『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう

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 夏休み明けから、放課後はヴァイオリンの練習に充てるようになった。音楽室は事前予約制だ。今日はたまたま先生が教室にいたので、わざとその技量が分かるよう、難しめの曲を選び、練習している。弦を押さえる指を巧みに動かし、複雑な音色を奏でていく。私が一曲を奏で終わると、心底意外そうな顔で先生は言った。

「それにしても、まさかここまであなたがヴァイオリンが上手とはね。ブランクも長いんでしょう?いつもピアノを練習していたから、そちらが得意なのかと思っていたわ。」

「ピアノは皇宮の方針で練習していました。でも、私もともとヴァイオリンが大好きなんです。子どもの頃に、コンクールで優勝したこともあるんですよ。」

 その時、音楽室の扉がガラッと開いて、留学生のジョルジュが駆け込んで来た。

「――先生、今ヴァイオリンを演奏していたのは、誰ですか?えっ、まさかソフィ?」

「ええ、そうだけど。」

「えっ、天才じゃない?何でその才能を隠していたの?」
 
 ジョルジュも驚いた顔をしている。彼の祖国エスポワール王国は、音楽への造詣が深い国で、国立音楽院に多大な投資をしている。我が国からもヴァイオリン修行のため、留学する人がいるくらいだ。ちなみに彼もヴィオラを弾くらしい。

「そういえばソフィ、レイモン殿下と正式に婚約破棄したらしいね。俺も早速ソフィのファンクラブ入っちゃった。」

 会員番号35番のファンクラブカードを見せつけられた。彼のこうした気安い口の利き方や態度は、留学生なので仕方ないかと思って許している。一応彼も先生には敬語は使えるのだが。

「あら、ありがとう。で、そのファンクラブってどんな活動をしているの?」

「ソフィのすばらしさを語りあったり、ソフィが学園生活を送りやすいように陰ながらサポートしたりかな?」

 ファンクラブという団体から、何かサポートを受けている気はしないのだが……。不思議に思って小首を傾けていると、先生が言った。

「そうだ。ソフィさん、ジョルジュさん、冬のアカデミー音楽祭に二人で出場してみたら?同じ弦楽器ですし、アンサンブルなんて、素敵だと思うの。きっと金賞争いに絡めるはずよ。」
 
「あっ、それ名案ですね!よろしくね、ソフィ。」 

「ええ。こちらこそよろしくお願いします。」

 アカデミー音楽祭は音楽教師の推薦のある学生だけが出場できる冬の一大イベントだ。審査員にはこの国で有名な音楽家を招聘する。ピアノでは絶対にこの推薦をもらえなかったから、またとないチャンスだと思った。
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