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死に際を共に行く4
しおりを挟む「先生が言っていたよ」
「清原恩師が? 何だ」
リリィの言葉に清十郎の目が揺らぎ、わずかな動揺を見せる。尊敬する恩師の言葉を、聞けることが嬉しいに違いない。
リリィはくすくすと笑う。制服のリボンがふわりと揺らぐ。
「安部は糞が付くほどに射撃が下手だ。奴が拳銃で人を撃つなんてあり得ない。四十手前の童貞が早熟未熟で初心な乙女の処女を相手にするようなもの。無謀、だって」
「酷い言われようだな」
「僕もそう思うよ」
リリィが首を竦める。清十郎は静かに心を沈ませている。てっきり褒められるとでも思ったのだろう、彼の落胆さが嬉しかった。喜怒哀楽の薄い彼が、わずかでも自分の言葉で心を揺らがせるのが嬉しかった。
リリィは静かに唇を開く。
「だけど、こうも言っていた」
聖十字学園を一度留年しリリィと同学年となった年上の清十郎に、リリィは言う。彼の目を覗きながら、授業中では見せない近さで彼女は言う。
「奴の刀に斬れないものはない。人でも鋼鉄でも、幽霊でも斬れる。奴に斬れないのはこの世にもあの世にもない、とも言ってたよ」
「そうやって煽てられて、ついつい余計な依頼を受けている自分が情けない」
「あ、喜んでる」
「別に」
リリィの失笑に清十郎がそっぽを向いた。彼の手が水の入った杯を傾ける。喉物を過ぎていく液体になりたいと、ふとリリィは思った。本気でそんな事を考えた。
「リリィはどの担当だ? 運転手か?」
「今回はパス。僕の出番はいつも通り、あなたのアリバイ工作だね」
首を竦めてリリィが笑う。出来れば隣で一緒に居たかった、そう思う彼女が居る。しかしこのような専門性の高い任務に、彼女は邪魔だった。それを清十郎は理解しない。仕事の依頼でこそ、彼は彼女をパートナーと認めている。
故に、許せないものがある。譲れないものもある。
「今回はそれほど、アリバイも必要ないと思うが」
「甘いね。念の為の予防は大事。いざという時、君が容疑者から外れないと困る」
リリィの言葉に清十郎は押し黙る。
「それに僕は万能型だからね。計画通りに進めるのは僕の特技だから、そこそこの任務なら何でもいける。成り代わりも出来るしね」
リリィが笑い、制服の下に隠してあるそれを掴む。ホルスターから抜いたその塊は黒く、しかし軽い。拳銃のくせにやたらと軽いそれは携帯性に優れ、重要部分以外がプラスチックで出来ているという代物だ。彼女が愛用し、携帯するその凶器に、清十郎は動かない。銃口を清十郎に向ける。リリィがトリガーに指を掛ける。
しかし清十郎は動かない。物腰静かに、彼女を見た。
「殺してくれるのか?」
「まさか。あなたは死ねない。僕が居る限り」
リリィが告げる。トリガーを引く。けれど銃弾は発射されず、清十郎は身動きすらしなかった。その信用か、あるいは信頼が憎かった。
死にたいから動かなかったのか。
撃たないから動かなかったのか。
リリィには、その理由を聞く勇気がない。
《続く》
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