逆ハーエンドかと思いきや『魅了』は解けて~5年後、婚約者だった君と再会する

志熊みゅう

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家族になる

23. ガゼボの人影

 夕食のあと、私はまた父に会いに行った。眠そうなシモンをアベルに預けて、今回は一人で父のもとに向かった。

「お父さま、わかりますか?リリアーヌです。娘のリリアーヌです。」

 目すら合わない。視線は宙に浮いたまま。左手を握って失踪後の自分の話をした。反応はなかったが、聞いて欲しかったのだ。

「では、今日はおやすみなさい。」

 そう言って部屋を後にした。父の寝室のある母屋から回廊を渡り、ゲストルームのある離れに向かう。途中、庭園のガゼボに小さな灯と二つの人影が見えた。

「今回のドラゴン退治もありがとうございました。エリカがこうして侯爵代行の務めを果たせているのは、すべてヴィーのおかげです♡」

 エリカの声だ。見ると、ガゼボのベンチに腰掛けたヴィクトル殿下が、ナイトドレスを着ただけのエリカを膝の上に乗せて抱擁している。気配を消すために防音壁を張り、さっと柱の裏に隠れた。

「エリカ...、君のためならドラゴンの一匹や二匹、造作もない。」

 恍惚とした表情の殿下がエリカを見つめている。よく見るとエリカの豊満なバストがこれでもかとばかりに殿下の体に押しあてられている。

「ヴィーは、光魔法も剣術も天才的で、そして誰よりも強く勇敢です。」

「今の私にそんなことを言ってくれるのは、エリカ…お前だけだ。」

 そういえば呪いの事件のあと王宮内での評価が落ちに落ちて、かなり辛酸をなめたって聞いたっけ。

「でもエリカのことをこうやって守ってくださるのも、ヴィーだけですわ。ヴィー♡」

 そういうとさらに二人は強く抱擁し、熱い口づけを交わした。

「…エリカ、愛している。ああ…ああもう我慢できない、部屋に行こう。」

 わわ、まずい!慌てて足元の灯りをもって、離れに急いだ。随分と不埒なものを見てしまった。

 離れに戻ると、居間にアベルがいた。

「シモンはもう寝たぞ。お義父さまはどうだった?」

「全く反応なしだったわ…。明日もまた行ってみる。そういえば少し気になったんだけど、ヴィクトル殿下とエリカは恋人同士ってことでいいのかしら?内々の婚約もまだなのよね?」

「たぶん…。」

 さっき見た光景をアベルに話した。

「婚約をしないのは、殿下にエリカ以外の相手がいるのかしら?呪いにかかる前の殿下のイメージだけど、結構殿下ってよね。」

 もちろん原作の乙女ゲームにそんな設定はないのだが、これは悪役令嬢 アマリリスの牽制によるところが大きい。この世界線でアマリリスはヴィクトル殿下を相手にしなかった。そのため『魅了の呪い』にかけられるまで、ヴィクトル殿下はこれでもかとばかりに女子生徒を侍らせていた。実際、何人もお手付きにあった女子生徒がいたという噂だ。エリカと殿下は在学期間がかぶっていない。彼のそういった振る舞いをエリカは知らない可能性がある。

「ヴィクトル殿下にはアマリリス王太子妃との婚約が解消されて以降、新しい婚約の話はない。王都で何人か噂になる女性はいたけど特定の誰かと恋仲になったという話も聞いていない。殿下だって誰彼構わずってわけじゃないんだ。王位継承権は、どれだけ傍系でも、たとえ平民との庶子でも、紫眼と光属性さえ満たせば順位はつくから、下手に子種をばらまくと、大変なことになる。だから相手は最低でも貴族令嬢がいいって言って、娼館とかには行かないんだよ。」

 エリカは生まれも育ちも辺境のブロワ領で、田舎っぽさが抜けきらない部分があるが、顔立ちは母のカサブランカに似て非常に整っているし、少し儚げで庇護欲をそそる。そしてなんと言っても胸が大きい。貴族令嬢としてのふるまいができているかは別として、れっきとした侯爵令嬢だ。殿下は戦地での劣情に負けて関係を持ってしまったのかもしれない。

「まさかこちらに派遣されてた二年のあいだ、周りに他の貴族令嬢がいなかったから、エリカと仲良くしたってことなのかしら?」

「初めはそうだったのかもしれない。でも今はさすがに違うんじゃないか。」

「私がどうこういう問題ではないんだけど、仮にブロワ家のことを考えるなら、殿下に早くどうするのか決めてもらわないと困るわよね…。殿下にここに残って婿入りする覚悟があるならそれでいいけど、残る気がないのであればエリカは他に婿をとらないといけないじゃない?そうこうしているうちに結婚適齢期を過ぎてしまうわ。」

 エリカは殿下にご執心という様子だし、どんな形でも殿下をここに引き留めておければそれでいいと思っていそうでちょっと怖い。うーむ、これ下手したら我々にも影響が出てくるんじゃないか…。

「俺が殿下にさりげなく聞いてみようか?殿下とはブロワ領に派遣される前から、第四騎士隊に従軍してもらってよく一緒に仕事をした仲だ。それに一応"特命"があるからな。」

「そうね、ありがとう。アベル。」
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