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その頃世間では、ユリアーン王子が王太子に指名されて、第一子が生まれたことが話題になっていた。でも、市井の盛り上がりは、学園内のそれと大きくかけ離れていた。長年婚約していた私を裏切ってまで結婚したという事実に、多くの平民たちは冷ややかな視線を向けていた。地味な私と比較して、派手であることで寵愛を受けたエマ妃。彼女の浪費癖も悪評に拍車をかけていた。
最近では、南部で発生した水害の復興支援を名目に増税が実施されたが、その財源の多くがエマ妃の浪費に消えたのではないかと噂されている。各地では反王太子派によるデモが相次ぎ、王太子夫妻への不信感が広がっていた。
「また、デモですって。真実の愛も平民には理解されないのね。」
生徒会室のソファで新聞を見ながらぼやく。
「……僕にも、王太子の考えは理解できないです。」
隣に座ったルカーシュがぽつりと言った。
「そうね。私が信じられるのは身体に刻み込まれた快楽だけかしら?」
「ミリアム様らしいです。」
「もしこのまま王太子が失脚したら、グスタフ様が即位される可能性もあるのかしら?」
「グスタフ様のご実家のクドラーチェク公爵家は、政治にそこまで興味がなさそうですからね。王弟殿下が継がれる可能性が高いのではないでしょうか?」
「でも、王弟殿下の子女は女性だけよ。やはり次代はグスタフ様じゃないかしら?」
「……そうですね。」
「まあでも私とは関係ない。国庫を浪費ですっからかんにする人でなければ、誰でもいい。」
「……例えばですけど、僕が王位を継ぐって言ったら、どう思われます?ミリアム様。」
「あら、何を言ってるの?冗談も休み休み言って。私のルカーシュ。」
笑いながら、抱き寄せて頭を撫でてやる。彼のさらさらの髪の毛をかき分けて、菫色の瞳を覗き込む。
「今度、ミリアム様のお家に求婚のお伺いに行ってもよろしいでしょうか?」
「来てもいいけど、侯爵家の嫡男でもお父様のお眼鏡にかなわなかったのよ?伯爵家の次男のあなたを認めるわけないでしょう。」
「何事もやってみないと分からないじゃないですか。」
そう言って、ルカーシュがにこりと笑った。
後日、ルカーシュは宣言通り、屋敷にやってきた。彼が連れて来た人物をみて私は驚いた。王弟殿下その人だったから。王弟殿下は現王とは腹違いで、側妃の子だった。初めて間近でみる王弟殿下は、黒髪に菫色の瞳で、顔立ちもルカーシュとどことなく似ていた。
そのまま父とルカーシュ、王弟殿下は応接間でしばらく話込んでいた。私はなぜか中に入れてもらえなかった。しばらくして、部屋に呼ばれると父が短く告げた。
「ルカーシュ様、娘のミリアムをよろしく頼む。」
「あら?お父様、本気ですの?カレル様の時は、あれだけ強くお断りしたのに。」
「ああ、本気だ。ただ婚約の発表はしばらく待ってもらいたい。ミリアム、このことは絶対に口外しないように。」
この時、私は何が起きたのかさっぱり分からなかった。
それからしばらくして、宰相である父と王弟殿下がクーデターを起こした。大量の不正、汚職の証拠もあり、王と王太子は処刑されることが決まった。そして、王位には王弟殿下がついた。即位後、彼が初めてした仕事は、自分の御落胤であるルカーシュを王子として、迎えることだった。
彼の母親であるドウブラフスキー伯爵夫人と王弟殿下は、かつて恋仲だった。そして、ついに彼女は王弟の子を身ごもった。母親は伯爵家の子として育てるつもりだったが、ルカーシュの見た目があまりにも王弟殿下に似ていたため、すぐに気づかれた。
ルカーシュは、ドウブラフスキー伯爵家で育てられたが、当主からひどい折檻を受けたそう。その目が気持ち悪いと、目を抉られかけたと聞いて、思わず手で口を覆った。
幼い頃のルカーシュは本当の父親に会いに王城に呼ばれることがあった。その時、私に出会ったという。私が彼の瞳をきれいだと言ったのが、彼の生涯の救いになったという。私がすぐ忘れたようなことを、ずっと覚えていたと言われると少し気恥ずかしく思う。
「君が真実の愛を否定するなら、僕は君にそれを求めない。だから、責任を取って?ミリアム。僕はもう君なしでは生きられない。」
「――仕方ないわね。」
地味でフラれた私が、また王子妃として帰り咲く。空虚を感じる間もなく、私に愛を与え続けてくれる彼だけは信じてもいいんじゃないかと、今は思っている。
最近では、南部で発生した水害の復興支援を名目に増税が実施されたが、その財源の多くがエマ妃の浪費に消えたのではないかと噂されている。各地では反王太子派によるデモが相次ぎ、王太子夫妻への不信感が広がっていた。
「また、デモですって。真実の愛も平民には理解されないのね。」
生徒会室のソファで新聞を見ながらぼやく。
「……僕にも、王太子の考えは理解できないです。」
隣に座ったルカーシュがぽつりと言った。
「そうね。私が信じられるのは身体に刻み込まれた快楽だけかしら?」
「ミリアム様らしいです。」
「もしこのまま王太子が失脚したら、グスタフ様が即位される可能性もあるのかしら?」
「グスタフ様のご実家のクドラーチェク公爵家は、政治にそこまで興味がなさそうですからね。王弟殿下が継がれる可能性が高いのではないでしょうか?」
「でも、王弟殿下の子女は女性だけよ。やはり次代はグスタフ様じゃないかしら?」
「……そうですね。」
「まあでも私とは関係ない。国庫を浪費ですっからかんにする人でなければ、誰でもいい。」
「……例えばですけど、僕が王位を継ぐって言ったら、どう思われます?ミリアム様。」
「あら、何を言ってるの?冗談も休み休み言って。私のルカーシュ。」
笑いながら、抱き寄せて頭を撫でてやる。彼のさらさらの髪の毛をかき分けて、菫色の瞳を覗き込む。
「今度、ミリアム様のお家に求婚のお伺いに行ってもよろしいでしょうか?」
「来てもいいけど、侯爵家の嫡男でもお父様のお眼鏡にかなわなかったのよ?伯爵家の次男のあなたを認めるわけないでしょう。」
「何事もやってみないと分からないじゃないですか。」
そう言って、ルカーシュがにこりと笑った。
後日、ルカーシュは宣言通り、屋敷にやってきた。彼が連れて来た人物をみて私は驚いた。王弟殿下その人だったから。王弟殿下は現王とは腹違いで、側妃の子だった。初めて間近でみる王弟殿下は、黒髪に菫色の瞳で、顔立ちもルカーシュとどことなく似ていた。
そのまま父とルカーシュ、王弟殿下は応接間でしばらく話込んでいた。私はなぜか中に入れてもらえなかった。しばらくして、部屋に呼ばれると父が短く告げた。
「ルカーシュ様、娘のミリアムをよろしく頼む。」
「あら?お父様、本気ですの?カレル様の時は、あれだけ強くお断りしたのに。」
「ああ、本気だ。ただ婚約の発表はしばらく待ってもらいたい。ミリアム、このことは絶対に口外しないように。」
この時、私は何が起きたのかさっぱり分からなかった。
それからしばらくして、宰相である父と王弟殿下がクーデターを起こした。大量の不正、汚職の証拠もあり、王と王太子は処刑されることが決まった。そして、王位には王弟殿下がついた。即位後、彼が初めてした仕事は、自分の御落胤であるルカーシュを王子として、迎えることだった。
彼の母親であるドウブラフスキー伯爵夫人と王弟殿下は、かつて恋仲だった。そして、ついに彼女は王弟の子を身ごもった。母親は伯爵家の子として育てるつもりだったが、ルカーシュの見た目があまりにも王弟殿下に似ていたため、すぐに気づかれた。
ルカーシュは、ドウブラフスキー伯爵家で育てられたが、当主からひどい折檻を受けたそう。その目が気持ち悪いと、目を抉られかけたと聞いて、思わず手で口を覆った。
幼い頃のルカーシュは本当の父親に会いに王城に呼ばれることがあった。その時、私に出会ったという。私が彼の瞳をきれいだと言ったのが、彼の生涯の救いになったという。私がすぐ忘れたようなことを、ずっと覚えていたと言われると少し気恥ずかしく思う。
「君が真実の愛を否定するなら、僕は君にそれを求めない。だから、責任を取って?ミリアム。僕はもう君なしでは生きられない。」
「――仕方ないわね。」
地味でフラれた私が、また王子妃として帰り咲く。空虚を感じる間もなく、私に愛を与え続けてくれる彼だけは信じてもいいんじゃないかと、今は思っている。
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