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私に堕ちて来て
4. 真夜中の恋バナ
隣国との交戦が激化すると、戦場は惨状と化した。毎日のように死傷者が出るので、治癒魔導士の子たちも大忙しだ。貴族令嬢には、こういった人の生死に慣れていない子も多い。見るからにショックを受けている子たちもいる。そんな中、姉の友人だというネモフィラ様は、治癒魔導士としてかなり優秀な人材だ。彼女はいつも冷静で、その見立ては完璧、さらに上級治癒魔法まで使いこなせる。ポーションの知識も豊富で、なんでも彼女が編み出した特製回復薬のレシピまである。その名も『ネモフィラスペシャル』だ。
最近は魔獣討伐の方はひと段落しているため、第四騎士隊とブロワの私兵は主にキャンプ地の護衛にあたっている。そんな中、“死に急ぎ”として知られるアベル様は、自らの意思で第三騎士隊への出向を願い出て、今日も最前線に身を置いている。一方の殿下は光属性で治癒魔法が使えるため、治癒魔導士たちの手伝いをしている。廃嫡されても王族だけあって魔力は豊富で、一人で十人分くらいの治癒を施している。ただ殿下は簡単な治癒魔法しか使えないから、最近はネモフィラ様に習って四肢欠損の再生や視力回復などの上級治癒魔法も勉強しているらしい。ポンコツ、ポンコツと揶揄されがちな殿下にだって、ちゃんと向上心があるのだ。
こういう状況でも女子たちが集まると、夜は恋バナで盛り上がることが多い。もちろん殿下との関係は口留めをされているので、私からは話に出さないが、皆うすうす勘づいているようで、それを前提に話を振ってくるから困る。今日はマーガレット様の相談に皆で乗っている。マーガレット様は建国当初から続く名門伯爵家ルクレール家出身で、たどれば王家の血も引く令嬢だ。彼女は黒髪お下げに眼鏡で治癒魔導士の制服も一切着崩さない、いかにも真面目そうな子だ。第三騎士隊に婚約者がいるらしく、志願して第三騎士隊に従軍する治癒魔導士をしている。
「ミカエル様の浮気と娼館通いねー。エリカ様はどう思う?」
ミカエル様というのがマーガレット様の婚約者で、騎士家系の子爵家令息だ。子どもの頃から彼女の婚約者で、真面目な彼女のことを子爵家のご両親はかなり気に入ってるそう。ただ彼は騎士団に入ってから、そのストレスとプレッシャーで、色を好むようになった。どこに行っても積極的に娼館を巡り、しかも派手な見た目も相まってよくモテる。平民の愛人を囲っているらしい。
「うーん。貴族だし政略結婚ならある程度は許容するべきじゃない?でも、私の元婚約者は浮気が本気になっちゃって、それで別れを切り出されたけど。」
「で、今の人は?」
「今のところ私以外の相手は作らないって言ってるわよ。もともとのポリシーで娼館にも行かないし。」
皆誰のことだかわかっているので、意外という顔をしている。
「やっぱり胸かしら。」
「違うわよ。そんなわけないでしょう。」
図星な気もするが、ここは彼の名誉のために否定しておく。マーガレット様が小さく口を開いた。
「皆さんお話を聞いてくださり、ありがとうございます。もともと私からお願いして婚約を結んでもらったのだけど、もう限界だと思いますの。今回の任務が終わりましたら、両親に言って婚約解消してもらおうと考えておりますわ。」
確か彼女の家は兄がいて、そちらが家を継ぐ予定だ。これからどうする気なんだろう?
「治癒魔導士って実は結構お給料がいいですのよ。贅沢をしなければ一人で暮らしていくのに問題ないですわ。ネモフィラ様も生涯独身のつもりと仰ってましたし。」
あの女、いかにも鉄の女って雰囲気だけど、生涯独身主義なんだ。政略結婚が普通の貴族社会でだいぶ異端児だな。
最近は魔獣討伐の方はひと段落しているため、第四騎士隊とブロワの私兵は主にキャンプ地の護衛にあたっている。そんな中、“死に急ぎ”として知られるアベル様は、自らの意思で第三騎士隊への出向を願い出て、今日も最前線に身を置いている。一方の殿下は光属性で治癒魔法が使えるため、治癒魔導士たちの手伝いをしている。廃嫡されても王族だけあって魔力は豊富で、一人で十人分くらいの治癒を施している。ただ殿下は簡単な治癒魔法しか使えないから、最近はネモフィラ様に習って四肢欠損の再生や視力回復などの上級治癒魔法も勉強しているらしい。ポンコツ、ポンコツと揶揄されがちな殿下にだって、ちゃんと向上心があるのだ。
こういう状況でも女子たちが集まると、夜は恋バナで盛り上がることが多い。もちろん殿下との関係は口留めをされているので、私からは話に出さないが、皆うすうす勘づいているようで、それを前提に話を振ってくるから困る。今日はマーガレット様の相談に皆で乗っている。マーガレット様は建国当初から続く名門伯爵家ルクレール家出身で、たどれば王家の血も引く令嬢だ。彼女は黒髪お下げに眼鏡で治癒魔導士の制服も一切着崩さない、いかにも真面目そうな子だ。第三騎士隊に婚約者がいるらしく、志願して第三騎士隊に従軍する治癒魔導士をしている。
「ミカエル様の浮気と娼館通いねー。エリカ様はどう思う?」
ミカエル様というのがマーガレット様の婚約者で、騎士家系の子爵家令息だ。子どもの頃から彼女の婚約者で、真面目な彼女のことを子爵家のご両親はかなり気に入ってるそう。ただ彼は騎士団に入ってから、そのストレスとプレッシャーで、色を好むようになった。どこに行っても積極的に娼館を巡り、しかも派手な見た目も相まってよくモテる。平民の愛人を囲っているらしい。
「うーん。貴族だし政略結婚ならある程度は許容するべきじゃない?でも、私の元婚約者は浮気が本気になっちゃって、それで別れを切り出されたけど。」
「で、今の人は?」
「今のところ私以外の相手は作らないって言ってるわよ。もともとのポリシーで娼館にも行かないし。」
皆誰のことだかわかっているので、意外という顔をしている。
「やっぱり胸かしら。」
「違うわよ。そんなわけないでしょう。」
図星な気もするが、ここは彼の名誉のために否定しておく。マーガレット様が小さく口を開いた。
「皆さんお話を聞いてくださり、ありがとうございます。もともと私からお願いして婚約を結んでもらったのだけど、もう限界だと思いますの。今回の任務が終わりましたら、両親に言って婚約解消してもらおうと考えておりますわ。」
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「治癒魔導士って実は結構お給料がいいですのよ。贅沢をしなければ一人で暮らしていくのに問題ないですわ。ネモフィラ様も生涯独身のつもりと仰ってましたし。」
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