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どうやらクラリスの言う『人肌恋しいお飾り妻作戦』は夫に放置された妻のイメージらしい。作戦も何も今の私そのものじゃないかと思ったけれど、あえて突っ込まないことにした。落ち着いたバーガンディーのドレスに、彼女が細工した仮面をつける。
「目のところに青い色ガラスを入れているので、お嬢様の瞳が緑色に見えるはずです。会場は暗いので、色ガラスが入っていることに気づく人は、まずいないんじゃないでしょうか。」
確かに、未亡人作戦よりは上手くいきそうである。今度こそはと思った。
「では、お嬢様!行ってらっしゃいませ。」
「クラリス、声が大きいわよ。あまり大っぴらにはできないんだから。」
「ごめんなさい。でも楽しんできてくださいね。」
「ええ、頑張るわ。」
今夜の会場は元々王家の別邸だった由緒正しい建物だ。武功をあげた先代のラ・トゥール伯爵に下賜されたと聞いている。そう、今宵の仮面舞踏会の主催者は、愛人候補のラ・トゥール伯爵だ。
「やっぱりこういう会でもホストはお暇じゃないわよね。」
会場に着いて、すぐにラ・トゥール伯爵を見つけた。派手な銀髪だからよく目立つ。様子を伺うが、いつも誰かと話していてせわしない。ターゲットを変えようと、会場を見渡すと、既に人の輪がところどころにできており、後からその輪に入っていくのも難しく思えた。
「はぁ~、この作戦も失敗じゃないかしら。」
溜息をついていると、男性に声をかけられた。色ガラス越しでも分かる、美しい金髪と青い瞳の紳士だ。
「これはこれは。溜息は運が逃げますぞ、美しい夜の蝶。お初にお目にかかります。私のことはどうか、ジルとお呼びください。」
この金髪、見覚えがある。顔の上半分が仮面で隠れていても、アンドレ子爵と分かった。クラリスに見せられた絵姿そのままだ。私は少し食い気味に答えた。
「私のことはどうか"デルフィ"とお呼びください。」
デルフィは母の愛称だが、母の名は私のミドルネームでもある。ちょうどいい偽名だ。アンドレ子爵はとても気さくで話しやすかった。ついつい、自分のことも話し過ぎてしまった。
「あの魅了事件で婚約破棄とは大変でしたね。」
「今は吹っ切れましたわ。」
「それにしても、その殿方も惜しいことをした。こんな美しく聡明な姫君を手放すなんて。」
「初めて言われましたわ!今の夫とは政略結婚ですが、美しいとも、愛しているとも言ってくださらないの。」
「なんと!つくづく男運がない。もし私があなたの婚約者や夫なら、毎日愛をささやき、決して手放さないというのに。」
なにが手放さないだ。来るもの拒まず、去るものを追わず、彼の社交界での通り名が『金髪の博愛主義者』であることは既に耳に入っている。話半分に聞いていると、彼が腰に手を回して、私を抱き寄せた。
「デルフィ、あなたともっと深くお話をしたい。休憩室に行きませんか?」
よし!来た!待ちに待った夜のお誘いだ。遂に作戦成功。心の中でガッツポーズをする。
「ええ。エスコートしてくださる?」
彼に身を寄せようとした時だった。思いっきり手を引かれ、引きはがされた。そして、背後でドスの効いた低い声が響いた。
「――アンドレ子爵、私の女に手を出さないでもらえるか。」
仮面にはめられた色ガラスのせいで色味がよく分からないが、暗い髪色の男性が仁王立ちしている。アンドレ子爵はびっくりした様子で、人混みに消えていった。
「どなたです?どうして私の邪魔をされるの!?」
文句を言うと、彼にさっと抱きかかえられた。そのまま部屋の外に連れ出された。
「目のところに青い色ガラスを入れているので、お嬢様の瞳が緑色に見えるはずです。会場は暗いので、色ガラスが入っていることに気づく人は、まずいないんじゃないでしょうか。」
確かに、未亡人作戦よりは上手くいきそうである。今度こそはと思った。
「では、お嬢様!行ってらっしゃいませ。」
「クラリス、声が大きいわよ。あまり大っぴらにはできないんだから。」
「ごめんなさい。でも楽しんできてくださいね。」
「ええ、頑張るわ。」
今夜の会場は元々王家の別邸だった由緒正しい建物だ。武功をあげた先代のラ・トゥール伯爵に下賜されたと聞いている。そう、今宵の仮面舞踏会の主催者は、愛人候補のラ・トゥール伯爵だ。
「やっぱりこういう会でもホストはお暇じゃないわよね。」
会場に着いて、すぐにラ・トゥール伯爵を見つけた。派手な銀髪だからよく目立つ。様子を伺うが、いつも誰かと話していてせわしない。ターゲットを変えようと、会場を見渡すと、既に人の輪がところどころにできており、後からその輪に入っていくのも難しく思えた。
「はぁ~、この作戦も失敗じゃないかしら。」
溜息をついていると、男性に声をかけられた。色ガラス越しでも分かる、美しい金髪と青い瞳の紳士だ。
「これはこれは。溜息は運が逃げますぞ、美しい夜の蝶。お初にお目にかかります。私のことはどうか、ジルとお呼びください。」
この金髪、見覚えがある。顔の上半分が仮面で隠れていても、アンドレ子爵と分かった。クラリスに見せられた絵姿そのままだ。私は少し食い気味に答えた。
「私のことはどうか"デルフィ"とお呼びください。」
デルフィは母の愛称だが、母の名は私のミドルネームでもある。ちょうどいい偽名だ。アンドレ子爵はとても気さくで話しやすかった。ついつい、自分のことも話し過ぎてしまった。
「あの魅了事件で婚約破棄とは大変でしたね。」
「今は吹っ切れましたわ。」
「それにしても、その殿方も惜しいことをした。こんな美しく聡明な姫君を手放すなんて。」
「初めて言われましたわ!今の夫とは政略結婚ですが、美しいとも、愛しているとも言ってくださらないの。」
「なんと!つくづく男運がない。もし私があなたの婚約者や夫なら、毎日愛をささやき、決して手放さないというのに。」
なにが手放さないだ。来るもの拒まず、去るものを追わず、彼の社交界での通り名が『金髪の博愛主義者』であることは既に耳に入っている。話半分に聞いていると、彼が腰に手を回して、私を抱き寄せた。
「デルフィ、あなたともっと深くお話をしたい。休憩室に行きませんか?」
よし!来た!待ちに待った夜のお誘いだ。遂に作戦成功。心の中でガッツポーズをする。
「ええ。エスコートしてくださる?」
彼に身を寄せようとした時だった。思いっきり手を引かれ、引きはがされた。そして、背後でドスの効いた低い声が響いた。
「――アンドレ子爵、私の女に手を出さないでもらえるか。」
仮面にはめられた色ガラスのせいで色味がよく分からないが、暗い髪色の男性が仁王立ちしている。アンドレ子爵はびっくりした様子で、人混みに消えていった。
「どなたです?どうして私の邪魔をされるの!?」
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