『運命の番』をばかばかしいと言ったのは貴方でしょ?

志熊みゅう

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1. やっと見つけた番は反番主義!?

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 それはある日の王宮の夜会だった。
 ふと、甘く魅惑的な香りが鼻をかすめた。今まで探し求めていた香り――つがいの匂い。

 獣人の国で、番は運命の、そう唯一無二の存在。私、犬獣人のミルカは年をとっても仲良しの番である父母に憧れていた。だから年頃になると積極的に番を探した。番探しを目的としたお見合いにも何度も参加したし、番相談所にも登録した。王都で開かれるパーティーにもたくさん参加した。だけど、いくら探しても『運命の番』は見つからなかった――犬族だから鼻も利くはずなのに。

 やっと見つけたその香りをたどると、その先には、黒い耳と黒い尻尾をもつ猫獣人が立っていた。瞳はオッドアイだ。左が黄色で、右が青。猫獣人には左右で瞳の色が違う人がたまにいると聞いていたけど、初めて見た。とってもきれい!思わず尻尾がピンと立った。

 彼の着ている制服からすると同じ王宮魔導士だろうか。胸元についているバッジを見ると、私の制服よりも星が多い、つまり上級魔導士だ。でも王宮魔導士は大所帯ではない。顔を知らない上官って何者だ?

 柱に身を潜めて猫獣人とその友人たちの話を聞いていると、すぐにその正体がわかった。つい先日、留学から帰国したばかりのエリート魔導士のカイだ。そうか…彼こそが、私の運命の番――!

 ……と思った矢先だった。

「番が運命だなんて、ばかばかしい。あんなのは、心の繋がりを無視した、性欲まみれの本能的行動さ。仮にも“番”だなんて言って、犬獣人でも現れたら反吐が出るね。」

 と、カイが友人たちに熱弁を振るっている。たしか、彼が留学していた隣国は"番"という概念自体が存在しない人間の国で、自由恋愛が尊ばれている。しかも、幼い頃に狼獣人に噛まれた経験から、犬系の獣人全般がカイのトラウマになっているらしい。

 私は失恋のショックで思わずその場にヘタレ込んだ。あんなに探していた番様が、まさかの反番主義で、しかも犬獣人嫌いとは……。

「もう結婚は諦めよう。生涯を、魔導士という職に捧げる!」

 それから、私は抑発情剤の服用を始めた。抑発情剤とは、獣人の本能を抑える薬で、番特有の匂いを抑えたり、その匂いを感じにくくしたりする作用がある。思えば、あの夜会でカイも抑発情剤を服用していたはずだ。もし飲んでいなければ、彼も私の存在に気づいていただろうから。でも、私は犬獣人だから、そんな彼から発せられたほんのわずかな番の匂いを感じ取ってしまった。だから、私は最も強力な抑発情剤を使っている。弱いものだと、犬獣人の鼻では微かな匂いを感じ取ってしまうのだ。

 抑発情剤の一番の副作用は、私の場合は嗅覚異常だった。嗅覚が落ちると、食欲もなくなった。何を食べてもおいしく感じない。そんな状態で食べるものにお金と時間をかけたくないから、サンドイッチが常食となった。体重も十キロ以上やせてしまった。

 番、嗅覚、食事……私の人生で大きなウェイト占めていたものが失われ、こころにぽっかり大穴が開いた。私はその隙間を少しでも埋めるように、仕事に邁進した。この前は、まだ七歳の第三王子にかけられた呪いの解呪に成功して、褒章を得た。階級も昇進だ。――そんな風に喜んでいたのもつかの間だった。

「ミルカ君、次の任務だが、最近メッツァの集落近くで見つかった古代遺跡の調査と遺跡全体の呪いの解呪をお願いしたい。カイ君とバディを組んでくれ。」

 最悪だ。今まで全力で彼のことを避け続けてきたのに。

「承知しました。誠心誠意取り組ませてもらいます。」

 まあこれも仕事だ。抑発情剤服用下で、彼におかしな気を起こしたことはない。とにかく、やるしかないのだ。魔導士は実力社会だ。この職場で確固たる地位を築くために必要な答えは――"はい"か"YES"だ。
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