『お前が運命の番だなんて最悪だ』と言われたので、魔女に愛を消してもらいました

志熊みゅう

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 今日は第一王子・フェリクス殿下の成人の儀だ。竜族である王族には、成人を迎えると、番と対となる『番紋』が現れるという。今日はその番紋を見極めるため、国中から年頃の令嬢がこの大聖堂に集められた。

 成人の儀では、王族の始祖とされる竜神に誓いを立てる。祭壇に立ったフェリクス殿下が天に向かって剣を高く突き上げると、神の光が聖堂いっぱいに降り注いだ。これが竜神の誓いである。

 銀色の長髪がその光を反射し、美しく輝き、私はその幻想的な光景に、思わず見惚れていた。そして次の瞬間、私の胸元が輝き『番紋』が現れた。鼓動が速くなるのを感じた。

 私は番として祝福され、殿下に愛されるはずだった。しかし、殿下が発せられたのは驚くほど冷酷な言葉だった。

「――何でお前がよりによって番なんだよ。ちっ、本当に最悪だ。」

 私、クロエはシュヴァリエ侯爵家の長女だ。シュヴァリエ侯爵の正妻であった母とは幼い頃に死に別れ、すぐに愛人とその娘、異母妹のマリエルが侯爵家に移り住んだ。愛人は隣国出身で平民だ。だから結局父は、愛人とは籍を入れなかった。それでも彼女や異母妹のことを溺愛しており、私はいつも蚊帳の外だった。

「お前の金髪と青い目は、エリザベトを思い出す。ああ忌々しい。」

 父は母と瓜二つの私を嫌った。使用人たちも、その力関係が分かっているから、私にだけ冷たかった。

 ある日、父は異母妹だけを連れて、王宮の茶会に出向いた。すぐに第一王子のフェリクスとマリエルは仲良くなったらしい。きっとマリエルこそ第一王子の番に違いない。皆がそう言っていたことは私だって知っている。

「うそでしょ?どうしてお姉さまなの?どうして私じゃないの?」

 隣にいたマリエルが叫んだ。

「番など関係ない。私が愛するのはマリエルだけだ。」

 あまりに前例のないことに、皆が騒然とした。

 竜族の番は絶対――けれど私は愛されなかった。

 それからも、私は殿下に恋焦がれるのに、殿下の態度は冷たかった。この前も殿下とマリエルが侯爵家の庭で楽しそうにお茶をしているのを見て、胸が張り裂けそうだった。舞踏会でも必ずエスコートをされるのはマリエル。私ではない。

 王は殿下とマリエルの結婚に反対していると聞いた。番を正妃に迎えるべきだと。だが彼は聞く耳を持たなかった。マリエルを妃に迎えると言い張っている。

 私は限界だった。二人が並んで歩く姿を見るのも、事あるごとに番の彼から冷徹な言葉をかけられるのも。

 父は「マリエルに番紋が現れればこんなことにはならなかった。お前はつくづく母に似て忌々しい女だ。」と言い、マリエルの母には「本当に邪魔な子」と言われた。

 だから私は王都の外れに住むという、どんな願いでも叶えると噂の魔女の店に向かった。ありったけのお金を持って。

「あら、お嬢さん。貴族の娘さんかい?今日は何の用?暗殺?それとも呪い?」

 薄汚れた半地下の店内には、白髪の老婆がいた。私の思いつめた表情を見て、よくない案件だと察したのだろう。

「いいえ。違います。私は……私は、番との縁を切ってもらいたいのです。」

「番?竜族のことかい?」

 少し驚いたように老婆が言う。竜族はこの国の王族とごく一部の上位貴族のみだ。老婆も依頼の重さに気づいたのだろう。

「そうです。私、番に嫌われていて……もうこのままでは生きていけない。」

 今まで我慢していた涙が溢れ出して、止まらなかった。

「番の縁ね……。」

「番が異母妹を好きだというんです。だからもう苦しいんです。」

「まずはこのお茶をお飲み、気持ちが楽になるから。」

 魔女はその場で薬草を調合すると、湯を沸かし、茶を淹れてくれた。不思議な香りがする。けれどすぐに気持ちが和らいだ。

「これ、おいしいです。」

「そりゃよかった。では、ここで少し待っていて頂戴。」

 静寂の中で時間だけが過ぎる。小一時間すると老婆が戻ってきた。

「お前さんは、まず番がどういうものか分かっているかい?」

「竜族の伴侶だと。」

「番は竜族の魂の片割れだ。生まれ変わっても、また同じ相手と番になる。」

「え、そんな。私はどうすれば……。ずっとずっと苦しいままなんですか?」

「私もどうしてこんなことになっているのか、よく分からないのだが、お前さんの番は、何か悪いものにでも憑りつかれておるのかもしれないな。」

「悪いもの?」

「それを上手く祓えれば、気持ちがこちらに向くかもしれん。」

「……だとしても、もう何かを頑張るのは私には無理です。このまま消えてしまいたい。」

「死んでも番との縁は切れん。魂ごと消すしかない。」

「ではいっそ魂ごと……。」

「早まるんじゃない。そこまで追い詰められているのならば、一つ提案がある。」

「提案?」

「お嬢さんの中から人を愛するという気持ちを消し去るのじゃ。」

「その気持ちが無くなると、私はどうなるんですか?」

「番のことを恋しいと思わなくなる。相手が別の女性と一緒にいても嫉妬もしない。ただ生涯、お前さんは誰かを愛することができなくなる。例え自分の子であっても。」

 ごくりと唾を飲み、そして考えた。そもそも、私は誰かに愛されたことなどあっただろうか。幼い頃に死に別れた実母は私のことを思ってくれたかもしれない。でもそれすら記憶にない。

「結構です。私は人に愛された記憶がありません。そんな私が誰かを愛する資格などもともとないのです。」

「いいんだね。分かった。後から取り戻すことはできないよ。」

「はい。」

 魔女が複雑な呪文を唱える。そして私は気を失った。
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