。相手のサーブは強くて、私を含め何人かが失敗を繰り返している。葉山君は出来るだけ中央に居て、私たちの守る範囲を狭めてくれているからなんとか試合が成り立っている状態だった。
「安藤、もう少し後ろに下がって。俺が威力弱めるから、拾ってくれる?」
ふと葉山君に振られて、私は驚いた。まさかここで頼られると思っていなかったからだ。私は首を振る。けれど彼は「お願い」と懇願してきた。
「無理だよ、私じゃ」
「大丈夫。この中で一番、安藤が練習してた。遅くまで一人で練習してたの、俺が知ってるから。本当、失敗なんてどうでもいいんだ。任せたい」
葉山君が笑い、私の肩をとん、と叩いた。全員の視線が私を見る。緊張する。でも痛くはない。優しい、触れ具合だった。
「ここで頼るなら安藤だって思ったから。頼んます。誰よりも練習してたから、大丈夫」
「うん」
葉山君に信じてもらえるのが嬉しかった。笛が鳴り、私は深呼吸する。相手のサーブ。軽い音がして、ボールが真っすぐに、私に向かってくる。視界の中の、葉山君は動かない。
私に、任せたって事だ。
下手でもいい、とにかく、上へ返す!
「ナイスっ!」
両腕を伸ばしてボールを受けた瞬間、痣らだけの腕に当たったボールが、弱々しく、けれどしっかりと上へと飛んだ。葉山君が滑り込むようにトスを上げる。大林君が二回目のトスを打ち、滝君が回り込んで、ジャンプして。
……。
…………。
「負けちゃったね」
防戦一方の試合、私たちはぎりぎりで負けた。なかなかに良い勝負だったけれど、最後は滝君のサーブミスという形で試合は終了した。
決勝戦を眺めながら、私たちはそれなりにやり切った感に満たされていた。放課後自然と反省会をしようという事になって、私たちは近所のガストに訪れていた。
「ごめんな、最後、サーブ失敗して」
「いや。よくやった。俺、すごく楽しかった」
滝君も全力だった。一生懸命やった上でのミスだと分かったから、誰も怒るなんてことはしなかった。みんなも、笑顔で終わることができたと思う。約一名を除いて。
「またやりたいな、バレー」
「俺も」
「私も」
全員が楽しく追われたと思う。決勝戦は結局、私たちが戦った先輩たちが勝った。相手もバレー部が居たらしく、接戦の末の勝利だった。
《続く》
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