お父様!魅了が解けないお義兄様と結婚なんて無理です!

志熊みゅう

文字の大きさ
4 / 6

4.

 どうやらクラリスの言う『人肌恋しいお飾り妻作戦』は夫に放置された妻のイメージらしい。作戦も何も今の私そのものじゃないかと思ったけれど、あえて突っ込まないことにした。落ち着いたバーガンディーのドレスに、彼女が細工した仮面をつける。

「目のところに青い色ガラスを入れているので、お嬢様の瞳が緑色に見えるはずです。会場は暗いので、色ガラスが入っていることに気づく人は、まずいないんじゃないでしょうか。」

 確かに、未亡人作戦よりは上手くいきそうである。今度こそはと思った。

「では、お嬢様!行ってらっしゃいませ。」

「クラリス、声が大きいわよ。あまり大っぴらにはできないんだから。」

「ごめんなさい。でも楽しんできてくださいね。」

「ええ、頑張るわ。」

 今夜の会場は元々王家の別邸だった由緒正しい建物だ。武功をあげた先代のラ・トゥール伯爵に下賜されたと聞いている。そう、今宵の仮面舞踏会の主催者は、愛人候補のラ・トゥール伯爵だ。

「やっぱりこういう会でもホストはお暇じゃないわよね。」

 会場に着いて、すぐにラ・トゥール伯爵を見つけた。派手な銀髪だからよく目立つ。様子を伺うが、いつも誰かと話していてせわしない。ターゲットを変えようと、会場を見渡すと、既に人の輪がところどころにできており、後からその輪に入っていくのも難しく思えた。

「はぁ~、この作戦も失敗じゃないかしら。」

 溜息をついていると、男性に声をかけられた。色ガラス越しでも分かる、美しい金髪と青い瞳の紳士だ。

「これはこれは。溜息は運が逃げますぞ、美しい夜の蝶。お初にお目にかかります。私のことはどうか、ジルとお呼びください。」

 この金髪、見覚えがある。顔の上半分が仮面で隠れていても、アンドレ子爵と分かった。クラリスに見せられた絵姿そのままだ。私は少し食い気味に答えた。

「私のことはどうか"デルフィ"とお呼びください。」

 デルフィは母の愛称だが、母の名は私のミドルネームでもある。ちょうどいい偽名だ。アンドレ子爵はとても気さくで話しやすかった。ついつい、自分のことも話し過ぎてしまった。

「あの魅了事件で婚約破棄とは大変でしたね。」

「今は吹っ切れましたわ。」

「それにしても、その殿方も惜しいことをした。こんな美しく聡明な姫君を手放すなんて。」

「初めて言われましたわ!今の夫とは政略結婚ですが、美しいとも、愛しているとも言ってくださらないの。」

「なんと!つくづく男運がない。もし私があなたの婚約者や夫なら、毎日愛をささやき、決して手放さないというのに。」

 なにが手放さないだ。来るもの拒まず、去るものを追わず、彼の社交界での通り名が『金髪の博愛主義者』であることは既に耳に入っている。話半分に聞いていると、彼が腰に手を回して、私を抱き寄せた。

「デルフィ、あなたともっと深くお話をしたい。休憩室に行きませんか?」

 よし!来た!待ちに待った夜のお誘いだ。遂に作戦成功。心の中でガッツポーズをする。

「ええ。エスコートしてくださる?」

 彼に身を寄せようとした時だった。思いっきり手を引かれ、引きはがされた。そして、背後でドスの効いた低い声が響いた。

「――アンドレ子爵、私の女に手を出さないでもらえるか。」

 仮面にはめられた色ガラスのせいで色味がよく分からないが、暗い髪色の男性が仁王立ちしている。アンドレ子爵はびっくりした様子で、人混みに消えていった。

「どなたです?どうして私の邪魔をされるの!?」

 文句を言うと、彼にさっと抱きかかえられた。そのまま部屋の外に連れ出された。
感想 1

あなたにおすすめの小説

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。