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「ミリアム、君との婚約を破棄させてもらいたい。」
私、ミリアムはカフカ公爵家の長女として生まれた。いつも通りのお茶会、金髪に菫色の瞳で優しげな笑みを浮かべる婚約者。婚約者のユリアーン王子から、突然それは告げられた。
「……ユリアーン様、どういうことですの?」
「私は、真実の愛を見つけたのだ。私は……エマを愛している。」
あの令嬢か。誰だかすぐに分かった。貴族の子弟が通う学園でいつも殿下のそばにいる同級生の伯爵令嬢。
「卒業パーティーは彼女をエスコートする。卒業後はすぐに婚姻の準備に入る予定だ。」
学園は3年制で、2歳年上の殿下はもうすぐ卒業だ。
「ユリアーン様、私たちの婚約は王命でもあります。まず私にではなく、陛下のご許可を……。」
「――許可なら取ってある。」
渡された書状には確かに陛下のサインがあった。
「ど、どうして?」
「いずれ分かることだから、君には予め伝えておく。……エマが私たちの子を妊娠したんだ。陛下は初め彼女を側妃にって仰せられたのだが、彼女を正妃に出来ないなら私は臣籍降下するって言ったら、最終的に認めてくれたよ。」
5年前の流行病で弟のダヴィト王子が亡くなってから、現王の子息で王位継承権を持つのはユリアーン王子だけだ。だから、陛下が彼に甘いことは知っている。
「……わかりました。承ります。」
「ふっ、君さあ。少しは泣いたり、縋ったりしないの?だから、つまらないんだよ。地味で四角四面、そういう面白味のない女を一生傍に置くなんて考えられない。」
そうね。エマ嬢は金髪に縦巻きロールの華やかな方だ。この仕打ちはあんまりだと思ったが、長年受けてきた妃教育で涙は一滴も出なかった。淑女の笑みを浮かべ、殿下を見送った。
その後すぐ父にも陛下から連絡が来た。慰謝料は十分過ぎるほど支払われることになったが、それでも父は怒りに打ち震えていた。
「お父様、ごめんなさい。私が殿下の気を引けなかったばっかりに。」
「いや。お前は悪くない。ただもう国内で良縁は見込めないだろう……。国外の王室も視野に入れて婚約者を探す。だから気落ちせずに、待っていてくれ。」
――国外の王室。その言葉を聞いて、この期に及んでも父は娘を政策の駒に使おうとしているのだと気づき、悲しくなった。
「……ありがとうございます、お父様。」
自室に戻ると、ベッドに飛び込んで、飾り気のないまとめ髪をほどいた。腰まである銀髪がはらりと、ベッドに散る。妃教育でできる限り地味にと言われて、思えばこの髪型ばかりしていた。いつの頃からか、殿下が贈り物をよこさなくなり、同じ髪飾りばかりをつけるようになった。それを地味だと揶揄されたのか……。
「……すべて無駄になってしまった。」
ベッドの天蓋を眺め、自然と涙がこぼれた。人前で泣いたらダメだ、表情を変えたらダメだ。そう教えられてきた。でも、溢れ出た涙と共に私の"ナニカ"が壊れた。
立ち上がって、鏡台に向き合う。カフカ家のこの銀髪は高貴だと言われている。メイクは妃教育で習った通り地味で目立たないものだが、瞳は澄んだ湖のように青く美しい。
「……私は地味じゃない。真面目もやめる。」
私、ミリアムはカフカ公爵家の長女として生まれた。いつも通りのお茶会、金髪に菫色の瞳で優しげな笑みを浮かべる婚約者。婚約者のユリアーン王子から、突然それは告げられた。
「……ユリアーン様、どういうことですの?」
「私は、真実の愛を見つけたのだ。私は……エマを愛している。」
あの令嬢か。誰だかすぐに分かった。貴族の子弟が通う学園でいつも殿下のそばにいる同級生の伯爵令嬢。
「卒業パーティーは彼女をエスコートする。卒業後はすぐに婚姻の準備に入る予定だ。」
学園は3年制で、2歳年上の殿下はもうすぐ卒業だ。
「ユリアーン様、私たちの婚約は王命でもあります。まず私にではなく、陛下のご許可を……。」
「――許可なら取ってある。」
渡された書状には確かに陛下のサインがあった。
「ど、どうして?」
「いずれ分かることだから、君には予め伝えておく。……エマが私たちの子を妊娠したんだ。陛下は初め彼女を側妃にって仰せられたのだが、彼女を正妃に出来ないなら私は臣籍降下するって言ったら、最終的に認めてくれたよ。」
5年前の流行病で弟のダヴィト王子が亡くなってから、現王の子息で王位継承権を持つのはユリアーン王子だけだ。だから、陛下が彼に甘いことは知っている。
「……わかりました。承ります。」
「ふっ、君さあ。少しは泣いたり、縋ったりしないの?だから、つまらないんだよ。地味で四角四面、そういう面白味のない女を一生傍に置くなんて考えられない。」
そうね。エマ嬢は金髪に縦巻きロールの華やかな方だ。この仕打ちはあんまりだと思ったが、長年受けてきた妃教育で涙は一滴も出なかった。淑女の笑みを浮かべ、殿下を見送った。
その後すぐ父にも陛下から連絡が来た。慰謝料は十分過ぎるほど支払われることになったが、それでも父は怒りに打ち震えていた。
「お父様、ごめんなさい。私が殿下の気を引けなかったばっかりに。」
「いや。お前は悪くない。ただもう国内で良縁は見込めないだろう……。国外の王室も視野に入れて婚約者を探す。だから気落ちせずに、待っていてくれ。」
――国外の王室。その言葉を聞いて、この期に及んでも父は娘を政策の駒に使おうとしているのだと気づき、悲しくなった。
「……ありがとうございます、お父様。」
自室に戻ると、ベッドに飛び込んで、飾り気のないまとめ髪をほどいた。腰まである銀髪がはらりと、ベッドに散る。妃教育でできる限り地味にと言われて、思えばこの髪型ばかりしていた。いつの頃からか、殿下が贈り物をよこさなくなり、同じ髪飾りばかりをつけるようになった。それを地味だと揶揄されたのか……。
「……すべて無駄になってしまった。」
ベッドの天蓋を眺め、自然と涙がこぼれた。人前で泣いたらダメだ、表情を変えたらダメだ。そう教えられてきた。でも、溢れ出た涙と共に私の"ナニカ"が壊れた。
立ち上がって、鏡台に向き合う。カフカ家のこの銀髪は高貴だと言われている。メイクは妃教育で習った通り地味で目立たないものだが、瞳は澄んだ湖のように青く美しい。
「……私は地味じゃない。真面目もやめる。」
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